3月31日。私の誕生日。
 私たちが、形式の上からでも、高校生を卒業する年度末。
 桜並木の下を歩く私の隣に先生は……いない。


 68.桜が咲くころ


 森林公園は桜が満開。
 マラソンロードも噴水の周りも並木道も、お花見客で一杯だ。
 穏やかな春の晴天のもと、一年でわずかな桜の季節を笑顔で楽しむ人たち。

 私だってその一人だ。
 家で作ってきたお花見弁当を持って、待ち合わせの広場へ。

「お、来たな! こっちだこっち!」
「遅くなってごめんね、みんな。お弁当詰めるのに時間かかっちゃって」

 既にレジャーシートを広げたところから、ハリーがぶんぶんと手を振って呼んでくれた。
 ひときわ美しく枝葉をはっている桜の大木の根元に陣取った3−B卒業生お花見会。
 もうみんな揃ってる。私で最後かな。

さん、お弁当はこちらでわけますね」
「うん、小野田ちゃんお願いね……って、この豪華なお料理は誰が作ってきたの!?」

 風呂敷包みを小野田ちゃんに手渡しながら、私もシートの上に座る。
 そこには和洋折衷の、一口ラスクに盛られた色とりどりのパテやサラダ。
 作ったであろう本人を見上げると、案の定瑛はふふんと鼻をならして腕を組んで偉そうに。

「オレにかかればこんなもんだ。そんじょそこらの仕出し弁当なんかと、一緒にするな」
「やっぱ瑛が作ったんだ! でも、瑛ってお弁当班だったっけ?」
「サエキックの料理の腕は捨てがたいやろ? 褒め殺したら、あっさり了承したわ」
「うるさい西本」

 にししと笑うはるひに、瑛はチョップ一発。
 あいかわらずおだてに弱いんだなぁ、瑛は……。

、何飲む」
「あ、じゃあジンジャーエール」
「ん」
「……と。ありがと志波くん。志波くんは何飲んでるの?」

 紙コップに並々ジンジャーエールを注いでくれた志波くんは、いつものスポーツドリンクのペットボトルを取り出して私の目の前で振った。

「お花見なのにスポーツドリンク?」
「口うるせぇマネージャーがいるからな」

 そういう志波くんだけど、口元には笑顔。
 志波くん、まだ入学前だけど一流体育大学の野球部の練習に参加してるんだっけ。
 藤堂さんがしっかり体調管理してるんだ。
 その藤堂さんは志波くんの隣でコーラを飲んでたりするんだけどね。

「あ、藤堂さんのそのネイル、もしかして例の新色じゃない?」
「アンタも目ざといねぇ。そ、アンタのブランドが出した春の新色、桜のシャンパンゴールドだよ」
「いいな、いいな! お花見にぴったりだよね!」
「よかったら、あとで塗ってやるよ。最近、爪の手入れもしてないんだろ?」
「いいの!? やったっ!」
「あ、ちゃんズルイ!!」

 言ってみるもんだと両手を挙げてよろこんだら、後からあかりがやってきた。

「竜子ちゃんのネイル、私もしてほしい!」
「順番だよ、順番っ! ……って、あかり何飲んでるの?」
「これ?」

 あかりは手にした透明のプラスチックコップを差し出した。
 下がゴールデンイエローで、上がクリアレッドの2層に分かれた……ジュース?

 私がしげしげと眺めてると、あかりはうふふと微笑んだ。

「さっき瑛くんに作って貰ったの。ハイビスカスティと、パインジュースのカクテルだよ」
「うわぁ、瑛ってば将来の目的を決めた途端、技を惜しげもなく披露しちゃって」
「これ、綺麗に2層にわけるの難しいんだよ。私もさっきやってみたんだけど、全部混ざっちゃって」
「そーそー。でも勿体ないからボク貰って飲んだんよー。味はバッチグーやったで、あかりちゃん♪」

 ひょこんと、私とあかりの間から頭をつきだしたのはクリスくん。
 カンパーイ♪ と、紅茶の入ったコップを私とあかりのコップにぶつけて。

「クリスくんも密さんも、向こうの学校が9月からでよかったよね。こうして一緒にお花見できて」
「そやね。考えてみれば、みんなでお花見するんは初めてやもんね。日本を離れる前にみんなでこんな綺麗な桜見られて、ほんまよかった」
「桜は日本人がずっとずっと愛してきたものですもの。私も、出発前に心に刻む機会が出来てよかったわ」
「密さん。そっか、語学学校はもう少し早く始まるんだっけ」
「ええ。5月からはもう向こうに行くことになるの。寂しくなっちゃうな」

 密さんのコップにはアセロラジュース。
 こつんとお互いのコップをぶつけて。密さんはお弁当班が作ってきたおかずを取り分けた紙皿を手渡してくれた。

「はい、まずは最初の取り分ね。あとは早い者勝ちよ?」
「ありがとう。はい、あかりとクリスくんも。……あ、もう一皿ちょうだい」
「え? もう人数分配り終わってますよ?」

 おかずをとりわけていた小野田ちゃんと瑛がこっちを見る。

「じゃあもう一皿つくって」
「なんでだよ? お前、もう自分の分持ってるだろ。いきなり二皿も食う気か?」
「違うってば! 先生の分だよ!」

 ぴた。

 私の言葉にみんなが硬直する。

「先生が来たときにおかず取り分けておかなかったら、先生拗ねちゃうよ」
ちゃん……」

 かまわず言葉を続けると、みんな困惑したように顔を見合わせた。

「そうだな。佐伯、小野田、もう一皿作っておこう」
「あ、あぁ、そうだよな。うん、わかった」
「若王子先生、から揚げ好きでしたよね。大目にとっておきましょう!」

 志波くんの言葉に瑛と小野田ちゃんも戸惑いつつも頷いて。

「じゃあ飲み物はどうする? 若王子ってコーヒー飲んでることしか知らねぇけど、今日はコーヒーねぇぞ?」
「長いことアメリカにおったんやし、お茶がええんちゃう?」
「じゃーミルクとお砂糖も用意せな〜」
「やだ、クリスくん。日本のお茶にはミルクも砂糖も入れないわよ」

 ハリーとはるひも思いついたようにわたわたとコップを取り出したりして。

 みんな、私を気遣って合わせてくれる。
 あかりにいたっては、先生の代わりのつもりなのか後からぎゅっと抱きしめてくれた。

 ……みんな、ごめん。

 ほんとに、ごめんね。

「こほん。そ、それではこれより、3−B卒業生有志による花見会の開催を宣言する!」
「氷上ー、カタイぞーっ」
「針谷くんっ、野次を飛ばさないでくださいっ」

 雰囲気を打破しようと、氷上くんがオレンジジュースの入ったコップを片手に立ち上がった。
 私たちもそれぞれコップを持ち上げて、改めての乾杯に備える。

「みんなめでたく志望校に合格し、それぞれの夢に向かっての一歩を踏み出すことができたことを祝して! 乾杯っ!」
「「「「「カンパーイ!!」」」」」

 みんながコップを高く突き上げて、声を揃えた。

 そのときだった。



「やや、遅刻してしまいました」



 ぱたぱたと走ってきた先生が、息も絶え絶えに私の隣に滑り込んできた。

 みんな、目が点。

「もう、先生遅いですよ。学校に書類提出してくるだけって言ったのに」
「すいません、さん。実はまた教頭先生のお小言くらっちゃいまして」
「今度は何したんですか……」
「や、実は年度末提出の書類、昨日までの提出だったみたいで」

 先生は頭を掻きながら靴を脱いでちょこんとレジャーシートの上に正座。
 私は先生に、みんなが用意してくれたとり皿とお茶を手渡して。

 みんなを振り返った。

「わ……若ちゃん……?」
「ど、どういうことだ……?」

 はるひやあかりは基より、あの志波くんや藤堂さんでさえ口をぽっかりと開けて絶句。

 私と先生は、緩む口元を抑えきれずににんまりと。
 両手でハイタッチ!

「やった! サプライズ大成功!」
「やりましたね! さん!」

「な」

 瑛までもがぱくぱくと口を動かすのみ。

 私は先生の腕を取って、片手で謝るポーズを取りながらみんなに宣言した。

「ごめんねみんな。実は先生、2週間も前に戻ってきてたの!」
「「「「「えええええ!?」」」」」

 みんなのばっちり揃った驚愕の声に、まわりのお花見客がぎょっとしてこっちを振り返る。

「ど、どういうことやねん!? だったら、なんでもっと早く教えてくれんかったん!?」
「やーすいません。先生、あんまりさんと離れてたものだから、しばらく二人っきりのところを邪魔されたくなくて」
「「「「「………………………………」」」」」

 悪びれもせずに笑顔で言い切った先生に、みんなは再び唖然として。
 やがてゆらゆらと立ち上る怒りのオーラ。

「や、ややっ? みなさん、どうしました?」
「若王子……テメェ……」
「オレたちが、どれだけ心配したと……」

 じりじりと迫るみんなに、先生もじりじりと後退する。
 とばっちりを避けるために私は先生から離れようとしたんだけど。

っ! お前も同罪だろっ!」
「えええ!?」

 瑛に首根っこ掴まれて、先生の隣に引き戻されてしまった。

「や、あの、みなさん、落ち着いて……」

 先生は上半身をシートの外に仰け反らせながら両手でみんなを制した。

 と。

 はるひが先生の胸倉をぐいっと掴んだ。

「わわっ」
「若ちゃんなぁ! アンタ、アタシらがどんっっっだけ心配したとっ」

 ぽろ。

 はるひの目から、涙が零れ落ちる。

「ど、どれだけ、心配っ……」
「西本さん」
「……無事で、よかっ……」

 はるひはそれ以上言葉にならず、うつむいてぽたぽたと涙を零し始めた。
 見ればあかりも同じ状態になってて。
 男の子たちもみんなみんな、泣きそうな顔をして先生を見てた。

「……うん。みなさん、ありがとう。先生、ちゃんと戻ってきました。連絡が遅れてごめん。海野さんも西本さんも、泣き止んでください」

 先生があかりとはるひの頭を撫でる。
 それは私の特権だけど、今だけは仕方ない。
 あかりは先生の手を握り締めたけど、はるひは「アホ、こんなんいらんっ」って手を振り払っちゃった。

「先生、全てにケリついたんすか」
「はい。きっちりカタつけてきました」
「引き止められたりはしなかったのですか?」
「バリバリされました。でもそんなのありえねぇー、です。自分で航空券の手配して、さっさと帰ってきました」
「で、今日までみんなに内緒で、ちゃんとラブラブしとったんやね?」
「はい、めちゃめちゃラブラブしてました」
「せんせぇ、そこは答えなくていいです……」

 にへらっとしまりのない笑顔を浮かべて答える先生。
 さっきまで泣きそうな顔して感動の再会をしてたみんなも、先生のこの顔を見て辟易。
 藤堂さんにいたっては、はいはいゴチソーサマとさっさとお弁当を食べに戻ってしまった。

「さ、みなさん。積もる話は楽しくお花見しながらでもできます。先生も、乾杯に混ぜてください」
「ったくしょーがねーな! おい氷上、仕切り直しだ、仕切り直し!」

 ハリーが自分のコップにコーラを注ぎ足して氷上くんを促す。
 先生の登場に長いこと固まってた氷上くんだけど、ようやく我に帰ったように再び立ち上がった。

「で、ではもう一度。それぞれの夢への一歩と、僕たちの若王子先生の帰還を祝して! 乾杯っ!」
「「「「「カンパーイっ!!」」」」」
「若ちゃん、おかえりっ!」
「若王子先生、お帰りなさい!」
「うん、ただいま。歓迎してくれて、ありがとう」

 みんな先生のコップに自分のコップをぶつけていく。
 そして最後に先生は私のコップと自分のコップをぶつけた。

「乾杯です、さん」
「はい、先生!」
「うわぁ〜、ちゃんのにっこにこの笑顔、久しぶりやんな? やっぱちゃんは笑顔やないとあかんね〜」

 クリスくんが瑛の作ったパテサンドを頬張りながらエンジェルスマイルを浮かべる。

「その笑顔、若ちゃんセンセにしか生み出せないって思うと、なんや悔しいな〜」
「く、クリスくん、そんなことないよ?」
「あらぁ、そんなことあるわよ、さん。うふふ、若王子先生が戻ってるってわかったことだし、ずっと聞きたかったこと、聞いてもいいかしら」

 もうちゃんとぴったんこできへん〜などといつものようにおちゃらけてるクリスくんの横で、密さんがずいっと身を乗り出してきた。
 密さんは、にこにことまるで自分の幸せを語るかのように。

さんの左手の薬指。きっと若王子先生に貰ったんだろうな、って思ってたんだけど、やっぱりそうなのね? 若王子先生も同じ指輪してるもの」
「え、あ」

 言われて思わず左手を隠す。

「あ、だめだよちゃん! 見せて見せて!」
「そういや、2週間くらい前からやんな? が左手に指輪つけ始めたの。てっきり、若ちゃんが空輸したんかと思っとったけど、こっちに戻ってきてからペアリング買ったんやな!?」

 あかりとはるひに左腕をひっぱられて、私の左手はみんなの視線のもとへ。

 うわあああ、恥ずかしい……。

 私の左手の薬指には、メレダイヤと、同じ大きさのアクアマリンがうめこまれた華奢なリングがはめてある。
 ちなみに、にこにこと笑顔を浮かべたままお弁当を食べ続けてる先生の左手には、石がついてないタイプの同じ指輪。

 わぁ〜と、うっとりとした感嘆のため息をつきながら指輪に魅入るあかりとはるひ。

「素敵……いいなぁ、ちゃん」

 ごほんとむせこむのは瑛だ。

「ペアリングなんて、学生みたいなことするやんか若ちゃん。さては、専門学校に進むの虫除けのつもりやな?」
「やや、もちろんその意味もありますけど、本来の意味合いは違いますよ」
「本来の意味?」

 小野田ちゃんが聞き返すと、先生はもぐもぐと口の中のものを飲み込んでお皿を置き。

「これはペアリングじゃないです」
「じゃあなんやねんな」

 そして先生は私の肩を抱き寄せてにっこりと。

 あああ、言うつもりだ。
 言うつもりだよ、先生っ……。



「僕たち、結婚しました」









「は?」









 一番最初に反応したのは藤堂さんだった。



 その後の収拾には、およそ10分ほどかかった。
 まずハリーとはるひが同時に叫んだのを皮切りに、小野田ちゃんとあかりが立ったり座ったりと右往左往。
 氷上くんは「けっ、けっ、けっ、けっ!!」と、傍から見ればちょっと怖い人にも見えるような、言葉にならない言葉を発して。
 瑛は私の腕を掴んで「おとうさん、そんなこときいてません!!」と混乱発言をし。
 クリスくんは密さんの手を取ってその場で踊りだしちゃうし。
 藤堂さんは「ありえねぇ……」と呟いて天を仰いで、志波くんは目を見開いた状態で硬直してしまった。

「やや。みなさん、大丈夫ですか?」

 先生が声をかけたころには、全員がぐったりとした様子でこっちを見ていた。

「い、一体いつ……?」
「先生がアメリカから戻ってきてすぐにです」
ちゃん、すぐにOKしたの?」
「う、うん。あのね、プロポーズ自体は先生がアメリカに行く前に貰ってたの。あの日、黒服と追いかけっこしてた日にみんなが帰ったあと、灯台で」
「灯台で!?」

 全員が灯台の言葉に敏感に反応した。

「と、灯台て、アンタ、伝説の灯台カップルやん!!」
「え? はるひ、灯台の伝説知ってたの?」
「知らんヤツなんかおるかいっ」

 じー。
 先生が私を見下ろしてる。

 いやあの、私はほんとに知らなかったんですってば……。

「ちょ、ちょっと待ってください若王子先生。くんはまだ未成年です。確か、未成年の婚姻には保護者の同意が必要なはずでは?」

 氷上くんの問いかけに、私と先生は顔を見合わせた。
 私はうんざり、先生は苦笑い。

「その通りです、氷上くん。だから先生、さんの今の保護者である叔父さんの家にご挨拶に行ってきました」
「よ、よく了承していただけましたね?」
「いえ、先生殺されかけました」
「は?」

 先生の言葉にみんな目が点。

 あ、あれは今思い出してもすごかった……うん。

「学校のことや友達のことや、もちろん先生のことも叔父さんや叔母さんには電話でちょくちょく言ってたんだけどね? さすがに、先生と恋愛してます、なんてことは言ってなくて」
「ま、まぁそうだろうな」
「最初先生と一緒に叔父さんの家に行ったときは、驚いてたけど好意的に迎えてくれてね。3年間がお世話になりましたー、なんて大人の社交辞令とか、普通に会話してたんだけど……」

 先生が「姪御さんと結婚しようと思ってます」と切り出したときからだ。
 叔母さんは目を丸くして驚いてたけど、

ちゃん、先生のことを話す時とても嬉しそうに楽しそうに話してたものねぇ。叔母さん、もしかしたら、なんて思ってたのよ」

 なんてあっさりしたものだったんだけど。

 叔父さんは。

 俯いて手をぷるぷると震わせていたかと思えば、ばっと立ち上がり、部屋を出て行ってしまって。

「……やっぱり、そう簡単には納得してもらえませんね」

 でもがんばろうね、と先生と叔母さんの3人で話していたら。

 だんっ!! と戻ってきた叔父さんの手には、包丁!!

「き、き、貴様ぁぁ!! 兄さんの大事な預かりものを、よくも、このっ、淫行教師がぁぁぁっっ!!!」
「ややや!?」
「叔父さんっ!? ちょ、待って……逃げて! 先生逃げてーっ!!!」


「……で、驚いた近所の人に警察呼ばれそうになっちゃって。傷害沙汰は免れたけど、その日のうちに追い出されちゃったんですよね? 先生」
「はい。その後叔母さんがいろいろ手続きしてくれまして。なんとか無事入籍することができました」
「……いまどき新喜劇でもやらんベタな展開やな……」

 はるひがうんざりしたように呟くと、みんなもうんうんと深く頷いた。
 やっぱりそう思いますか。

「若王子先生、学校側には報告されたんですか?」
「もちろんです。先週さんと一緒に報告に行きました」
「そん時はどうだったんだよ?」
「うーん……あ、あのさぁ、在学中からほぼ公認されてたようなものだったでしょ?」

 だから、はね学を訪れたときの先生方の反応は、むしろ拍子抜けするくらいあっさりしたものだった。

「そーかそーか。まぁ、結婚まで行くだろうなとは思ってたがな。しかし卒業と同時に結婚とは思ってなかったぞ、先生は。若王子先生、まさか在学中に仕込んだんじゃないでしょうなぁ?」

 ……などとちょい悪親父はセクハラ発言をさらっとしてくれたり。

「よかったわ! これでさんはまた家族と暮らせるし、若王子先生は栄養失調の心配しなくてもいいものね!」

 2年時の担任は祝辞の方向性がなんか微妙にずれてたし。

「勝因はなんですか? 灯台伝説? ビーカーコーヒー? 頭脳アメ? はね学七不思議に加えて後輩たちに教えてやらなきゃ!」

 応援部の練習に来てた天地くんにはお祝いどころかゴシップネタを根掘り葉掘り聞かれ。

「…………」
「あのー、教頭先生?」
「……本当にいいのかね」
「は?」
「後悔しないかね、くん。本当に熟慮したのかね? 後悔先立たずというんだぞ」
「あのー、でももう入籍してしまいましたし……」
「くっ……よりにもよって若王子くんとはっ……! 天国のご両親に申し訳が立たんっ!」
「先生、ひどい言われようです」

 教頭先生はまるで自分に責任があるかのように苦悶して。
 唯一素直に祝福してくれたのは陰のうすい校長先生だった。
 幸せになる努力を怠らず、二人で協力して生きていきなさい、って。

「生徒と教師の恋愛に大らかな学校だな、はね学って……」

 しんみりとつぶやいた瑛の言葉が全てだ。

「そっか、本当に結婚したんだね……おめでとう、ちゃん。おめでとうございます、若王子先生」
「あ、そうや。お祝いの言葉がまだやったね? おめでとさん、ちゃん、若ちゃんセンセっ」

 あかりの言葉に思い出したようにクリスくんが続いて、そうだった、とみんなが口々に祝福してくれた。

「ありがとう、みんな……。それもこれも、全部みんなのお陰だよ」
「何言うとんの! と若ちゃんが努力した結果やろ?」
「ううん、違うよ。私と先生の間に何か問題が起きたとき、いつもみんなが支えてくれたから」

 ね、と先生を見上げれば。
 先生も穏やかな表情で大きく頷いた。

「うん。海野さんと西本さんはいつもさんを励ましてくれたね。水島さんと藤堂さんは彼女に新しい世界を見せてくれた。氷上くんと小野田さんはとても良好なライバルだったと思う。ウェザーフィールドくんと針谷くんは彼女の気持ちをいつも明るくしてくれた」

 それから先生はいたずらっぽい表情で。

「佐伯くんと志波くんには、先生ちょっと本気を出しかけましたけど」
「……」
「……」

 二人して視線をそらせる。
 思わず噴出しちゃう。
 志波くんとは、先生本気対決してたって聞いたけど。
 瑛のは完全言いがかりだもん。瑛は私の『おとうさん』なのに。

「だから、今度はお返しする番です。僕たちに続くカップルはどこかな?」
「えっ」

 先生の無邪気な発言に、みんなお互いパートナーと見詰め合って。
 あはは、みんなゆであがっちゃって撃沈だ。

「えっへん。先生の勝ちです!」
「か、勝ち負けの問題かいっ! んなこと言うんなら若ちゃんなぁ、夫婦になったくせに、のこと『さん』て呼ぶんはおかしいやろ!」

 ぎくっ!!

 は、はるひっ! 余計なことをっ!!

 案の定。
 先生は顎に手をかけて思案ポーズ。

「西本さん、やっぱりそう思いますか?」
「思いますかて……当たり前やん。フツー嫁を旧姓で呼ぶ旦那なんおらんやろ?」
「あ、そっか! ちゃんてもう『』じゃなくて、『若王子』なんだ!」

 ぐっ!

 あかりが気づいたように大声をあげるものだから、私は口に含んでいたラスクを喉につまらせた。
 ばしばし胸を叩いて、ジンジャーエールで流し込む。

「え、じゃあもうくんのことは若王子くんと呼ぶべきなのか?」
「それじゃまるで若王子先生を不敬に呼んでるみたいですよね。水島さんに習って、さんと呼ぶのが一番いいんでしょうか?」
「う、うん、下の名前で呼んでくれればいいよ……」

 先生に背中をさすられながらなんとかラスクを飲み込んで、私が呟くと。



 ぎく。

 ……先生の、恨めしそうな声が。


「な、なんでしょう」
「僕を呼んでください」
「せ、せんせぇ」

「う」
ちゃーん」
「え、と」

 むっとした表情で私に顔を近づけて名前を連呼する先生。
 私はじりじりと後退するものの、せまいシートの上、すぐに追い詰められた。

「……なんだ、呼び名の問題はにあるのか」

 瑛がにやにやと意地の悪い笑顔を浮かべる。
 助けてくれる気なんか、絶対ナイ。

「だめだぞ、。嫁いだ旦那さんのことをちゃんと名前で呼べないなんて、おとうさん恥ずかしいぞ」
「うううるさいな! 瑛を名前呼びに変える時だって、大変だったんだからね!」
「佐伯くんの名前を呼ぶときはがんばったのに、僕の名前を呼ぶのはがんばってくれないんですか?」
「いやあのそれとこれとは」
「一緒だよね?」
「一緒だな」
「あかりと志波くん、無責任発言しないでーっ!!」

 同じくイイ笑顔を浮かべて、腕組みしてうんうんと頷いてるあかりと志波くんに抗議すると。
 ぐいっと。
 先生に両頬をはさまれて、向きを変えさせられた。

 目の前に、先生の訴えるような、すがるような、仔犬のような瞳。

 う、あ。
 そんな目しないでくださいよっ。

「……もういいです」

 先生は口をとがらせて、私から手を離した。
 そしてそのままシートの隅まで行って、背中を丸めて体育座り。

「いいんです、いいんです。どうせ僕はさんにとっては恋人にも夫にもなれない駄目人間だから、いつまでたっても『先生』なんて固有名詞ですらない代名詞で呼ばれるんだ……」

 あああ、拗ねたっ!!

「や、あの、せん、じゃない、う、あ、あ〜」
「さっさと呼んでやればいいだろ。何をそんなに照れてんだ?」
「だ、だって志波くんっ! 今までずっと先生だったんだよ!?」
「アカン。、惚れた男の名前すら呼べないなんて。アタシだって呼べるで? おーい貴文センセー」

 はるひが揶揄するように先生を呼ぶと、先生はちらりとこちらを見て、でもすぐに膝をかかえてぐすぐすと地面にのの字を書き始めた。

 わかってる。
 私が結婚したのは『若王子先生』じゃなくて『若王子貴文』だってことぐらい。
 でも。

 私を気にかけてくれたのは『若王子先生』。

 先生の気持ちを疑ってるわけじゃない。
 でも、『先生』じゃなかったら今の関係はありえなかった。
 だから。

 私にしてみれば『先生』という呼び名こそ特別で。
 うん。つまらないこだわりだって解ってる。
 でも。

 でも、だからこそ。

「……」

 背中を向けながら、ちらりと視線だけこちらに向ける先生。

 ……この場で呼ぶ妥協案があるとすれば。

 私は先生の背中にこつんと額を乗せて。

「……あなた」
「「「「「あなた!!??」」」」」

 ……あれ?

 私の発した言葉に、全員が異口同音。
 あかりやはるひや、みんなだけじゃなくて。

 先生まで、顔を赤くしてこっちを見てた。

「や、さ、いや、あの……ちゃん」
「はい?」
「……うん」

 先生はきゅぅっと私を抱きしめた。

 あ、あれ?
 私、そんな変なこと言った?

って時々あなどれねぇ……」
「まさか、いきなり『あなた』とは……」

 ハリーと瑛は、なんか神々しいものを見るような目つきで私を見てるし。

「……ま、若ちゃんが満足してるみたいやし、ええんちゃう?」
「うん、そうだよね」

 はるひとあかりはなんだか納得してる様子で。

 私は先生にきゅうっと抱きしめられたまま、首を傾げるのだった。


 その後のお花見会は、和気藹々と賑やかに進行していった。
 ハリーのアカペラライブがあったり、瑛のノンアルコールカクテルバーがオープンしたり。
 クリスくんは、なんと藤堂さんにネイルを教えてもらってた。「新しいアートやね〜」なんて言って、爪全部違う色に塗ってもらったりして。
 氷上くんと小野田ちゃんはいつもどおり、先生を質問攻め。
 私はあかりと一緒に、志波くんの一流体育大学のことを聞いてみたりして。

 楽しい時間が過ぎるのはあっという間。
 やがて黄昏が迫って、お開きの時間となった。

「今日で……しばらくまたみんなに会えなくなっちゃうね」
「うん。でも、私の力が必要になったら、いつでも呼んでね!?」

 私の言葉に、あかりがぎゅっと手を握ってくれた。
 うん。あかりははばたき市にいるんだもんね。
 いつでも呼んじゃうよ。

「それじゃあ……閉会の言葉は若王子先生から頂こう」
「やや、先生ですか?」

 てっきり氷上くんが仕切ってくれるものだと思ってたんだろう。
 突然指名された先生はきょとんとして。ぽりぽりと頭を掻きながら、コホンと咳払いをした。

「君たちは今日を境に高校生を卒業してしまうけど……。最後は先生として、言葉を送ってもいいかな」
「はい。もちろんですよ! 若王子先生は、いつまでたっても私たちの先生ですから!」
「ありがとう、海野さん」
「あ、はのぞく、な」
「ハリー! 余計なことは言わなくていいのっ!」

 いつもの軽口にどっとわくみんな。
 先生は小首を傾げて楽しそうに微笑んでいたけど。

「じゃあ改めて。本当に、卒業おめでとう。それから、新たな道へ踏み出した君たちに先生から言葉を送ります」
「はい」

 みんな背筋を伸ばして、先生の言葉に耳を傾けた。

「君たちには未来を切り開く力がある。そして、誰かを支える力がある。つまずくことがあっても、周りを見ればこんなにたくさんの仲間がいる」
「はい」
「……先生が、君たちに助けられた。第3者であることを望んだ僕に、そんなことは不可能なんだって、自分で自分の道を切り開かなくてはいけないことを教えてくれた」

 先生。

 研究所での権力争いや利権争いに絶望して、人間にまで絶望してしまった先生。
 そんな先生に、もう一度光を与えてくれたのは羽ヶ崎学園という場所と、無邪気に輝いていた生徒たち。
 私じゃない。
 ですよね、先生。

「光も希望も安らぎも喜びも与えてくれた君たちに、今この言葉を送る」

 先生はにっと微笑んで。

「おまいらに、光あれ!」
「電車男かいっ!!!」
「しかも微妙に古い!!」

 満面の笑みで満足そうな先生に、はるひとハリーが盛大につっこんだ。

 せんせぇ……最後の最後だってのに……。

 でも。
 クリスくんとあかりが笑い出したのをきっかけに、みんな笑ってしまった。


「クリスくん、向こうに行っても元気でね? また日本にも来るんだよね?」
「もっちろんやーん。あ、でも今度日本に来るときは、サックス奏者密ちゃんのスポンサーとしてかもしれへんな♪」
「うふふ、そうなれるようにがんばるわね、クリスくん。さんも、若王子先生と仲良くね?」
「うんっ、もちろんだよ!」
「あ、次はジュニアとのご対面になるんやろか?」
「やや、ご期待に沿えるようにがんばります」
「が、がんばらなくていいんですっ、先生っ!」

「氷上くんも小野田ちゃんも、一流大学でがんばってね! 二人なら余裕だと思うけど」
「ありがとうくん……じゃなかった、くん。君も、世界にはばたく一流デザイナーになることを祈っているよ!」
「うん、私もがんばるよ!」
「若王子先生、さんはがんばりすぎるところがありますから、うまくコントロールしてあげてくださいね?」
「はいはいっ。先生に任せちゃってください」
「猫の世話、さんに任せっきりじゃ駄目ですよ!」
「やや、見抜かれてしまいました……」

「ハリーは音楽活動に専念するんだよね。ライブの日は教えてね!」
「おう! 安心しろよ。どんなに有名になっても、と若王子には優先的にチケットくれてやるからな!」
「西本さんは、まずは調理師免許の取得ですね。がんばってくださいね」
「任せとき! さっさと資格とって、に若ちゃん用栄養メニュー伝授したる!」
「その代わり、オレのステージ衣装デザインの権利をにやる!」
「……その代わり?」

、アンタ、本当に若王子なんかと結婚して後悔してないのかい」
「藤堂さんてば。全然後悔なんてしてないよ。先生は、私の生きる気力の源そのものだもん」
さん……」
「若王子、アンタが感動してどうすんだ」
、先生と絶対に幸せになれよ」
「志波くん、本当にありがとう。森林公園では、これからもよろしくね!」
「ああ。……先生に嫉妬されない程度にな」
「やや、志波くんの問題発言、キャッチです」

ちゃん……」
「もー! なんであかりが泣くかなぁ。あかりははばたき市にいるんだから、いつでも会えるじゃない! 瑛が泣くならともかく」
「なんでオレが泣かなきゃならないんだ。口うるさいのが減ってせいせいする」
「相変わらず屈折してるんだから。またあかりを泣かしたら、おとうさんと言えど許さないんだからね!」
「わ、わかってるよ」
「おとうさん、よろしくお願いします」
「ぶっ!! わ、若王子先生!?」
さんにとっておとうさんなら、先生にとってもおとうさんです。佐伯くん、よろしくお願いします」
「は、はぁ……」

ちゃん、いつでも会えるよね?」
「あかり、いつでも会えるよ」
「式には絶対絶対呼んでね?」
「う、うん……多分、在学中はやらないと思うけど……やるときは、絶対呼ぶよ」
「珊瑚礁が再オープンしたら、必ず呼ぶからね」
「うん、楽しみにしてる」



 そして私たちは。

 それぞれの道を歩き出した。

 それぞれの夢に向けて、最初の一歩を。



……ちゃん」
「なんですか?」

 黄昏から宵闇色が濃くなってきた空の下。
 私と先生は手をつないで帰宅していた。
 つい昨日引っ越したばかりの、ペットOKの1LDK。
 きっと3匹の猫たちが、お腹を空かせて待っている。

「公園にいるときに聞こうと思ってたんだけど、マリッジは今薬指にはめているよね?」
「はい。ほら、この通り」

 左手を持ち上げて先生に見せる。
 プラチナが春の夕日に照らされて赤くきらめく。

「じゃあ、僕がアメリカに行く前にあげたエンゲージリングは?」

 不安そうな顔をして私を見下ろす先生。

 あの灯台でのプロポーズ。
 先生は、私に指輪をくれた。

「どうか、僕と、結婚してくれませんか」
「っ……!!」
「返事は僕がアメリカから戻ってからで構いません。……それまで、これを預かってて欲しいんだ」

 先生がポケットから取り出したのは、小さなベルベットの小箱。
 着替えたときにうっかり忘れるトコでした、なんて笑いながら。

 受け取って。

 開いた小箱の中には、夕陽を美しく反射して輝くサムシングブルー。
 ブルーダイヤ。

「君の心のようだと思って、これを選びました」
「私の、心……?」
「うん。どこまでも晴れ渡った空のように透明で、吸い込まれそうなブルー。『青』です」
「先生っ……」
「僕が研究所から戻ったら、返事を聞かせてください。ね」
「……はい」

 私はそのリングを肌身離さずにいて。
 先生が帰ってくるその日まで、ずっと、どんなときも、身につけていて。

 先生が戻ってきてもそれは変わらない。

「ここにありますよ」

 私は服の下からベネチアチェーンをひっぱり出した。
 シルバーのベネチアチェーンに通された、先生から貰ったサムシングブルー。

 それを見た先生は、安心したかのようにほっと息を吐いた。

「肌身離さず持ってます。一番、私の心に近い位置に。先生……貴文さん」


 二人でいるときなら言える。
 二人でいるときは、私は『』で、あなたは『貴文さん』でしかないんだもの。

 私にとって『先生』は特別な呼び名。
 私を3年間支えてくれて、私を3年間生かしてくれた人。

 でも。

 私はこれからは『貴文さん』と生きていくから。
 二人でいるときは呼べる。
 未来を見つめている時は呼べる。

 だけどみんなと一緒にいるときは、あなたは『若王子先生』だから。
 そのときは私も昔のように『先生』って呼びたいんです。

 私は貴文さんの腕を掴んだ。

「晩御飯は何がいいですか? 散々飲み食いしたから、軽いものがいいですよね?」
「うん。前に君が作ってくれたホワイトカレーがいいです」
「それ、軽いですか?」
「なんだか急に食べたくなりました。無理ですか?」
「大丈夫ですよ。あ、でも商店街でサフラン買わないと駄目です。商店街に寄って帰りましょう!」

 私は貴文さんの腕に自分の腕を絡めて方向転換。
 目指すは商店街の輸入食品店!



 貴文さんが私を呼んだ。

「なんですか?」

 振り向いた瞬間、キスを落とされる。

 長いことくっついていた唇が離れたとき、あなたはとてもしあわせそうに微笑んでいて。

「僕たち、恋愛をしよう」
「え……」
「結婚してるけど、それでも。僕は青春時代を満足に送れなかったし、君は自分の生活を維持するのに精一杯だったよね。だからこれから二人で、たくさんたくさん素敵な恋愛をしたいんだ」
「……はい」

 憂いなんて微塵も感じさせない笑顔で微笑むから。
 私もつられて笑顔を浮かべた。

 私も貴文さんも。
 置かれた境遇は違うけど、望んだ青春を得られなかった。

 だけど、先生が卒業式に言ったとおりなんだ。

 今からだって得られる。新しい何かを。
 新しい、幸せを。

「行こう、さん。サフランが売り切れちゃいます」
「売り切れてしまうことはないと思いますけど……サフランは高いから、先生のお給料じゃ、そうそう食べられませんね?」
「ぐさっ。結構ひどいこと言いましたね? さん……」
「ふふふ、行きましょう、先生! お店、閉まっちゃいますよ!」


 私と先生は手を繋いで歩いていく。

 この先の道を、いつまでも。

 あとから教えてもらった灯台の伝説。
 でも今は、その伝説を私たちが塗り替えるんだ。

 出会い、導かれ、足掻き、苦しみ、その先に。
 太陽のような優しさと海のような温もりに包まれる時がくるのだと。

 
「じゃあ専門学校初日、がんばって」
「はい! 貴文さんも、初日からまたオオボケかまさないでくださいよ?」


 いつもの日常を迎えられる幸福を。


「おはようみなさん。今日から1年間、みなさんの担任を務める、若王子貴文です」
「はーい先生質問っ! 付き合ってる人とかいるんですかぁ?」
「付き合ってる人? ……ああ、女性の、という意味ですか?」
「はい!」
「残念ながら先生には付き合ってる人はいません。……が、実は先生、新婚ホヤホヤなんです。えっへん」
「「「おおーっ」」」


「羽ヶ崎学園出身、……じゃなかった、若王子、です。よろしくお願いします」
「うわ、可愛いじゃん……」
「なんかモデルであのコに似た感じのいなかったっけ?」
「ちなみに既婚者です。飲み会のお誘いは旦那さんが許してくれたらオッケイですっ」
「「「既婚者ぁ!?」」」


 あたりまえの幸せを噛み締められる幸福を。


ちゃん」
「貴文さんっ」


 待つだけじゃない。
 自分から、切り開いていくんだ。

 私たちは、手を繋いで歩き出す。

 二人で、一緒に。




 長編連載にここまでお付き合いくださいましてありがとうございました。

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