「ねぇさん。モデルやらない?」
「は?」


 6.1年目文化祭:準備


 そんなことを普段あまり話したこともないクラスメートに言われたのは、文化祭をちょうど1ヶ月後に控えた10月頭のことだった。

「モデルって……?」
「うん。私ね、手芸部に所属してて文化祭でファッションショーをやるんだけど」
「ああ、有名だよね。はね学とはば学の手芸部主催のファッションショー」

 はね学とはば学の手芸部といえば、あの花椿グループが後援しているとも噂されている有名なクラブだ。
 特に文化祭のファッションショーは人気を2分してて、すっごくレベルが高いってはるひが言ってたっけ。

「それでね、そのファッションショーって自分で作った服を着てステージに出るんだけどね……」
「出たくないの?」
「だって恥ずかしいんだもん! 私、服を作るのは大好きだけど、人前って苦手で」
「ふ〜ん……」
「それでさん、代わりに私の作った服着て出てくれない!?」
「はぁ!?」

 私はかなり間抜けな声を出してしまった。

「お願い! 作った服はそのままあげるから! 自分でモデルを連れてくるっていうのが、唯一ステージ回避できる掟なの!」
「お、掟って……。ってゆーか、モデルなら私より水島さんとか藤堂さんとか。背が高くて綺麗な人が他にいるじゃない」
「もう行ってきたの。水島さんは吹奏楽の練習があるし、藤堂さんは二つ返事で断られちゃった」

 二つ返事ってそういう使い方するっけ……。
 などと考えてる場合じゃない。

「で、でもさぁ……なんで私?」
「え? だってさん美人だし」
「いやいや、そういうお世辞はいいから、ちゃんと理由を教えてよ」
「お世辞じゃないよ! 手芸部でさんって有名だよ? 海野さんと同じくらい!」
「え、あかり?」
「だって、姫子サマからじきじきに称号いただいてるんでしょ?」

 うあ、うちの手芸部はカメリア倶楽部と提携してるのかっ!

 そ、そういえば私もこの間、あかりと一緒にいたら「あなたはエリカね」なんて命名されたっけ……。

 すると手芸部の彼女、小首を傾げて不思議そうに言った。

「もしかしてさん、美人の自覚ないの?」
「ないない。自覚じゃなくて、実際違うし。私、これまでモテたことないし」
「髪型のせいかなぁ……。これはショー当日のヘアメイクや化粧も気合入るね! 文化祭後は週1で告白されるくらいにしてあげるから!」
「ちょ、まだやるとは一言も」
「1年生はタウンウェアだからそんなに緊張しなくても大丈夫だよ。あ、第1回仮縫いは連休明けの10日だから! よろしくね!」
「えええ!?」

 結局彼女は有無を言わせずに、強引に言い切って去っていった。

 ……ま、いっか……。ただで服が手に入ると思えば……。

「やっぱり引き受けたんだね、アンタ」

 半ば呆然としていた私に、背後から藤堂さんが声をかけてきた。

「別に引き受けたわけじゃないよ〜……。私も純粋な押しに弱いからなぁ」
「だと思った。あの子にそう言ったのは正解だったね」
「……はい?」
「アタシがあんたを推薦したんだよ」
「藤堂さんが!?」
「そうじゃなきゃ、アタシがモデルなんてものやらなきゃならなくなるとこだったからね」

 ふふんと笑って腕を組む藤堂さん。
 私は人身御供かい……。

 恨めしそうな目で藤堂さんを見上げていたら、彼女はぽんぽんと私の肩を叩いた。

「ま、アンタが美人だってのはアタシもその通りだと思うよ。だからアタシも、アンタがモデルを引き受けたら、ネイルはアタシが引き受けるって言っといたし」
「うそっ、藤堂さんにネイルしてもらえるの!?」

 前にあかりがすっごく綺麗なネイルをしてるのをみて、それが藤堂さんがやったと聞いてからうらやましく思っていた私。
 あ、少しやる気出てきたかも。

「アタシはやるからには当日まで気合入れて練習する。アンタも、やるからには渋々じゃなく覚悟決めてやんなよ」
「そうだね、そうするよ」

 それじゃあ、と言って藤堂さんは片手を振って去っていく。

 でもそっか。

 帰宅部の私が学校のみんなと何かをする、なんてこと。文化祭くらいでしか出来ないんだよね。

「よーっし、気合入れてダイエットするぞーっ!」
「おーっ!」

 両手を握り締めて気合を入れてみると。
 いつの間にやら隣にいたはるひが元気よく合いの手を入れてくれた。

「聞いたで! アンタ、モデルやるんやて!? んふふ、ダイエットのことならこのはるひ様になんでも聞き!」
「……朝一緒に公園通り走りこむ?」
「あー、ガテン系ダイエットは専門外や……」

 ただでさえ貧相な食生活送ってる勤労学生が、食事制限ダイエットなんて出来ません、はるひ様。

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