「志波くん誕生日」
「いらねぇ」
36.2年目:志波誕生日
「……というわけでした」
「(志波くんらしい……)」
「(志波らしいなー……)」
文化祭を終えて1週間。
そういえばもうすぐ志波くんの誕生日。
今年は志波くんにお世話になりっぱなしな気がして、ぜひともお礼を兼ねたプレゼントがしたくて。
というわけで、本人に何か欲しいものはないかリサーチしたんだけど。
聞く前にいらないと言い切られてしまい、私はあかりとはるひに相談を持ちかけていた。
ちなみに学校帰りの公園にて。
「志波くん、ちゃんのこといっつもすっごく心配してるもんね?」
「金使わせたくないんちゃう? アタシだってそうやもん」
「う、うーん……」
ベンチに並んで腰掛けて。
私は腕を組んで唸ってしまった。
「そういえばバレンタインの時も一回つっかえされたもんなー……。奨学金のこともあるから、今回こそお金のかかってるものは受け取ってもらえなさそう、ってか怒られそう」
私のつぶやきに、あかりもはるひもうんうんと頷いた。
「じゃあ志波くんにも歌のプレゼ」
「「却下」」
あかりの提案は丁重にお断りして。
「金のかからんプレゼントなぁ」
はるひはうーんと唸って私を見て。
ぱちんと指を鳴らした。
「あるやん。お金かからんくて、志波が喜ぶプレゼント」
「え、なになに?」
「あかりのと似てるんけど、歌やなくて言葉や」
「言葉?」
にやり。
はるひのあの表情は、なにかとてつもなくいい企画が思いついたときのソレ。
「そ。、志波にこう言うたれ!」
志波くんの誕生日。
私はいつもどおり朝のジョギングに出て、森林公園の噴水前で志波くんを待った。
「」
「おはよ、志波くん!」
ジャージ姿で走ってきた志波くん。
私は立ち上がって志波くんを出迎えた。
「早いな」
「うん。今日は早めに切り上げて、志波くんを待ってたの」
「?」
首にかけてたタオルで汗を拭く志波くん。
そのまま噴水に腰掛けたから、私もその隣に腰掛けた。
「志波くん、誕生日おめでとう!」
「あ? ああ……」
何事かと身構えてた志波くんだけど、私の言葉に拍子抜けしたようすで、肩の力を抜いた。
「プレゼントがあるの」
「……いらねぇって言っただろ」
汗を拭きながらぷいっと向こうを向く。
「大丈夫、モノじゃないから!」
「は?」
私は立ち上がって志波くんの真正面に立った。
志波くんはぽかんとこっちを見上げて。
うう、ちょっと恥ずかしいけど、仕方ない。
私は胸の前で両手を組んで、ちょっと小首を傾げて、膝をついた。
噴水に腰掛けてる志波くんを、ちょっとだけ見上げるような位置。
志波くんはぎょっとして目を見開いた。
そして。
「かっちゃん、を甲子園に連れてって?」
「!!!!!」
「うわ!?」
私はいきなり志波くんの大きな手で頭を押さえつけられてしまった。
い、痛い。
「し、志波くん、なに!?」
片手で押さえ込まれてるっていうのに、どんだけ抵抗してもびくともしない。
うう、男の子の力って、ずるいよなぁ……。
「あ、のなぁ……」
頭を押さえつけられてるから、見えるのは志波くんの足元だけ。
「……ソレ、反則だろ……っ」
「ご、ごめん、気に障った……」
「そうじゃないっ」
力が緩む。
志波くんの手を掴んで頭から外して。
私は志波くんを見た。
私を押さえ込んでた手とは反対の手で、顔を覆って。
……あ。
耳が真っ赤。
「見るな」
「あ、うん」
「……もう行け」
「え」
「頼むから」
「うん……?」
噴水に腰掛けて顔を覆った姿勢のまま、微動だにしない志波くんに追い立てられて。
私は帰ることにした。
その後学校で。
「あ、志波くん。ねぇ、朝の……」
「っ」
登校してきた志波くんのもとへ、てちてちと走っていったら。
がし。
また片手で頭を押さえつけられた。
「このまま後ろ向いて教室戻れ」
「ええ? ねぇ志波くん、気に障ったならちゃんと謝るからさ、顔見せてよ」
「気に障ってない。謝らなくていい。顔も見なくていい。教室戻れ」
「うう〜……」
結局今日一日、志波くんはまともに顔を合わせてくれなかった。
「な? 志波めっちゃ喜んでるやん!」
「どこが!?」
はるひに事の顛末を報告したら、何をどうみてるのかそんなことを言って。
「志波くん、今日の朝練、すっごい気合入ってたよ」
「へ、へぇ〜……」
野球部マネージャーに志波くんのことを聞いたら、そんなことを言っていた。
「志波くんってば!」
がし。
しばらくこんなやりとりが続いて。
もういい加減理由もわからず理不尽な扱いに腹が立ってきて。
ちょっと強い口調で言った。
「もうっ、志波きゅん!!」
「「「志波きゅん!?」」」
あ。
か、噛んだ。
廊下を行きかう他の生徒もぴたりと硬直してこちらに一斉に注目してる。
「あ、ご、ごめん、今のは、言い間違い……」
し、志波『きゅん』って
『きゅん』ってなんだ!
あああ、志波くんまた怒っちゃうかも!
と、思ったら。
志波くんの手から急に力が抜けて。
脱力したようにその場にしゃがみこんでしまった。
「あ、あの〜、志波くん……?」
「お前、マジで、勘弁しろ」
そして盛大なため息。
それからしばらく、志波くんは口利いてくれなかったし、目も合わせてくれなかったし、私の姿を見ると逃げるように回れ右することが続いた。
うわぁん。
「オッス志波きゅん!」
「志波きゅん、おはよう!」
「…………西本…………」
「ち、ちゃうて! アタシが入知恵したんは、かっちゃんのことだけやって! 怒るならの天然を怒りや!」
「はるひっ、責任押し付けないでよっ!」
「やや、さん、西本さん、志波きゅん、おはようございます」
「せせせせんせぇっ!?」
「えっへん。先生、流行には敏感ですから」
「…………」
「ごめんごめんホントごめんなさいぃぃ!」
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