「裏切り者ー!!」
1学期の期末テスト順位表が張り出されたその日、私ははるひとハリーにいきなり怒鳴り込まれた。
…そんなこと言ったって。
3.1年目:1学期期末テスト
テスト廃止署名運動をしていたはるひに協力して、確かに署名はしたけどさ。
「勉強しないとは一言も言ってないもーん」
「ないもーん、じゃねーよ!」
そのとき一緒に署名したことで意気投合したハリーは、今日ははるひと意気投合しているみたい。
「アンタ、それは抜け駆け言うんやで!」
「そーだそーだ! 協力する振りして騙しやがったな!」
「ちょ、人聞き悪いなぁ……」
なんか本気で怒ってる様子の二人の肩越しに、私は順位表を見た。
ハリーとはるひはこちらでも意気投合したらしく、仲良く2つの赤をとって、順位表の半分からだいぶ下のところに並んで名前が載っていた。
「だってこっちは生活かかってるんだから……」
今度から署名の際には誓約書も書かせんとな! おう、そうしようぜ! などとさらに盛り上がる二人を尻目に、私はぽつりとつぶやいた。
なんたって、私は奨学金とバイト代で授業料と生活費をまかなう身。
奨学金第一種を持続するには、学内上位にいるのが安全圏なんだもん。
はるひとハリーには悪いけど、これからも『抜け駆け』させてもらいます。えへ。
「すごいなさん。3科目満点で、学年1位か」
思いがけず1位という栄誉に輝いた私が満足そうに順位表を見上げていると、これまた思いがけない人から声がかかった。
振り返らなくてもわかる。
はね学男子人気ナンバーワンの佐伯くんだ。
「そんなこと言って。佐伯くんだって6位じゃない。化学なんか、私より順位いいし」
「まぁ僕もがんばってるから。さんほどじゃないけど」
そう言って佐伯くんはさわやかな笑顔を浮かべる。
あぁ、これが噂の優等生佐伯くんのキラースマイルかぁ…。
なんて思ってたら、今度は海野ちゃんだ。
「さん! すごいね、学年1位!!」
「ありがと海野ちゃん。海野ちゃんは……と」
「えへへ、私は98位」
はにかむ海野ちゃんだけど、その順位は半分より上。私も奨学金のことがなければ十分満足できる位置だ。
ところが。
「普通だな。うん、お前っぽい」
「う、次はもっとがんばるもん」
「ま、がんばれ」
ぽすっ、と佐伯くんが海野ちゃんの頭にチョップを入れながらそっけなく言い放つ。
叩かれた海野ちゃんも唇をとがらし、上目遣いで可愛らしい言い訳を言って。
あれ、なんですか、この二人のこの雰囲気。
ここは是非追求せねば! と思った矢先。
「やや、優等生さん発見です」
今度は若王子先生だ。
声をかけるタイミングを失って、佐伯くんと海野ちゃんは揃って廊下を歩いていってしまった。
ああ、残念……。
「お見事です、さん。先生、鼻高々です」
「ありがとうございます、先生。がんばってみました」
「うんうん、そうみたいですね。化学なんか以外は」
「……はい? あの、化学も一応がんばったんですけど……」
「一応ですか。やっぱりですか。化学なんかは一応ですか」
若王子先生、明らかに拗ねてる?
私が困惑していると、先生はじーっと順位表を見て、
「化学だけトップじゃない…」
とつぶやいた。
そこかよ!!!
と突っ込みたくなったのを、ぎりぎりで飲み込んだ私。
自分で自分を褒めてやりたい。
だってだってだって!
そりゃ他の教科はトップ取ったよ!?
そりゃ化学は秀才・氷上君と優等生・佐伯くんに負けてるよ!?
でも、92点取ってるじゃん!!!
…と叫びたいのをぐっと堪えて。
「じ、次回はもっとがんばります」
「や、そう言っていただけると助かります。二人でがんばって、教頭先生をぎゃふんと言わせましょう」
「は、え? 教頭先生?」
謙虚な私の返事に、先生はにっこりと微笑んでこそっと私に耳打ちした。
「実は先生、教頭先生に嫌味言われたんです。『若王子くんのクラスの君は優秀だなぁ。しかし君、嫌われているのかね? 担任なのに、担当教科だけトップを落とすなんて』って」
「…………」
「さんは、先生のこと嫌ってないですよね?」
「き、嫌ってないです」
てゆーか呆れてます……。
なんなんですか、その大人の幼稚な喧嘩は。
私が化学のトップを落とした原因はあなたと海野ちゃんのせいですと、はね学の中心で叫びたいです、先生。
しばらく私、授業に集中できませんでしたから!!
「さん、打倒教頭先生、えいえい、おーです!」
「おー……」
なんだかすごく笑顔な若王子先生を見てたら、次も化学はトップ取れないような予感がしてきました、先生。
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