「えっ、ちゃん、全員に手作りあげるの??」
「うん。だってその方が安上がりなんだもん」


 12.1年目:バレンタイン前日


 ……という話をあかりとしたのが先週の金曜日。

「さて」

 13日のバイト明け、夜9時を回って私はエプロンとバンダナを身につけキッチンに立っていた。
 そしてその横にはなぜかはるひ。

の晩御飯めっちゃおいしかったわ……」

 持参のエプロンをつけたはるひは、未だに私が出した晩御飯の余韻を引きずってるようだったけど。

「はるひ、自分でお菓子作れるって言ってなかった?」
「そやけど、前にって調理実習でピカイチの腕披露しとったやん。だから、その技伝授してもらお思て」
「それでハリーをメロメロに、だ」
「余計なことは言わんでええの!」

 いきなり私のバイト先に押しかけてきたはるひは、そのままうちに転がり込んで。
 用意のいいことに、お菓子つくり材料もお泊りセットも持参していた。

 でもま、こうやって家に人を上げるのも初めてだし、友達とこういうことするのって、ちょっとわくわくしてくる。

「じゃ、はじめよっか。まずはチョコをテンパリングするために細かく砕いて」
「はーい。、結構な量用意してんな?」
「うん、これ12人分あるし」
「そんなにあげるん??」
「あ、はるひたち女の子を含む、ね」
「も〜いらんて! うちらの分は自分の食事代にまわし!」

 なんてことを話しながら。

 私は一口サイズのトリュフ。
 はるひは(ハリー用と思われる)チョコケーキを作った。

 なんだかんだいいながら、はるひはお菓子作りが上手だ。
 いろいろと教えてもらったの、私のほうが多かった気がする。

「できた! さ、あとはラッピングするだけや」
「そうだね! さすがに少し疲れたかな」

 時間は11時を回ってる。
 私たちはあーでもないこーでもないと、綺麗にラッピングをしていった。

「なぁなぁ。トリュフは1人1個やろ? ちょっと多いんちゃう?」
「あ、若王子先生には5個上げようと思って」
「ふ〜ん?」

 私のラッピングを手伝ってくれていたはるひの口元が、たちまち緩む。

「な、なに?」
「なぁなぁって。若ちゃんのことどう思っとるん?」
「は? どうって、担任の先生で……子供か大人かよくわからない人」
「そうなん? う〜ん、つまらんわ」

 何がデスカ?

 さっさとラッピングを済ませて袋に詰める。
 それからハーブティを入れて、はるひと二人で夜遅いティータイム。

 チョコが余ってたけど、さすがにお菓子を食べるには遅すぎるよね、ということで。

 はるひはにこにこ嬉しそうにマグカップを受け取り、私の対面に座った。

「だって、若ちゃんて、のこととなるともう必死やん。な〜んか、アヤシイと思わん?」
「まーたー……。はるひは恋バナ好きだよね。自分のことは絶対しゃべらないくせにっ」
「あ、あたしのことはええやん! ……どうせ、たちにはバレバレやし」
「ふふ。でもさ。先生は担任だよ? で、私はこういう特殊な家庭環境だから。他よりちょっと気を遣ってるだけだよ」

 カモミールティをすすって、私は足を投げ出す。
 真っ赤になってしまったはるひもお茶をすすり、う〜ん、と納得いかない様子で壁にもたれた。

 ちなみにこのカモミールティは、有沢さんがくれたもの。
 勉強の合間に飲むと、気持ちがすっきりしてはかどるんだよね。

「えーと、今と噂があるんは、若ちゃんと佐伯と志波……あたりやったかな」
「ぐっ!」

 指折り数えるはるひに、私は含んでいたお茶を危うく噴出すとこだった。

「そ、そんなことになってるの!?」
「あー、やっぱ本人には届いてないんやな、この噂。もっぱら、男子の間に流れとる噂やし」

 だ、男子の間にもそういう噂って流れるんだ……。
 恋バナって、どうしても女子のイメージ強いし、う、うわぁぁぁ。

「で、こんな中に本命はおるん?」
「いないいないいないいない」

 ぶんぶん首を振る私。

「佐伯は?」
「佐伯くんは私より、あか、じゃなくてほら。佐伯くんは女の子みんなに優しいから、特定っていないんじゃないかな!」
「んじゃ志波」
「志波くんは、朝一緒に走ってるけど、それだけだし……」
「せやろ? やっぱり確率的には若ちゃんやんな」
「だからなんでそうなるの!」

 はぁぁとため息をつくと、はるひは嬉しそうに手の中でマグカップを転がす。
 うう、遊ばれてる……。

「だって文化祭以来、は学園女子人気トップを争ってるやん。本命は誰かって、みんな気にしとるで」
「う、うーん……。でも私、恋愛なんてしてる余裕本当にないからなぁ」
「そうなん? でも、人を好きになるんに忙しさは関係あらへんやん」
「そうだけど。今のとこ本命ってか、好きな人はいないよ」

 もうすぐ12時。
 私は布団を敷くためにテーブルを片付けた。

「一組しかないから、ちょっとせまいけど」
「あたしが押しかけたんやから、気にせんて」

 持参したパジャマにいそいそと着替えるはるひ。
 私も着替えて、布団にもぐりこんだ。

「なんかこういうの久しぶり」
「そうなん? でも今年は修学旅行もあるし、こういう機会は結構あるんちゃう?」
「そうだ、修学旅行だ。2年生になったら、はるひと同じクラスになれるといいな」
「んで、担任が若ちゃんな」
「ま、またそこに話を戻す……」
「あー、佐伯と志波が同じクラスに来てもおもろいな!」
「……ハリーもね!」
「うっ、は、反撃されてもた……」

 なんて。

 布団にもぐりこんで電気を消しても話は尽きない。

「あ、はるひ、明日も私走りに行くけど。一緒に来る?」
「丁重にお断りさせていただきますー」

 つれないなぁ。

 ともあれ。

 久しぶりの学生っぽい会話を楽しめた私。
 チョコの甘い匂いにつつまれながら、明日のバレンタイン当日に備えて、わくわくしつつも眠りについたのだった。


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