「……あれ?」
部屋に戻ってくると冷気が流れ込んでいた。
見ればバルコニーに続く窓が大きく開いている。
「誰か外に出てるの?」
窓の外に顔を出して見てみると。
「これ、幸村のプレゼントでしょ」
「ああ、さんが見つけてくれたのか」
闇夜の中でも輝く笑顔を浮かべながら、小さなテラコッタのポットを抱き上げたさんが立っていた。
クリスマスプレゼント 〜幸村編〜
コタツの上に置かれた、赤いリボンが巻かれたポット。
その中身は土が詰まっているだけ。
オレとさんは並んでコタツに潜りこんで、冷えた部屋の中で暖をとる。
「ポットだけ?」
「本当はポインセチアを持ってこようかと思ったんだけど、あまりにありきたりすぎるかと思って。それなら長く楽しめるように、春に咲く花の種を埋めておいたんだ」
「へぇ〜。幸村らしいプレゼントだね。何の花?」
「それは咲いてのお楽しみだよ」
「そっか」
手を伸ばして、両手でポットを包み込むさん。
よかった、彼女が見つけてくれて。
もしも真田あたりが見つけてしまってたら、問答無用で口封じするところだった。
「楽しみだな〜」
「冬の間は室内でね。あまり寒さに強くないから、日の当たる場所に置いておくといいよ」
「うん」
こくんと素直に頷く様子はとても可愛い。
「それで」
オレは隣の部屋の内側のドアノブにかかっていたプレゼントを取り出した。
「これはキミのプレゼントだよね?」
「あれ、幸村が見つけたの?」
「よかった、やっぱりさんのだったんだ」
さんはきょとんとしながら、いつものように首を傾げてオレを見る。
オレの手には、金の鈴と赤いリボンが飾られたクリスマスリースが握られている。
「そうだよ。うちの庭で取れたハーブで作った、ドライリース!」
「ドライハーブか」
オレは極力笑顔を崩さずに、相槌を打った。
確かにこれはさんが言うとおり、乾燥させたハーブ……で作ったリースなんだろう。
でもさ。
さんには悪いんだけどね?
「ねぇ、これってドクダミだよね?」
「うん」
「で、これがケール」
「そうそう」
「明日葉で」
「うん」
「モロヘイヤ?」
「正解! さすがだね、幸村!」
「うん、ありがとう……」
手を叩いて正解を祝福してくれるのは嬉しいんだけどね。
おかしいな、さんって美術の成績はわりと良かったはずだと思ったんだけど……。
時々、物凄く前衛的なんだよなぁ、彼女って。
内心を悟られないように微笑み続けていれば、さんは小さく首を傾げた。
あれ、気づかれた?
と思ったのは気のせいだったみたいで。
「知り合いに教えてもらった疲労回復煎じ茶の材料でもあるんだよ、それ」
「へぇ、さすがはマネージャーだね」
……今度手塚に連絡して、あのメガネの行動しっかり監視してもらわなきゃな……。
ということは腹の中だけにしておいて。
「いつも気を遣ってもらって悪いね、さん」
「マネージャーだもん。このくらいは感謝されるほどのことじゃないよ」
はにかみながら謙遜するところがとっても彼女らしい。
そんなさんを見ていたら、このリースを無碍にすることもできなくて。
「……あ、いいこと思いついた」
「なに?」
どうしようかなぁって思ったけど。
オレは心の底からの笑顔を浮かべながら、きょとんとしているさんを振り向いた。
「そんなに体にいいものなら、みんなが戻ってきたときにみんなで飲もうよ。うん、そうしよう」
「あ、そうだね! そうしよう!」
「じゃあお湯沸かしておこうか」
「そうだね!」
土鍋をカセットコンロの上からよけて、鍋用に用意してあった、今ではすっかり温くなってしまったお湯を入れてあるヤカンを代わりに置いて。
そのヤカンの中に、オレは片手でリースを握りつぶしてその粉末を投入した。
「あいかわらず清清しい潰しっぷりだね、幸村」
「ごめんね、せっかく作ってくれたのに」
「ううん、最後はお茶にしてもらうつもりだったから気にしないで」
「早くみんな戻ってこないかな」
「そうだね!」
オレとさんは部屋の入り口が見える方へと移動して、にこにこと満面の笑顔を浮かべながらみんなが戻ってくるのを待つことにした。
そして10分後。
「「「「「「「ごふッ!!??」」」」」」」
一様に引きつった顔をしたレギュラー陣が一並びになった後、覚悟を決めて一斉に飲み干した後、全員見事に崩れ落ちた。
「なっ……なんなのだこれは!? っ! お前はまた妙なドリンクを」
「真田、湯飲みに残ってるよ? はいイッキ、イッキ、真田くんのー、ちょっといいとこ見てみたいー」
「ま、待てゆきむっ……!!」
また真田がさんを怒鳴りつけようとしたから、オレは半分以上残していた湯のみの中身を強制的に口の中に流しこんでやった。
ぼて。
そして白目をむいた真田が床に転がる。
「今回のも体によさそうなドリンクだね、さん」
「(真田確実に魂抜けてるだろぃ!)」
「(ばっ、ブン太! 聞こえるだろ!)」
ウカツなブン太を咎めるのはさすがのジャッカル。とはいえ、二人とも膝に力が入ってないみたいだけど。
反対側では赤也と仁王が窓を開けて呻いてるし、あの柳と柳生も口元を押さえながら青ざめていた。
なるほど、いろいろ使い道ありそうだな、このドライハーブの煎じ茶は。
「おっかしいな……青学のみんなも同じの飲んでるハズなのに、なんでこんなマズイの出来ちゃうんだろ?」
「……おそらく青学でも」
「やーなーぎー?」
「……なんでもない」
何か言いかけた柳だけど、オレの笑顔を見て言葉を飲み込んだ。
失礼なヤツだなぁ。
まぁ、とにかくこれの効能はよくわかった。
「さん」
未だに眉間にしわを寄せて首を傾げているさんの手を取って。
「みんなに振舞うのに気を取られて、自分の分を確保するの忘れちゃったよ」
「ええ? 幸村が見つけたプレゼントだったのに?」
「オレも飲んでみたかったなぁ。……だからさ」
きょとんとする彼女に、オレはにこっと微笑みかけた。
「今度、さんの家に直接お茶を貰いにお邪魔するね」
「「「(計算ずくかよ!!!)」」」
……声には出さずに手だけの突っ込みだったけど、さんに見えないように背後でする、っていう配慮を見せたみたいだからそれについてはスルーしてやることにした。
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