の動向を確認してから、オレは素早く他のプレゼントを探しにいった。
隣の部屋の鏡台の裏手で15センチ四方ほどの包みを見つけ、それを手に素早く部屋に戻る。
どうやらはまだ床の間をきょろきょろしているようだ。
掛け軸をめくっているが、隠し通路でも探しているのか?
「そこの活け花の裏だ」
「あ、ホントだあった! ……って」
オレのアドバイスに一瞬顔を綻ばせるものの、振り向いたときには口を尖らせていた。
「自分で見つけたかったのにっ」
「すまない。に見つけてもらいたかったからな」
不満を口にしながらも、はその小さな包みを持ち上げてコタツのもとへと戻ってきた。
クリスマスプレゼント 〜柳編〜
「見つけてもらいたかった、って。これ柳が隠したの?」
「ああ」
まだ誰も戻ってこない。まぁ、あのメンツがそう簡単に見つかる場所にプレゼントを隠したとも思えないし、戻ってくるのは早くて5分後、それでも確率は30%だ。
オレとは丸いコタツに隣り合ってもぐり、各々が見つけたプレゼントをその上に置いた。
「あれっ、柳が見つけたの私が隠したプレゼントだよ?」
「だろうな。予想はしていた」
「柳のプレゼントはちっちゃいね。開けてもいい?」
「もちろんだ」
はさきほどの不機嫌も忘れたようににこにこしながら、白く薄い和紙にくるまれたソレを解く。
中から出てきたのは西陣織の手のひらサイズの小さな巾着。
が首を傾げながら口を開けようとしたが、オレはそれを手で押し留めた。
「開ける必要はない」
「そうなの? あ、お守り?」
「いや。匂いを嗅いでみろ」
の手から取り上げて、それを鼻先で軽く振ってやる。
目を閉じて鼻をひくひくさせているは正直滑稽ではあったが、やがて「あ!」と叫ぶと同時にぱちっと目を見開いた。
そして嬉しそうにオレを見上げる。
「お香の匂い! これ、匂い袋?」
「ああ。気に入ったか?」
「すっごく!」
再び匂い袋を手渡せば、は大事そうに両手で包み込み、自分の鼻先近くまで持ち上げて深呼吸する。
ふわぁ〜……と半ば気の抜けた声を出しながらも微笑む。
つい、幸村が戻って来てはいないか振り返ってしまうくらい。
心臓に悪い笑顔だ。
「いい匂い〜。これ、柳がいっつも持ち歩いてる匂い袋と同じ香り……じゃないよね?」
「ああ。万が一にもお前以外がこれを見つけた時のことを考慮してな」
「柳と真田が同じ香りしてたらおもしろいもんね」
おもしろいというよりは悲劇だろう、それは。
一瞬想像してしまい、眉間にシワが寄るのを感じる。
「じゃあこれ、何の香り?」
「それには白檀の香を入れてある」
「へー、白檀……」
「知らないんだな?」
「うん」
照れ臭そうに笑う。
「知らないことは恥ではない。白檀は日本古来から親しまれている馴染み深い香だ。香木は仏像や扇子にも加工されている」
「へぇ。柳っぽいプレゼントだね」
言いながらは目を細めて、合わせた手のひらの隙間から香りを楽しんでいる。
その仕草がいつもの彼女と違って大人びて見えて、知らずオレの口元も綻んでしまう。
「気に入ってもらえてなによりだ。のプレゼントも開けていいか?」
にこにこと上機嫌なに尋ねる。
ところが、オレの言葉には一瞬で笑顔をひっこめ、しょんぼりとしてしまった。
「どうした?」
「うーん……それ、あんまり柳には必要ない気がする」
15センチ程の大きさの箱。それを目の前にして、オレには必要ないものだという。
つまり、このプレゼントを選ぶときに、オレのことは考慮されなかったということか?
「開けるぞ」
何かもやもやするものを感じながら、返事も待たずにオレはその包みを解いた。
中から出てきたのは、たまご型の白い陶器。
「これは?」
「アロマポット」
なるほど。精油を加熱して香りを広げるというアレか。
しかし。
「なぜこれがオレには不要だと?」
「だって柳って自分に必要な香りがわかってるでしょ?」
視線を落としながら、にしてはめずらしく歯切れ悪くごにょごにょと呟くように告げる。
「だから、私が選んだ香りは逆に迷惑なんじゃないかなぁって……」
「そんなことはない」
何を気にしているかと思えば。
「香りの効能は気分の高揚、もしくは沈静に大きく分けられるだろう。オレたちのメンタル面を考えて選んでくれたのだろう?」
マネージャーとして、誰に当たったとしても活用できるようなプレゼントを用意したんだな。
それがオレひとりのためではないとしても、その心遣いが嬉しくないわけがない。
オレは腕を伸ばして、くしゃりとの頭を一度撫でた。
は驚いたようにオレを見る。
「不要なことなどない。ありがとう、」
「……うん」
感謝の言葉を伝えれば、ようやくはいつものはにかんだような笑顔を浮かべてくれた。
そうだ。
お前は笑っているのが一番いい。
「それで、香りは一体なにを選んだんだ?」
「ポットの中に入ってるよ。えっとね、サンダルウッドの精油」
「……サンダルウッド?」
の言うとおり、ポットの中には小さな小瓶が入っていた。
なるほど。
サンダルウッド、か。
「あのね、緊張を沈める効果があるんだって。むしろ柳よりも切原に当たったほうがよかったかも」
「いや、この香りはオレにうってつけだ」
「そう? 柳でも緊張することなんかあるの?」
「そういう意味ではない」
アロマポットを包みに戻し、オレは首を傾げるの頭をもう一度撫でた。
「柳?」
「そろそろ皆も戻ってくるだろう。ミカンでも食べて待っていればいい」
「うん。……うん?」
不思議そうにしているだが、オレはだんまりを決め込むことにした。
そして翌日。
「くんくん。くんくん」
「……なんだブン太」
練習前のミーティングが終了した直後、ブン太が鼻をならしながらオレに近づいてきた。
「あいにく食べ物は持ち合わせていないが」
「そうじゃなくて。なーんか柳、いつもと匂い違くね?」
「そうか?」
「くんくん」
しつこく鼻を近づけてオレのまわりをぐるぐる回るブン太をラケットで追いやる。
ブン太はそれでもしばらくオレのまわりを嗅ぎまわっていたが、やがて腕を組み首を傾げながらコートへと去っていった。
「なんだ〜? さっきもどっかで嗅いだよーな気がすんだけどなぁ」
「あのな、犬じゃあるまいし匂いにそこまでこだわるなよブン太……」
オレもお前と同意見だな、ジャッカル。
ところが、その二人と入れ違いにオレの元にやってくるのは幸村だ。
……やはり来たか。
にこにこと上辺だけは人畜無害な笑顔を浮かべて、幸村はオレの目の前に立ち、そしてブン太の真似をしているつもりなのかオレの首元に鼻をちかづけて一度深呼吸をした。
「……なるほどね」
体を離したときに浮かべていたのは、好戦的な笑み。
「宣戦布告と受け取ってもいいのかな?」
「チームメイトと諍いを起こすつもりはないが」
「ふふふ、柳らしいね」
そしてちらりと視線を動かす。
オレもそちらを向けば、弦一郎と柳生に部誌を示しながら何か話しかけているの姿が。
「まぁプレゼント交換を提案したのはオレだし、さんもアレを気に入ってるみたいだから今回はおとなしくしておくよ」
「幸村は本当にに甘いな」
「柳もね?」
ふふふ、といつものように小さく笑いながら、幸村もコートへと去っていく。
匂いに敏感なブン太だからこそ気づいたようなものだろう。
そして、に執着している幸村だからこそ気づいたのだろう。
小さな小さな優越感を噛み締めながら、オレもコートの中に入る。
知っているか? 。
サンダルウッドの和名が、白檀だということを。
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