オレが部屋に足を踏み入れると、机の前でがひとりぽつんと立っていた。
赤也やジャッカルに荒らされるよりはいいのだが……年頃の娘が男の部屋に立ち入るなど、たるんどる。
「」
オレが声をかけると、はゆっくりと振り向いた。
しかし、その眉間には小さくシワが寄っていた。
「真田……隠す気あった?」
「部屋中荒らされるのを防いだまでだ」
はオレが机の上に置いたプレゼントを指差し、納得いかないというふうに頬を膨らませた。
クリスマスプレゼント 〜真田編〜
「もう、プレゼントを探し出すって楽しみが無くなっちゃった」
「それは悪かった。しかし見つけたのだからもういいだろう。早く出ていかんか」
「む」
机の上のプレゼントの包みをに手渡し、部屋を出るよう促せば、の頬がさらに膨らむ。
「そういう顔はするものじゃない」
「だって」
「だって、という口答えは感心せんな」
「真田は何しに来たの?」
口答えを許さずにいると、は不貞腐れたように質問に切り替えた。
「……、オレはここでお前と問答するつもりはない」
「この部屋に他の人が隠したプレゼントがあるの?」
普段は素直なくせに、こうなると強情なヤツだ、は。
仕方なく質問に答えてやる。
「それはないだろう。誰もこの部屋に踏み入らぬよう、皆がプレゼントを隠している間、オレはここにいたからな。それに、オレの分のプレゼントはもう見つけてある」
オレは手に持っていた白い包みを持ち上げて見せる。金の箔押しでベルが描かれた、クリスマスらしい包装紙だ。
ところがそれを見た瞬間、不機嫌そうだったの表情が一瞬にして笑顔に変わる。
「あ! それ、私が用意したプレゼントだよ」
「そうなのか?」
「うん。なんだ、真田と二人でプレゼント交換しちゃったね」
あははと笑うは、もういつものに戻っていた。
今年一年、この笑顔にどれだけ救われてきたか。どれだけ力づけられてきたか。
らしくもなく一瞬見惚れてしまい、オレは自分自身に「たるんどる!」と内心激を飛ばす。
「う、うむ。そのようだ」
「うん。……あれ? でもじゃあ、なんで真田ここに来たの? プレゼント見つけた人はコタツの部屋に戻るんでしょ?」
「言っただろう。部屋を荒らされるのを防ぐためだ。このあと、赤也やジャッカルが来んとも限らんからな」
「あ、そっか」
はぽんっと手を打った。
「わかったらはそれを持って先に」
「ねぇねぇ、これ開けてもいい?」
……人の話を聞かんか……。
のれんに腕押しというか。幸村以上にはわが道を行くタイプだ。
いちいち咎めてもいられんし(咎めたら咎めたで幸村がやかましいし)、オレはため息まじりに頷いた。
「構わん」
「やった!」
何がそんなに嬉しいのか。
にこにこしながら、はオレが用意したプレゼントの包みを解いていく。
そして、中から出てきたものを両手で包み上げる。
「わぁ……絆創膏ケース? 和紙で出来てるの?」
「うむ。母がよく行く和雑貨の店で購入してきた」
「すっごく可愛い! 真田っぽくない!」
「…………」
悪意なく暴言を吐くところは、幸村の影響か?
「練習中、怪我をするものが多いからな」
ふう、と再びため息をつけば、はいつものように首を傾げるクセを見せる。
「なんだ?」
「真田ってさ、なんだかんだってやっぱり立海のお父さんだよね」
「なに?」
「みんなに厳しいこと言って疎まれてもさ、結局みんなのこと考えて心配してるんだもん」
ね、と微笑むを直視できずに視線を逸らす。
ときどき、こういうことを言うのだ、は。
そしてそれを言われたときに感じる「コレ」が、オレにはどうも落ち着かない。
「そ、そうか」
「うん」
「……これも、開けてもよいか?」
どうしていいかわからず、オレはのプレゼントを持ち上げる。
するとは目をきらきらと輝かせて、
「うん、開けて開けて!」
「そうか?」
嬉しそうに促すものだから、オレは乱雑に包みを解いた。
中から出てきたのは、綺麗なグレーの手袋だった。
既製品にしては、網目が多少不揃いなようだが……。
それに。
「小さいな」
「え!? 嘘!」
片方を取り上げて、左手にはめてみせる。
「あ」
親指の付け根下あたりで止まった手袋を、ぽかんと口を開けて呆気にとられたように見つめる。
「えぇ〜……ちゃんと大きめに作ったのに。真田の手っておっきぃね」
はオレの手から手袋を抜き取り、びよんびよんと伸ばす。
今、作ったのに、と言ったか。
ということは、やはりこれはの手編みか?
「」
「真田っ」
オレが尋ねるより早く、がオレを見上げる。
勢いに押されて、一歩後退りしてしまったオレ。……我ながらたるんどる。
「ね、これ作り直すから。真田の手のサイズ測らせて?」
「む……いいのか?」
「いいもなにも、これじゃ使えないじゃない」
確かにそうなのだが。
しかし……しかし、だ。
「あー、」
「なに?」
「その、お前がてあっ、手編みでこれを作ってくれるのはありがたいが、あー、こういうのはその」
「こういうのは、その?」
「その、どうなんだ?」
「なにが?」
…………。
女子が手編みのものをプレゼントするというのは、思いを寄せる者にのみすることではないのか?
プレゼント交換でランダムに渡ったとはいえ、オレが受け取ってもいいのか?
他に、渡したい者がいたのではないのか?
幸村や、蓮二や、他校の者でもオレ以上にお前と親しいものは多いだろうに。
言葉にできずにいると、は首を反対方向に傾げた。
そして、いつものようにのほほんとした笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ?」
「っ!?」
「ちゃーんと年内に作り上げるから!」
「…………そうか」
どうやらに至っては、そのような心配は必要ないらしい……。
「ほら真田、手ぇ出して」
「む? うむ」
軽く脱力したオレの手を持ち上げる。それを手伝うように、オレは左手を軽く開く。
はそのオレの手に、自分の手をぺた、とくっつけた。
「あー……そっか、こんなに違うんだ。真田の手って、関節一つ分よりもっとおっきぃんだね」
「そうだな。お前の手は小さいな」
女子の手とはこんなに小さいものか。
指を曲げれば、掴めてしまいそうだ。
「それに、随分と冷えている」
「私冷え性だからね」
他愛なく会話をかわしつつ、はしげしげと合わせた手を見つめていた。
「……」
自分でもわからないが、オレはの名を呼んだ。
「なに?」
見上げるの瞳が、綺麗だと思った。
が。
「さーなーだー」
「!!!」
入り口から聞こえてきた楽しげな声に、思わず全身が震える。
い、今の声は、まぎれもなくッ……!?
ゆっくりと振り向いた先には。
「ゆ、ゆ、ゆ、幸村、これは、だな」
「遅いなぁって思ったら。さんを部屋に連れ込んで、何してるのかな、真田!」
「あ、ごめんね遅くなって」
っ! 何を見てそのようないつものテンションで返事ができるのだっ!?
入り口付近を覆いつくさんばかりにどす黒いオーラを放出している、悪魔の笑顔を浮かべた幸村。
その隣には、表情を崩さずにいる蓮二もいるが……目を開いてオレを見るな!
「、ここにいては体を冷やす。コタツの部屋へ戻ってこい」
「あ、うん」
蓮二がを手招きし、その背中を押して部屋の外へと連れ出していく。
その向こうでは、十字を切ってるジャッカルや、手を合わせてる柳生や赤也、幸村のオーラに青ざめているブン太に仁王に……
って、待たんかお前たちっ!!
「ゆ、ゆきむ」
「オレも真田にクリスマスプレゼントを個人的にあげたくなっちゃったな。勿論! 受け取ってくれるよね?」
「ま、待てっ! 誤解だ、オレはなにも」
「さーなーだー」
「!!!」
……その夜、数年ぶりに近所から騒音迷惑だと苦情が来たと、後日母から聞いた。
身動きが取れるようになってから近所に謝罪に出向いたオレの手には、しっくりとなじむサイズに編み直された手袋がはめられていた。
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