「よっしゃ、見つけたぜ!」
隣の部屋の本棚の中に埋もれていた、クリスマスカラーの包装紙に包まれたプレゼントを抜き取る。
急いでコタツの部屋に戻れば、まだ誰も戻って来ていなかった。
「よーっし、最速記録!」
「残念でしたっ。私のほうが先だもーん」
「へ?」
ガッツポーズをした瞬間に聞こえてきたのは先輩の声。
振り向けば、続き部屋の床の間からひょこっと顔を出している先輩がいた。
「何言ってんスか! 見つけてここに戻って来て初めてゴールっスよ!」
「戻ったよ? コタツの上のプレゼント、私が見つけたやつだもん」
先輩が指差すコタツの上には、確かに見覚えある包みが置いてあるけど……って。
「これオレが隠したプレゼントだ! くっそ〜、ゼッテー見つからねぇと思ったのに」
「切原さぁ、神棚にプレゼント隠したなんて真田に知れたら、鉄拳じゃ済まなかったかもよ?」
「うっ……そっスね……。でもなんで先輩は神棚なんて見たんスか?」
「え? クリスマスだから一応神様拝んどこうと思って」
「それ神様違いッスよ!!」
相変わらず天然なのに結果オーライな人だよな、この人って……。
クリスマスプレゼント 〜切原編〜
奥のほうから真田副部長の怒号や幸村部長の笑い声が聞こえてくる中、オレと先輩は向かい合うようにコタツにもぐった。
「あれ? 切原それ、本棚で見つけた?」
「そっスよ? あ、もしかして先輩が隠したプレゼントッスか?
「うん」
オレの手元を見つめながら頷く先輩。
女子が選んだプレゼントってことは、編にファンシーな雑貨とかか? だったらいらねーんだけどなぁ……。
……まぁ、真田副部長のプレゼントよりは絶対にマシだろうけど。
2センチくらいの厚みの、CDくらいの大きさの包み。
あー、先輩だったら小説ってのもありえるな……いらねー……。
「これ、一体なんなんスか?」
「商店街の福引で当たったDSソフト」
「えっ、DSの!? マジっスか!? やった!」
なんだよ早く言ってくれよ!
つーかゲームソフト包んでくるやつなんてゼッテーいねぇと思ってたし!
「開けてもいいっスか?」
「うん、どうぞ」
いつもののほほん笑顔を浮かべながら、先輩は頷いた。
オレはシールもかまわずべりべりと包装紙を破いて中身を取り出す。
そして出てきたのは。
「…………」
「切原ってホントゲーム好きなんだね」
「いやまぁ好きっスけど……」
一瞬でも喜んで損した。
確かにDSのソフトだし、ゲームだけど。
「100ます計算……ってこれ勉強ソフトじゃないっスか!」
「え? だってこれ今流行ってるんでしょ?」
「オレはゲームで勉強しない主義っス!」
叫んでコタツに突っ伏すオレ。
大体ゲームで勉強したがるヤツの気が知れねーっての。
先輩には悪いけど、これはあとで丸井先輩かジャッカル先輩にやっちまおう。あ、柳先輩もこういうの好きかもな。
あー、心底がっかりした。
「切原」
すると、しばらく黙っていた先輩がオレに声をかけてきた。
「なんすか」
「ごめんね? 今度なんか、別のプレゼント用意するね」
「は?」
めずらしく気落ちしたトーンの声に、オレは驚いて顔を上げる。
そこには眉をハの時に曲げた、しょぼんとした先輩の顔が。
「ちょ、先輩」
「切原が喜ぶものかぁ……」
うーんと唸りながら、コタツの布団を肩まで引っ張り上げるその仕草は、とりようによっちゃあいじけてる風にも見えた。
やべ。話題変えたほうがよさそうだ。
「あ、えーっと、……そうだ! 先輩も開けてみてくださいよ! オレの隠したヤツ」
「これ? そっか、そうだね」
コタツの上に乗っかったままだったプレゼント。レンタルビデオ屋の青いビニールにくるまれただけのソレを、先輩は首を傾げながら取り上げた。
そしてがさがさと音を立てながら中身を取り出す。
取り出したものを両手で持って、しばらくじーっと見つめていた先輩。
が。
「あのさぁ切原……」
「なんスか?」
「多分この中でプレステ持ってるのって、切原と丸井くらいだと思うよ?」
「先輩持ってないんスか?」
「持ってないよっ」
落ち込んでたかと思えば、今度は口を尖らせる。ったく女子ってのはすぐに気分変えるよなぁ。
じゃなくて。
まさか先輩が見つけるとは思ってなかったから、こういう反応されても仕方ねーっちゃあ仕方ねぇけど。
オレが隠したのは、散々遊び倒したプレステの格ゲーソフトだ。
「切原、テキトーにプレゼント選んだんでしょ」
「しょうがないっすよ。今月小遣いピンチだったんだし」
「あー、それはわかる。私もプレゼント用意しきれなくてコレにしたんだもん」
「なんだ、オレと同じじゃないスか!」
突っ込めば先輩はいつものようにあははと笑い、
「だよねぇ。幸村の提案がいきなりだったからさ」
「そーっスよ! オレたちは悪くないっス!」
「でもだからって自分で遊べないプレステソフト貰ってもね」
「いやまぁそうなんスけど……。あ、そしたらもう1回プレゼント交換しませんか?」
「もう1回?」
オレは先輩が手にしていた格ゲーソフトを取り上げて、代わりにDS100ます計算ソフトをその手に乗せる。
きょとんとして首を傾げている先輩に、オレは言った。
「オレ、100%このソフト開けませんし。なんならDS本体貸しますから、先輩がやったらどうっスか?」
「えっ、DS貸してくれるの? ホントにいいの!?」
「いーっスよ。年末までなら。明日の練習の時持ってきます」
「ホントに!? ありがと切原! 実はやってみたかったんだ、このゲーム!」
ぱっと顔を輝かせて、嬉しそうに100ます計算ソフトを持ち上げる先輩。
つーか、そんなにやりたいかね? 算数なんて。
先輩、数学嫌いなクセに。
でもまぁ、幸村部長や柳先輩が戻ってくる前にご機嫌回復できてよかった。
直接あの二人の機嫌を損ねるよりも先輩を落ち込ませるほうが、ゼッテーひでぇ目にあわされるに決まってっし!
はぁ、と安堵のため息をつくオレ。
すると先輩が。
「じゃあお礼に格ゲー対戦しよう!」
「…………は?」
なんだそりゃ?
一体どういう流れで『じゃあ』になったんだよ?
ぽかんと口を開けて先輩を見れば、にこにこと嬉しそうな笑顔を浮かべたままオレを見てる。
「DSのお礼だよ。切原、格ゲーの対戦好きだって前に言ってたじゃない」
「はぁ。好きっスけど」
「だから、私が今度対戦してあげる!」
「はぁあ? 先輩じゃ、10秒持たねぇっスよ! 大体、プレステも持ってないのにどこでやるんスか!」
「だから、切原の家で」
…………は?
今度こそ、ほんとに開いた口がしばらく閉じられなかった。
「あ、練習させてね? しばらく練習に通うから、対戦はその後ね」
「ちょっ、通うってなんスか!? オレん家で格ゲー練習する気っスか!?」
「そうだよ?」
つーかこの人、マジわけわかんねぇ……。
どういう思考回路してんだよ……真田副部長以上に謎だぞ……!
……でもなぁ。
反対側に首を傾げながら、楽しそうに微笑む先輩を見てると、断る必要もねーかって思うし。
「いいっスよ。その代わり、オレめちゃくちゃ上手いっスからね。先輩といえど、ゲームじゃ徹底的につぶしますよ?」
「む、負けないよ。ちゃんと練習するもん」
お互い不敵な笑みを浮かべて、ばちばちと火花を散らすオレと先輩。
が、しかしっ!
「へぇ〜。いいなぁ赤也」
「!!!」
背後から聞こえてきた声に、オレは全身が凍りつく!
「さんと一緒に楽しくゲーム? しかも自宅で? 自分の部屋で? 隅におけないなぁ、赤也」
「ゆゆゆゆゆ幸村ぶちょ」
「しかも赤也がコーチをするとはな。ゲームとはいえ、頼もしくなったものだ」
「ややややや柳先輩っ!?」
ぽん、ぽん、と。
両肩に置かれた手の主を振り返ることもできねぇオレ!
一気に流れ出る冷や汗とも脂汗ともわからない汗にまみれながら、真正面の先輩にフォローを懇願する。
なんとかしてくださいよ! 先輩っ!
すると、オレの必死の思いが伝わったのか、先輩はこくんと頷いて。
「うん。神棚のお供えどかして隠してあったときはどうしようかと思ったけど、いいプレゼント貰っちゃった」
「何!? 神棚にゲームソフトを隠していただと!?」
アンタ何言っちゃってんですかーっっ!!??
ここに真田副部長の怒りまで付け加えてどーすんだよ!!
「あ、私ちょっとお手洗い借りるね」
って、このタイミングでどっか行くって、マジでアンタ空気読めねぇだろ!?
オレが必死に目線で訴えてるってのに、いつもののほほん笑顔を浮かべたままさっさと部屋を出て行く先輩……!
残ったのは、立海の三恐っつーか三凶っつーか!!
「さて、詳しく話を聞かせてもらおうか?」
「ふむ。いいデータが取れそうだな」
「赤也ッッ!!!」
「ちょ、ま、ひ、ぎゃあああああああっ!!!」
後日。
オレの部屋からDSとプレステは消えてなくなることとなった。
風の噂では、先輩ん家で楽しそうにプレステに興じている幸村部長がいたとかいなかったとか、DSで計算早解き対決に燃える柳先輩がいたとかいなかったとか。
「おい赤也、集中しろよ。休み明けの英語のテストで70点以上取らなきゃ真田に殴られるんだろ?」
「わかってるっすよ!」
その噂を確かめようにも、ウチのバケモノから派遣されたジャッカル先輩のせいで、練習後はひたっすら英語の勉強をやらされてるから身動き取れねぇし!
「あーっ! もうゼッテー先輩とは関わらねーぞ! ロクなことねぇし!」
「あ、赤也……言いにくいんだけどな……」
「なんスか!」
「柳がお前のかばんに盗聴器をしかけたとかなんとか……の話題はうかつに口にしないほうがいいぞ?」
「それを先に言って下さいよ!!!」
……しばらくオレの絶叫は途絶えそうにないらしい……ありえねぇぇ!!!
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