昼休み終了まであと10分。次の時間は移動教室だから早めに戻らねぇとな。
そう思って足早に廊下を歩いていたら、ボーッと窓の外を見上げて黄昏てる女子が目に付いた。
「ん? 、どうしたんだ?」
声をかけるとはのろのろとこっちを振り向いて、綺麗に整えてある眉を見事にハの字に歪めて。
「ジャッカル〜……」
「な、なんだ? なんか、深刻なことか?」
オレの名前を呼んだあと、がっくりと肩を落として大きくため息をついたは、戸惑うオレに一枚のチラシを差し出してきた。
10.私をバイキングに連れてって
「なんだこりゃ? ケーキバイキング……?」
渡されたチラシは有名ホテルのフェアを載せたもので、右隅のケーキバイキングのところにだけ赤ペンででかでかと印がついていた。
「あのね、今度の日曜、部活休みになったでしょ? だからクラスの友達とケーキバイキング行こうって約束してたの」
「へぇ。いいんじゃないか?」
ホテルのバイキングなんて贅沢だな、と思ったが、よくよく見れば『学生3人グループはお一人様2780円のところを980円でご提供します!』と書かれている。
なるほど、これならオレでも尻込みしないで行けそうな値段だ。
女子は得てして甘いモン好きだしな。
「それがね」
「ダチの都合でも悪くなったか?」
「そうなのー!」
ずばり言い当てたオレに、はまたまた大きくため息をつく。
「もー、すっごくすっごく楽しみにしてたのに、友達二人とも都合悪くなっちゃって。980円であそこのケーキ食べ放題なんて、もうないよこんなチャンス」
「そ、そうか……それは残念だったな」
なるほどな。
あんまり躁鬱の幅がないにしてはめずらしく落ち込んでいると思えば……。
の食欲はブン太属性だったもんな。
オレはにチラシを返す。
ため息をつきながら受け取ったは、未練がましくチラシに視線を落として唸っていた。
と、そこへ。
「水臭ぇじゃん、」
ぽん、と。
の肩になれなれしくまわされた腕。
「ブン太……幸村に見つかったらどうすんだよ」
「おっとそうだった」
いつの間にやって来てたのか、妙に芝居がかった調子での肩を叩いていたブン太が手を離す。
反対の手には、昼休み開始直後に買うのを手伝わされた購買のパン。食い歩きしてんの見つかったら、先生よりも真田がうるせぇぞ……。
はパンに先に目をやってから、ブン太を見上げた。
ブン太はにやりと笑って、が手にしているチラシを指す。
「大事なマネージャーが困ってんのを黙って見過ごすわけにはいかねぇだろぃ?」
「……つまり、ケーキが食いたいってことだな……」
「っつーかもなんでオレを誘わねぇんだよ! メシに関して抜け駆けなしだろ!」
「えーっと、ごめん……?」
さすがのも首を傾げながら疑問系でブン太に謝る……って、謝る必要ねぇし。
ブン太は満面の笑みを浮かべながら腰に手をやり、ぷくーっとガムを膨らませた。
ってちょっと待て! お前、パン食ってんじゃないのか!?
「オレが連れてってやるよ! 暑気払いは食欲からだろぃ?」
「えっ、ホント!? 丸井、一緒に行ってくれるの?」
「あったりめーじゃん。バイキングが1時からだから、集合は30分前でいいよな?」
「うんうん!」
はぱっと表情を明るくさせてぴょこんと飛び上がった。
そしてブン太ももオレを振り向き、ぽぽんと肩を叩いて、
「つーわけで遅れんなよ、ジャッカル!」
「ジャッカルありがと! 楽しみにしてるね!」
「お、おう」
タイミングよくチャイムが鳴り響き、ブン太とは仲良くケーキ談義をしながら去っていく。
……って。
「おいっ! なんでオレが行くこと決定してるんだよ!?」
叫んでも二人が振り返ることはなかった……。
で、日曜まで妙に浮かれた様子で部活をこなすブン太とのせいで、なぜかオレが幸村と柳に詰問されるハメになりつつも(一応ごまかしといたけどよ、ごまかせてる自信はねぇからな!)、ようやく時は流れて約束の日の12時半。
昨日に貰った地図をたよりにホテルにたどりつくと、ブン太とはすでに到着していた。
「あ、ジャッカル! こっちこっち〜」
オレに気づいたがぶんぶんと手を振る。オレも軽く右手を上げて返事する。
制服やジャージ姿じゃないを見るのは初めてだ。白地にマリンカラーのボーダー柄が入ったワンピースを着ている。なんか意外だ。
学校じゃ地味なイメージなのに、私服姿はわりと可愛いんじゃないか?
「時間ぴったりだったね」
「ちょっと乗り継ぎの駅で迷ってな。で、ブン太は何やってんだ?」
「決まってんだろぃ? 狙い定めてんだよ」
オレの方を見向きもしないブン太が見ているのは、手にしたプラシート。
覗きこんでみると、そこには無数のケーキの写真が並んでいた。
「バイキングに出てるケーキの種類だよ。30種類あるんだって! あー全部食べてみたいなぁ」
「ははっ、さすがに全種類食うのは無理だろ? 食いたいヤツ決まってんなら、半分こでもして協力してやろうか?」
獲物を狙うハンターのような真剣な目でメニューを睨みつけてるブン太と違い、きらきらした目で幸せそうにケーキの写真を見てる。
なんかちょっと微笑ましくて、このくらいならと申し出てみたら、はぱっと顔を上げた。
頬を紅潮させて、いつもはたれてる目をまん丸に見開いて。
「ホント!? ジャッカルやさしー! さすが立海の良心っ!」
「そこまで褒めることかよ」
まるで仔犬のように喜んでるを見ながら苦笑する。
ま、無理矢理連行されたことはこの際忘れてやろう。うん。
「よっし、そんじゃあ行くぞ! いざ出陣っ!」
「おー!」
ブン太が拳を振り上げれば、もぴょんと飛び上がって両手を挙げる。
ハイテンションの二人に連れてこられたのは、海が見える広々とした1階のレストランだ。
学生向け料金プランを大々的に告知してたせいか、オレたち以外にも学生とおぼしきグループが複数並んでいる。
入り口前はすでに列が出来てたけど、収容力のあるレストランだったおかげでなんとか入ることが出来た。
「よっしゃ! 無くなる前に確保に行くぜ!」
「おー!」
で、席に案内された途端にブン太は鞄をオレに放り投げ、を連れてばたばたとバイキングゾーンへ突撃していく。
「おいっ! 走るなって! 迷惑だろ……って聞いてねぇな」
大声出しても浮いてしまいそうだから、仕方なくオレはブン太の鞄をソファ席に置いて座り込む。
荷物番をしながらバイキングゾーンを見れば、ブン太とがところせましと並んだケーキを手当たり次第に皿に盛り付けていた。
と。
どすん!
「うおっ!?」
ソファごしに感じた突然の振動に、思わず声をあげちまうオレ。
驚いて振り向けば、オレと似たような年恰好の男が真後ろの席に深く座り込んでいた。
なんだよ、座るときはもう少し静かに座れよな……。
すると、オレの声に気づいたのかソイツもこっちを振り返る。
が、
「うわっ、ガイジンかよ」
目を見開いて腰を浮かしたソイツの第一声が、ソレ。
……まぁオレはこういう外見だし、こういう反応されんのもしょっちゅうではあるけど、だからといって気持ちいいわけがない。
眉間にシワが寄ってくのを感じながら、オレは諦めのため息をついた。
ところが。
「おい荒井っ、あんま失礼なこと言うんじゃねーって」
ソイツの対面に座っていたつんつん頭のヤツが、オレの代わりにソイツをたしなめてくれた。
つり目な割りに人懐こそうなさっぱりした顔立ち。
そのつんつん頭はぽかんとしてるオレにぺこっと頭を下げて、
「すんません」
「あ、いや、別に……」
にかっと明るく笑うから、なんかつられた。
「す、すんません」
「ああ、気にすんなよ。慣れてるから」
慌てた様子でロン毛のソイツも頭を下げるから、気にしないことにした。手を振って返事して、オレは自分のテーブルに向き直る。
「(あービビッた。こんな至近距離でガイジン見たの初めてだぜ)」
「(だーかーらー荒井っ。そういうこと言うなって。聞こえるだろ?)」
「(だ、だってよ桃っ。お前だって目の前にスキンヘッドのガイジンいたらビビるだろ!?)」
ひそひそひそ。
あのな、聞こえてんだよ……。
オレは聞こえないように大きくため息をつく。
とはいえ、さすがに至近距離のスキンヘッドは心臓に悪かったかもな。
真後ろのヤツらにはもう嫌な感じはしなかったし、逆にビビッたロン毛の顔を思い出して笑いがこみ上げてきた。
そこへ、ようやくブン太が戻ってくる。
「なーに思い出し笑いしてんだよジャッカル。気持ち悪ぃぞ」
「いや、ちょっとな……ってオイっ!!」
別に話すことでもないと思いさらりと流そうとしたオレの目が、今確実に30センチは飛び出たと思う!!
「ぶ、ブン太っ! お前どんだけ持ってきてんだよっ!?」
「どんだけって、こんだけ」
こんだけって……。
ブン太はケーキをてんこもりにした皿を5枚、本職のウエイターも真っ青なくらいの見事なバランス感覚で運んできていた。
で、その皿全てにケーキが8ピース、デコレーションケーキのように盛られている……。
唖然とするオレの目の前に皿を並べ終え、ブン太は両手にフォークを持って席についた。
いや両手にって、意味わかんねぇし。
「あ、これもしかしてオレの分も……」
「あるわけねぇじゃん! これは全部オレの!」
「……だよな」
いや、久しぶりに目の当たりにしたからビビったけどよ、ブン太ならこんくらい食うよな。
他の客もここのテーブルに所狭しと並んだ8枚の皿をじろじろ見ながら通り過ぎてくけど。
……ん?
「あれ、1,2,3……」
もう一度皿の枚数を数えなおす。
やっぱり8枚。しかも乗ってるケーキの数は同じく8ピース。
「って、おいっ!? もこんなに食うのか!?」
今度こそオレはのけぞったぞ!
気づけばナチュラルにブン太の横に座ってオレンジタルトを半分に切り始めている。
5枚がブン太の皿だから、残り3枚はが持ってきたってことだよな!?
「食べるよ? だってせっかく来たんだし」
「お、お前のブン太属性は食欲だけじゃなくて量もだったのか!」
「まさか。こっちのお皿はジャッカルの分も入ってるってば」
「へ?」
きょとんとするオレに、は縦半分に切り分けたオレンジタルトを小さな取り皿に乗せて差し出した。
ついでにフォークとナイフもオレに手渡してくれるは、ニコニコと嬉しそうに笑いながら首を傾げて、
「こっちのはジャッカルと半分こ! 荷物番ありがとね」
「お、お前ってヤツは……なんていいヤツなんだ!」
日頃真田や赤也やブン太に理不尽な扱いをされてるオレの心に、の当たり前の親切が染み渡るぜ……!!
オレは感動のあまり目頭が熱くなるのを感じながら、甘酸っぱいオレンジタルトを頬張るのだった。
一口食べるたびに「おいしー!」だの「甘ーい!」だの「幸せ〜」だの発するに、ちゃんと味わって食ってるのかわからない勢いでケーキを胃の中に収納していくブン太。
しばらくオレたちはロクに会話もせずにケーキを堪能した。
で、テーブルに並んだケーキの3分の2がなくなった頃、フォークについていた生クリームをぺろりと舐め取ったブン太が口を開いた。
「そういやってさ」
「なに?」
視線は目の前の白桃ムースに注いだまま返事をする。
「なんでジャッカルだけ名前で呼んでんだよ?」
「え、そんなこと」
ないよ、と続けるつもりだったのか。
ムースに刺そうとしていたスプーンを刺す手前でぴたりと止めて。
ゆっくりを顔を上げたは、オレとブン太を交互に見た後首を傾げた。
「……あるね?」
「だろぃ?」
「あれ、なんでだろ? っていうか、ジャッカルってフルネームなんだっけ?」
「おいっ! 桑原だ桑原! ジャッカル桑原っ!」
なんか今の、すげーショックだったぞ……。
思わず勢い込んでつっこんでしまったけど、の反応は鈍い。
「あんまり聞き覚えないなぁ」
「おい……」
「初対面のときから、みんなジャッカルーって呼んでたからかな? だから私もジャッカルって呼んでるのかも」
「柳生はジャッカルのこと桑原くんって呼んでんじゃん」
「あ、ホントだ」
なんでだろうね、と反対方向に首を傾げる。
そしてそのまま視線だけオレに向けて、
「桑原って呼んだ方がいいの?」
「いや、今さらだろ? ほとんどのヤツがジャッカルって呼んでんだし、気にすんな」
「うん」
ホッとした様子で、はこくんと頷いた。そして心置きなくムースを頬張り始める。
「でもブン太、そんなこと聞いてどうすんだよ?」
「なんかさ、最近幸村くんがジャッカル見ては『ジャッカルだけさんに名前呼びされてるんだよね……ふふふ』ってよく笑ってたから」
「ちょ、おいっ!! っ! 今日からブン太もブン太って呼べ! 赤也も名前で呼ぶことにしろ!」
冗談じゃねぇよ! そういうことは早く言えよな、ブン太!!
一人で幸村の理不尽な仕打ちくらってたまるか!
オレは「えー」と困った顔しているを必死で説得しにかかったのだった!
「はー……結構食ったな……」
オレは苦しくなってきた腹に手をやる。
バイキングを開始してからもうすぐ1時間。時間制限は90分だから、あと30分ここにいてもいいことになってるけど、さすがに……。
……いや。
「これで全メニュー制覇したね、ジャッカル!」
「ああ、そうだな……。ていうか、お前そんな細い体のどこに食い物詰め込んでんだよ……?」
そう。
オレの目の前で幸せそうに笑ってるは、結局30種類のケーキを全て食べちまったんだ。
勿論オレと半分こしたわけだから、量としては半分なんだが、それでも15個分食ったんだぞ?
ちなみに、オレは半分にしたケーキを10個食った時点で戦線離脱。食べきれずに手付かずのケーキは、オレの目の前の皿にホール状に並べられている。
あれか。
よく女子が言う、甘いものは別腹ってヤツか?
「ジャッカル、それ食べないの?」
「ああ、ちょっと無理だ」
「そっかぁ」
「……食いたいなら食っていいぞ?」
「やった!」
訴えかけるような視線に答えてやったら、はぱっと表情を輝かせて、自分の目の前のカラの皿とオレの目の前のてんこ盛りの皿を交換した。
つーか、食うのか……。
「ホントよく食うよな? ま、夏ばてしたまま食欲失くすよりはいいけどな。なっ、ブン太。……おい、ブン太?」
呆れを通り越して微笑ましく感じてしまったオレは、同意を求めてブン太に声をかける。
が、ブン太は無反応。
なんだ? と思ってブン太を見てみれば、すんげぇ目をしてオレを睨んでるし。
「な、なんだよ?」
「やるじゃねーか……」
「は? なにがだ?」
意味わかんねぇし。
と思ってたら、ケーキを頬張ってもぐもぐと口を動かしていたがオレを指差した。
「なんだよまで」
「ううん、ジャッカルじゃなくて。後ろ後ろ」
「後ろ?」
ブン太のヤツ、オレじゃなくて何を睨んでんだ?
そう思って、が指差した後ろを振り向けば……。
「うおっ!? な、なんだぁ!?」
その光景に、オレはぎょっとした。
後ろといえば、ここに来たばかりでガイジン呼ばわりしてくれたあのロン毛がいるグループが座ってる席だ。
オレがぎょっとしたのは、そのテーブルに重ねられた皿の枚数だ。
軽く15皿は越えてんじゃねぇか!?
「おいおい桃っ、まだ食うのかよ!?」
「つーかお前、さっきからどこ見てんだよ!」
さっきのロン毛の男と、猫毛の男が呆れた口調で話しかけているのは、さっきオレに愛想のいい笑顔を見せたあのつんつん頭だ。
最後の一切れがささったフォークを口に運んだあと、その、桃とかって言われてるつんつん頭が挑戦的な笑みを浮かべてオレを見る。
いや、見てるのはブン太だ。
「さっきから見てたけど、結構食うな? 30個は食ってんじゃねぇの?」
「たりめーだろぃ。そういうお前も、まだ余裕ありそうだな?」
ソファを二つ挟んで、なぜか含んだ笑みを浮かべて火花を散らすブン太とつんつん頭。
って、おい。
なにライバル意識燃やしてんだよ!
ブン太はゆっくりと立ち上がり、いつものピースサインを額に押し当てる。
「オレは立海大付属中の丸井ブン太、2年。シクヨロ」
ブン太の挨拶につんつん頭も立ち上がり、ぺこっと一礼するもののニヤリと不敵な笑みを浮かべて。
「年上だったんスか。オレは青学1年の桃城武っす」
「青学?」
聞き覚えがあるのか、が首を傾げた。
青学ならオレだって知ってる。テニス部以外は知らねぇけど、青学といえばあの手塚のいる学校だしな。
が、そんなこと思い出している間に、ブン太は勝手に話を進めていく。
「1年のくせにいい目してんじゃん。いっちょ、オレ様の天才的胃袋に挑戦してみるか?」
「挑まれたからには後にひけねーな、ひけねーよ! やってやるぜ!」
「「「おいおいおい!!!」」」
オレと桃城の連れ二人が同時に突っ込む!
なんでいきなり対決モードになってんだよ!?
「よしっ! じゃあ今から残り30分、8ピース盛りの皿を何枚重ねられるか勝負だぜ!」
「望むところッスよ! つーか、丸井サンたちの食べるケーキも食い尽くすつもりッスから!」
「へっ、こっちだってここのコーヒー飲みつくして食い辛くさせてやるぜ! ジャッカルが!」
「おいっ、オレかよ!? ってブン太っ、話聞け! ケーキ取りに行くなぁぁ!!」
「女子のいるチームになんか負けてらんねーな、負けてらんねーよ! いくぜ荒井っ、林っ!」
「いつから団体戦になったんだよ!?」
一足先に飛び出したブン太を追って、桃城も足早にバイキングゾーンへと駆け出していき、荒井と林と呼ばれた二人も慌てた様子でその後を追う。
なんなんだ、このいきなりの展開は……。
つーかもう満腹だって。これから大食い勝負なんて、マジかよ?
「好きにしろよ、ったく……。追加料金払うわけでもねぇしな」
こっちは好物のコーヒーすら流し込む隙間がないってのに。
オレはソファに深く腰掛けて、背もたれにぐったりともたれた。
「ねぇねぇ、ジャッカルっ」
「ん? なんだ?」
そのオレに、変わらずのんきな顔したが。
「ケーキ食べないならパスタとかパンとかヨーグルト持ってこようか?」
「…………食いたいもの、食ってていいぞ」
人種が違うんだ。
ほら、オレってモンゴリアンじゃねぇし。
バイキングゾーンで手当たり次第にケーキを持っているブン太のところへてけてけと歩いていくの背中を見送りながら、オレはそう結論付けて自分を納得させるのだった。
翌日。
「あれ? ジャッカル休み?」
「なんか腹壊したんだってよ。軟弱だよなぁ」
「ふーん? ジャッカルって確か昨日、さんとケーキバイキング行ったんだよね? これはおしおきが必要かなぁ。ふふふ」
「ジャッカル先輩、四つの肺じゃなくて四つの胃を持つべきだったッスよね……」
「……と、赤也は言う。ふむ、確かにな」
Back