「……お前、何してんの?」

 寝巻き代わりのジャージ姿のシンは、リビングに入ってくるなり寝ぼけた目をまん丸に見開いた。


 63.カカオ98%


「なにって」
「……まさかチョコ作ってるとか言わねぇよな?」
「言う」
「…………マジか」

 草木も眠る丑三つ時……かどうか知らないけど、現在午前2時。
 水を飲みに降りてきたと思われるシンは、台所に立つ私を見つめて絶句してた。

 日付も変わって2月の14日。今日はバレンタインデーだ。

「お前何食ったんだ。バレンタインっつーのは世の乙女のためのイベントデーだぞ」
「ウルサイ。あっち行け」
「……すげぇな勝己……あの凶暴猫をここまで手懐けるとは……」

 相当失礼なことをぶつぶつ言いながら、シンは冷蔵庫からウーロン茶を取り出してラッパ飲み。
 私はシンを振り向きもせずに作業を続ける。

「ま、相手の腹壊さねぇ程度にな」
「さっさと寝ろっ」
「へいへい」

 冷蔵庫にウーロン茶をしまって、ひらひらと手を振りながらシンは2階の自室へと戻ってく。
 なんなんだアイツはっ。人のこと馬鹿にするだけしていって。

 私は最後の包みの口をアルミのリボンで締めて、出来上がったチョコの山を見つめた。

「チョコはこれでよしと。あとは……夜明けまでに出来るかな」

 私は作り上げたチョコの包みを持って、2階へと上がった。



「ふぁああふ……」
「……いい加減目を覚ませ」

 家から学校までの短い距離で、一体何度目の欠伸か。
 結局一睡も出来ずに登校するはめになった私。隣を歩く志波は呆れた表情で私を見下ろしていた。
 配り終わったらさっさと眠りに行こう……。

「夜更かしか?」
「夜更かしというより徹夜」
「……は?」
「ほら今日バレンタインじゃん……あふ」

 目をこする間もなく漏れる欠伸。
 志波は怪訝そうな顔をした。

「バレンタインって……まさかチョコ作ってたとか言わねぇよな?」
「言う」
「…………マジか」
「シンと同じ反応されるとすっごいムカツクんだけど……」

 志波は目を丸くして絶句してた。こんなとこまでシンと一緒の反応だ。
 寝不足で過敏になってる私の神経逆なですんなっ。

「……いや、悪い。意外だったから」
「志波にはやんない」
「機嫌直せ。……『には』?」
「うん」
「……他に誰にやるつもりなんだ?」

 今度は志波がむっとする。
 私はべっと舌を出して答えてやった。


「ウルサイっ」
「おい」
「ふんだ」
「やや、朝からラブラブですね?」

 軽くケンカ状態に突入しかけた私と志波の背後から、ノーテンキな声が響く。
 こういう精神状態の時ほど癇に障るこの声は、言わずと知れた若先生だ。

「おはようございます」
「はい、志波くんおはよう。さんもおはよう」
「おはよ若先生。水樹は一緒じゃないの?」
「残念ながら先生と水樹さんの通学路は全く重ならないんです。先生、志波くんがうらやましいです」
「はぁ……」

 志波は返答に困ったようで眉間に皺を寄せながら首を傾げる。

 でもちょうどよかった。

「若先生、これあげる」
「やや、なんでしょう? ……もしかして、チョコレートですか?」
「うん」

 私は鞄の他に用意してあった紙袋から小さな包みを取り出した。
 透明なビニールのラッピング袋に入った一口サイズのチョコクッキー。

「5個入り100円」
「金を取るな」
「冗談に決まってんじゃんっ!」
「やー……先生、さんからチョコもらえるとは思ってませんでした」

 若先生は律儀に両手で受け取って、手の中の包みをしげしげと見つめてたけど。
 ぱっと優しい笑顔を私に返してくれた。

「ありがとう、さん。先生、味わって食べます」
「うん。あとこれも」

 今度は鞄の中から、一枚のカードを取り出して手渡す。
 それを受け取った若先生。志波も興味を引かれたのか一緒になって覗き込んだ。

「これは……屋上の給水塔?」
「写真か?」
「うん。フォトカード」

 昨日……というか今日の朝までかかった葉書サイズのフォトカード。私が徹夜することになった最大の理由がこれだ。
 若先生に渡したカードには、夕陽に照らされた屋上の給水塔が写ってる。
 若先生と志波は意味がわからない、といった顔で私を見てた。

「その」

 説明を求められてもうまくできないんだけど。

「もうすぐ卒業だから。私と親しい人の、共通の場所を写したんだ」
「……先生なら化学室じゃないのか?」
「若先生とは給水塔の上でいろんなこと話たもん」
「うん。そうだね、さん。……先生とっても嬉しいです。ありがとう」

 若先生は言葉通り本当に嬉しそうに、はにかんだ笑顔を浮かべた。
 うぅ、なんか感謝されるのってむずかゆい。

 そうこうしているうちにはね学到着だ。
 若先生は職員玄関、私と志波は正面玄関に向かう。

 で。

「おはようございます! おはようございます!」

 すでに生徒会役員ですらないってのに、氷上は今日も元気に正門前で挨拶運動をしていた。

「氷上って何時に起きてるんだろ」
「案外オレたちと変わらないんじゃないか?」

 あ、そっか。
 一応私と志波も早起き派なんだった。
 ……学校行くのが遅いだけで。

「やぁくん、志波くん。おはようございます!」
「おはよ」
「おはよう」
「今日は二人とも遅刻しなかったね。残り少ない学生生活、規律正しく送らなくてはね!」
「「……」」

 今日は徹夜したからたまたま、とは言えない雰囲気だ。

「でもちょうどいいや。はい、氷上にもこれあげる」
「えっ? ……これはまさか……チョコレートかい?」
「他に何に見える?」
くんが?」

 うあムカツクっ。
 どいつもこいつもなんなんだっ!

 氷上はさっきの若先生よりもぽかんとした顔をして手の中のクッキーを見つめていた。

くんが、僕に?」
「いらないんなら返せっ!」
「い、いらないとは言ってないだろう? ただその、僕はくんに好く思われてないと思ってたから」
「まぁ、あんだけ遅刻取締りの攻防してりゃ、な」
「遅刻取締りは置いといて。氷上も私にチャンスをくれた人だし、感謝の気持ち」
「チャンス??」

 志波と氷上が顔を見合わせる。

 クリスマスの日、私に歌う機会を提供してくれたのは氷上だ。
 あれがなきゃ、今頃どう燻ってたかしれないと思うと感謝の気持ちは強い。

「でもまぁ、思い出はここだけど」

 私は氷上にフォトカードを渡す。
 それは門の閉められたはね学の正門の写真。
 なんだかんだと、結局はここが氷上と私の共通の場所だ。

「へぇ……いつも見ている場所なのに、こんな風に写真になるとまた違った雰囲気に見えるもんなんだな。ありがとう、くん。大事にするよ」
「うん」

 私はひらひらと手を振って玄関の中に入った。

 とそこで角に消えてくゴージャスブロンド発見!

「クリスっ!!」

 周りのみんながぎょっとして振り向くくらいの大声で、私は呼び止めた。
 しばらくして、後ろ向きにクリスが戻ってくる。

「あっれーちゃん。おはよーさん♪ あ、志波クンも一緒やね〜」
「いきなり大声出すな。教室でも会えるだろ……」
「あ、そっか」

 同じクラスなんだった、そういえば。
 呆れた顔して靴を履き替えてる志波の横に、クリスがちょこちょことやってきて、朝から幸せそうな笑顔を振りまく。

「ボクになんか用?」
「うん。クリスには1,2年の頃のも含めて少し多めにしといた」
「わぁ、チョコレートやね! うわー、めっちゃうれしぃ〜♪ 初めてやんな、ちゃんからチョコ貰うの!」

 ほんま幸せ〜♪ と、受け取った包みを持って体を横に倒すクリス。
 どーだ、この無神経な東洋人との差は。

「今までホワイトデーに貰いっぱなしだったし」
「気にせんでもええのに。でもやっぱ嬉しいわ〜。ボクとちゃんの絆のチョコやんな?」
「うん。あとこれ」

 不機嫌、というか憮然、というか。そんな顔して私とクリスを見てる志波を無視して。

 クリスに渡したカードの中身は、お昼寝場所に重宝したあの図書室の一角。
 フォトカードを見たクリスも志波も、きょとんとした。

「これ、図書室のあの場所やんな? ボクが貰ってええのん?」
「うん。ここでクリスにはいろいろ話聞いてもらったし」
「でもこの場所はもともと、志波クンとちゃんのアバンチュールスペースやろ?」
「……なんだそれは」
「いいの。志波には別の」

 そこまで言ってしまって、慌てて口を閉じる。

 でも遅かった。
 志波もクリスも、どこか含んだような笑顔を浮かべて。

「そうなんや〜。ボクの知らん志波クンとの思い出の場所があるやんな? アカ〜ン、めっちゃらぶらぶや〜♪」
「……クッ」
「ううううるさいっ! 志波にはやんないっ!」

 二人を置いて、私は大股で教室へと向かった。ううう。


 3−B教室に入る直前。

「オッス、! めずらしーじゃん、時間前登校なんてよ」
「のしん。おはよ」
「ハリーだっつーの! お前っ、卒業までにゼッテーハリーって呼ばせてみせっからな!」
「いーじゃんもう3年間のしんだったんだから……」

 声をかけてきたかと思えばキレ出すつんつん頭。
 今日も鞄の代わりにギターをかついでの登校だ。

 並んで教室に入れば、はるひと水樹が寄ってきた。

「おはよ、、ハリー! 今日は人多いな!」
「おはようさん、ハリー。受験組もバレンタインは登校してくるんだね」
「……そういうもん?」
「あらぁ、そういうものに決まってるじゃない。一年で一番大事な日って言っても過言じゃないでしょう?」
「ったく、勝手に盛り上がるだけ盛り上がって、甘いモン無理矢理押し付けられる方にもなってみろってんだよ……」

 話題に反応したのか、水島と藤堂もやってきた。
 よし、ちょうどいい。

「えーと、私もみんなにバレンタインの贈り物あるんだけど」

 机に鞄を置いてみんなを振り返れば。

 ……なんなんだ。

 のしんもはるひも水樹も水島も藤堂も。
 つか、私の声が届いた範囲のクラスメイトたちも。
 全員が驚愕の表情をして、絶句してた。

 そして次の瞬間には絶叫。

「クールビューティが!? バレンタイン!?」
「チョコか!? がチョコ渡すってか!?」
「すっげぇぇ! オレ早めに学校来ててよかったぁぁ!!」
「うわー、恋は女を変えるってのは本当だったんだ!」

 こ い つ ら っ 。

 頭来た。
 私はぱぱっと全員にフォトカードを配ってのしんにはチョコも渡したあと、鞄を掴んでもと来た道を戻り始める。

 教室入り口で志波と再会。
 つーか出入り口ふさぐなっ!

「どけっ!」
「……何イラついてんだ、お前」
「ウルサイ! 帰って寝る!」
「は? ……っ、おい!」

 志波の引きとめも完全無視!
 なんなんだっ、人が徹夜してやったことどいつもこいつも馬鹿にしてっ!

 正面玄関は生徒会執行部の遅刻取締りが始まっていたから、私は裏口を出て体育館裏手にまわり、フェンスを乗り越えて学校を脱走した。

 親父が仕事に行ってる時でよかった。
 怒り心頭に憤慨したまま、私は帰宅して不貞寝した。



 眩しい。

 瞼を突き抜けるくらいに強烈な夕陽が顔にかかってるんだ。
 私は暗がりを求めて寝返りを打った。

「まだ寝る気か?」
「ウルサイ」

 呆れたような志波の声にぞんざいに返事して、私は体を丸めた。

 ……。

 ん?

「……志波?」
「ああ」
「……なんで私の部屋にいんの?」
「入ったからだな」
「そんなのわかるっ! そうじゃなくて」

 ごろんと寝返りをうって振り向けば、そこには夕陽に照らされた制服姿の志波がいた。
 夕陽、ってことはまだ4時くらいじゃん。
 授業が終わって部活に顔出してるくらいの時間なのに。

 っていうか鍵はどうした、うちの鍵はっ。

「鍵はシンに借りた。部活はサボった。……まぁ引退してるんだから問題ねぇだろ」
「……」

 私の心を見透かしたかのように志波が答える。

「まだ機嫌悪いのか?」
「……」
「あんまり短気起こすな。……西本も水樹も、気にしてたぞ」
「う」

 人が後悔してることをずけずけと。
 バツが悪くて、私は目だけだして布団にもぐる。

「……だって」
「なんだ」
「…………なんでもない」
「そうか」

 こうやって言葉で追求してこないのって、逆にいたたまれなくなる。
 志波は意地が悪いっ。

 不意に志波が立ち上がる。
 かと思えば、私のベッドに腰掛けて、右手で私の頭を撫でた。
 ……気持ちいい。

「針谷に渡したチョコを天地と西本がつまんでた。うまいって言ってたぞ」
「……そっか」
「水樹はフォトカードをえらく喜んでたな」
「森林公園の噴水の写真あげたんだ。はるひには遊園地の写真。藤堂には応援部の部室。水島には……文化祭のとき、譜面台の並んだステージの写真」
「そうか」
「のしんにはクリスマスパーティのステージの写真と……」
「……2枚やったのか?」
「うん。元春にいちゃんに教えてもらった心霊スポットの写真!」
「……お前」

 一瞬あきれ返った表情を見せた志波だったけど、こらえきれずに噴出した。

「腹痛ぇ……お前、性格悪いにもほどがあるぞ」
「のしん怒ってた?」
「いや、なんの写真かわかってないみたいだったな」
「よっし、来週バラしてやるっ!」

 私は体を起こした。
 まだ志波はくつくつと体を小刻みに揺らしてたけど、私が起きたのを見て、こっちに手を伸ばしてきた。

「……心配させるな」
「ん。……ごめん」

 頬を包む志波の手に触れて目を閉じる。
 あったかくて心地いい。

 そこでふと思い出す。

「志波、今日海野来てた?」
「海野? ……いや、見てない、と思う」
「そっか。海野来なかったんだ」

 私は志波の手を掴んだまま俯いた。

 海野は佐伯との一件以来、すっかり落ち込んでしまってた。
 大学受験組は3学期に入ってからほとんど学校に来てない。海野もその受験組だったから顔をみることが全然できなくて、今の様子を知ることもできない。

 私は床に放り投げてた鞄を引き寄せて、中から2枚のフォトカードを取り出した。

「海野と、佐伯の分。無駄になっちゃったな」
「……羽ヶ崎の灯台か?」
「うん」

 海沿いの道から撮った、灯台と珊瑚礁を収めた海の写真。
 夕焼けと、朝焼けの海。
 あの二人はもうもとに戻れないのかな。

「珊瑚礁のポストに挿しとこうかな。マスターあたり気づいてくれるかも」

 はね学を一足早く卒業してしまった佐伯はもうはね学に来ない。
 でももしかしたら、珊瑚礁には来るかもしれないし。



 カードに視線を落として考えをめぐらせていたら、志波に呼ばれた。
 なに、と返事する前に腰に腕をまわされて引き寄せられる。

「うわ、なに」
「……で?」
「で? って、なに?」
「オレの分」

 ニヤリと笑って見下ろす志波。
 なんだその余裕の表情。おもしろくないっ。

「志波にはやんないって言ったじゃん」
「本当にそうなのか?」
「やんない」
「そうか」

 意地悪してやったら、志波はあっさりと引き下がった。
 それどころか立ち上がって帰ろうとする。

「え、ちょ」
「じゃあ、また来週、な」

 表情を崩さずにそれだけ言って部屋を出て行く志波。

 ……あれは志波の作戦だ。私に追いかけさせようとしてるだけだ。
 誰がその手に乗るかっ。

 とんとん、と階段を降りていく足音が遠ざかる。

 ……。誰が行くかっ。

 やがて、がちゃりとドアが開く音が聞こえてきた。

「え」

 ちょ、本当に帰るの?
 私は慌てて鞄の中身をひっつかんで部屋を飛び出した。

「志波っ」

 階段を駆け下りて、足がもつれて踏み外す!

「うわっ」

 落ちる!
 ……と思った目の前に志波がいた。
 上から降ってくるように激突したってのに、志波はしっかり私を受け止めてびくともしない。

「……階段から落ちて腕骨折でもしたらシャレになんねぇだろ」
「しば」

 呆れたように微笑む志波の足。靴を履いてない。
 あれ、だけど今玄関の音したのに。

 すると志波は、私の頭の中を呼んだかのように、視線で答えを示した。

 半開きになった、リビングのガラス戸。

 ……うあ。

「……性格悪い」
「だな」

 志波は私を抱いたまま肩を震わせて笑った。



「……はばたき市の写真、か?」
「うん」

 場所をリビングのコタツに移して。
 私は定位置の志波の上。ついでに若貴も定位置の私の腰の上。

 志波は私が渡したはばたき市の町並みが写る写真を、少し目を見開いて見つめていた。

「……てっきりグラウンドか部室かと思ったけど」
「うん。私も迷った」

 野球一筋だった志波には野球の写真がふさわしいかな、とも思ったんだけど。

 毎日一緒に過ごした森林公園や、昼寝したりサボったりしてた学校や、ニガコクした遊園地、Wデートした動物園。
 花火大会や、合宿所や、この家も。
 考えてみれば、私は志波とこのはばたき市のいろんなとこを巡ってたって気づいて。
 クリスマスの日に、転げ落ちた崖から撮った、志波からもらったデジカメで初めて撮ったはばたき市の写真。

 これが、一番ふさわしいんじゃないかって思って。

「始まったこの街の写真がいいかなって」
「……ああ」

 志波は小さく微笑んで私の髪を撫でる。
 気持ちよくってくすぐったい。

「志波」
「ん?」
「あ」
「……『あ』?」

 不思議そうに私の言葉を反芻した志波の口に、チョコクッキーを放り込む。

「……甘い」
「間違えてすっごい苦いチョコ買っちゃって。砂糖やらハチミツやら大量投入したらこんなの出来た」
「……よく形になったな……。でも、うまい」
「うん」

 飲み込んだ志波はまた口を開ける。
 その仕草がおかしくて、私は笑いながらまたクッキーを放り込んだ。

 そこへ。

「ただいまー」

 シンが帰ってきたみたいだ。
 なんでかシンは、家に人がいようといまいと玄関入ってくると必ず「ただいまー」って言うんだよね。
 へんなの。

 がちゃりとリビングのドアを開けてシンが入ってくる。
 くるりとこっちを見て、途端にしかめっ面。

「だからお前ら……部屋行け部屋っ! バレンタインくらいオレの目の前でいちゃこくな!」
「……だって」
「気にするな」
「気にしろっつーの! つーか勝己っ! いつ言おうか迷ってたけど今言うぞ! その座椅子はオレの席だっつーの!」
「……だって」
「気にするな」

 一人ぎゃんぎゃん騒いでるシンを無視して。

 私は志波にぎゅぅっと抱きついた。
 志波も、私をぎゅぅっと抱きしめてくれた。

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