私の出走妨害を知った3−Bの炎上ぶりといったらなかった。
フツーお昼って和気藹々だと思うんだけど。
全員がゆらゆらと黒オーラを立ち上らせながら補給部隊の弁当を食べてる光景は、圧巻だった。
……A組とC組の連中、完全ビビってるし。
43、3年目:体育祭 女神争奪編
「午後イチは応援合戦だろ。藤堂とにビシッ! と気合入れてもらったら、全員でポイント稼ぎまくるぞ!」
「「「むぉーっ!!」」」
「応援合戦のあとは男子の1500と女子の800、男女110ハードルに混合リレー、最後は棒倒しや! 午後の割り当て選手、頼んだで!」
「「「むぉーっ!!」」」
「やや、みなさん気合ばっちりです。でも返事は飲み込んでからでいいですよ?」
「「「むぉーっ!!」」」
弁当食べるのにもいちいち気合が入ってる3−Bのメンツ。
今日の弁当は水樹と水島が中心となった補給部隊お手製3種弁当。トラック競技者用、応援合戦参加者用、棒倒し参加者用に分かれてて、それぞれの競技にふさわしい食材で作られた特製弁当だ。
「水樹と水島が作ったんなら、高く売れそうな気がする」
「だな」
「駄目です! さんは応援合戦もトラック競技も出るんですからしっかり食べてください!」
小野田もそんなマジになって怒んなくても。
私は肩をすくめて、トラック競技者用の青い弁当を食べた。
そこへ。
「さん、小野田ちゃんっ、もしかしたらE組の仕業かもしれないよ!」
校舎の方から、うちのクラスの女子が水樹を先頭に戻ってきた。
興奮の面持ちで私と小野田の名前を呼びつつも、なんでか『復讐代理人』の肩書きを受けた藤堂と志波の方に近寄っていく。
午後に参加競技が残ってる女子はポイントゲッターチームを除けば、ほんの数人だ。
棒倒しは男子全員参加だから弁当を優先的に食べてもらって、すでに競技を終了させた女子が手分けして『・小野田拉致監禁対策本部』を設置して調査にでかけてたんだよね。
ほんと、体育祭に関しては無意味に気合入ってんだ、このクラス。
戻ってきた水樹は鼻息荒く拳を握って。
「手芸部の子に聞いたんだけどね、さんと小野田ちゃんが捕まってた時間帯に玄関付近でE組の男子を見たって言ってるよ」
「私は応援部の子に聞いたよ。応援合戦の最終打ち合わせを部室でしてたら、E組の子に今年の女神のこと聞かれたって」
「有力な情報だな、それは。くん、小野田くん、どうする?」
氷上が報告された内容を手帳に書き写しながら私と小野田を振り返った。
そんなの決まってんじゃん。
「氷上くん、教頭先生には報告しないでください。私たちは妨害に負けずに競技で1位を獲得して目に物見せてやりましょう!」
「教頭に言って体育祭そのもの没収試合にされんのもやだし。優勝して見下してから教頭に言って説教くらわしてやる」
「って、案外粘着質なんだな……」
「佐伯ほどじゃない」
「まぁまぁまぁまぁ」
意味なく火花を散らせる私と佐伯の間に入るのは海野だ。
「まだ確定したわけじゃないんでしょ? さん、応援合戦の時にそれとなくE組見てみたら?」
「そうする。顔確かめて、棒倒しの時に潰してやるっ!」
ぐ、と右拳を固く握る。
棒倒しは体育祭のフィナーレにして花形競技だ。
3年男子全員参加で、3m近い筒の先にさした旗を奪い合う競技。
普段の鬱憤を思う存分に晴らせる下克上スポーツだ、ってシンから聞いた。
「ちゃん、女の子は棒倒しに参加できへんのやで?」
「そこをなんとか」
「さん、男子だけの乱戦競技に参加するのはさすがに危険すぎますよ。先生、許可できません」
「ええ〜、氷上よりは役に立つってば」
「ぐさっ」
「氷上くん、しっかりしてください!」
若先生にお願いしても、首を縦に振ってくれない。
ちぇ。絶好のタコ殴り機会だったのに。
「さん、学校行事でバイオレンスはだめです」
「それ志波に言っといたほうがいいよ、若先生」
仕方なく諦めて、弁当の残りをかっこむ。
先に食べ終わった連中はのしんとはるひを囲むようにして棒倒しの作戦会議を始めていた。
「、そろそろ行くよ」
その輪を外れて、藤堂が私に近寄ってくる。
藤堂は今年も応援部臨時女団長だ。体育祭唯一の楽しみと言ってもいいかもしれない。
「ん。今行く」
「おっ、と藤堂の出陣だな!」
「竜子姉っ、声だしアタシも参加するからな!」
「さんも、今年も綺麗なステップ期待してるから!」
私が立ち上がると、作戦会議中のクラスメイトが私と藤堂を振り返り、口々に声援をかけてくれた。
……午前中は、この声に応えられなかった。
午後は必ずっ。
最後に志波と目があったけど、志波は眉間に皺を寄せてすぐにふいっと視線をそらした。
なんなんだ。
藤堂と一緒に応援部の部室に向かえば、そこには既に男子部員が黒の長ラン姿でスタンバイしていた。
額には揃いの赤いハチマキ。
「押忍っ! 藤堂先輩っ、先輩っ、今年もよろしくお願いします!」
「「「シャーッス!!」」」
「ああ、いい気合してるじゃないか。今年もアンタたち、気ぃ引き締めていくよ!」
「「「しゃあ!!」」」
藤堂の威勢のいい啖呵に声を揃えて応える応援部員。
はは、この男臭さ、割と好きだ。
「先輩っ、お疲れさまです! 聞きましたよ、大変でしたね!」
「天地」
相変わらずちっこくて学ランもサマになってないものの、気合だけは人一倍の天地が寄ってきた。
「応援部をダシにされたなんて心外です! 僕に出来ることあったら何でも言ってくださいね!」
「ん。でも自分の喧嘩は自分で蹴りつけるから」
「うわぁ……やっぱり先輩カッコいいなぁ」
「それよりもう着替えて準備したほうがいいんだっけ?」
「あ、ハイ! あちらの部屋でお願いします!」
天地が指したのは部屋というより物置と言ったほうが近い場所。
まぁチア部は別に部室があるし、男所帯の応援部で着替えられるところったらここしかないし、贅沢も言えないか。
私はボディに着せてあった女神の衣装を外して、その部屋の中に入った。
真っ白な女神の服。これを着て3−Bに祝福をかけるのが今日初めての仕事だ。
見てろ拉致監禁実行犯。
櫓の上から発見したら、祝福かける前に殴りに行ってやるっ!!
『ただいまより、各学年対抗応援合戦及び、羽ヶ崎学園応援部有志による応援を行います。グラウンド中央にご注目ください』
放送局のアナウンスと共に、グラウンドの方から地響きのような歓声が轟いてくる。
あ、なんか去年より気分が高揚してきた気がする。
「入場が始まったね。、準備いいかい」
「ん、おっけ。藤堂の衣装だけ白の長ランなんだね。はるひや水樹じゃないけど、ほんとカッコいいよ」
「3年目の最後の出番だからね。アタシの気合の表れさ。……さぁ、そろそろだね」
櫓の中に座る私を見下ろしてニッと笑ってから、藤堂は額にハチマキを締める。
「藤堂先輩、先輩、今年でご一緒できるのも最後なのが残念ですけど、よろしくお願いします!」
「ああ。応援部の歴史に残るような応援してやるよ」
「ん。私も、できるだけのことする」
すでに目頭が熱くなってるらしい天地が右手を差し出して、その上に私と藤堂も手を乗せる。
ぐっと3人で手のひらを押して無言で気合を注入すれば、いよいよ応援部の入場順がやってきた。
『つづいて羽ヶ崎学園応援部の入場、今年も勇ましい女団長と美しい勝利の女神にご注目ください』
藤堂が応援部の先頭に移動する。。
そして、去年もやった恒例の出陣式!
「いくよ、アンタたち!」
「押忍、団長!」
「声が小さぁい!」
「押忍、団長!」
藤堂が右手を上げる。
「ソーッ、エイ、オス!」
掛け声とともに櫓が持ち上げられ、私も錫杖を構えてまっすぐに前を向いた。
さぁ、入場だ。
わぁぁぁぁ!
選手出走ゲートをくぐり、勇壮に、堂々と、はね学応援部が入場する。
「きゃぁぁ! 藤堂さーんっ!」
「竜子ーっ! 素敵ーっ!」
ははっ、今年も藤堂は女子に大人気だ。
クラス席最前列は携帯構えた女子に陣取られて、男子はほとんどが後ろに追いやられてる。
そして、私が乗った櫓もゲートをくぐってグラウンド内に入る。
おおおおお!
すると、さっきまで藤堂に送られていた黄色い声援とはあきらかに異質のどよめきが起こった。
櫓横の天地がちらっと私を見上げて片目をぱちんとつぶる。
私も志波の真似して口の端だけを上げて返事した。
実は私、金髪ウェービーなウィッグをかぶってる。
ついでに、ブルーのカラコンも目に入ってる。
……というのも、着替えを終えて部室内に戻った私を待っていたのはドレスを作成した手芸部部長と以下数名。
「さん、私たちも今年の体育祭は最後だから、満足のいくものにしたいの。協力してくれる?」
「は?」
「完璧な女神を作って思い出にしたいの!」
といって取り出したのが化粧道具一式とこのウィッグとカラコン。
最初は化粧が嫌で頑として断ってたんだけど、
「こうなったら姫子サマに説得してもらうしか」
「やるやるやるやるやるから呼ぶなっ!!」
聞くもおぞましい名前を出されて、私は即座に降参するはめになって。
でもまあ、短い時間で手早く仕上げられた『理想の女神』像は、藤堂を始め天地ら応援部一同にも絶賛された。
「アンタやっぱ綺麗だよ。いいじゃないか。気合入るね」
「本当です! 先輩、とても素敵ですよ!」
「万歳っ!」
「「「バンザーイッ!!」」」
「だぁぁ、むさいのが揃って暑苦しいっ!」
感涙にむせぶ応援部一同を一喝しつつも。
自分を鏡で確認して、私も驚いた。
見た目はクリスみたいな白人状態なんだもん。
「え? 今年の女神って……クールビューティじゃないの?」
「いや、そうだろ? あれ……だよな?」
「わぁすっごく綺麗……本物の女神みたい」
「黙ってればな」
誰だ、今最後に余計な一言言ったヤツ。
カチンとくる台詞も聞きながら、私を乗せた櫓は各学年のクラス席前をゆっくりと旋回する。
1年、2年の前を通って、3年の席。
次はB組。自クラスだ。
「っ、アンタめっちゃべっぴんさんやで!」
「ほんまやな! ちゃ〜ん、あとでそのカッコで写真撮ろなー?」
はるひとクリスに声をかけられて、ちらりと視線を向ける。
3−Bは全員がクラス席前方に陣取ってた。
すると、はるひが全員を振り向いて、「せーのっ」と掛け声をかける。
「「「Please give us a blessinng,goddess!!」」」
ぷっ……祝福ください、女神さま! だって!
今の今まで女神の風貌を保っていた私もつい噴出した。
若先生だなっ!? 妙な英語仕込んだのっ!
3−Bのみんなは一様に明るい表情で、出走妨害なんて目じゃねぇぜ! って顔して。
いや、あの佐伯と志波までもが一緒になって叫んだのが一番ウケた。
私はニヤリと笑って返事をする。
その間も櫓はどんどん進んで行って。
やがて、E組の前に差し掛かった。
私は極力前を見ながらも、ちらりと視線をE組に向ける。
ほとんどが明るい表情で拍手を送ったり歓声を上げたりしてるのは、他のクラスと一緒。
でも。
……いた!
クラス席の脇で、一番最初に私に話しかけたヤツ!
後のほうにも協力してたやつがいる。全員E組だったんだ。
私は凍てついた視線でソイツらを見下ろした。
すると睨まれたとわかったのか、ソイツら全員ビクッと一瞬すくみあがる。
ところが、一人だけ。
一番最初に私に話しかけてきた方の片割れ、ソイツだけは。
ぽかんとした表情で私を見上げていた。
くそ、後で殴りに行ってやるっ!
腹の中で悪態ついていたら、櫓はグラウンド中央付近に向けて移動を始め、やがて応援部の後の定位置まで来て止まる。
今年も各学年代表有志による応援合戦が始まった。
競技ポイントに関係ないとはいえ、一種のエンターテイメントな要素がある応援合戦は人気があるみたいで、みんな食い入るように見ていた。
去年も櫓の上から見てたけど。
各学年の応援団は有志一同でやってるだけあって、みんな一生懸命できらきらしてた。
えーと、若先生風に言うなら、めいっぱい青春してる、ってカンジで。
そして、はね学応援部の応援の順番がまわってくる。
応援部の応援は伝統の応援をやるから毎年同じではあるんだけど、やっぱり私はこれが一番好きだ。
正統で、なおかつカッコいい。
「ソーッ! エイ、オス!」
声だし、陣太鼓、旗振り。
……やっぱ女神よりコッチ参加してるほうがおもしろかったんじゃないかと思う。ち。
やがて大歓声と共に応援部の応援が終わった。
さぁ、いよいよ出番だ。
藤堂が振り返って櫓に近づいてくる。
それが合図で、櫓がゆっくりと下ろされた。
フルレングスのドレスの裾を踏まないように気をつけながら、藤堂の手を借りて櫓を降りる私。
「アンタの最初の見せ場だよ。全校に見せ付けて、3−Bを祝福してやんな」
「うん」
私の手を引いてた藤堂と一度きつく握手して。
私は錫杖を両手でふりかざした。
途端に沸き起こる祝福コール。
「焼きそばパン、焼きそばパン! 10個出すぞ!」
「こっちはメロンパン15個だぞ!?」
「甘いっ! うちに祝福くれたら夏休みの宿題全部引き受けるぞっ!」
なにっ!?
「こらーっ! 浮気すんなーっ!」
なんとも魅力的な誘いに思わず声のしたほうを振り向いたら、間髪いれずにのしんからどやされた。
うう、宿題肩代わりは魅力……。
とはいえ、ここで3−Bに祝福しなかったら私がタコ殴りだ。
ここは涙を飲んでおくか……ううう宿題肩代わり……。
私は右手で錫杖を回転させながらゆっくりとステップを踏み出した。
両手を伸ばして、時にはくるりと回転して。
ふわりと広がるドレスの裾に、観客からはおおーっと感嘆のため息が漏れる。
そして到着、3−B。
こちらも出迎えるメンツはみんな頬を紅潮させて興奮の面持ちだ。
「っ、待ってたぞっ!」
「早く若サマに祝福かけてっ」
いや、祝福すんのは若先生じゃなくてクラスなんだけど。
口々にかけられる祝福コールに、私はくるくると錫杖を回転させて、去年と同じような要領で若先生の鼻先に、
げしっ!
「だっ!」
「あ、つい」
なんか若先生ののんきな顔見てたら間合いが狂って、思いっきり鼻っ面に錫杖叩きつけちゃった。
いやだって、若先生って叩きやすい顔してるっていうか、叩きたくなる顔してるっていうか。
「ひ、ひどいですさん……つい、って」
「ごめんごめん」
軽く謝れば、拗ねた若先生が水樹に泣きついた。
なんだかんだって水樹に甘える口実にしてんじゃん、若先生。
『今年の勝利の女神の祝福は3年B組に与えられました。これをもちまして、各学年対抗応援合戦と羽ヶ崎学園応援部有志による応援を終了いたします……』
放送局のアナウンスが応援合戦の終了を告げる。
やれやれ、まずはひとつ仕事が終わった。
「んじゃ着替えてくる。次1500だったから時間あるよね」
「あ、待ってさん! その前に写真撮らせてっ」
「そやそや! ちゃん、お着替えちょっと待った! やで」
「うわ」
さっさと体操着に着替えようと思ったら、クリスたちに腕を掴まれてひっぱられる。
そのままクラス席の前列の若先生の隣に座らされて、クラスメイトもそのまわりに集まった。
なんだこれ、集合写真でも撮るつもり?
「どうせなら全員で写ろうぜ! おい、佐伯と志波も見てねぇで入れ!」
「藤堂さんっ、藤堂さんも早く早く!」
のしんが遠巻きにしていた志波と佐伯の腕をひっぱり、ゆっくりと戻ってきた白の長ラン姿の藤堂を海野が呼ぶ。
うわ、整列なんてもんじゃない。おしくらまんじゅう状態だ。
「誰かに撮ってもらお! ……あっ、なぁなぁ写真撮ってくれへん?」
3−Bの前を通りかかった男子をはるひが素早く捕まえて、カメラを押し付ける。
押し付けられた男子はきょとんとしつつ3−Bクラス席を見て、ぎゅうぎゅうに詰め掛けてるクラスメイトの団子を見て目を丸くしながらもカメラを構え、
って。
「……、メインなんだから笑えって」
カメラを構えるソイツに名前を呼ばれて、イラッとした。
私はすっくと立ち上がる。
私を支えにしていた後ろ数名が崩れるけど、そんなことどうでもいい。
すると、ソイツも構えていたカメラを下ろした。
「あっ!」
なんだなんだとざわめくクラス席の中から、小野田が声を出した。
「あなたはさん拉致実行犯!」
「「「えぇっ!?」」」
ぴたりとざわめきが消えて、全員がソイツを見た。
まぎれもなくソイツは、一番最初に私に声をかけてきた二人組みの片割れ。
さっきガン飛ばしてもぽかんとしてただけのヤツだった。
いい度胸だ。自分から殴られにきたかっ!
私はぐきぐきと右拳を鳴らしてソイツの目の前に歩み寄る。
ソイツは、小さく肩をすくめた。
「悪かったって。そんな怒るなよ」
「はぁあ? なんだその態度っ。偉そうにっ」
「だから怒るなって。綺麗なカッコしてんのに台無しだろ」
口の端がひきつる。
なんだコイツ。なんなんだコイツ。
あんだけあくどいことやってて、なんなんだこの上から物言う態度っ!
私の背後からもクラスメイトの無言の非難の気配がびしばししてるってのに。
この無神経っぷり、私の上を行くかも。うわ、上には上がいるもんだ。
「、頼みがあるんだけど」
「はぁぁぁ!? どの面下げて言ってんの!?」
「この面」
おおお。
このふてぶてしい態度に、3−Bからはむしろ驚嘆の声が上がってる。
「すげぇなアイツ……」
「怒りのクールビューティ前にしてあんだけでかい態度とれるなんて」
なんかもう、怒り通り越して呆れるというか。
いやもちろん怒りが収まったわけじゃないんだけど。
「総合得点、今の段階で3−Bと3−Eって同点だろ?」
「妨害工作のお陰でね……」
「うん。午後の競技はE組もポイントゲッター出場する競技ばっかだからいい試合できると思うんだよ」
皮肉すら通用しないよコイツ。
「だからE組とB組で、対決しようぜ。どっちが総合ポイント上回るか」
「上等っ! こっちから勝負申し込んでやるっ!」
私は手にしていた錫杖をソイツの鼻先につきつけた。
こっちだって午後の競技はポイントゲッター揃いだ。めたくそにのしてやるっ!!
と。
ソイツはつきつけた錫杖を片手でのけて。
「E組が勝ったらさ、オレと付き合って」
……ん?
私はあたりをきょろきょろと見る。
なんか今、空耳が聞こえたような。
私はもう一度ソイツに視線を戻した。
ソイツは人畜無害の笑顔を浮かべて。
「オレと」
「「「「「はぁぁぁぁ!?」」」」」
3−Bのクラスは今、ひとつになった!
っていうか、全員の声がマジでハモった!
何言ってんの、何言ってんのコイツ!?
マジで頭おかしいって! わけわかんない!
「さっきの女神姿に惚れた。いや、拉致んのが惚れる前でよかった。後だったらオレ犯罪に走ってたかもしんねー」
あははーと笑うソイツに、背筋が寒くなる。
なんなんだ一体っ!
そこへ。
鳥肌たてる私とソイツの間に割って入ったのは。
「オイ、ふざけんな」
「志波」
大きな体で私を背後に隠すようにして。
見上げたその表情は、久しぶりに見る怒り心頭の形相だった。
「試合も正々堂々とやれねぇヤツが何言ってやがる。しかもテメェが乱暴した女に」
あれは乱暴のうちに入るんだろうか。
とはいえいいぞ志波っ。もっと言え!
「志波じゃん。ふーん、と志波が付き合ってるって噂本当なわけ?」
「……付き合ってるわけじゃない」
「だったらすっこんでろよ。関係ねぇだろ」
うわ、コイツすごい。
志波に喧嘩売ってるよ。ほんと怖いもの知らずだ。
「お前が喧嘩売ったのはB組全体だろ」
「あーそうだった。だったら競技で勝負だな?」
ばちばちばち。
志波とソイツの間に火花が散る。
なんだなんだ。なんかどんどん変な展開になってってるけど。
しかしソイツはすぐに志波から視線を逸らして私の方を見る。
私が志波の背後に隠れるより早く、志波が私を隠してくれた。
見たくない。アイツ、気持ち悪い。
「まぁいいや。じゃあな。今後ともよろしくーっ」
「誰がよろしくするかっ!!!」
見送るのも嫌だ。
志波の背後から抗議の声を出すと、ソイツの足音が遠ざかっていくのが聞こえた。
あああ気持ち悪いっ!
なんなんだ、なんなんだ一体っ!!
「」
志波が振り向いて私を見下ろす。見上げれば、志波は神妙な顔をしていた。
「……絶対負けねぇ。心配すんな」
「マジでマジでマジでよろしく。絶対勝って!」
ぎゅ、と志波に抱きつけば、志波はぽふぽふと私の頭を撫でてくれた。
「つーかマジでありえねぇ。あれあのまま行けばストーカー確定っぽくねぇ?」
「ちょ、ちょっと怖かったね、当事者じゃなくても」
「っていうか、これB組とE組の対決なのか? 志波とアイツの対決じゃなくて?」
「佐伯、そこはつっこむんじゃないよ……」
背後でも3−Bクラスメイトが口々に今の挑戦について話していて。
「アンタ、厄介なんに惚れられたなー……」
はるひが近寄ってきて、私の腕をぽんぽんと叩く。
志波の胸にうずめていた顔を横に向けてはるひを見れば。
「あれ、まさしく類友ってヤツやん」
「誰がだっ!!」
「……だな」
「志波っ、今私とはるひのどっちに同意したっ!」
私の怒りゲージは上がりまくるのみだった。
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