今日の化学は小テストをやるって若先生が言ってたから、私は授業をサボるため4時間目は屋上に行った。
でも今日はすっごく天気がよかったから、ついつい気分よくなってきて歌っちゃったんだよね。大声で。
……ソッコーで教頭が飛んできた。
4.かっちゃん
「さん……先生、もうさんのとばっちりくらうのイヤです……」
「ごめんごめん、若先生。おとなしく昼寝してようと思ったんだけどさ。ついつい」
昼休み早々、私と若先生は一緒に教頭にめちゃくちゃ怒られた。
私が怒られるのは授業サボったから当然としても、なんで若先生まで一緒に怒られるんだろ。
教頭は監督不行き届きだー! なんて叫んでたけど。
「さん、反省してます?」
「うーん、あんまり」
「コラ!」
「若先生に『コラ』って言われても怖くないんだもん」
「そういう問題じゃありません」
あ、めずらしく若先生が先生モードだ。
「じゃあ反省しとく。そんじゃね、若先生」
「午後の授業はちゃんと出てくださいよ〜?」
私は小走りで教室に戻った。
急がなきゃ、お昼を食べる時間がなくなっちゃう。
教室のドアを開けると、全員が一斉に私を見た。
そして一部から拍手喝采。
「やるなー、。氷上にも教頭にも負けてねーじゃん」
「うん。若サマも綺麗な声ですねーなんて言って聞き惚れてたもんね」
「なんつーか、カリスマだよな、」
……私の行動はシン曰く破天荒ならしく(自覚はもちろん無いよ)、一部の生徒からは妙な支持を受けてるんだよね。
うらやましいなら、自分もやればいいのに。
「さん」
クラスメイトを無視して席についてお弁当を出そうとして、隣の海野に呼ばれた。
顔を上げると、海野と一緒に赤毛の男がいた。
「なに?」
「ハリーがお話したいって」
「ハリー? って?」
海野はその赤毛の男をつつく。
「ハリー、この人がさんだよ」
「ふーん」
こいつが、ハリー?
つんつんにセットした髪に、改造制服。背は私とほとんど変わらないか、ちょっと高いくらい。
1−Bの生徒じゃない……な。見たことないし。
「お前さ、4時間目に歌ってたヤツか?」
「そうだけど」
「お前、なんか音楽やってんの?」
質問に肯定すると、ハリーは目を輝かせて寄ってきた。
海野の机から、私の机に移動する。
「別に……」
「マジで!? 悔しいけど、すっげぇうまかったじゃん!」
「……ほんと?」
「オレ様が音楽に関して嘘言うわけねーだろ! 英語の発音も流暢だったしよ、バンド組んでたりすんのかなーって思って」
「バンドは組んでないし、さっきの歌はイタリア語。でも嬉しい。ありがとう!」
歌を褒められると、素直に嬉しくなる。
学校では普段笑うことなんてないけど、私はにこっと笑顔になった。
「あ、さんが笑った」
海野に驚かれるくらい、私は学校では笑わない……らしい。
「ところでアンタ誰?」
「だれって……ハリーだっつっただろ」
「名前。アンタ日本人でしょ? 私は。名乗ったんだから名乗りなよ」
「……」
ハリーはとたんに不機嫌になる。
なんだコイツ。私みたいに気まぐれなヤツ。
「針谷………のしん」
「は?」
「だからぁ! 針谷! ……のしん!!」
「のしん? ふーん、変な名前」
「なんだと!!??」
「ちょ、ハリー、落ち着いて!」
頭から蒸気が出そうなハリーに、海野が慌てて間に入る。
と、その海野の肩越し。
窓の向こう。
あ!
「ごめん、海野、のしん! ちょっとどいて!」
「こらぁ! 誰がのしんだっ!! ハリーって呼べ! ……って、お、おい、っ!?」
『のしん』の訴えは無視!
私は窓に駆け寄って、その姿を確認した。
「やっぱり! 元春にいちゃん!」
「ん? おー! お前、そこのクラスだったのか」
窓の外には、チューリップを大量に持った元春にいちゃんがいた。
私はそのまま、窓から中庭に飛び降りた。
「うおっ!? こら、どっから出てくる」
「元春にいちゃん!」
抱きーっ!!
ざわっ
窓から飛び降りるなり、私は元春にいちゃんに抱きついた。
と同時に、中庭と1−Bがざわつき始める。
……ん?
「あ、あのな。お前、ここ学校だって自覚あるか?」
「当たり前じゃん。学校じゃなかったら来てないよ」
万歳するような姿勢でチューリップを頭の上に避難させてる元春にいちゃん。
その元春にいちゃんに抱きついたまま顔を見上げれば、駄目だコイツ、といわんばかりの呆れ顔。
「く、クールビューティが」
「あのが」
「甘えてる」
「ありえねぇ……」
「お前、学校でクールビューティなんて言われてんの?」
「うん、なんでか。それよりっ、元春にいちゃんは何してるの?」
「ん? 見ての通り、花屋の仕事中。はね学に花を届ける仕事、結構あんだぞ」
「大変そうだね。手伝うよ!」
「あ、あー、そうか……? 別に無理しなくていいんだぞ?」
なぜか元春にいちゃんは歯切れ悪く、私から視線をそらした。
なんだろう。
手伝っちゃだめなのかな。
「真咲、これはどうするんだ」
「げっ、タイミング悪いヤツ……」
元春にいちゃんの真意を探ろうと、じーっとその顔を見上げていたら後ろから声がした。
この声はアイツだ。
朝の森林公園の、はね学ランナー。
「志波?」
「……?」
振り向いた私も、元春にいちゃんに声をかけた志波も、どっちも疑問系でお互いを呼ぶ。
志波は少し驚いた様子でこっちを見てる。
それは私も一緒だ。
……なんで志波が、元春にいちゃんの手伝いしてるの?
すると、さっきまで慌てた様子だった元春にいちゃんが急にいつもの調子に戻ってこんなこと言った。
「なんだ。お前、もうかっちゃん見つけたのか?」
「へ? まだだよ?」
「なっ……!?」
私の返事と志波のうめき声はほぼ同時だった。
振り向くと、志波はさっきよりも一段と驚いた表情で私を見てた。
「へ、おま、だって、かつ……」
「真咲!!」
きょとんとする元春にいちゃんに、いきなり志波が怒鳴りつけた。
む。
「志波っ! 元春にいちゃんをいじめるなっ!」
「っ……」
元春にいちゃんの前に立ちはだかって、志波を睨みつける。
対する志波も、こっちを苦々しく睨みつけて。
「……、か……ちっ」
「『ちっ』ってなんだ!」
「おいおいおいっ、よせって。……つーかお前、女が男にメンチ切るな」
「だって、志波が元春にいちゃんいじめるから」
「いじめてないし、いじめられてねーって。勝己、ここはいいから」
「……ああ」
後ろから元春にいちゃんに肩を抑えられて。
私は志波を睨みつけてたけど、志波はそんな私を無視して手にしたチューリップを地面に置く。
そして額に皺を寄せた顔でもう一度私を見て、そのまま校舎のほうへ歩いていってしまった。
むか。
「、お前、アイツとどこで知り合ったんだ?」
「朝。森林公園に踊りに行ったら、アイツいっつも走ってるよ。それで知り合った。志波勝己って言ったっけ。元春にいちゃんこそ、志波のこと知ってたでしょ」
「あー、んー、まぁな。で、お前……」
呆れたような視線で私を見下ろす元春にいちゃん。
「シンは勝己のこと知ってるのか?」
「さぁ? 同じ一年だし、顔くらいなら知ってるかもしれないけど。友達かどうかまでは知らない」
「はは、そっか。まぁ、同じはね学だからなー……出会って当然か。アイツも今の今までお前に気づいてなかったみたいだしな」
「も?」
「……前言撤回。アイツ『は』だな。お前は、まだ」
「なにが?」
「今にわかる」
元春にいちゃんはわしゃわしゃと私の頭を撫でて、志波が置いていったチューリップを持ち上げた。
「、かっちゃんの手がかりは見つけたか?」
「全然。これからだよ」
「そっか。まぁ……あれだ。あんま夢中になりすぎんなよ?」
「うん……? あ、それより一個持つよ。貸して!」
「いーって。つーか予鈴なってるだろ。お前、授業サボったりしてないだろうな!」
「う」
「……ちゃーん、お返事はー?」
「ううう、教室、戻ります」
「よろしい。……って、窓から戻んな! ったく、お前女の自覚足りなさすぎだぞ」
予鈴が鳴ってから、中庭から正面玄関回ってたら本鈴に間に合わないから仕方ない。
私は教室の中に入って、もう一度元春にいちゃんに手を振った。
元春にいちゃんも手を振って、というかシッシッと追い払うように手を振って、チューリップを抱えたまま中庭の奥へと消えて行った。
クラスメイトがなぜか私に注目する中、私は自分の席に戻った。
あ、お昼ご飯食いっぱぐれた! うああ……。
「お、さん」
おなかをおさえて机に伏したら、海野がためらいがちに声をかけてきた。
「ん? あー、のしんは教室戻ったの?」
「うん……。ねえ、今の人、さんのカレシ??」
少し頬を染めて尋ねてくる海野。
近くのクラスメイトも期待の眼差しでこっちを見てる。
閑人め。
「従兄弟だよ。花屋でバイトしてるんだ」
「なんだ〜」
一斉にため息と共に引いていくクラスメイトたち。
でも。
ふふふ、元春にいちゃんと恋人同士に見えるんだ。少し嬉しかったりして。
……それより。
志波。
無愛想なアイツと、優しくて気ィ遣いの元春にいちゃんの、どこに接点があったんだろ。
志波勝己。勝己……かっちゃん。
ふ。
自分で想像して笑ってしまう。
ありえないから! あんな無愛想で失礼なヤツ!!
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