昨日散々姫子先輩に追いかけられたせいだと思う。
 朝、目が覚めたら時計は8時を指していた。


 39.進路指導


「あー眠い……」

 桜舞い散るはね学校門をくぐり、去年と同じく誰もいなくなったクラス割掲示板の前までたどりついた私。
 今日から3年生だ。
 とりあえず、担任は話のわかるヤツ希望。

「えーと」

 A組から名前を探していく。
 っと。

「……若先生のクラスか」

 3−B 若王子貴文

 後半クラスから前半クラスに逆戻りだ。
 3年目はまた若先生が担任か。
 まぁ1年のんびり過ごせそうかもしれない。

「ふぁ……」

 とにかく眠い。
 他のクラスメイトもろくに確認せずに、私はのたのたと3−B教室まで向かった。

 ガラッ

 開け放った扉の向こうは無人。
 まだ始業式の最中みたいだ。
 あーでもよかった。しばらく昼寝の時間がとれそうだし。

 教卓の上の座席表を確認する。
 私の席は……クラスのど真ん中。うー……席替えするまで教室で昼寝は無理かな。

 とはいえ今は誰もいないことだし。

 私は自分の席に座って、机に伏せるような態勢をとる。
 とりあえず、始業式終わるまでオヤスミナサイ。



「……さーん、さーん、起きてくださーい」
「ウルサイ……まだ眠い……」

 目を閉じたばかりだと言うのに、真上から間延びしたのん気な声が降ってくる。

「起きてくださーい。そろそろ先生HR始めたいです」
「勝手に始めていいよ……」
「そういうわけに行かないです」

 ったくウルサイなあ。
 まだ寝る態勢に入ったばっかだっての、若先生っ。

さーん」
「ああもう、ウルサイっ!!」

 しつっこい若先生にイライラして、私はばっと顔を上げた。

 その瞬間。

 ゴッ!!!

「だっ!」
「わっ!」

 脳天に響く、激しい衝撃。
 若先生の顎に、私の頭が直撃したんだ。
 っていったぁぁぁっ!!!

 私と若先生は頭と顎を押さえて、ぷるぷると震えながら無言で痛みに耐える。
 そして、まわりには爆笑が巻き起こった。

 ……あれ?
 もしかして始業式終わって全員揃ってんの?
 いつの間に寝たんだ私。

「ったく初日から若王子とのコンビはかましてくれるよな! 飛ばしすぎだっつーの!」
「なっつかしいなー、若ちゃんとのこのコント。また1年楽しませてもらえそうやな!」

 のしんとはるひの声。

 私は頭を押さえて涙目になりながら、クラスを振り返った。
 ……って。
 揃いも揃ったりの顔ぶれだ。

 えーと、知ってるだけでまず、のしんとはるひとクリスと水島と、水樹と海野と佐伯と……氷上に小野田に……あ、後に藤堂も座ってる。
 それから志波も。
 シンはどうやら別クラスみたいだ。

さん……始業式早々ヒドイです……」
「寝てるヤツ起こすのにあんだけ顔近づけたらぶつかるってわかるじゃんっ! 若先生のが悪いっ!」

 あと、若先生。
 振り返れば随分と懐かしいカンジのするいじけモードで、すごすごと教卓の方に戻っていくところだった。
 仕方ない、ここはこれでおさめておくか。
 私はガタンと音を立てて椅子に座りなおした。

「……さて、さんも起きてくれたようですし簡単にHRを行います。改めましてみなさんおはよう。今年一年、みなさんの担任を務める若王子貴文です」
「知ってるぞー!」

 クラスの男子から合いの手が飛ぶ。
 なごやかに盛り上がるクラスメイトたち。

 なんか、こんなのほほんとした教室久しぶりだ。

「みなさんは今年3年生です。どんなにあがいても、1年後には新しい道に立って歩き始めなくてはいけません」

 若先生は野次に笑顔で答えながらも、いつもののんきな口調のまま話を続ける。

「進学する人も、就職する人も。自分とよく向き合って進路を決めてください。みなさんには、無限の可能性があるのだから」

 ……そっか。
 3年目だ。
 あと1年もしないで、進路が決まるんだ。

「壁にぶつかってもあきらめないで。先生がこの一年間、君たちを全力でサポートする」

 と。
 若先生はふっといつもののんきな笑顔を浮かべて。

「とはいえ、大事な高校生活3年間締めくくりの1年です。勉強も大事ですが、目一杯青春することも忘れないでください。みんなで青春爆発しようぜ!」
「だああ、これだもんなー若ちゃんは」
「せっかくカッコイーこと言ってたんだから、そのまま締めりゃいーのにさぁ!」

 再び沸くクラス。
 でも、一緒にノることも、ばからしいと流すこともできなかった。

 進路。
 私に、一体どんな道がある?
 無意識のうちに、左手を握っていた。



 その後、進路希望調査票なるプリントが配られた。
 各自記入して、若先生との2者面談をするらしい。
 といっても、いきなり全員と面談する時間があるわけもなく。

「えーと、今日このまま残って面談する人を発表します。男子はウェザーフィールドくん、佐伯くん、志波くん、針谷くん、氷上くん。女子は海野さん、小野田さん、藤堂さん、西本さん、水樹さん、水島さん、それとさんです」

 ぱたんと出席簿を閉じて、若先生はにこっと微笑んだ。

「今呼ばれた人はこのまま残って調査票に記入してください。順番に呼びますから、呼ばれた人は生徒指導室まで来てくださいね。それ以外の人は解散です。では日直さん」
「起立ー、礼っ」
「寄り道しないで帰ってくださいねー」

 のほほんとした若先生の声が響く中、がたがたと帰り支度を始めて教室を出て行くクラスメイトたち。

 進路調査票ったってねぇ……。
 指先でペン回しをしながら、私はいくつかの項目がかかれた用紙を見下ろした。

 そこへ。

「おはよっ、さん。朝森林公園に来なかったから風邪でも引いたかと思っちゃった」
「もしかしてマジ寝坊なん? やっぱは大物やな!」

 ちょこちょことやってきて、私の前と横の席に座ったのは水樹とはるひ。

「ん、マジ寝坊。昨日疲れることがあって」
「そうなん? なぁなぁ、それよりアンタ、今年のクラスは楽しくなると思わん?」
「は?」
「きっとめーっちゃ楽しくなると思うで? 仲良しさんが全員集合〜♪ やもんね」
「クリス」

 きらきらと目を輝かせて私の机に頬杖つくはるひの横に来たのはクリスだ。
 こっちもいつも通りのにこにこ笑顔で「ちゃん、おそよーさん♪」などと言いながら横の席に座る。

「進路も決めなあかん大事な1年やけど、若ちゃんセンセの言うとおり青春も爆発させなアカンね?」
「手始めは体育祭だな! 3年限定のクラス対抗試合! っか〜燃えるぜ!」
「のしんまで……。のしんやはるひは年中無休で青春してるようなもんじゃん」
「ハリーだっつーの! っ、今年こそお前にハリーって呼ばせてみせっからな!」
「わかったわかったのしん。いつか呼ぶってのしん。のしんのしん」
「……上等じゃねーか……」

 けけけ。
 話にのってきたのしんが、顔をひきつらせる。
 その奥で、佐伯がぷっと吹き出すのが見えた。

「佐伯も同じクラスなんだ。水樹と水島と海野と佐伯と……なんかこのクラスっつか、外野がうるさそう」
「だな」

 今度は志波だ。
 ポケットに手をつっこんで、私の背後に立っている。

 えい、抱きつきたい光線。

「……」

 ちぇ、全力阻止視線で返された。

「まぁ騒がしいのも休み時間であって、授業中までとはいかないでしょうから。ここは我慢のしどころですね」
「そうだね。周囲に流されない強い忍耐力を培う、という意味ではいい環境かもしれないな」

 小野田と氷上の優等生発言はおいといて。

「ところで、アンタの進路って決まってんのかい?」

 志波の横から私の手元を覗き込んできたのは藤堂だ。
 私は首を振る。

「藤堂はネイルの勉強続けんの?」
「ああ、卒業したら本腰入れるつもりだよ」
「……みんなは?」

 いつの間にやら囲まれてる私は、まわりを見回した。

「アタシは調理師免許とりたいから、専門学校やな」
「僕は勿論一流大を狙うつもりだ」
「私もです」
「うーん、私はまだ大学か専門学校で迷ってるところ」

 そ、っか。
 それでもみんなは大体進路決めてるんだ。

 私はどうしよう。
 大学狙えるような成績じゃないし、大体大学でやりたいことなんてない。
 だからといって、他にやりたいことがあるわけでもない。

 私がやりたいのは。

 ……本当にやりたいことは……。

「オレ様は音楽活動専念! フリーターしながらライブ活動続けるつもりだ」

 どきん

 のしんの嬉々とした声に、心臓が跳ねた。

「ハリーはずっと進路1本だね」
「ったりめーだろ? ぜってービッグになってやる。お前ら、サインねだるなら今のうちだぞ!」
「アカン。この誇大妄想癖を直して、もー少し現実的になったらビッグになれるかもしれんな」
「なんだとっ!?」

 はるひが揶揄してのしんが食ってかかる。
 あははと笑っていたクリスが、水島を振り返った。

「密ちゃんも音楽の勉強続けたい、言うとったね?」
「ええ。サックスを本格的にやりたいなって。できればウィーンの音楽学校への進学を希望しているんだけど」

 艶やかに微笑む水島。
 水島は吹奏楽部だっけ。1年の時の演奏聞いただけだけど、確かにはね学の吹奏楽部員のレベルは割りと高かった。
 ウィーン。
 昔は何度も足を運んだ芸術都市。
 水島は、行けるんだ。

は? あんなに綺麗な声で歌えるんだもの。声楽の道に行くの?」

 誰だって、当たり前に思う意見だと思う。

 でも、私の古傷をえぐるには十分な言葉だった。



 私がやりたいのは、本当にやりたいのは、この動かない左手を動かして、

 もう一度



「うわ!?」

 唐突に、上に引っ張られた。
 見れば、志波が私の右腕を掴んで引っ張り挙げていた。

「お前、ちょっと来い」

 有無を言わせず、そのままずるずると志波に引っ張られる。

 教室を出る間際、氷上が「あ!」と声を上げたのが聞こえて振り向く。
 志波に力強く引っ張られてたから、ほんの少ししか見えなかったけど。

 何事か氷上が呟いて、その言葉にのしんとクリスと、奥に海野と一緒に座ってた佐伯の3人がはっとしたようにこっちを見たのが、見えた。



 志波に連れてこられたのは、進路指導室に程近い階段踊り場。
 何人か居残ってる生徒がたまに通りかかる。
 志波は私の腕を掴んでいた手を離して、水飲み場の窓際にもたれかかる。

「ちょ、なにいきなり」
「……べつに」
「はぁ?」

 こんなとこまでいきなり問答無用で連れてきて、べつに、ってなんだ。
 むっとして志波を睨み上げると、志波はいつもの無表情……よりも若干眉尻を下げた顔で、私を見た。

「あれ以上話を聞きたくなかったんじゃないかと、思った」
「……」

 志波は、本当に時々エスパーになる。

「うん」

 頷いて、私も志波の隣の壁に背をもたれた。
 階段下を見下ろす位置。
 時々通りかかる階下の2年生は、みんながみんな明るい表情で駆けていく。

「焦るな」
「焦るって」
「まだ1年あるだろ」
「そんなにないじゃん」
「……1年近くある」
「短いよ」

 私の減らず口に、志波も閉口した。
 後の窓越しからは、進路指導等の用事のない生徒たちが先に集まって部活を始めているのか、威勢のいい声が聞こえてきた。
 この声出し、野球部だ。

「志波の進路は? 決めてるの?」
「……ああ」
「なに」
「一流体育大。……の前に、甲子園制覇」
「そっか。今年の野球部行けそうだもんね」

 春の選抜は逃したものの。
 秋季大会もいい成績を残したし、それ以降の練習試合も負け知らずだし。
 あのお調子者のシンが主将に選ばれたと聞いたときはこれまでか、なんて思ったけど。
 シンは持ち前の明るさと愛想のよさで、部員のモチベーションを上げるのがうまいみたいだし。

「……別に、今年進路を決めなきゃ一生が終わるわけでもないだろ」
「まぁそうだけど」
「待ってるから、焦るな」
「……ん」

 ぽふ、と志波の大きな手が頭に乗せられる。
 うー……抱きつきたい。今、無性に抱きつきたい。

「しば」

 頭に手を乗せられたまま、志波を見上げる。
 志波は瞬時に私の視線の意図を理解したのか、眉間に皺を寄せて、少しだけ顔を赤くした。
 そしてきょろきょろとあたりを見回す。
 階下異常なーし、階上異常なーし。

 そして大きくため息。

「…………3秒だ」
「けち」
「言ってろ」

 とはいえお許しが出た。
 私はすぐに志波の体に腕をまわして抱きつく。
 あったかくて気持ちいい。不安が掻き消えるくらいに、ほっとする。

 不意に、志波の腕が私の背中にまわる。
 びっくりした。驚いて見上げれば、志波はなんとも形容しがたい表情で私を見下ろしていた。
 3秒だ、とか、人目を気にしたり、とか。
 私が好きで抱きついてるだけなんだから、まさか志波のほうから抱きしめられるとは思ってなかった。

「志波」
「なんだ」
「3秒たった」
「だな」

 解放される気配はなくて。


「ん」
「……マネージャーやらないか」

 唐突に。

「……は?」

 志波の腕を掴んで顔を上げる。
 ようやく志波も私を解放して、ほんの少しだけ、距離をとった。

「マネージャーって」
「野球部の」
「いや、そうだろうってわかるけど……なんで?」

 いきなり何を。
 眉を顰めて志波を見上げていれば、志波は窓の外に視線を向けた。
 横まで行って私もグラウンドを見下ろす。

 野球部のグラウンドでは部員がそれぞれに投球練習を始めていた。
 その脇で、シンと、顧問と、マネージャーがなにやら額を集めて会議をしてる。

「今年は甲子園がすぐ近くにある。全員、それを感じてる。だから練習の気合の入り方も違う」
「うん」
「だから今のマネージャー一人じゃ手が足りない。小石川もよくやってるけど、正直かなりキツイ思いしてると思う」
「うん」
「マネージャーの即戦力がいる。野球のやの字も知らない素人じゃ駄目だ」
「で、私?」

 こっくりと志波は頷いた。

 確かに私は小さい頃リトルリーグに在籍してたこともあるから、素人よりは野球のことわかるけど。
 いや、今だってシンの影響で野球はよく見てるけど。

 だからって。

「マネージャーって、野球のルールよりなにより、『南を甲子園に連れてって?』とか『練習サボりはいけないんだゾ?』とか素で言えないと駄目だって聞いたけど」
「………………シン、か?」
「うん」
「アイツは……くだらねぇこと吹き込みやがって……」

 こめかみを押さえて大きくため息をつく志波。
 あ、やっぱ違うんだ。
 違うと思ってたけどさ。


「ん」

 顔を上げた志波は、まっすぐに私の目を捉えてきた。
 すいこまれそうな、深い色。

「お前の力を借りたい。必要なんだ」
「……」

 ぱか、と。
 私の口が開いた。

「……口、閉じろ」
「あ、うん……」
「……どうした?」
「ん、いや、なんていうか」

 感動した、というか。

 必要とされるのって、どのくらいぶりだろう?
 いてもいなくても同じ存在の私が。
 私がいなくても授業は進むし世界はまわってたから、全然気にしてなかったけど。

 志波に、必要だって、言われた。

 私の力が。

「うわ」

 顔が火照ってきた。
 心臓もばくばくしてきた。
 うわわ、なんだこれ。

「……なにやってんだ、お前」

 クッ、と志波が笑いだす。

 私は振り子のように水飲み場のまわりをぐるぐると行ったり来たり。
 だって、どうすればいいのか、わからなかった。

「落ち着けって」
「っ」

 ぐ、と志波に腕を掴まれて、心臓が飛び跳ねる。

「し、ば」
「……そんな変なこと言ったか?」
「いや、別に」

 ぶんぶんと頭を振る。

、返事聞かせてくれ」

 ここだけ抜き出すとえらい誤解を招きそうなことを口にする志波。

 私は、口を結んだまま、こくりと頷いた。
 必要とされた。
 力を望まれた。
 素直に、嬉しかったから。

「そうか。……今日の練習から出られるか?」
「ん、大丈夫。出る」
「わかった。あとで連れて行くから」
「うん」

 こくんともう一度頷いて。

「……や、さんやっと見つけました。進路指導はさんから」

 階上から若先生の声が響いてきたとほぼ同時に。

 私は、もう一度、おもいっきり志波に抱きついた。

「っ!? っ、離れろ!」
「やだっ」

 誰が離れるもんか。
 だって、本当に嬉しかった。

 ぴきんと硬直しつつも私を引き剥がそうと奮闘してる志波。
 そして背後からは、若先生の妙に声高な声が聞こえた。

「えぇ〜と、さんから始めようと思ってたところをやっぱりクラス委員の氷上くんからにしようと思ったところです。そうなんです。先生は青春爆発推奨派なんです。というわけで先生はこれで」

 すたぱたと遠ざかる足音。
 頭上から、志波の大きなため息。

 そして、頭の上に置かれる大きな手。

「マジで勘弁しろ、お前……」

 そう言う割りに、志波は長いことわしゃわしゃと頭を撫でてくれた。



 その後。

「なんでよりにもよってなんだ!? あーっ、やっぱ勝己にスカウト任せんじゃなかった!!」
「いーじゃないっすか主将。先輩美人だし、野球の知識もあるし、文句ないっすよ!」
「お前らが文句なくてもオレにはあんの! あああ、せっかくの出会いのチャンスが……!!」
「自分の彼女の目の前で、堂々とそんな台詞よく吐けるな……」

 志波の後をついていって、野球部一同に新マネージャーとして紹介された矢先の、シンの態度がこれだった。
 まぁ、予想はついてたけど。

 でもまぁ、シン以外の部員には比較的好意的に歓迎してもらえた。
 何度かシンの忘れ物届けに行ったりで面識はあったし。

「主将も先輩だから、先輩って呼んでもいいっすか!?」
「べつに。好きに呼べばいいよ」
「よしっ!! じゃあ先輩で!」
っ、同学年だからオレらはって呼んでもいいんだよな?」
「だから好きに呼んでいいって」
「よしっ!! じゃあこれからはで!」
「……」
「志波くん、何気に野球部ってさん隠れファン多いんだよ。知らなかった?」
「問題ない。潰す」
「甲子園目指す仲間を潰しちゃだめだってばー!」

 妙に懐っこい部員たちに囲まれながら、その隅では野球部の良心であるマネージャーと志波が微妙な視線でこっちを見てた。

 練習が始まって、私はマネージャー先輩の小石川について仕事を教えてもらって。
 とりあえず練習着の取り込みから、ということで部室のほうに移動した私。

 手狭で男臭い部室を見つめながら。
 約束の手前まで来たことを実感した。

 進路も私のおおきな課題だけど。
 もうひとつ。

 かっちゃん。もう、時間がないよ。

 どこにいるの?

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