「満開だ」
「綺麗だね」
「だな」


 38.9分咲き


 学校も終業式を終えて春休み。
 2年を終えて、4月からは最終学年だ。
 朝の森林公園の桜も満開で、いつもどおり噴水に腰掛けて休憩してる志波と水樹と一緒にそれを見上げながら、少し感傷的に。

 なるわけがない。

「花見弁当」
「えーと桜もち?」
「甘酒。……桜っていうよりひな祭りか」

 さっきから3人でやってるのは桜にちなんだ連想ゲーム。
 食べ物しかでてこないけど。

「さっき並木道の方走ってきたけど、すごく綺麗だったよ。ピンクのシャワーってカンジで」
「ふーん? 桜並木か」

 水樹の言葉につられて並木道に目を向ける。
 確かにそっちのほうだけ空気の色が違って見えた。

 春爛漫。
 今年は年末からいろいろあって、なんだか随分と春の訪れが遅かったような気がするな。
 っていうか、春だ桜だって気にしたことがそもそもなかったけど。

「こっちは桜が咲き誇るから、本当に春到来! って実感するよね。北海道は雪解けで春だから」
「そっか。でもそっちのが本当に春っぽい気もするけど」
「雪解けって映像でみれば綺麗かもしれないけど、実際は道路べしゃべしゃで大変なんだよ。こっちくるまで、春ってあんまり綺麗なイメージなかったんだから」
「へぇ」

 そういえば桜で春を感じるのってここ数年の話で、私も海外にいた頃はヒースやミモザが咲いたら春、って感じだったな。

 桜、か。

「花見がしたい」

 なんとなく、そう思って。
 すると。

「するか?」

 意外にも志波が乗ってきた。

「あ、私もお花見したい!」

 水樹もぽんと手を叩いて賛成してくれて。

 一気に気分が高まった。
 私は携帯を取り出して、メールを打ち始める。

「……なんだ?」
「メンツ集める」
「このまま行くんじゃないのか」
「花見は弁当持って酒持って、踊って歌って最後にグロッキーって決まってるじゃん」
「……最後は違う」

 呆れたように言いながら、志波は私の手元を覗き込んだ。


「なに」
「真咲と先生はわかる。……クリスはなんでだ?」
「この間デートするって約束した」
「……………………そうか」
「志波くんっ、バットとボール持ってきちゃ駄目だよっ?」

 途端に目を座らせる志波に、水樹が慌てた。

「えーとえーと、さん、お花見は一度帰って準備してからだよね?」
「うん。11時にここ集合ってメールした」
「じゃあ私お弁当作ってくるね。じゃ、そういうことで!」

 水樹はそれだけ確認して、逃げるように去っていった。
 なんなんだ、一体?

 なんだか不機嫌そうに膝に頬杖ついてる志波と残されて。
 ……あれ、そういえば。

「志波、朝練の時間は?」
「今日は休みだ。年度末で登校禁止」
「ふーん、じゃあ部活も無しか。……あれ、でもそしたら若先生忙しいのかな」
「ああ、かもな」
「水樹の弁当待ってるぞーってメールしとく」
「クッ」

 頬杖ついたまま志波が噴出した。そのまま肩を揺らして笑ってる。

 うーん。

「志波、よく笑うようになったよね」
「……そうか?」
「隠れ笑い上戸なのは知ってたけど、最近は笑いの沸点が低くなった感じ」
「ああ……だな。わかってる」

 頬杖をやめて顔を上げた志波。
 目の前に立ってる私を見上げたその表情は、最初会ったときとはくらべものにならないくらい穏やかな。

「……お前もな」
「なにが?」
「丸くなった」

 ひくっ

 志波の一言に、私の顔がひきつった。
 思わず顔に手をあてて、ぐにと頬を掴む。

「ふ……太ったように見える?」
「……」

 志波、目が点。
 と思ったら、声をたてて笑い出した。

「笑うなーっ!! 停学中体動かせなくてヤバイって自分でわかってたんだからっ!!」
「ははっ……お、前……ヤベェ、止まんねぇ……クク」

 噴水に腰かけたまま、腹を抱えて笑ってる志波。
 あああああムカツクっ!!

 とはいえ、ここまで爆笑してる志波も貴重だ。
 いやがらせしてやる。

「えい」

 カシャ。

 携帯カメラに笑ってる志波の画像を撮ってやる。
 そういえば、前にもこんな風に志波の笑い顔撮ったような覚えがあるような。

 案の定、志波はぎょっとして私の手から携帯を取り上げようと手を伸ばしてきた。

「写真を撮るな!」
「もう撮った。人を笑った罰だ。あとで晒し者にしてやるっ」
「今すぐ消せっ!」
「やーだー。いいじゃんべつに。どんな子でも笑顔は2割り増しって言うんだし」
「……それは女が言う台詞じゃない」

 言いながらも携帯を奪おうとくらいついてくる志波。
 ふんだ、捕まるかっ。
 華麗なステップで志波の追跡をかわして、私は走り出す。

「んじゃ11時に!」
「……覚えてろ……」

 背後に志波の恨みの視線を感じつつも、私はすたこらと自宅へと舞い戻って。



 そして11時。メールを送ったメンツは全員集合。
 みんながみんな、それぞれ思い思いの食べ物や飲み物を持ち寄って噴水前に来ていた。

 そして、爆笑。

「ははっ! 勝己、お前いい顔して笑うじゃねーか! いやぁ、よくやった!」
「ほんまやね〜。志波クン、こういう素敵な表情するんやね? ええなぁちゃん」
「先生もそう思います。志波くん、激イケてます」
「私もいい顔してるなって思うけど……えっと、みんなその辺にしといたほうが」

 元春にいちゃんに手渡した携帯を覗き込んでる若先生とクリスと水樹。
 志波は、噴水の縁に腰を下ろして、というか力なく座り込んでうなだれていた。

「……本当に見せるか」
「有言実行っ」

 ガッツポーズ。
 志波に勝った!

「さてと。そろそろ行くか? 花見シーズンど真ん中だから、腰据えて見れるって言ったらちょっと離れたところになるかもしれねーけど」
「じゃあ先に桜を堪能しちゃいましょう。並木道を通って、それからお弁当でどうですか?」
「うん、いいよ。じゃあ行こう!」

 水樹の荷物は若先生がひょいっと持ち上げて、私が持ってきたのはクリスと志波が分担して持ってくれた。
 手持ち無沙汰になった私は、いつものように元春にいちゃんの腕にぎゅーっとしがみつく。

ちゃーん、にいちゃん重たいんですけどー」
「ぶら下がってないじゃん。抱きつき禁止って言うから腕だけにしてるのに」
ちゃん、ほんならボクとぴったんこせぇへん?」
「やだ。元春にいちゃんがいい」
「残念、ふられてもーた」

 あははとノーテンキに笑うクリスの横で、若先生もこれまたノーテンキに微笑んでいる。

「水樹さん、先生もああいうのやってみたいです」
「どうぞやってください。見てますから」
「水樹さん、冷たい……」

 頬を赤らめてぷいっとそっぽを向く水樹に、とほほと肩を落とす若先生。
 なんだかあの二人、仲直りした割りに進展ないカンジ。
 なんだかなぁ、人が結構痛い思いしたっていうのに、背中の押しがいがないというか。

「ほら、離れろ。そろそろ行くぞ?」
「えー……いいじゃんこのままで」
「お前がよくてもオレがよくても、よくないヤツがここにいんの。ほら見ろ、さっきから痛い痛い、視線が痛い」

 あまり困ってるようには見えない元春にいちゃんのにやりとした笑顔。
 ほら見ろ、ったってあとは志波しかいない。

 でもその志波が、いつも以上の仏頂面で元春にいちゃんを睨みつけていた。

 む。

「志波っ、元春にいちゃん睨むなっ!」
「……勝手にしろ」
「あーもー、お前らホント進展ねぇな……」

 志波はむすっとした表情を崩さず、さっさと歩き出してしまう。
 元春にいちゃんも大きくため息をついて、私がしがみついてた腕を引き抜いて、わしゃわしゃと私の頭を撫でた。

「少し髪伸びたな? また伸ばすのか?」
「べつに前も伸ばしてたわけじゃないよ。ただなんとなく」
「でも、ちゃんは髪長いほうがええと思うで?」
「なんで?」

 志波の後を追うように、みんなも移動を始めた。

 若先生と水樹は仲良く並んで並木道に入って行って、その後を元春にいちゃん、私、クリスの横並びでついていく。

「だってちゃん、シンくんと同じ顔しとるやん。ばっさーって髪切ってきた日、みんなシンくんが女装してきたん!? って驚いてたんやで」
「あー、確かにお前ら二卵性の割りによく似てるよな。しっかし髪切ったくらいでシンが女装って」
「体格こんな違うのに」

 私は自分の髪に触れた。
 年末にばっさり切り落とした髪も、元春にいちゃんが言うとおり少し伸びてきた。
 と言っても、まだ肩につくほどじゃない。

「短くても長くてもいいけど、今一番邪魔な長さ。やっぱ切ろうかな」
「えぇ〜、ちゃんの髪綺麗なのに残念やわ。伸ばしたほうが、今の格好もきっともっと似合うで?」
「は?」
「そうだな。お前、少し服の趣味変わったよな?」
「へ?」

 元春にいちゃんとクリスに言われて、私は自分の体を見下ろした。

 朝家に戻ってから着替えた今の服。
 スモーキーピンクのキャミに白いシャツ、ベージュのハーフパンツ。上着は丈の短いGジャン。
 ……なんか変?

「お前、しばらく前まで黒っぽいのとジーンズばっかだったじゃねぇか。女ッ気のないラフな格好で。なんだぁ? それ、勝己の趣味か?」
「はぁ? なんで志波の趣味に合わせなきゃなんないの」
ちゃん、ピュアピュアやね〜♪ アカン、やっぱ女の子は恋すると綺麗になってまうもんやな」
「はぁ」

 どう返したもんかと、適当に相槌を打つ。
 どーも落ち着かない。
 なんか妙ににこにこ、つかニヤニヤしてる元春にいちゃんとクリス。
 この二人と一緒にいると、褒め殺されそうな予感。
 うう、元春にいちゃんの近くにいたいけど、クリスとタッグを組んでる今はむずかゆくて仕方ない。

「先行く!」
「おー、勝己によろしくなー」
ちゃん、またあとでなー?」

 私は小走りに駆け出した。

 ちょっと先を歩いてる若先生と水樹のすぐ後まで行くと、

「先生、今日学校大丈夫だったんですか?」
「大丈夫です。教頭先生に怒られる準備はもう出来てますから」
「全然大丈夫じゃないじゃないですか! 今すぐ学校行ってくださいっ!」
「でも先生、水樹さんの手作り弁当食べたいです」
「お仕事ほっぽり出す人には食べさせません」
「あ、ヒドイ。今日水樹さんの誕生日だからどうしても一緒にいたかったのに」
「え……覚えててくれたんですか?」
「えっへん、勿論です。プレゼントだって用意してます。だから、君のお弁当も食べさせてください」
「は……って駄目ですっ!! それとこれとは話が全然別じゃないですか!」
「やや、ひっかかってくれませんでしたか」
「当たり前ですっ!」

 だ め だ 。

 とてもじゃないけど、この二人の間に入り込む余地はない。
 聞いてて恥ずかしいっつーの。さっさとくっつけ水樹と若先生っ!

 仕方ない。

 私は二人を追い越して、さらに先を一人で歩いてる志波のところへ。

「志波」

 声をかけると、志波は少しだけ振り返って私を見た。

「真咲と一緒じゃなくていいのか」
「いい。元春にいちゃん、案外クリスと気が合うみたいだし」
「そうか」

 隣に並んで一緒に歩く。

 並木道近辺はすでに他の団体に陣取られてて、私たちが座れる場所はもっと先に行かないとなさそうだ。
 でもまぁ、桜満開のピンクな空間はかなり綺麗で、このまま歩いてるのも苦にはならない。

「この空間て」
「ん」
「なんていうか……幻想的だよな」
「……志波、熱ある?」
「言ってろ。なんとなくそう思っただけだ」
「確かに桜だけならそう思わなくもないけど」

 妙にぼーっとした表情で前方を見つめてる志波から、桜の方へと視線をずらす。

「飲んだり食ったり歌ったり踊ったりしてる連中も一緒くただとちょっと」
「お前もコレがしたかったんじゃないのか?」
「う。目の当たりにして興ざめした」
「だな。……お前ンとこの忘年大会も似たようなもんだったけどな」
「あれは愛でる会じゃなくて騒ぐ会だもん」

 とはいえ。
 さすがに昼間っから目を覆いたくなるようなバカ騒ぎをしてるとこはなく、ちょっと賑やかに宴会してるって程度だからしのごの言うほどでもない。

 そこで会話は途切れて沈黙。
 黙って並んで歩く。

 さやさやと優しい風がそよいで、頭上を桜のはなびらが通り抜ける。
 ……黙って桜並木を歩いていたら、志波の言った『幻想的』が少しわかった気がした。

 桜に見惚れて、ほんの少しだけ志波から遅れる。

 と。

 ずるっ

「うわ!?」

 何かに、足をすべらせた!
 わたたと前のめりに倒れかけて、目の前を歩いていた志波の背中にしがみつく。

 転ばぬ先の志波勝己!
 図体でかいだけあって、ぶつかったってびくともしない!

「っ、なんだ!?」
「足すべらせた」

 驚いて振り返る志波と同じように、私も後ろを振り返る。
 数歩先に落ちていたのは、バナナの皮。

 ……なんでバナナ。花見客のゴミ?

「ゴミくらい持って帰れっ!」
「誰に怒鳴ってんだ……いいから、離れろ」
「あ、うん」

 志波の背中にもたれるような格好でしがみついてたけど、言われて体を起こす。

 ……。

 あれ?

「おい」
「ちょっと待って」

 ぎゅ。

 しっかりと自分の足で立ち上がるものの、私は志波の背中に密着するようにぎゅぅうと抱きついた。

「なっ!?」

 志波はぎょっとした声を出して、硬直した。
 私は直後に腕をほどく。

「おーい勝己くーん、ちゃーん。公衆の面前でそんなことされると恥ずかしくて仕方ないんですけどー」
「元春にいちゃん」

 振り向けば、追いついてきた元春にいちゃんが妙にイイ笑顔を浮かべて腕を組んでいた。
 その横でクリスは「志波クンええなぁ」とか、若先生が「やや、青春爆発です!」とか、水樹がゆでだこ状態になってるとか、そんなことはどうでもよくて。

 私は志波から離れて元春にいちゃんに駆け寄り、いつものようにぎゅっと抱きついてみた。

 ……。

 あれ?

「こら。酔っ払いじゃあるまいし、素面で抱きつき魔になるな」
「なんか違う」
「は? なにがだ? あ、オイ、??」

 お小言を始めた元春にいちゃんから離れて、私はもう一度志波の前へ。

「志波」

 赤い顔して硬直してる志波に、今度は正面から抱きついてみる。

「!!!」
「あー、やっぱ違う」

 おおーっ
 なぜかまわりの花見客からも喝采が飛んできた。

 私は志波の肩にことんと額をくっつけた。
 それが合図になったように、志波の硬直が解ける。

っ、離れろ!」
「やーだー。志波のほうがいい」
「なっ」
「あー……オレもしかして、勝己にお株奪われちまったか?」

 呆気にとられた様子で、ぽりぽりと頬を掻く元春にいちゃん。
 私は志波に抱きついたまま、みんなを振り向いた。

「うん。なんか元春にいちゃんより志波のほうが、えーと」
「しっくりくる?」
「うん、そんな感じ」

 なぜか満面の笑顔を浮かべてる若先生の言葉に、こっくりと頷いた。
 元春にいちゃんと志波は体格的にはそんなかわんないから、なにがどうって説明できないけど。

「ははっ、勝己、覚悟しろよー? の抱きつき攻撃は時と場所選ばないからな。いやー、にいちゃん寂しいなー!」
「……勝己って呼ぶな」

 抱きついたまま見上げれば、志波は眉間に思いっきり皺を寄せていた。
 ……うーん。

 私は腕をほどいて志波と距離をとる。
 すると志波は心底ほっとしたように、大きくため息をついた。

「どした? 、好きなだけ勝己に抱きついてていいんだぞ?」
「無責任発言するな」
「いいよもう。志波嫌がってるし」

 口をとがらせてそっぽを向く。
 元春にいちゃんは口で離れろって言ったって怒ったり嫌がったりはしなかったけど、志波はあからさまに不機嫌になってた。
 そりゃそうか。好きでもないヤツに抱きつかれたって迷惑なだけだろうし。
 身内って免罪符がある元春にいちゃんとは違う。
 むう。

「志波クン、部長面はアカンよ?」
「そうです。今の態度はレッドカードでブ、ブーです」
「志波くん、さんの性格も考えてあげて。ね?」

 ところが。
 なんでか責められてるのは私じゃなくて志波になってる。

 振り向けば、困り果てた表情の志波をみんなが取り囲んでいた。
 志波と視線が合う。……あ、また眉間に皺が寄った。
 でもなんだか、今のは不機嫌というよりも戸惑ってるというか、弱ってるというか。

「いいよ別に。今までどおり元春にいちゃんに」
「だめだ」

 は?

 元春にいちゃんの名前を出したところで、すぱっと表情を変えた志波。
 いつもの何考えてるかわからない無表情。でも口元は微妙に結びきれてない。

「……お前の好きにしていい」
「いいってば、無理しなくても」
「無理してない」
「してるじゃん」
「してない」
「してる!」

 あ。

 ムキになって言ったけど。
 このやり取り、なんかすっごくひさしぶりだ。

 志波はふーっと大きく息を吐いて、他人が見てわかるかわからないかくらいだけど、小さく、苦笑した。

「好きにしろ」
「ほんとにいいの?」
「そう言った」
「……うん。ありがと、志波」

 お許しが出て。
 私はもう一度志波に抱きつ

 がし。

 ……こうとしたところを、当の志波に遮られた。
 片手で額を押しやられる。
 リーチが違うからいくら腕をばたつかせたって、志波の体にはかすりもしない。

「ちょ、何する志波っ! 好きにしていいって」
「……人前禁止だ」
「うー」

 好きにしていいって言ったばっかなのに。
 ぶつぶつ。

「えーとあの。一応聞いていい?」

 そこへ、おずおずと水樹が手を挙げて声をかけてきた。

「志波くんとさんって、えーと……付き合ってるんだよね?」
「付き合ってないよ」

 ぽぽぽぽん

 私の返事のあと、若先生、クリス、水樹、そして元春にいちゃんがほぼ同時に志波の肩を叩いた。

「勝己、だめだ。ここまでくるとあとはもうバカ正直に言うしかねぇって」

 元春にいちゃんの言葉に、志波は盛大にため息をついた。
 なんなんだ、一体。



 その後、座れる場所を確保してから始まったお花見会は、私と志波の牽制試合と水樹と若先生の師弟漫才を元春にいちゃんとクリスが生温く見守るというカンジに終始した。
 変だ。こういう予定じゃなかったのに。


「とりあえず一日一回志波に抱きつき計画」
「……妙な計画立てるな」
「だって好きにしろって言ったくせに、志波、元春にいちゃんよりガード固い」
「…………」
「少し隙を見せたほうがモテるって、シンも言ってたよ」
「その他大勢にモテてどうする」
「だって志波彼女いないじゃん。……あれ? そういう話してたんじゃなくて」
「……ハァ。少し余裕が欲しいもんだ。お前くらい」
「む。余裕なら志波のほうがあるじゃんっ」
「そういう意味じゃない。……鈍感」
「なんだとーっ!?」

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