4月、始業式前日。
 私は服を買いに森林公園近くまで来ていた。


 番外編の番外編2.猫と姫


 公園通りに立ち並ぶ店を外からのぞく。
 森林公園には毎日来ていながら、こっちの商店が立ち並ぶ通りにくるのは初めてだったりする。
 買い物は大抵商店街で済ましていたし、ここの通りはなんだか金持ち連中が犬連れて散歩したりしてて、なんとなく雰囲気に合わなかったから。

 そんなとこに買い物に来た理由はひとつ。

 なんとなく、気が向いたから。

「あー、ここが海野がよく買いに来るって言ってたとこか」

 ぷらぷらと散歩がてら公園通りを歩いていて、一件のブティックに辿り着く。
 ブティックソフィア。店のウインドウに飾られてる服は、レースやらフリルやらがたっぷりついた女らしいというか甘ったるいというか、そんな感じだ。
 確かに海野や小野田あたりが着てる姿は想像できるけど。
 ここに私が着て似合う服があるとは思えない。次だ次。

 くるりと踵を返して歩き出そうとして。

 目の前に人がいた。
 気配に全く気づかなかったけど、人がいた。

 っていうか。

 コイツ、何……。

「まぁ、やめてしまうの? ここのお店には、アナタにぴったりの服がたくさん待っているというのに」

 ソイツは「うふ♪」と、何が楽しいんだかわかんない笑顔で私を見上げてきた。

 今時めずらしい縦ロール。
 真っ赤なリボン。
 元ははね学の制服だったっぽい、ピンクの……ドレス?

 ぞぞ。

 本能的な何か、私の背中に悪寒が走った。
 なんかわかんないけど、コイツとからむのは、きっとマズイ!!

「アナタがデイジーの言っていた子ね? ふふ、ベラドンナにもよく似た乙女の資質を持っていてよ?」
「……は?」
「服を買いに来たのでしょう? 姫子が見立ててア・ゲ・ル♪」
「いらないっ! つーかアンタだれ!?」
「まぁ、女の子がそんな乱暴な言葉遣いをしては駄目よ?」

 口元を押さえて、「めっ」と子供をしかる母親のように顔をしかめるソイツ。

 な ん な ん だ っ 。

「私は花椿姫子。真の乙女が集うカメリア倶楽部の主催者よ。シオン、アナタも我がカメリア倶楽部に入会する素質を持っていてよ?」
「はぁ?」

 ついていけない。
 余計にわけわかんない自己紹介をされても困る。
 つか花椿、姫子? 若王子貴文に次ぐすごい名前だ。

 ……ん、姫子?

「あー、もしかして水樹や海野からたまに出てくる姫子先輩って、アンタ?」
「その通り! エリカとデイジーと仲良しさんなのね?」
「……えりかとでいじー……」

 なんだその名前……。

 するとその、えーと、姫子先輩? は、一歩私に近づいて。

「アナタはシオンね。過ぎ去りし日々を見つめるその眼差し……憂いを帯びたアナタを輝かせる素敵なお洋服、わたくしがコーディネートしてあげます! さ、いらっしゃい!」
「はぁぁ? 紫苑て、それお母さんの名前……つかひっぱるなっ!」

 がっしりと腕を掴まれて、私は姫子先輩にソフィアの中へとひきずりこまれた。
 つかなんなんだっ、この怪力!?

「チャオ! お洋服を見せてくださるかしら」
「え……い、いらっしゃいませ!」

 必死で抵抗しても振りほどけない。
 なんの力も込めてなさそうな優雅な笑顔を振りまきながら姫子先輩が入店すると、店員がぎょっとした顔をしつつも営業スマイルを素早く浮かべた。
 チャオってなんだ。チャオって。

「まぁ、やっぱりソフィアのお洋服はいつみても素敵ね? さぁシオン、姿見の前に立ってちょうだい」
「やだ。帰るっ」
「いやだシオンったら。照れてるのね?」
「照れてないっ!!」

 ヤバイ。コイツ、かなりヤバイっ!!
 なんでこんなヤバイヤツと海野や水樹がまともに付き合ってるのか、わけわかんない!

 ところが逃げ出そうとした私の両腕を、がしっと姫子先輩が掴む。

「離せ!」
「もう、そんな言葉遣いしては駄目だと言ったでしょう? さぁシオン、私の言うことをよく聞くのよ。よくて?」
「よくない!」

 キッと姫子先輩の目を睨みつけてやれば。
 瞬間、頭がくらりとした。
 ……なんだ?

「真なる乙女を目指す女性が、美しさから逃げてはダメ。さぁシオン、アナタも素敵になりましょう?」
「う……?」

 突如目の前に沸き起こる花吹雪。
 ……そんなはずない、ここ、店の中なのに。

 だめだ、頭がくらくらしてよくわかんない……。
 私は少しだけ、目を閉じた。



「まぁぁ、素敵よシオン! 姫子の思ったとおり!」
「……は?」

 ふと、気がついた。
 もう頭がくらくらするカンジはない。
 ……あれ?

 きょろきょろと辺りを見回せば、先ほどとなんら変わらないソフィアの店内。
 ただ、姫子先輩だけが上機嫌で手を叩いていた。

「シオン、御覧なさい? 鏡の中のアナタを。とても可愛くてよ!」
「へ?」

 言われて目の前の姿見を見て。

「なんだこれーっ!!??」

 私は絶叫した!!

 は、なんで? なんでどうして!?
 さっきまで私、カーキのカットソーとグレーベージュのシャツワンピとデニムのハーフパンツ着てたよね!?
 なんだこれ!?

 白いレースがこれでもかってくらいについた、黒のワンピース……つかもしかして、ロリータ服ってヤツ?
 それを着てた。
 足もレースがついたオーバーニーを穿いて、ころんとした黒のパンプス履いて。
 頭にはご丁寧に服と同じレースを使ったヘッドドレスまでつけて。

 こ れ 私 じ ゃ な い っ 。

 つか、いつの間に!?
 着替えた覚えないんだけど!

 怖いって!
 マジでヤバイってこの姫子先輩って!!

「背が高くてスレンダーで、雰囲気のあるミステリアスな顔立ち。クスッ、姫子の思ったとおり、シオンにはこういう服がとってもお似合いね♪」
「どこが!? 死ぬほど似合ってないじゃんっ!!」
「まぁ、まだ見慣れてなくて照れているのね? 大丈夫よ、シオン」
「だあぁっ、近寄るなっ!!」

 猫のように全身の毛を逆立てて拒絶する。
 でも姫子先輩は意に介さず、私の左手を掴んだ。

「さぁシオン、真なる乙女をともに目指しましょう?」
「やだ! つか着てた服返せ!」
「まぁ、まだそんな言葉遣いをするの? ダメよシオン……」

 ぐらっ

 また、眩暈がした。
 ヤバイ。怖い。マズイって……。

「さぁ、共にカメリア倶楽部に参りましょう?」
「や……やだ……」
「うふふ、強情な子ね? ……あら、変わったバングルをしてるのね?」

 姫子先輩の手が、私の左手の革のバングルに触れる。

「とっても素敵。でも、今のこの服装には相応しくないから外しましょう。よくて?」

 ぐっと、バングルを掴まれた。

 瞬間、私の意識が覚醒する。

「触るなっ!」

 乱暴に姫子先輩の手を振り払い、私はソフィアを飛び出す!

「まぁ、シオンったら。……逃がさなくてよ!」
「やだぁぁぁっ!!!」

 怖い、怖い、怖いって!!

 あの事故のときすら感じたことのない恐怖を感じて、私は全速力で逃げ出した!!!



 ところが。
 森林公園内に逃げても。
 公園通りを疾走しても。
 海岸まで走ってもショッピングモールで撒こうとしても商店街を突き抜けても。

 ことごとく先回りされてるのって、なんでだ!?
 多分私、ハーフマラソンくらいの距離爆走してるのにっ!!

 いい加減疲れてきた……こんな走りづらいパンプスで走ってるから、足もすごく痛い。

「見ーつけた♪ クスッ」
「うにゃああああっ!!」

 少しでも気を抜こうものなら、即背後にまわられるし!

 そんなこんなで、はね学までたどりついてしまった。
 校舎に入ろうか、グラウンドに逃げようか、一瞬迷う。

「チャオ♪ カメリア倶楽部入り口はこっちよ、シオン」

 私はグラウンドに向かって全速力で逃げた!!


 グラウンドには、陸上部やラクロス部や野球部や、とにかく運動系の部活に所属してる生徒がたくさん出ていて。

「シオン、お待ちなさーい」
「やだって行ってんだぁぁ!!」

 陸上トラックを、ゴスロリ服を着込んだ私とピンクの改造制服を着た姫子先輩が全力鬼ごっこ。

「な、なんだぁ?」
「あれって姫子先輩……? 追いかけられてるゴスロリっ娘は?」

 陸上部が唖然として見つめる中。
 私は。

「若せんせぇぇっ!!」
「……ややっ? もしかして、さんですか?」

 陸上部部活顧問の若先生が、いつもの白ジャージでなにやらボードにタイムを書き込んでいた若先生に突進して、その背中に隠れた。

さん、その格好……」
「やだ! 怖い! なんとかして若先生!」
「はぁ、そう言われても」

 ぎょっとしてる陸上部連中にも囲まれながら、私は若先生に懇願した。
 何がなにやらと目をぱちぱちさせてた若先生も、後からやってきた姫子先輩を見て「ああ……」と、妙に納得した声を出した。

「ええとさん。先生どこまで力になれるかわかりませんけど、ちょっとがんばってみます」
「ううう」

 姫子先輩の方に歩き出した若先生の背中にしっかりしがみついて、私も姿を隠しながらついていった。

「まぁ若王子先生。陸上部顧問のお仕事、お疲れ様です」
「や、花椿さんもお元気そうで何よりです」

 にこやかに会話を始める姫子先輩と若先生。
 陸上部員も姫子先輩のことを知っているのか、ひそひそと何か話しながらも遠巻きに私たち3人の様子を見ていた。

 追い払えっ、若先生!

「えーと、花椿さん、さんに何か用事でもあるんですか?」
「勿論♪ シオンは私と共にカメリア倶楽部に入会しに」
「行かないっ!!」
「えーと」

 困ったように頭をかく若先生。

「花椿さん、さんもこう言ってますし、無理強いするのはちょっと……」
「まぁ無理強いだなんて。いやだ、若王子先生ったら」

 クスッ♪ と微笑んで、姫子先輩は若先生に近寄る。
 そして。

「……エリカとシオンを天秤にかけるおつもりかしら?」

 恐ろしく低い声で、そうつぶやいた。
 エリカって確か、水樹のこと?

 ……ちょっと待って。
 若先生にそういう取引持ちかけたら。

さん」

 若先生はくるりと振り向いて、とてもにこやかな笑顔を浮かべて言い切った。

「先生、水樹さんを手放したくないから、ゴメンナサイ」
「薄情者ーっ!! 恩知らずーっ!!」

 あああ今度水樹に若先生のあることないこと吹き込んでやるっ!!

 私はとりあえず若先生を姫子先輩の方に投げ飛ばしてから、再び脱兎のごとく走り出した!


 とはいえせまいはね学グラウンド。
 ラクロス部のコートを縫って、応援部の声だし場所を通り抜け、あと逃げられる場所といえば、野球部のグラウンドだけだ。

 野球部。
 志波と、シンがいる!

 最後ののぞみをかけて、私は野球部の元へと走った。

「シオンったら、そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに。クスッ、見かけによらず照れ屋さんなのね♪」
「違うっ! 勝手に思い込むな!!」

 ストーカーって、こういうのも言うんだろうか。

 走って走って、野球部グラウンド。
 野球部はちょうど紅白戦をしているところだった。

 一番最初にバッターとキャッチャーが走りこんでくる私と姫子先輩に気づいたみたいだ。
 こっちを指差して、それにつられて他の部員もこっちを振り返る。

!?」

 ピッチャーマウンドにいたシンがぎょっとして後退る。

「ばっ……お前どういう格好、じゃなくて! 練習の邪魔すん……姫子先輩っ!?」

 あ、シンは姫子先輩のこと知ってたんだ……じゃなくて!

「シンっ……」

 シンに助けてもらおうと思ってピッチャーマウンドに向かおうとして。
 その手前に、呆気にとられてるユニフォーム姿の志波がいた。
 ポジションはセンター? 狂犬……じゃなくて強肩の志波っぽいポジションだ。

 方向転換。志波のほうが近い!

「志波ぁぁぁっ!!」
「っ!?」

 もう泣きたくなってきた。
 私は志波に飛びついて、そのまま肩の上までよじ登る!

「おい!?」
「やだ! あれ追い払って!」
「あれって……あれ、か?」

 私は志波の頭にしがみついて体に足を巻きつけて、木に登る猫さながらにゆっくりとやってきた姫子先輩を見下ろした。
 なにがなにやら、多分混乱してるだろう志波と姫子先輩が対峙する。

「クールビューティだよな……?」
「なんであんな服着て姫子先輩に追われてるんだ?」
「つか、志波先輩スゲー。先輩がよじ登ってもびくともしねーよ……」

 ちらほらと集まってくる野球部員たち。
 シンも、志波の真横までやってきた。

「お前、何やったんだよ?」
「知らない! いきなりこんな服着せられて拉致られそうになった!」
「「はぁ?」」

 シンと志波の声が重なる。
 すると、姫子先輩は「クスッ♪」と微笑んで。

「チャオ! 野球部のみなさん、練習にはげんでいらして?」
「は、はぁ、ども……。で、うちの姉になんの御用でしょう?」
「まぁ、シオンの弟さんなの?」
「紫苑?」

 ほら、シンだってぽかんとした。

「なんでお前、母さんの名前なんて名乗ってんだ?」
「名乗ってない! 勝手に決められた!」
「で?」

 志波が、口を開いた。

「アンタの用件が何か……大事な用なんだったとしても。コイツは嫌がってる。だったら、引き渡すことは出来ない」

 おおーっ
 まわりの野球部員が感嘆の声を上げた。

 志波。
 やっぱり若先生なんかよりずっとずっと頼りになる。
 ぎゅ、としがみついてる腕に力を込める。

「クスッ♪ いやだわ、姫子は嫌がる子を追い回したりなんて、そんな意地悪なことしなくてよ?」
「は?」
「私とシオンは仲良く追いかけっこしていただけですもの。ねぇ、シオン?」
「嘘付けっ!!」

 い、今さら何言ってんだこの女っ!!
 散々罵詈雑言並べてやりたいところだけど、精神的なプレッシャーが強くてこれ以上はいえない。
 ううう、ストレスが溜まる……!!

 すると。

「楽しかったわね、シオン♪ では姫子はこれで失礼いたします。野球部のみなさん、チャオ!」
「は、はぁ?」

 なんとなんと、あっさりと姫子先輩は引き下がっていった。
 なんで?
 あんなにねちっこく追い掛け回してたのに……。

 とはいえ助かった!
 あー怖かった。マジで怖かった。
 私は志波に登ったまま、はぁぁと大きくため息をついた。



 ぽふぽふと志波の手が私の背中を叩く。

「降りろ」
「ん」

 促されて、ぴょんと飛び降りる。

「……離れろ」

 それはやだ。
 私は志波のユニフォームを掴んで、志波の胸に顔をうずめた。
 クリスが言うところの『ぴったんこ』だ。

 うおお、と外野が盛り上がってるような声が聞こえるけど、無視。


「やだ。怖かった」
「……」

 頭上で、志波がため息ついたのが聞こえた。
 そしてぽふぽふと頭を軽く撫でられる。

 かと思ったら、いきなり襟首掴まれて、強引に引き剥がされた。

 む、として見上げれば、志波は眉間に皺をよせて苦悩の表情を浮かべて。

「練習中だ」
「うー」
「ついでに人前だ」
「うぐ」

 最大禁止事項を口に出されたら退散するしかない。
 私はおとなしく志波のユニフォームから手を離した。

 隣でシンが腰に手を当ててあきれ果てた顔してこっちを見てる。

「ったく紅白試合めちゃくちゃにしやがって。しかもお前、姫子先輩に目ぇつけられるってどーなんだよ?」
「知るかっ。公園通りに服買いに行っただけだし!」
「公園通りで服だぁ? あそこに売ってる服、お前に似合うようなのねぇじゃん」
「う、それを言われると」

 そもそもあそこに言ったのも、なんとなく気が向いたから、だったんだよね。
 ……もしかして、それすら姫子先輩のカメリアマジック?
 怖ッ! 想像したくない!

「で、お前服どうした?」

 あ。
 志波に言われて気がついた。
 服どこだ?

「……ない」
「ぷっ……お前その格好で帰るつもりか!? ははっ! あー、うん。いーんじゃねぇ? 商店街のおっちゃんたちなら喜んでくれるって!」
「うるさいっ! ……でもどうしよう」

 い、いやだ。
 こんな格好で家まで帰るの。
 あんだけ散々苦しめられて、一体なんの罰ゲームなんだっつーの!

「マネージャーにジャージでも借りればいいだろ」
「サイズ合わないよ。あの子割とちっちゃいし」
「その格好とサイズの合わないジャージと、どっちがマシだ?」
「うぐ……」

 なんで私がこんな目に。

「それより」

 志波が私の姿を上から下まで眺める。

「割と、似合うな」
「はぁ!? なんにも嬉しくないっ!!」
「まぁその服自体はどうかと思うが……お前、そういうピュアっぽいの、似合う。……と思う」
「そうかぁ? コイツが女っぽい格好してるのって想像つかねー」

 言ってること全く逆じゃん。
 でも。
 志波にそう言われて、悪い気はしなかった。

 ふーん、そっか。志波ってピュアっぽいの割りと好きなんだ。
 そういえば水樹なんかそういう服よく着てるっけ。ふーん……。

「主将ーっ、志波センパーイ! 紅白戦再開するみたいですよーっ」
「おー、今行く! じゃ、な。お前、ユリに服借りるならグラウンド突っ切らねぇでぐるっと迂回しろよ。これ以上邪魔すんなよ?」
「言われなくても」
「……気をつけろよ」
「ん。志波とシンも、えーと、練習がんばれ」
「ああ」

 志波とシンが、呼ばれてチームベンチの方へと走っていく。
 私も言われたとおりグラウンドの隅まで走っていって、それからマネージャーのいる部室へと向かった。

 それにしてもなんだったんだ、アレ。
 カメリア倶楽部? 真の乙女?
 あんな精神的恐怖与える存在が真の乙女かっつーの!

 ……だめだ。忘れた方がいい。忘れよう。
 私は頭をぶんぶんと振って、今日の恐怖体験を記憶の彼方に追いやることに決めた。
 明日から新学期。
 気持ち切り替えるんだ! そうするんだっ!!




「なー。お前、あのゴスロリ服どうした?」
「返品に行ったけど、姫子先輩がお代払ってたみたいで、また持って帰ってきた。……気持ち悪いけど」
「そっか。なぁ、今度あの服貸してくんねぇ?」
「はぁ? シン、女装癖なんかあったっけ?」
「なんでオレが着るんだよ! そうじゃなくて、男のロマン補完のために」
「……わけわかんない」
「まぁそう言うなって。お前もまたアレ着てくれって頼まれる時がくればわかる」
「絶対ヤダ。断るっ!」
「……まぁアイツにそういう性癖あるとも思えないけどな」
「性癖って。……シン、もしかしてあの服、マネ」
「さーって、風呂入ってくっかなー!!」
「……じゃあさっき、若先生からも服貸してくれって来たメール、まさか……」

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