7月、テスト明け。
 テスト期間中の部活禁止令が解かれて、梅雨明けも近いグラウンドで野球部の練習は再開された。
 入部早々レギュラーとっちまうって、お前どんだけ一人野球してたんだよ勝己……。


 番外編3.双子の弟、姉と幼馴染を語る


 とはいえ、2週間ぶりの部活なだけあって今日は軽く走りこんで終了。
 日が傾き始める頃には2,3年生はさっさと上がっていった。
 今は1年がグラウンド整備してるだけだ。

 ……で、2年のオレが一人残って何をしているかと言うと。

「シンくんごめんね? 手伝ってもらっちゃって」
「いーっていーって。4月から一人っきりになっちまったもんな、マネージャー」

 ウチの紅一点のマネージャーがユニフォームがつまった洗濯籠を持って部室に入ってきた。
 先に乾燥し終わったユニフォームをたたんでいたオレは顔を上げる。

 4月に3年生の男子マネが卒業してから、ずっとひとりでオレたち部員のサポートをしてる彼女。
 とびきり美人って顔立ちじゃねーんだけど、なんというかこう気配りがきく『南ちゃん』的な存在だ。
 オレ的はね学女子ランキングではかなり上位。

 マネージャーはオレの隣に座り込んで、自分も新しく運んできたユニフォームをたたみはじめた。

「もうすぐ1年も戻ってくるし、そしたら一人ノルマ2枚で終わるだろ?」
「後輩扱いが粗いよ、シンくん」

 くすくすとマネージャーが笑い出す。オレもつられた。

「志波くんは今日もグラウンド整備に出てるの?」
「あー、みたいだな。自分、新入部員ですから、って高倉健かっつーの」

 勝己は自分から1年の仕事をやっていた。
 新人には違いねぇし、まぁ最初のうちは、なんて主将も言ってたんだけど。

「なんだかんだってグラウンド整備中とかって、1年同士で先輩の愚痴言い合ったりする貴重な時間なんだけどなー。勝己がいたらそんな話もできやしねぇ」
「私は中学から志波くんのこと知ってるからいいけど、はね学から志波くんのこと知った人はまだ少し怖がってる……よね?」
「面倒見はいいんだけどなー。まぁあの図体であの無愛想じゃあ誤解されるよな」
「カッコいいんだけどね」
「お、マネージャーは勝己みたいのがタイプ?」

 手を止めてにやりと隣を見れば、マネージャーはかぁっと赤くなって、ユニフォームごと両手を大きく振った。

「違うよっ! 志波くんは確かにカッコいいけど! 私は」
「ははっ、すっげー赤くなってる。冗談だって、冗談」

 くしゃくしゃになったユニフォームを奪って皺をのばす。
 ウチのマネージャーは、こういうところがいい。スレてなくて。

 そこへ。

「……お前、またマネージャーからかってんのか」

 がちゃりと、勝己が入ってきた。
 そのあとから制服に着替えた1年もぞろぞろと入ってくる。

「あぢぃー!! 部室涼しー!!」
「シン先輩っ、扇風機こっち回してください!」
「こらお前ら、せっかく女子がいんのに、男臭撒き散らすな! 扇風機の風下にかたまってろ!」
「シンくん、それ無茶苦茶だよ……」

 途端に賑やかになった部室。
 グラウンド整備のあとは部室の掃除が1年の仕事だ。
 対して広くもない部室だけど、それぞれ雑巾やモップを手に掃除し始める。

 勝己は部室掃除は免除されてる。
 でもマネージャー横の山積みのユニフォームを見つけて、オレとマネージャーの対面に座って勝己もユニフォームをたたみはじめた。

「ありがとう志波くん」
「いや。大変だな、こんな枚数」
「去年までは2人でやってたからね。さすがに1人はキツイかなぁ」

 困ったように微笑みながらも、手早くユニフォームをたたんでいくマネージャー。

「主将とも言ってたんだけど、やっぱマネもう一人募集するべきじゃねぇ? 夏の大会始まったら今より大変だろ?」
「なになに先輩っ、女子マネ増えるんですかっ!?」
「誰が女子限定っつったよ?」
「シン先輩が面接するんなら、女子しか取らないんじゃないすかー?」
「たりめーだ!」

 どっと笑いがはじける。
 1年は先輩最高! と盛り上がってるけど、志波とマネージャーは呆れた視線。

「シンくんて……これがなければ完璧なのに……」
「女好きが」

 ったく、冗談の通じない二人だよ。


 部室掃除もユニフォームたたみも終えて、だいぶ日が傾いた頃に本日の野球部は解散。

「マネージャー、途中まで一緒に帰らねぇ?」
「あ、うん! ……じゃなかった。ごめん、今日は商店街の方に買出ししなきゃいけない用事があって」
「あー……そっか。そんじゃ仕方ねぇよな」
「ごめんね? 誘ってくれてありがとう! じゃあね、シンくん、志波くん!」

 ……というわけで。

「志波くん、途中まで一緒に帰らない?」
「気色悪い声だすなっ」

 蒸し暑い夏の午後、年中地黒の夏男・勝己とふたりでむさ苦しく下校することになったオレ。
 ただでさえ暑いっつーのに……

「それにしても勝己、きっちり体作ってきてたんだな? ウチの野球部、基礎練と筋トレみっちりやるから、根を上げて逃げ出すやつ多いっつーのに」
「そうか?」
「お前初日からケロッとしてんだもんな。先輩たちがむきになってへばらせてやろうとして、逆にへばってたくらいだし」
「そうか」
「……お前と会話してるときもこんなカンジかよ?」
「あ?」

 勝己が眉をひそめてオレを見た。
 こんだけ毎日眉間に皺よせてて、よくくせにならないもんだ。

「そうか、とか、ああ、とか。相槌だけかよ? そんなんでよくと会話出来るな」
「そうか?」
「アイツも文章じゃなくて単語でしゃべるだろ? 会話になんねぇじゃん」
「……」

 オレンジ色の光を浴びながら勝己は少しだけ首を傾げて考え込む。

「……そうでもない、と思う」
「ふーん。ひいき目ってヤツかぁ?」
「違う」
「だからお前、そうやってすぐ人睨むのやめろって」

 ぐに、と額の皺をのばしてやろうと手をのばしたら、うざったそうに払いのける勝己。
 オレは軽くため息をついて腰に手を当てた。

「もう誰にも威嚇する必要ないんだろ。無表情装う必要もねぇし。なー、笑い上戸のかっちゃんよ」
「……」
「笑ってー笑ってー笑ってかっちゃーん♪」
「言ってろ……はぁ、なんだってオレのまわりはこんなのばっか……」
「お、お前激烈失礼なヤツだな!! 幼馴染を気遣ってるオレに対して!」
「からかってるの間違いだろ」

 口をへの字に曲げて、すたすたと先を行く勝己。
 コイツ、1ヶ月くらい西本さんかクリスに弟子入りしたほうがいいんじゃねぇ? マジで。

 と。

 勝己の足がぴたりと止まった。
 そしてくるりと振り返る。

「シン」
「なんだよ」

 勝己が顎で指した先を覗き込む。

 前方5メートル先はもうオレん家だ。
 そのオレん家の前で、きょろきょろと挙動不審な動きをしてる、白いビニールの前掛けをしたおっさん。

 ……ん?

「おっちゃん、何やってんだよ人ん家の前で」
「シン坊! いいとこ帰ってきた!!」

 それは不審人物ではなく見慣れた顔。
 向かいの肉屋のおっちゃんだ。1個80円の牛コロの評判は口コミで広がって、学校帰りに買いに来るはね学生も最近多いらしい。
 ……じゃなくて。

 おっちゃんは玄関付近でうちの様子を伺ってたけど、オレの姿を見るなりどたどたとやって来た。
 そしてオレと勝己を交互に見上げたあとに、ぎゅっと眉間に皺をよせる。

「さっきな、店番中にお前ん家から悲鳴が聞こえてよ」
「はぁ? 悲鳴?」
「あれ、嬢ちゃんの悲鳴じゃねぇか? ぎゃーとかわーとか、結構物音してたんだけどよ、急に静かになっちまって」
の悲鳴だぁ?」

 オレと勝己は顔を見合わせた。
 確かに今の時間家にいるのはだけだ。
 でも、悲鳴だ? アイツが?

「テレビとか、そんなんじゃなくて?」
「いや、ありゃ嬢ちゃんの声だったと思うんだけどなぁ……。でも店番中、変なヤツが家に入るのなんか見なかったし、俺の聞き間違いかとも思ってな。シン坊、とにかく早く確認してこい!」
「あー、わかった。おっちゃん、サンキュな」
「おう、なんかあったらすぐ知らせろよ!」

 コロッケを上げる網を振り回しながら、おっちゃんは店の中に戻っていく。

 オレと勝己はもう一度顔を見合わせた。

「玄関以外に侵入できるところはないのか」
「窓叩き割ればどこからでも入れるだろーけど、こんな商店街の目の前でそんな派手な音立てたらバレバレだろ。どーせ若貴にひっかかれたとか、そういうオチじゃねぇ?」

 勝己は神妙な顔してるけど、はそう簡単にどうこうされるようなタマじゃない。
 ったく、これでテレビドラマ爆音で見てたとかいったら怒るぞオレは。

 玄関の取ってを引く。……鍵はかかってる。
 鞄から鍵を取り出そうとごそごそしていたら、扉の向こうから若貴の鳴き声が聞こえてきた。

「おー、ご主人様の出迎えか? それとも勝己に会いにきたか?」

 鍵を差して回す。
 がちゃりと開錠の音がして、オレはドアノブを引。

「……待て」

 ……こうとしたら、勝己に止められた。
 なんだよ、と見上げた勝己の顔は渋面だった。

「若貴の鳴き声、おかしいぞ」
「え?」

 まだ閉じたままのドアを見つめる。
 ドア越しに聞こえる若貴の鳴き声。
 確かに、変だ。
 ひっきりなしに、まるで誰かを呼ぶように鳴き続けてる。

 オレは勢いよくドアを開けた。

「若貴」

 玄関をカリカリしながら鳴いていた若貴がオレの足に擦り寄って、それからすぐに勝己の足に擦り寄った。

「おい、シンっ」

 勝己のこわばった声が響く。

 リビングに続くガラス戸が開け放たれていて、雑誌が数冊廊下に散らばっていた。
 ……おいおいおい。冗談じゃねぇぞ。

っ!」

 オレと勝己は乱暴に靴を脱ぎ捨ててリビングに飛び込んだ。

 そこに広がっていたのは。

「っ……」

 台風でも通り過ぎたか、というような荒れっぷりだった。
 ダイニングの椅子は引き倒されて、雑誌や新聞紙があちこちに散らばり、普段和室に置いてある掃除機やら室内物干しラックまでもがぶちまけられてた。
 が家中に仕込んであるカラーボールもたくさん転がっていて。

 窓が、少しだけ開いていた。



 勝己の声に振り向いた。

 が、膝から下をソファの外にはみだして、仰向けで、倒れこんでいた。

 アイツにしてはめずらしくノースリーブの白いワンピースを着てた。
 左腕の、肘下から上腕にかけて広がってる火傷と手術跡がむき出しになっている。普段、盛夏でも長袖で隠してる傷跡。

 それよりも、今はの脛のあたりについた青アザの方が目に付いた。

 嘘だろ。

!」

 呆然と立ち尽くすしか出来ないオレに代わって、勝己がを抱き起こす。
 体を抱え込んで、激しく揺さぶる。

「何があった!? ! おいっ!!」
「う……」

 勝己の悲鳴にも似た呼びかけに、の顔が歪む。
 うっすらと開かれる目。

「……志波?」
「そうだ」
「何してんの、志波……」

 すぐにはっきりと意識を戻す
 ぱちぱちと目を瞬かせて、ぽかんと勝己を見上げる。

「何があった」
「は?」
「……何か、されたのか」
「何かって」

 はなんのことやらといった様子……って。

 お前。ここまで部屋荒らして人に心配かけといて、ストレス発散したとか言うなよ……?

 しかし。

「あ」

 勝己から視線をずらして部屋をきょろきょろしていたの様子が一変した。

「アイツは!?」
「っ」
「窓っ、窓閉めて! 早く!!」

 急にヒステリックに叫びだす。ぎゅっと体を縮こまらせて、勝己の腕にしがみついて。
 言われたとおりにオレは急いで窓を閉めた。
 ここから侵入してきたのか……? だとしたら大胆なヤツ。この窓の前は低い壁があるけど、通りに面してるから目立つのに。

 舌打ちして振り返る。
 は勝己にしがみついて小さくなって震えていた。
 そんなを、勝己はしっかりと抱きしめていた。

「あ、アイツ、もういない? 本当に!?」
「もういない。オレとシンしかいない」
「ほんとに、ほんとにもう」
「いない。もう大丈夫だ。心配するな」

 をなんとか落ち着かせようと、勝己は何度も何度も頭を撫でてやっている。
 オレもゆっくりとそばによって、の隣に座った。

……何があった?」
「おいっ」

 オレの問いかけを勝己は咎めるけど。

「警察に根掘り葉掘り聞かれるより、オレたちのほうが話やすいだろ。な、。何があったか、話してみろ」
「……警察……?」

 ちらりとは一瞬オレを見た。
 が、すぐに恐怖の瞬間を思い出したのか、いやいやと首を振って再び勝己の肩に顔をうずめてしまう。

「あ、あー……詳しいことはいいから、どこから侵入してきたのか、とか」
「わかんない……気づいたら、いた」
「気づいたら?」

 勝己にしっかりとしがみついたままが口を開いた。
 オレと勝己は顔を見合わせる。
 気づいたら、って。に気配を悟られずに侵入してきたっつーのか?

「慌てて逃げて、もの投げて抵抗して」
「ああ……」
「来るなって言ったのにっ、いきなり、飛び掛ってきてっ」

 勝己の表情が苦渋に染まる。を抱く手にも、相当な力が入ってるみたいだ。

 最初から暴行目的かよ。
 怒り通り越して、気持ち悪くなってきた。

「でも、追い出した。追い出した、んだよね!? もう、いないよね!?」
「ああ、いない。もういない。安心しろ」

 ようやくの気持ちも落ち着いてきたみたいだった。
 勝己の背中に回されて、きゅ、と服を掴んでいた手も震えが消えている。

「なぁ……思い出したくないだろうけど、もう少しがんばってくれ。どんなヤツだったか、覚えてるか?」

 極力優しい声で問いかける。
 するとは勝己の胸に顔をうずめたまま大きく頷いた。

「全身黒かった……」

 典型的な格好だな。昼間に黒服っつーのはめずらしいかも知れねぇけど。

「すごくおっきくて」

 体格差があったのか……。それじゃあも押さえ込まれたら逃げられなかっただろうな……。

「それ、から」
「っ……もういいっ。無理に話さなくていいんだ」

 舌をもつらせながら話そうとするを遮って、勝己が細い体を抱く手に力を込めた。

「シン、もういいだろ」
「ああ……そうだな」

 を勝己に任せて、オレは立ち上がって窓際に寄った。

 全身黒い服を着て大柄な男。
 この窓から侵入してきたんだろうな。ここの窓は部屋の換気をするときによく開けてあるし。
 それにしても、昼間の目立つ時間にこんなところから侵入してきたって、マジかよ?
 玄関と同じ方向向いてるんだぞ、この窓。ここから侵入してきて、肉屋のおっちゃんが気づかないわけねぇよな。
 いやいやいや、低いとはいえほふく全身すれば見つからずに侵入できるか……?
 プロなら、あるいは。

 と。ここまで考えて。

 唐突に。
 マジでホント唐突に。
 オレのカンがある可能性を発見した。

 ……ありえる……。



 オレは確かめるために再びの元に戻った。
 はもうだいぶ落ち着いたようで、ただ静かに目を閉じて勝己にしがみついていた。

「お前を襲ったヤツな」
「シン!」

 勝己の抗議は無視だ。

「前にも、お前を襲ったことあるヤツだな?」
「な」

 勝己が驚愕に目を見開く。
 そして、腕の中のがこくんと頷いたのを見て、さらに絶句した。

 ……確定。

「あー、。よくがんばった」

 腕をのばしてわしゃわしゃとの頭を撫でてやる。

「あとでバルサン焚いといてやるから。疲れただろ。晩飯出前にするからお前もう休め」
「……バルサン?」

 勝己の眉が怪訝そうにひそめられる。

ちゃん、ゴキブリ退治、ご苦労様でしたっ」
「……は?」

 オレの言葉に、勝己は目を点にする。
 しかし腕の中のも、口をへの字に曲げて目に涙を溜めてこっくりと頷いたもんだから、勝己の間抜け面ったらなかった。

「悪ィ、勝己。コイツ、ゴキブリ大の苦手でいっつも大暴れすんだ……」
「…………」

 そういや前もそうだったな。
 あんときはやかんやら包丁やらぶん投げてリビングの窓全部割ってくれたんだっけか。

 こんな間抜けなオチ、真剣に心配した勝己にめちゃくちゃ申し訳ねぇ。

「勝己くーん、怒ってるー?」

 全身脱力しきったようにうなだれてる勝己に、恐る恐る声をかけてみる。

「志波、どうしたの?」

 本調子ではないが怯えのとれたも勝己の顔を覗き込む。
 いや、元凶お前だから。

 ゆっくりと勝己が顔を上げた。
 疲れ果てた表情をして、呆れた視線をオレとに交互に送る。
 そして、盛大にため息をついた。

「……何事もなくてよかった」

 おいおい……。
 お前、ここは「ふざけるな」っていつもの調子で怒るところだろー?
 本気で本気でお前、に惚れちゃってるわけ?

 ありえねー!! つか、信じらんねー!!

「……っ、あれ」
「どうした?」

 オレが頭を掻きむしって理解不能星人約2名を見下ろしていたら、がソファの上でじたばたしだした。

「腰が抜けてる」
「……立てないのか」

 呆れた声を出してを見る勝己。
 するとはもうすっかりいつもの調子を取り戻して噛み付いた。

「うるさい! 志波もアイツと戦ってみればいいんだっ」
「ある。つまみだした」
「つまみ……うげぇぇぇっ、志波エンガチョーッ!!!」
「例えだ例えっ!!」

 ぎゃあぎゃあ騒ぐに、勝己もいつものように怒り出した。
 ケンカップルかお前ら。

 と思ってたら、いきなり勝己がを抱き上げた。
 うおっ、ほんとお前、唐突にしでかすよな!

「なっ、志波なにする」
「立てないならおとなしく運ばれとけ」
「荷物扱いするなっ!」
「姫扱いしてるだろ」
「は? 姫」
「……お姫様ダッコ」
「…………志波、頭ダイジョブ…………?」

 にやりと笑って言った勝己の言葉に、さすがのも口をぱかんとあけて唖然とする。
 読めねぇ。いままでストイックに自分を押さえつけてただけあって、勝己の次の行動が全然読めねぇ!!

 で。
 そのまま勝己は抗議をものともせず2階にを運んでいってしまった。
 にゃん、と若貴もそのあとをついていく。

 荒れたリビングに取り残されたオレ。
 外はもうだいぶ暗くなってきていた。
 今夜の飯は勝己のぶんも一緒に、だな。

 寿司、だな。このまま勝己とがうまくいくことを願って。
 うちの凶暴野生猫を手懐けられるとしたら、先天性動物好かれ体質のかっちゃんしかいねぇだろうし。

 勝己の物好きがこのまま続くことを祈って。
 オレは商店街隅の『はば鮨』の電話番号を検索するのだった。

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