「今日もばりばり売っちゃうよ! がんばろーね、水樹ちゃん!」
「うん、がんばろう!」


 小話4.in夜店のミルハニー 〜夏祭り編〜


 7月最終日曜日。
 金曜夜から始まったはばたき駅周辺の夏祭り。
 近郊商店街の店主たちが主催で、駅前通りに無数の屋台が立ち並んでる。

 勿論ミルハニーは昔っから参加してるお祭だ。
 最終日夕方ともあって、賑わいは最高潮!
 二日前から売り子として一緒に動いてくれてる水樹ちゃんも要領を得たようで、くるくると小さな体でよく動いてくれてる。

 っていうか可愛いんだ〜水樹ちゃん。
 夏祭りということで浴衣姿で接客してるんだけど、ママのお古を着てるとは思えないくらいしっくりきてて。

「熱帯夜に冷たいティーカクテルはいかがですか?」
「本日最終日の夏祭り限定ミルハニーの焼き菓子いかがですかーっ」

 パパとママはミルハニーて通常営業中。
 ミルハニー横の臨時露店で元気よく売り子をしてるのは私と水樹ちゃん……と。

「日本ノ夏〜キンチョーノ夏〜。本場イギリス人ガ認メタアイスティ、イカガデースカー?」

 飛び入り参加のくーちゃん。
 くーちゃんのわざとらしい片言日本語聞くたんびに、私も水樹ちゃんも噴出しちゃうんだよね!

「もぉぉ! くーちゃんおもしろすぎ! お陰で助かっちゃってるけどさ」
「ほんま? ちゃんとセイちゃんのお手伝い出来てボクも嬉しいわ〜♪」
「でもほんとびっくりしちゃった。まさか本当に来てくれると思ってなかったし」
「美少女二人とお仕事できるチャンス、むざむざと見逃すはずないやん。あっ、ソコノ道行ク旦那サーン、オイシイアイスティイカガデースカー?」

 カラフルなリボンと長い金髪をポニーテールにして、緑の浴衣を着て呼び込みをしてくれてるくーちゃん。
 くーちゃんは初日の金曜夜に偶然ここの前を通りかかったんだよね。
 紅茶の本場イギリスでも見たことないって言ってた紅茶のカクテルに興味深々でママを質問責めにして。
 その間も熱帯夜が続いていたせいで大盛況だった露店を忙しく回転させてた私と水樹ちゃんを見て。

「なぁなぁ、ボクも手伝ってええ?」

 なーんてこと言ってくれたんだよね!
 用事があるっていってた土曜日をはさんで今日の昼過ぎ、浴衣姿で来てくれたときは私も水樹ちゃんも手をとりあって喜んだ。

 去年の文化祭で覚えた接客術、得とご覧あれ〜♪ なんて。
 おかげで売り上げ上々です!

「それにしても今日も暑いよね。水樹ちゃんもくーちゃんも暑いの苦手じゃなかった?」
「うん。もう日も落ちてきたのに全然気温下がんないだもん。今日も熱帯夜確定だね」
「ボクも結構キツイ〜。でもセイちゃんとちゃんとパパさんママさんのためにがんばるで〜」
「うううっ、水樹ちゃんもくーちゃんもありがとうっ! 大好きっ!」
「ボクもちゃんとセイちゃん大好きっ!」
「わぁっ!?」

 いつもの調子で抱き合う私とくーちゃんの間に挟まれて悲鳴を上げる水樹ちゃん。
 暑かろうとなんだろうと、くーちゃんとハグハグは気合注入の大事な儀式だもんね!

 と。

 ちゃんチャンちゃんちゃらりーらーちゃらりらりー

 パパのおふざけで設定されてるミルハニー夏祭り出張所専用電話が鳴る。
 音楽は軍艦マーチだ。

「ありがとうございます、ミルハニー夏祭り会場です!」
『もしもし……か?』
「あれ志波っちょ?」

 ぱっと受話器を取ってよそ行き声で電話に出ると、聞こえてきたのは素敵バリトンの志波っちょの声。
 知り合いの名前が出てくーちゃんと水樹ちゃんもこっちを振り返る。

「どーしたの。今日部活だって言ってなかった?」
『ああ。今終わった。……売り上げどうだ』
「超可愛い看板娘二人と飛び入りイケメンボランティアのお陰で上々でっす!」
『……』
「あれ? もしもーし?」
『……ああ、悪い。どこから突っ込めばいいか迷った』

 冷静に言う志波っちょ。

『……イケメンボランティア?』
「そそ! 水樹ちゃんもちゃんもメロメロの」
『……』
「わ、ごめん冗談。くーちゃんが手伝いに来てくれてるの。水樹ちゃんはいつも通りだから安心してよ」
『……何も言ってない』
「またまたぁ」
『切るぞ』
「あああすいませんしたっ!! それよりわざわざ電話までかけてきてどうしたの? 水樹ちゃんに替わる?」
『いや』

 そこで志波っちょは言葉を切る。
 話が終わったわけではないみたい。通話口の向こうから言おうか言うまいかためらってるような気配が伝わってくるし。


「なになに?」
『その……売り上げ、予算とかあるのか?』
「んー一応目標はあるけど」
『達成できそうか?』
「うん、水樹ちゃんとくーちゃんのお陰でとんとん、ってとこかな? 今夜も暑くなりそうだし、夜になったらまた売れ行き伸びると思うし」
『……そうか』
「うん……?」

 志波っちょ、何が言いたいんだろ?
 気を利かせろっ。相手の言いにくいことを察してこその商売人っ。

『……売り上げが大幅にいきそうな気配はあるのか?』

 ……。

 ぴんと来た!

 私はコードレスホンの通話口を手で覆って、水樹ちゃんとくーちゃんには聞こえないように声を潜める。

「微妙なとこかな。でも大幅に売り上げ予算クリアしたら、勿論がんばってくれた水樹ちゃんにはバイト代のほかに大入り袋出しちゃうよ!」
『……そうか』

 通話口の向こうから、志波っちょの安堵の声が聞こえた。
 ふふふ〜ビンゴ! もう志波っちょってば、本当に過保護というか水樹ちゃんにめろりんきゅーというか。

「今日このあと志波っちょ来てくれるんでしょ? 限定菓子志波っちょ用にわけて包んであるからとりに来てね!」
『ああ、サンキュ。……じゃあミーティングあるから、切るぞ』
「はいはーい、お待ちしてまっす!」

 見えるわけでもないのに私は電話向こうの志波っちょにぺこっと頭を下げて手を振った。

 ぴっと電話を切って、お客さんを見送っていた水樹ちゃんとくーちゃんの肩を叩いて。

「志波っちょから! これから様子見に来てくれるって!」
「ほんま? よかったやん、セイちゃん。可愛い浴衣姿お披露目できるや〜ん♪」
「べ、別に私に会いにくるわけじゃないじゃない! や、やだなぁクリスくんてば!」
「いやん、乙女な反応しちゃって水樹ちゃんたら〜。らぶらぶ〜♪」
「ほんまらぶらぶや〜♪ 羨ましいからボクらもらぶらぶせぇへん? ちゃん」
「するする! ひと夏のアバンチュールだね、くーちゃんっ!」
「ぴったんこー!」
「らぶらぶー!」
「……とクリスくんて、本当に最高相性だよね……」

 くーちゃんと腕組みして、るんるんとラインダンスを踊る私を、水樹ちゃんは半ば唖然として見てた。


      ☆★☆


「やや? そこにいるのはもしかしてさん?」
「ほんとだ、じゃん。浴衣着て何してんだ?」
「あれ? 若王子先生にハリー……にリッちゃん? ……どうしたんですか、珍しい取り合わせで」

 その後も精力的に売り子を続けて、水樹ちゃんとくーちゃんが補充商品をミルハニーに取りに入ったときだった。
 駅方面から連れ立って歩いてきたのは紛れもなく担任の若王子先生とロックなハリーとクールなリッちゃん。

 ハリーとリッちゃんは音楽のことで話合うみたいでたまに話し込んでるとこ見かけるよね。
 若王子先生とリッちゃんは自他共に認める師弟漫才コンビで。
 でも若王子先生とハリーの接点がよくわかんない。

「もしかしてこれ縁日?」
「そうそう。この辺で毎年夏祭りやってるんだよ。一杯いかがですかっ?」
「いーな! ちょうどシャウトして喉渇いてたし! うまいの淹れろよっ」
「私も欲しい。ティーカクテルって初めて見る」
「やや、先生もです。さん、先生にも1杯ください!」
「お買い上げありがとうございます! 3杯で1500円です!」
「……」
「……」
「えーと……やっぱり先生が奢らなきゃならないんですか?」
「たりめーだろ社会人。このくらいサクッと奢れよな!」
「若先生カッコ悪っ」
「とほほです……」

 がっくり肩を落としながら、若王子先生はがま口財布から2ヒデヨとりだして私に手渡した。
 っていうか、容赦ないコンビだなぁハリーとリッちゃんって……。
 のほんとぽやんとした若王子先生がこの辛辣な二人と一緒って、なんだかちょっと気の毒な気もするかも。

 私は手早く3杯分のティーカクテルを入れる。
 セイロンティとオレンジとハチミツを炭酸で割ったティーパンチ。暑い日にはこれがいいのだ。

「ところで3人揃ってどうしたの? まさか3人で出かけてきたわけじゃないでしょ?」
「いえいえ、3人で出かけてきた帰りなんです」
「えぇ? どこ行って来たんですか?」
「ロックライブ」
「ろ……えぇ??」

 ティーカクテルを手渡しながらリッちゃんが言った言葉に目が点になる。
 ロックって、ハリーやリッちゃんはわかるけど、若王子先生が?

 ちぅーとストローでティーカクテルを飲みだした二人に代わって、若王子先生が私の疑問に答えてくれた。

「最初は針谷くんにお説教してたんです。こら針谷くん、音楽もいいけど勉強もね、って」
「はぁ。それがどうしてロックライブに?」
「そこは先生もよくわからないんですが」

 って。そこで天然炸裂しちゃいますか、若王子先生っ。

「それで今日針谷くんお気に入りのバンドのライブに行くことになって。たまたま臨海公園にお散歩に来てた大崎さんも誘って、3人で行って来たんです」
「へぇ〜。若王子先生ってロックなんて聞くんですね?」
「先生流行にはちょっとうるさいですよ?」

 えっへんと胸をそらす若王子先生。
 でもすぐに意気消沈して。

「でも大崎さんは突然誘ったものだから、大崎さんのライブチケットは先生が払うハメになっちゃったんです……。ハァ、来週からは定食屋さんでの晩御飯ランクダウンしないと……」
「リッちゃん……」

 や、やっぱそうでしたか……。
 がっくりと肩を落としてしまった若王子先生を元気付ける意味で、私は先生の青シャツの胸ポケに限定焼き菓子を1個、そっと入れてあげたのでした。


      ☆★☆


 若王子先生とハリーとリッちゃんを見送ったあと、薄暗くなり始めた駅前はさらに賑わってきた。

「焼き菓子2つとオレンジティーカクテル2つですね? ただいま用意いたします!」
「おまたせいたしました! ミントティーカクテルでお待ちのお客様!」
「1200円頂戴します〜。毎度、おおきに!」

 夏祭り縁日入り口に位置してるミルハニー露店は一気に大繁盛!
 まずは冷たいもので喉を潤してから、なんて考えてるのかお客さんの列がずらっと出来てしまった。

「水樹ちゃんくーちゃん、スピードアップがんばろう!」
「おっけー!」
「合点承知の輔やで、ちゃん!」

 返事してくれる二人の手際に不備はない。っていうか、むしろかなり手際がいい。
 でもでも人の列がすごいことになってきちゃった。
 ああ、これちょっと整理しないと他の人に迷惑になっちゃうかも!
 でもここで私が抜けたら余計に回転悪くなっちゃうし……!
 あ、列が隣のお店の方に延びちゃった!

 どうしよう!

 と、そこへ。天の助けが!

「すいません、隣のご迷惑になりますからこちらの店舗駐車場の方に並んでいただけますか?」
「ユキ!?」

 聞こえてきた声に背伸びして見れば、そこには予備校帰りと思われる格好をしたユキの姿!
 丁寧な言葉遣いでだらだらと延びてたお客さんの列を、ミルハニーのせまい駐車場の方に誘導してくれてる。
 ユキはちらっと私を見て、ぱちんとウインクしてくれた。

 くらっ。

ちゃん、私にも手伝わせて?」
「へ……あかりちゃん!?」

 ひさしぶりに見るユキのチャーミングな笑顔に思わずノックアウトしかけて。
 現実に引き戻してくれたのは、あかりちゃんだった。

 あかりちゃんはぐいっと腕まくりして、ストックの紙コップを取り出してくれる。

「予備校帰りに赤城くんに偶然あったの。そしたら、ミルハニーが縁日出してるはずだから行ってみないかって」
「そうだったんだ! 遊びに来たのに手伝ってくれるの? ありがと〜!」

 なんてありがたい申し出!
 私は手を動かしながらもあかりちゃんにお礼を言って。

 でもあかりちゃんは、なんだかすまなそうに眉尻を下げた。

「あのね、二人でミルハニーに行くの、やっぱりちょっと迷ったんだけど」
「……気にしないで、あかりちゃん。素直に嬉しいよ、来てくれて。バイト代のかわりにあとでティーカクテルあげるからね!」
「うんっ……ありがとうちゃんっ」

 珊瑚礁での一件を気にしてたんだろうあかりちゃんも、笑顔を見せてくれた。
 大丈夫、今はもう苦しさなんてほとんどない。

「あかりっ、来てくれて助かったよー!」
「天の御使いやな! あかりちゃん、頼りにしとるで?」
「まかせて! いらっしゃいませっ!」

 水樹ちゃんとくーちゃんもほっとしたような笑顔を浮かべて。
 あかりちゃんはそのまま接客応援に入ってくれて、誘導係りをしてくれてたユキも一段落ついたところで合流してくれた。

「今年も大盛況だな、ミルハニーは」
「まーあねー! 看板娘ががんばってますから!」
「ああ、水樹さんだっけ。似合ってるよな、浴衣姿」
「それひどくないですか一雪先生……」
「ははっ。も似合ってるって。……元気そうで安心した」

 ユキもあかりちゃんと同じようなこと言って。
 もしかして、ユキも心配してくれてたのかな。
 それで夏祭りを口実に、同じく気にしてたあかりちゃんを誘って来てくれたのかも。

 なんかもう、佐伯くんにしろユキにしろあかりちゃんにしろ、私の友達ってみんな優しくって幸せな気分になっちゃう。

「夏休み入る前はバスロータリーで毎朝会ってたじゃん。ちゃんはいつでも元気なのですよ!」
「そうだった。夏はの季節だもんな?」
「うん! ほらほら、ユキも無駄口叩いてないで接客接客!」
「僕も手伝うのか? ちゃっかりしてるよな、は」

 呆れた様子をみせながらも、ユキも販売応援に入ってくれて。

 ピークをなんとか乗り切って、私たちは全員でハイタッチ!
 いきなり働かされたユキとあかりちゃんに感謝のティーカクテルを提供して。
 二人はそのまま一緒に夏祭りの中に消えて行った。

「あの二人、知り合いだったんだね」
「男の子の方、去年ボク会うたことあるやんな? 人の縁って不思議なもんやね〜」

 二人を見送る水樹ちゃんとくーちゃんの隣で、私も温かい気持ちで二人の背中を見送った。


      ☆★☆


「……あれ?」

 ごしごしと目をこする。

「どないしたん?」
「なんか……疲れてるのかな、幻が……」

 しっかりと目をこすってから、もう一度ぱっと見ると。

 やっぱり幻なんかじゃなくて、まぎれもなくそこにいたのは。

「佐伯くん?」
「え? 佐伯くんって、あの佐伯くん?」

 水樹ちゃんも驚いたように私が見ている方向を振り返る。

 はばたき駅方面の人ごみ。
 ミルハニー手前の電柱の影。

 やっぱりそこにいたのは見間違うはずもなく佐伯くんだった。

 あ、見つかった! って顔した。
 でもすぐにいつものポーカーフェイスを取り繕って近寄ってくる。

「や、やぁ。偶然だね」
「えーと、うん、ほんと偶然! どうしたの佐伯くん。この辺になにか用事?」

 いい子モードの佐伯くんに、とりあえず調子を合わせてみる。
 どうしたんだろ。何か急用かな?

「こっちの方で夏祭りやってるって聞いたから来てみたんだ」
「そうなんや〜。瑛クン、よかったら食べてみぃひん? めっちゃおいしいんやで、ミルハニー特製ティーカクテルと夏祭り限定焼き菓子!」
「へぇ……ティーカクテルか……」

 佐伯くんは物珍しそうにティーカクテルのメニュー板をのぞきこんだ。

 うーん……さすがにくーちゃんと水樹ちゃんの前じゃイイ子モードを崩せないか。
 仕方ない。
 私は手早くパインとハイビスカスティのティーカクテルを注いだ。
 そして露店を抜け出して佐伯くんにソレを差し出す。

「はい佐伯くん、プレゼント! うちのオススメティーカクテルだよ」
「え? いいの?」
「うん、いーのいーの! だって佐伯くんだもん。ねー水樹ちゃんっ」
「えぇ? う、うん……いいのかな?」

 いきなり話を振られた水樹ちゃんはしどろもどろに答えて。

「というわけでくーちゃん、水樹ちゃんっ。はこれからはね学プリンスを夏祭り案内してまいります! ちょっとの間よろしくねー!」
「えぇ!? もう、ってばミーハーなんだから!」
「あか〜ん、ボクの恋人瑛クンに奪われてしもた〜」

 きょとんとしてる佐伯くんの背中を押して、私は強引に店を離れる。

 2件先のお店の角を曲がって、袋小路の入り口に入ったところで足を止めた。

「ここなら水樹ちゃんとくーちゃんに気兼ねしなくていいよ、佐伯くん」

 くるっと佐伯くんの方を振り向いたら、振り下ろされる右手が目に飛び込んできた。

 ずべしっ!!

「アイタッ! な、なんでいきなりチョップ!?」
「なんだよ、あれ。ボクの恋人、って……」

 頭を押さえて見上げた佐伯くんは、さっきまで張り付かせていた笑顔はどこへやらの不機嫌絶頂顔。
 ううう、ホント難しいお人だなぁ……。

「今日だけくーちゃんと私カップル宣言したんだよ」
「……なんで」
「なんかねぇ、これから水樹ちゃんに会いに志波っちょが来るらしくて。それ聞いた私とくーちゃんが、いや〜んらぶらぶうらやまし〜! って意気投合して。じゃあ今日は負けじとひと夏のアバンチュールだ! ってぴったんこ宣言」
「お前……よくそういうこと平気で出来るよな?」
「いーじゃん、くーちゃんイケメンだし!」
「ミーハー」
「言われなれてるからいいもんっ」

 どーだと胸を張れば、佐伯くんは心底呆れたようにため息をついた。

「それよりどうしたの? 本当に夏祭り見に来たの?」
「……見に来ちゃ悪いか?」
「そんなことないけど」

 今度は決まり悪そうにそっぽを向く佐伯くん。
 髪を掻きあげて、口をとがらせて。

のことだから、夏祭りきっと張り切ってんだろうなぁと思ってさ。でも週末ずっと暑かったし、へばってるんじゃないかって」
「わぁ、心配してくれたんだ?」
「……と思うと思ったら大間違いだ」

 またまた佐伯先生ってば。
 ほっぺが赤いですよー?
 かーわーいーいーってばもぉぉぉ!!

「ということは手伝いに来てくれたんだよね? もう人手足りなくて困ってて!」
「なんでオレが手伝わなきゃならないんだよ。ていうか無理だ。こんな暑い中愛想笑いし続けられるか」
「そっか、そうだよね。水樹ちゃんとくーちゃんも一緒だもんね」
「そうだ」

 佐伯くんはうんうんと頷いて。

 でも、ちょっとだけ素直な表情を覗かせて。

、張り切りすぎるなよ? ちゃんと水分補給してるか?」
「うん、ばっちり! 毎年やってるからペース配分もわかってるし大丈夫だよ」
「ああ、ならいい。じゃあオレもう帰る」
「もう? あそっか、珊瑚礁も仕込み入らなきゃいけないもんね」
「うん。……手伝えなくて悪かったな」
「そんなこと。様子見に来てくれただけでも超嬉しー! だもん。じゃあね、佐伯くん!」
「ああ、がんばれよ、!」

 最後はにっと笑顔を見せてくれた佐伯くん。

 あああ癒されるなぁ、はね学プリンスのさわやかスマイルは〜……。
 夏祭り終了までもうひとふんばり!
 がんばるぞっ!


      ☆★☆


 そして宣言通り志波っちょはやって来た。
 ……野球部の大群引き連れて。

「オススメティーカクテル27杯と限定菓子27個」
「えええ!? って志波っちょ、これ一体何事?」

 とりあえず言われたとおりの分量作るけどさ。
 ミルハニーの狭い駐車場ははね学野球部員に占領されて一気に賑やかになっちゃって。
 出来上がったものからくーちゃんと水樹ちゃんがトレイに乗せて運んでる。

「予算大幅クリアで大入り出るんだろ?」
「うはぁ……愛は地球ならぬ勤労学生を救うだね、志波っちょ……」
「言ってろ」

 ストローを加えながら水樹ちゃんを目で追ってる志波っちょ。
 まぁ売り上げが伸びることはミルハニーとしても万々歳だからいいんだけどさ。

 いいいいいいなぁぁぁ……。
 こういう甘酸っぱさ全開! って感じの恋愛してみたいよー!!

 そこに、野球部員の追撃を逃れながら水樹ちゃんが戻ってきた。

「志波くん! 部活お疲れさま!」
「ああ。水樹もお疲れ」

 志波っちょの前で、安心しきった笑顔を浮かべる水樹ちゃん。
 そして志波っちょのほうも滅多に見られない柔らかい表情をしてた。

 ここで水樹ちゃんに次よろしくーなんて言うのは野暮天の極みだよね?
 私は出来上がったティーカクテルの残りをトレイにのせて、たむろう野球部員に届けにいった。

「お待たせしましたー! まだ飲んでない人ー?」
「はいはーい、こっちこっち! なぁっ」

 2年生のかたまりに呼ばれて、私はトレイを持ったままそっちに歩み寄る。

「あれなんなんだよ!? 志波と水樹さんってそうなわけ!?」
「ご愁傷様。まだだけど、限りなくそうなわけに近いと思うよ」
「ありえねー! オレたちのアイドルがなんでよりにもよって志波となんだよ!?」
「無口のくせに!」
「無愛想のくせに!」

 あはは……ここまでおおっぴらに叫んでたら悪口陰口に聞こえないよね。
 仲いいんだなぁ、野球部って。

「こうなったらオレたちに残された道はひとつ!」
「おうっ、水島さんにかけるしかないっ!」
「あ、その話ボクも混ぜてんかー?」
「あっ、クリスてめぇっ! いっつも水島さんにべたべたしやがってこのヤロウっ!!」

 嫉妬の矛先はくーちゃんに向かい、あとは怒涛の鬼ごっこ。

 あーもう。みんな青春してるんだなぁ……。
 くうう、私も早く次の青春相手見つけなきゃっ!


      ☆★☆


 そんなこんなで夏祭りは無事終了した。
 くーちゃん、ユキ、あかりちゃん、志波っちょと野球部一同の飛び入り応援の甲斐もあって、予算は大幅クリア!
 水樹ちゃんには晩御飯と一緒に大入りも提供できたし、今年は改心の出来だったかも!

「何かいい短期バイト見つけたらまた連絡するね」
「セイちゃん、ボクも応援するで?」
「ありがとう二人とも! なんとか修学旅行いけるようにがんばるね!」

 すっかり遅くなってしまって、水樹ちゃんはくーちゃんを迎えに来たおっきな外車に乗せられて帰っていった。

 さぁ、夏はまだまだ始まったばかり!
 8月も大いに遊び倒すぞーっ!

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