ちゃ〜ん、コンニチハー」
「こんにちは、さん。テストが終わったから来ちゃった!」
「あっ、くーちゃんに密っち! いらっしゃいませー!」


 小話3.inミルハニー 〜クリス&水島編〜


「うわぁ、さん可愛い小紋ね! 似合う〜!」
「ありがと密っち! 今週一杯までひなまつりにちなんで和装制服なんだよ」

 学校帰りに寄ってくれた密っちとくーちゃんの3人で手を合わせてぴょんぴょんと飛び跳ねる。
 もう、この二人と一緒にいると楽しくて仕方ないんだよね!

 私は桜柄の小紋を襷がけして、レトロな白いエプロンをして。
 ママも似たような格好で扇柄、パパは単着物に長羽織でどこぞの老舗の旦那風だ。
 こんな格好で出してるのは生クリームたっぷりケーキに紅茶っていうんだから。
 合わないにもほどがあるけど、そこはご愛嬌!

 私はくーちゃんと密っちをローソファの席に案内した。

「くーちゃんと密っち、テスト明けは必ず来てくれるんだもん。お客様は神様です!」
「だってテスト勉強したあとって、甘いものたべたくなるじゃない?」
「そやそや。氷上クンやチョビちゃんも言うとったもんな? 疲れた脳には甘いもの〜て。ちゃん、今月のオススメなんなん?」
「今月はもちろん苺です! 定番の苺ショートのエクセレントバージョンと、ママの特製苺紅茶がメニューに載っちゃってるのだ!」
「ミルハニーの苺ショートって、本当においしいのよね〜。私、それにしようかなぁ」
「じゃあボクはー……このもりもり苺タルトにしよ!」
「注文ありがとうございまーす! 今月のケーキとタルト入りまーす!」
「「おっけ〜い♪」」

 パパとママの声がハモって響き、それに合わせてくーちゃんが体を横に倒すものだから、私と密っちは思わず噴出しちゃった。

「そういえば、明後日はホワイトデーやんな? ボク、今日と明日でお返し用意しようと思っとんやけど、二人ともなんかリクエストあるん?」
「そういえばそうだった。でも私、あんなちっちゃいチョコしかあげてないのに、お返し貰うのは気が引けるな」
「そんなことあらへんよ? ボクとちゃんの友情にちっちゃいもおっきぃもあらへんやろ?」
「あーもーくーちゃんてばどうしてそんな胸きゅんな台詞が言えちゃうのかな〜」

 ね? と密っちを見れば、密っちは口元を押さえてくすくすと笑ってた。

「密っちは誰かチョコあげた?」
「勿論よ。家族と、クリスくんにもあげたものね?」
「密ちゃんのチョコ、めーっちゃおいしかったんやで、ちゃん。ミルハニーのガトーショコラよりおいしかった気がする」
「おや、それは大変だ。うちの売り上げが減ってしまう」

 ありがとなー♪とらぶらぶな雰囲気全開で密っちに微笑みかけてるくーちゃんの横から、綺麗に盛り付けられたケーキが出てくる。
 あれ、今日のウェイターはパパなんだ?
 いつも私の友達が来たときはママが来るのに。

「今度是非とも水島さんのチョコを食べてみたいものだね。はい、お待ちどうさま」
「もうマスターったら。フランスショコラティエの修行してきたマスターに敵うわけないじゃないですか」
「いやいやいや、そこはほら、プロと言えども愛情と言う名の甘味料は入れられないから」
「お、、うまいこと言うじゃないか」
ちゃんウマイ! チオビタ1本!」
「クリスくん、それを言うなら座布団一枚よ?」

 ああもう和むなぁ……。

 密っちもくーちゃんも、見た目からして癒し系なのに、口を開けば気分が弾んでくる話題ばっかりでてきて。
 ユキやあかりちゃんや佐伯くんや、最近あったもやもやしたもの全部吹き飛ぶカンジ。

「そういえばパパ、ママは? お茶が来ないんだけど」
「今来るよ。ちょっと準備に手間取ってるみたいだね」
「準備って……」

 いつもはとろとろぽやんとしてるママだけど、お店のことに関してはきびきびしてるのに。
 めずらしー。
 ……と思ったら。

 急にお店の照明が落ちた。
 いや完全に落ちはしなかったけど、天井の明かりが消えて、カウンターや窓横の間接照明だけになって薄暗くなってしまった。

「うわわ、どないしたん?」
「停電、じゃないのよね? どうしたのかしら……」

 きょろきょろと周りを見回すくーちゃんと密っち。
 他のお客さんも一様に同じことして、マスターであるパパを見てる。

 けど、常連さんはにこにことしてこっちを見てた。

 ……あ! そっか!!

 お店の音楽までもが止んでしまってから、私はようやく状況を理解した。

「お待たせ〜♪」

 厨房の奥からママの声が届く。
 両手で持った大きなトレイ。
 その上には。

「わぁ、綺麗!」
「ほんまやね! ブランデーグラスに花火が刺さっとるん?」

 大き目のブランデーグラス2つにたくさんのベリーが詰められて、そこに並々と注がれたストロベリーパンチ。
 そしてそのグラスの横にはパチパチと鮮やかな火花を散らしている花火が2本。

 これぞミルハニー裏メニュー、お祝いスパークリング!

 私は立ち上がって、常連さんたちに目で合図して歌いだした。

「ハッピバースディ、トゥーユー!」
「へ?」
「ハッピバースディ、トゥーユー!」
「誰か、誕生日なの?」
「ハッピバースディ……」

 私はくーちゃんと密っちの後に回りこんで、二人の肩を叩いた。

「くーちゃんと密っち!!」
「「えぇ!?」」
「ハッピバースディ、トゥーユー!! おめでとうっ!」

 歌い終わりとともに、手馴れた常連さんたちが音だけのクラッカーを鳴らしてくれた。
 状況を理解したほかのお客さんも拍手してくれる。
 突然の出来事に目を丸くして絶句してるのは、くーちゃんと密っちだけだ。

「お待たせ〜! クリスくん、水島さん、お誕生日おめでとう! じゃなくて、おめでとうございました、ね?」
「……これ、ボクと密ちゃんのために?」
「そんな、私の誕生日なんてもうひと月も前だったのに」
「いいじゃない、くーちゃんも密っちも! おめでたいこと祝うのに遅いも早いもない! 2月はバレンタインとかテスト前とかいろいろ忙しくて学校でもお祝いできなかったし。……って、ママが覚えててくれたから私も今お祝いできるんだけどね」
が友達の誕生日をうっかりするなんてめずらしいな」

 だって2月はいろいろありましたから……。

「ともあれ」

 いまだぽかんとしてるくーちゃんと密っちに、パパとママと私、ミルハニースタッフ勢ぞろいで。

「誕生日おめでとう、二人とも。いつもと仲良くしてくれてる二人に私たちからのささやかながらのお礼の気持ちだよ」
「苺のおいしい季節に誕生日でよかったわ〜。自信作なのよ。さぁ召し上がれ!」
「くーちゃんも密っちも、引き続きよい友情よろしくお願いシマス」

「「「以上、ミルハニーのハッピーサプライズでしたっ♪」」」

 最後は3人で、常連さんにはおなじみの腰に手を当てて体を横に倒すポーズをとって。

 ……佐伯くんあたりが見たら「正気か?」とか言われそうなノリではあるんだけど。

 ほら、そこはくーちゃんと密っちだもん。
 ぱぁぁと頬を染めて、きらきらと瞳を輝かせて。

「うわぁ……ボク、こんな嬉しいバースデー初めてやわ……おおきに、ちゃん、パパさん、ママさんっ」
「本当! ありがとうございます!」

 手を取り合って喜んでるくーちゃんと密っちを見てたら、こっちも胸がいっぱいになる。
 ああ、自分のしたことで友達が喜んでくれるのって、本当にこの上ない幸せだ。

「残しちゃだめだよっ! 全部食べるまで帰さないからね、二人とも!」
「食べる食べる! いただきますっ!」
「私も! さん、いただきまーす」


「テストも終わっちゃったし、もうすぐで1年生も終わりだね? 今度は2年生かぁ」
「早いわね〜。なんだかあっという間の1年だった気がするな」
「そやね。2年生になったら、ちゃんと密ちゃん、どっちも同じクラスになれるとええなぁ♪」
「うわ、そうなったら毎日が癒し&ハッピー! これにぱるぴんとハリーが加わったら完璧かも!」
「勿論担任は若王子先生なんでしょう?」
「そうそう! あは、でも若王子先生が担任じゃ、このメンバー押さえきれないかも」
「言えてる〜! うふふ、リツカ一人でもてこずってるのにね?」
「このメンバーにリツカちゃんが加われば、芸術系クラスの出来上がりやね!」
「あ、ほんと! それほんとにいい!」

「なぁなぁ、話戻るんやけど、ホワイトデーなんでもいいん?」
「くーちゃんが一生懸命考えてくれたお返しならなんでも嬉しいよね? 密っち」
「もちろんよ。クリスくんの気持ちがこもったお返しなんて素敵……」
「やだなぁ、ここの二人のラブっぷりには〜。……あ、ラブっぷりで思い出した。くーちゃん、志波っちょと仲いいよね?」
「志波クン? なぞなぞ仲間やけど、なんなん?」
「なぞなぞ……うん、それはいいんだけど。ズバリっ! 志波っちょと水樹ちゃんってどうなの!?」
「きゃあ、さんもそう思う!? やっぱり怪しいわよね、あの二人っ」
「だよね!? 学年末テストの救急車事件!」
「風邪をこじらせて登校中に倒れたセイさんを、志波くんが救護!」
「ドラマみたいだよねー!!」
「そうよねー!!」
「えぇとぉ……ボク、男の友情も守らなアカンから……ゴメンなさいっ!」
「(クリスくん、その返答、肯定してるのと同じだって気づいてない……?)」
「(だからくーちゃんてば大好きっ!!)」

「そういえばさんはどうなの? 例の彼とはうまくいってる?」
「あ、あぁ〜それは……はは、駄目になっちゃった」
「ええっ、そうなの!? どうして!?」
「うん、ユキがもう完全に向こうを向いちゃって。雨宿りの君も、どうやらユキのこと好きみたいなんだ。だから、完全失恋しちゃったの」
さん……ごめんなさい、私、余計なこと言っちゃったわね」
「ううん、気にしないでよ密っち! 今は前向きに気持ち切り替え中なんだから!」
ちゃん、失恋したん?」
「そうなのくーちゃん〜」
「アカン、こ〜んな可愛いちゃんの魅力がわからんなんて、男やないで? よしよし、ボクの胸でたんとお泣き〜」
「ううう、くーちゃん優しいっ! 大好きっ!」
「ボクもちゃん大好きっ!」
「だ、だ、誰だっ! うちの娘を泣かした不貞の輩はっ!?」
「うわっ、パパは乱入してこなくていいんだってばっ!!」


 そんなこんなで。
 いろいろあった2月を吹き飛ばすくらいに、くーちゃんと密っちは楽しい春の嵐をプレゼントしてくれて。
 またまた6時近くまで話し込んだあと、二人は何度もパパとママにお礼を言って帰って行った。

 友達っていいよなぁ。
 とくにはね学で出来た新しい友達って、みんなとってもいい人ばかりだもん。
 辛いことがあったって、忘れさせてくれる。

 私も、佐伯くんの辛さを吹き飛ばしてあげられるといいんだけど。
 ホワイトデー明けにでも、佐伯瑛励まし作戦第2弾とでもいこうかな!

 ……その前に盛り上がっちゃった志波っちょ&水樹ちゃんのラブの行方をリッちゃんあたりに探り入れとこう。


 今日は久しぶりにハッピーな日記が書けそうかも!

Back