「……で、これはなんだ?」
「ちょ、チョコレート、デス」
「……で、これを誰に渡すって?」
「さ、佐伯サマです」
ずべしっ!!
「いったーいっ!!」
「お前、こんなの食ったら一発で死ぬだろ!?」
〜ハッピーバレンタイン 佐伯&編〜
ううううう……。
私は今までくらったことのない最凶チョップを脳天にくらって、頭を抱えてうずくまった。
ひ、人の努力の結晶をいきなり全否定された……。
でも、それも無理ないかも。
私だって『こんなの』プレゼントされたら、その人との絆を疑っちゃうもん。
って、今まさに佐伯くんがその気持ちなんだろうけど。
私は目の前で氷の微笑みを張り付かせてる佐伯くんをちらりと見てから、テーブルの上の『ソレ』に視線を戻した。
……見るからに恐ろしい、原型を留めていない、炭化したガトーショコラ……
「むしろ感心する。これをそのままオレに持ってくるその無神経さに」
「ううう、ちゃんの努力の証を見てもらおうと思って〜」
「結果がともなわなきゃ努力なんて無駄だ」
「ひどっ!! 何事も過程が大事なんだよ!」
「今日この日にコレを目の前にして言う台詞か?」
「うっ……ぐうの音も出ないデス……」
だ、だめだ。何の言い訳も通用しないっ。
ひたすら小さくなって佐伯くんの怒りが静まるのを待つしかないかも。
その佐伯くんは、私が持ってきたプラスチックのフォークで炭ガトーをつつく。
音もなくさらさらと崩れ落ちる炭ガトー。
「…………」
「…………」
ち、沈黙が痛いです。
「お前なぁ」
はぁ、と佐伯くんがため息をついた。
ため息は佐伯くんの気持ちが切り替わった合図。どうやらお怒りは解けた、かな?
「どうやったらここまで綺麗に炭化できるんだよ? オーブンに入れてから寝てたのか?」
「それがね……」
もじもじと胸の前で指をいじりながら、可愛らしく小首を傾げて。
「ユキやヒカミッチや、他の子にあげるチョコの準備に没頭しちゃって、気づいたら火を噴いてたの。てへっ」
「てへっ、で済むか!! お前っ、ミルハニーごと焼くところだったのか!?」
「ううう、それは昨日散々パパに怒られたんだから、佐伯くんは勘弁してよ〜」
「ヤダ。オレのチョコをないがしろにして、他のヤツにやるチョコにかまけてるからだ。……結局、オレのだけ駄目にしやがって」
むすっと口を結んで、佐伯くんはそっぽを向く。
か、可愛いなぁ……。
……いやいやいや、今はそんなきゅんとしてる場合じゃなくて。
「もー機嫌直してよー。ちゃんと明日完璧なの作ってくるから!」
「ウルサイ。今日じゃなきゃ意味がない」
「お願いだってばー。ね、テルたん♪ 許して?」
佐伯くんが向いてる方に回り込んで、カメリア倶楽部直伝の上目遣いで手を合わせる。
すると佐伯くん、かぁぁとたちまち顔を赤くして、今度は逆の方をぷいっと向いたものの。
「……か」
「か?」
「可愛かったから、許す……」
ってもぉぉぉ、佐伯くん可愛くってたまんないーっ!!
「な、なんだよ。ニヤニヤして、気味悪いヤツ」
「もう、なんでそういう憎まれ口叩くかなぁ。ニヤニヤじゃなくてニコニコしてるの!」
「……そっか」
「明日はちゃんとスペシャルガトー作ってくるからね。期待してて!」
「よし、がどれだけ腕あげたか批評してやる。及第点取れなかったら、ホワイトデー無しだからな」
「ひどっ! くぅぅ、絶対ぎゃふんと言わせてやるっ!」
「ぎゃふんって……お前いつの時代だよ」
言いながらも、佐伯くんはすっかり機嫌を直してくれたようで笑ってくれた。
うん。
やっぱり佐伯くんの、素直に笑ってる顔が一番好き。
「なぁ」
「ん?」
「明日、またここでな?」
「うん?」
「チョコ、一緒に食べよう。な?」
「うん!」
……こうやって、素顔をさらけ出してくれる佐伯くんが、好き。
翌日。
「……で、これはなんだ?」
「ちょ、チョコレート、デス」
「……で、これを誰に渡すって?」
「さ、佐伯サマです」
ずべしっ!!
「いったーいっ!!」
「お前っ、昨日言ってた完璧なチョコがこれか!? また炭ガトーかよ!?」
「昨日はパパがオーブン焼きつかせたんだってば!」
「は? マスターが? めずらしいこともあるんだな」
「じ、実は昨日、佐伯くんに炭ガトー見せたらめちゃくちゃ怒られたって話したら……」
「……おい」
「パパが、『の好意を無下にする男には炭ガトーで十分だ!』って、コレ……」
「あの親バカマスターにバカ正直に話すヤツがあるか!? ああ、オレまたしばらくミルハニーに行けないだろ!」
2代目炭ガトーを目の前に、佐伯くんはがっくりと肩を落としてしまった。
ううう、、なんという失態っ!
……ていうか、今回のは完璧パパに邪魔されたから私が悪いわけでも……ない、と思うんだけど……。
「ご、ごめんね? 明日っ、明日またちゃんと作ってくる! 名誉挽回、汚名返上の機会プリーズっ」
「ウルサイ。もういい」
「そんなこと言わないでよー。ね、ね?」
「明日まで待てない」
そう言って佐伯くんは鞄を持って立ち上がってしまう。
え、ちょっと待ってよ。
もしかして、本当に怒っちゃった?
「佐伯くん……」
慌てて私も炭ガトーを包みなおして追いかける。
すると。
佐伯くんはぴたりと立ち止まって、くるりと振り返って。
突然立ち止まったから、思わず衝突しそうになる。
「わわっ」
「お前、この後時間あるのか?」
「え? うん、あるけど」
佐伯くんはしばらくむすっとした顔して私を見てたんだけど。
やがてぷっと吹き出して、笑顔を見せてくれた。
「反省してるみたいだから許す。なぁ、オレん家こないか? ガトーショコラがどんなものか直々に教えてやる」
「ほんと!? やったっ、佐伯くんのケーキっ!」
「調子に乗るなっ」
両手を挙げて喜べば、佐伯くんも苦笑してぽすんと軽くチョップしてきて。
えへへ、嬉しかったからそのままぴったんこしちゃったりして。
「な、なぁ、そういうのは、人のいないとこで、な?」
「あ、佐伯くんてばやーらしーっ」
「なんでだよっ! あ、逃げるなっ!」
「先行ってるねー!」
私は捕まえようと伸ばした佐伯くんの手をするりとかわして駆け出した。
結局私のチョコは2回とも大失敗しちゃったけど、結果オーライだったかも!
そして私と佐伯くんは、仲良くぴったんこしながら佐伯くん家に向かったのでした。
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