見知らぬ番号からかかってきた電話に出てみれば。

『もしもし……か?』
「……へ? 佐伯くんっ!?」


 7.急な呼び出し


「わ、わ、わ」

 ごろ寝してたベッドから飛び起きて、はずみで携帯を取り落としそうになる。

『? もしかして、取り込み中か?』
「え!? ううん、全然! そうじゃなくて、びっくりしただけ。佐伯くん、どうしたの? ってか、私の番号どこから」
『あかりに聞いた』

 あ、そっかあかりちゃんから……。

 私は動揺を鎮めるために、胸をぱしぱし叩きながら部屋の中をうろうろと歩き回る。

 夏休み、切ない切ない花火大会から明けて翌週。
 友達との約束もたまたま何もなく、ぽっかりと予定があいたとある8月の1日。
 今日はゆっくりお休みデーにしよー……と思って朝からのんびりベッドで雑誌なんて読んでたんだけど。

 お休みモードも吹き飛んだ。も、完全吹き飛んだ。

「で、どうしたの?」
『ああ。なぁ、今日ひまだろ? 浜に行かないか?』

 ぴたり。
 思わず足を踏み出した状態で硬直してしまう。

 少々気にかかる言い回しもあったけれども、今の佐伯くんの言葉はあきらかに。

 うわあああああ!? もしかして私今っ、はね学プリンスにデートに誘われてるーっ!?

「行く! すぐ行くよ!」
『そっか、よかった。あ、ちゃんと水着持ってこいよ?』
「うん! 持ってく持ってく!」
『……間違えてもスクール水着なんておもしろいことは……』

 ぶ。
 さ、佐伯くん、いくらなんでも。

『いや……最近はそういうのもアリか……?』

 実はマニアック!!??

「さ、佐伯くん?」
『ん? ああ、いやこっちの話。じゃあ、珊瑚礁に集合な。急げよ!』
「うん! すぐ行くね!」

 電話が切れて、着歴から電話帳に即登録! はね学プリンスの番号ゲット!!

 よしっ、がぜん気分が上向きになってきた!
 花火大会でユキの恋愛相談もどきに乗ってからイマイチ下向きだった気分が、久しぶりにウキウキしてきたぞーっ。

「ママっ、ママっ! 私の水着どこだっけ!?」

 どたどたと階段を駆け降りながらも、私の意識はもうひと夏のアバンチュールへと吹き飛んでいた。
 夏万歳っ!!


 と こ ろ が 。

「やだやだやだやだ! そんな格好できないよっ!」
「うるさい。さっさと着替えて準備しろ」
「無理だってばー! ね、ちゃんも嫌だよね!?」

 るんるんスキップで珊瑚礁までやってきてみれば。

 カウンターの中に困り果てた笑顔でカップを拭いてるマスターがいて。
 その手前では頭にバンダナを巻いた接客スタイルの佐伯くんと、涙目になりながら必死で何かを拒んでるあかりちゃんがいて。

 私には何がなにやら。
 珊瑚礁のドアを開けた状態で、二人の言い争いをぽかーんと見つめていた。

 っていうか、佐伯くんの格好!
 水着にエプロン一枚ってなに!? その出血大サービスな接客スタイルは!?

「来たか
「あ、うん……来たけど、これは一体……?」

 私をちらりと見て、ふふんと鼻で笑う佐伯くん。

「珊瑚礁は今日から夏季の海の店バージョンだ。当然接客も夏の海バージョン。目玉は女子高生の水着エプロン接客だ!」
「……は?」

 女子高生の水着エプロン接客???

 ぐっと拳を握って高らかに宣言する佐伯くんに、私はあんぐりと口を開けてしまった。
 意外にも商魂たくましいな! 佐伯くんって!!

「やだよ、そんな恥ずかしいこと!」
「恥ずかしくない。水着エプロンの女子高生が珊瑚礁に与える経済効果を考えろ」
「瑛くんの鬼! 悪魔! 親父っ! スケベーっ!!」
「なんとでも言え」

 あらら……。

 私はこそこそと二人の脇を通ってカウンターに腰掛けた。

 あの温厚でぽやんとしたあかりちゃんがあそこまで佐伯くんをなじるのもめずらしい。
 よっぽど嫌なんだろうなぁ。まぁ、当然だろうけど。

 っていうか佐伯くん……あの電話の誘い文句で実はコレやれ、って。
 明らかに悪質人身売買組織の手口じゃないかなぁと思うんだけど。

「まぁまぁ、あかりさん、瑛。ここはひとつ、さんの意見も聞いてみようじゃないか」

 やれやれ、といった風で口を挟んでくるマスター。
 カウンターに両腕をついてもたれかかるようにして、私を見る。
 佐伯くんとあかりちゃんも同時に私を振り向いた。

ちゃんだって嫌でしょ!? 恥ずかしいよね、こんなの!」
、お前なら商売人が魂を売る瞬間があることくらいわかるよな!?」
「えーとぉ……」

 ふたりの熱い訴えに、カウンターの椅子からずり落ちそうになる。

 けど。

 私は佐伯くんとあかりちゃんの二人を交互に見た後。
 ぱしっと両手を合わせて頭を下げた。

 あかりちゃんに。

「ごめんっ、あかりちゃん! 今日は私、佐伯くんの味方だ!」
「ええーっ!?」
「よく言った! それでこそ商売人の娘だ!」

 私の言葉に、あかりちゃんは非難の声をあげ、佐伯くんはガッツポーズを見せる。

ちゃん! 水着で接客だよ!? 恥ずかしくないの!?」
「い、いや〜その〜……」

 がしっと私の腕を掴んで揺さぶってくるあかりちゃん。
 その目は「正気なの!?」と必死に訴えてくるんだけど。

 ご、ごめん、あかりちゃん。

「夏の浜辺で水着エプロン接客、どっちかって言うと私、燃えるかなーって」
「ええ!?」
「ほら、ミルハニーでもよくコスプレするし。ハロウィン魔女とかクリスマスサンタとか。水着エプロンはまだやったことないから、おもしろそうと思って」
「ははっ」

 唖然とするあかりちゃんの後で、佐伯くんが楽しそうに笑い出した。
 あ、マスターも声を殺して笑ってる。

「で? どうするんだあかり。2対1、いや、マスターを含めれば3対1だぞ?」
「ううううう」

 腕を組んで、偉そうにあかりちゃんに詰め寄る佐伯くん。
 対するあかりちゃんは顔を真っ赤にして、上目遣いで佐伯くんを睨んでいるけど、またこれが可愛いんだ。

「わかったよっ。やればいいんでしょ、やればっ……」
「よーし、いい返事だ。じゃあ早速着替えてこい」

 佐伯くんはむくれてるあかりちゃんの頭をぽんぽんと撫でて、私に二人分のエプロンとバンダナと手渡した。

「じゃ、着替えよっかあかりちゃん」
「ううう〜……」

 いまだ真っ赤な顔して頬を膨らませてるあかりちゃんの背中を撫でて、私たちはいつもの更衣室に移動した。

ちゃん、よくこんなことおもしろそうなんて思えるね?」
「あはは、私どっちかっていうとお笑い体質だから。……うわ、あかりちゃん、ビキニ!? イメージ的にワンピースだと思ってた!」
「そうなの〜っ。だからもう恥ずかしくてっ」
「あ、でも可愛いじゃない! フリルたくさん付いてて、あかりちゃんぽいよ」
ちゃんのもビキニだね?」
「でも私のはミニパレオつきだから」
「うわぁん、やっぱり恥ずかしいよー!!」

 きゃいきゃいと盛り上がりながら(というか盛り上がってるのは私で、あかりちゃんはむしろ盛り下がってたけど)着替えを終えて、頭にバンダナ巻いていざ出陣!

「隊長っ! 悩殺部隊、準備完了ですっ!」

 私の背後に隠れながらついてくるあかりちゃんとともに、元気良く右手を上げて珊瑚礁のフロアに戻る。
 カウンターで仕入れ材料のチェックをしてたマスターが顔を上げて、こっちを見るなりぱちぱちと拍手してくれた。

「やぁ、これはこれは。当店自慢の美女二人がひと夏の人魚姫に大変身ですな」
「マスターお上手ですねっ。ところで佐伯くんは?」
「瑛なら浜の出張店の様子を見に……ああ、戻ってきましたよ」

 優しくて紳士なマスターも、案外こういう茶目っ気があったりするんだよね。水着エプロン推奨派だとは思わなかったけど。
 そしてマスターが言うとおり、からんころんと入り口のベルを鳴らして佐伯くんが戻ってきた。
 佐伯くんの姿を見て、再びさっと私の後ろに隠れてしまうあかりちゃん。

「佐伯くん、こんなものでいかがでしょう?」
「わわわっ」

 そんなあかりちゃんの腕をひっぱって背後から前へ。
 佐伯くんに見せ付けるようにしてあかりちゃんの両肩を掴んで、私はいたずらっぽく片目をつぶってみせた。

「あ、いや……」

 すると佐伯くん、意外や意外に純な反応を。
 かーっと赤くなって、ぷいっと。真横を向いてしまった。

「い、色仕掛けは無しだからな」

 かーわいーい!!
 みればあかりちゃんも赤くなってもじもじしちゃってるし。

「マスター、なんか私お邪魔虫かも〜」
「はっはっは、そんなことはありませんよ。さ、浜での営業、期待してますよ?」
「アイサー、隊長っ!」

 ぐっとマスターに親指をつきつけられて、私もにっこり笑顔で敬礼をした。

 さぁ、浜辺でひと夏のアバンチュール……じゃなくてひと夏の水着接客、がんばるぞーっ!!



 珊瑚礁の長階段を降りた先の遊泳場の隅に設置された珊瑚礁砂浜出張所。
 開店するやいなや、私とあかりちゃんを遠巻きに見ていたお客たちが一斉に押しかけて、お店は一気に飽和状態に。

「3番のトロピカル焼きそばあがったぞ! 、持ってってくれ!」
「はいっ! 2番のオーダーはそば2の生2ですっ」
「瑛くん、その次に5番でカレー2とそば1でーす」
「了解!」

 最初こそ「うおお水着エプロン!!」「やだーお客さんお触り厳禁ですよー」なんて軽口叩く余裕があったんだけど、今はもうそんな余裕ない。
 注文取って、お料理運んで、お皿下げてテーブル拭いて、またお料理運んで。
 クリスマスシーズンのミルハニーで経験するような忙しさ。
 いつもの珊瑚礁のしっとりした雰囲気が懐かしい!!

 あかりちゃんも忙しくて恥ずかしさなんて吹っ飛んだみたい。
 小さな体でくるくるとよく動き回ってる。

「おい、オーダー!」
「あ、はーい、ただいま!」

 3番のテーブルに珊瑚礁特製トロピカル焼きそばを運んで、すぐにポケットから伝票を取り出して注文取り。
 はぁぁ、忙しい。

 伺ったテーブルは入り口近くの7番テーブル。
 こんがりと日に焼けた体に金髪といった見るからにサーファーな二人組みの男の人。大学生か社会人か。

「はい、ご注文承ります!」

 にっこりと営業スマイルを浮かべてペンを取り出す。
 しかし。
 その二人組みはにやにやと嫌な感じの笑みを浮かべて、じろじろと不躾に私を見るだけで注文をしない。

「あの、ご注文は?」
「あ、注文? 注文は〜君っ!」

 片方がびしっと私を指差して、その後二人して大声で下品な笑い声を上げた。

 また性質の悪いのが……。

 心の中で大きくため息つきつつ、私は笑顔を崩さずに。

「すいません、私はメニューに入ってないんですよー。他にご注文はございませんか?」
「型どおりのあしらい方しやがるよ」

 へっ、と鼻で笑う金髪サーファー。
 ったくぅ、アルコール飲んでるわけでもないのにその気持ち悪いにやにや、どうにかしてよね。

 態度悪く、隣のテーブルのエリアにまで椅子をひいて体を投げ出してるサーファーが、足を組みなおした。

「おねえちゃん高校生? バイト代いくら貰ってんの?」
「は?」
「オレたちに付き合ったらバイト代の倍出してやるけど?」

 そしてふたたび大笑い。

 あ、頭痛い……。
 なんで夏の海って、こういう頭悪いのが増殖するんだろう……。

 熱射病とも違うめまいをカンジながら、私は笑顔がひきつらないように細心の注意を払ってそのアホ客二人からの注文を辛抱強く待った。

 すると。

「すいません、お客さま。うちの従業員が何か」
「佐伯くん」

 私の背後から、佐伯くんが助け舟を出してくれた。
 いつもの柔らかい営業スマイルを浮かべて、丁寧に話しかける。
 うう、ごめんね佐伯くん。うまくあしらえなくて。

「あ? なんだお前。呼んでねぇ。引っ込んでろ」

 しかし案の定、サーファー二人組みは途端に態度を悪化させて(っても、もともと悪いんだから最悪だ)佐伯くんを睨み上げる。
 こうなるとまわりのお客もざわざわし始める。
 でも佐伯くんにガンとばしてる人の片割れが、「何だコラァ、見てんじゃねぇよ!」と他のお客さんにまで暴言を吐き出した。

 そのときだ。

「きゃぁっ!?」

 ぞわぞわっと、太ももの後側に悪寒が走る。

!?」

 佐伯くんが私の悲鳴に驚いて振り向いた。

 斜め向かいのサーファーは、にやにやと下卑た笑みを浮かべて。

 い、今、太ももの後っ、撫でられたっ!
 気持ち悪いっ……!

「てめ……!」

 カッと顔を赤くした佐伯くんが拳を握る。

「ま、待って、佐伯く」

 私が佐伯くんを止めるより早く。


 ざばっ


「ぶはっ!! な、何すんだテメェ!!」
「あ? あー悪ィ悪ィ。てっきり頭の中茹って馬鹿になっちまってんじゃねぇかって思ってな。冷やしてやろうと思ったんだけど」

 頭からウーロン茶をかけられたサーファーが立ち上がる。
 でも。
 サーファーに飲みかけのウーロン茶をかけたその人は、サーファーよりもずっと背が高くて、立ち上がったソイツも「う」と言って1歩後退り。

 黒髪をつんつんと立たせた、人の良さそうな男の人だけど。
 大学生……くらいかな?

「こんな混んでる時間に注文もしねーで場所占領してんじゃねぇよ。挙句にセクハラかぁ? お前らの席はちゃんと海の家派出所に用意されてっから、さっさとどけよ」
「な、なんだテメェ! 善人ヅラしてんじゃねぇぞ!」
「おーい真咲、海の家派出所に連絡とれたぞー」
「よーし櫻井、すぐに来て貰えー」

 サーファー二人がすごんで見せても、助け舟を出してくれた男の人と、その連れと思われる男の人は平然と。
 うわぁ、かっこいいなぁ……。

「ちっ……カッコつけてんじゃねぇぞ!」
「なんだこんな店、ロクな女もいねぇ!」

 そして無礼千万なサーファー二人は、陳腐な捨て台詞を吐いてさっさと逃亡してしまった。

 おおー、という感嘆の声と共に他のお客さんから一斉に拍手が沸き起こる。

「カッコいいなぁ兄ちゃん!」
「痛快だったぞー!」
「いやいやいや」
「いやいやいや」

 私を助けてくれた男の人二人はまんざらでもない笑顔を浮かべながら、でもやっぱり照れ臭そうに頭を掻いた。

「あのっ、ありがとうございます! 助けていただいて、ほんとにっ」
「いーっていーって。アンタもからまれてるってのに接客態度崩さずに偉かったぞ? 二重マル!」

 にかっと歯を見せて笑うその人はさわやかナイスガイ。
 ぺこりと頭を下げてお礼を言う私に、逆に気を遣ってくれる。

「怖かっただろ。よくがんばったな」

 わしゃわしゃと頭を撫でてくれる手がすごく大きくて。
 不覚にもドキドキしてしまった。あは、我ながら単純だ。

「うちの従業員を助けていただいて、ありがとうございました。失礼だとは思いますけど、今日の飲食代をお礼にさせてください」
「マジで! やったな真咲!」
「あのな。お前の奢りって話だったろーが櫻井っ! ったく、今度別の場所で奢らせるからな。……っと、アンタも頭上げてくれよ」

 佐伯くんもぺこんと頭を下げてくれる。
 真咲さんと、櫻井さんか。
 カッコよくて優しくて正義感あふれるって、もう最高じゃないデスカ〜。



 ほえ〜と二人に見惚れていたら、佐伯くんに腕を引かれた。
 あ、そうだそうだ。まだ接客中なんだった。すっかり忘れてたよ。

「それではごゆっくり!」

 二人に営業スマイルを向けてから、私は急いで佐伯くんの後を追う。
 カウンターの調理スペースまで入ると、そこにはあかりちゃんが心配そうに待っていた。

ちゃん! 大丈夫!? ごめんね、私、怖くて助けに行けなくて」
「わ、いいよいいよ! あかりちゃんが来てたらあかりちゃんが狙われたって! 気にしないで。心配かけてごめんね?」

 申し訳なさそうな顔して俯いてるあかりちゃん。
 私よりもずっとずっと可愛くてぽやぽやしたあかりちゃんがあんな性質悪いヤツに捕まってたら、今頃どうなってたことか。
 佐伯くん、止めるヒマもなかっただろうな。
 私はぶんぶんと両手を振って、明るく振舞ってあかりちゃんの気分を盛り上げる。

「気を取り直して接客接客! まだまだお昼過ぎたばかりなんだから!」
「う、うん」
「あかり、6番にトロピカル焼きそば運んでくれ。それからウーロンも2つ」

 佐伯くんが手早く温めなおしたトロピカル焼きそばのお皿をあかりちゃんに渡す。
 あかりちゃんはトレイに言われたものを乗せて、気分を切り替えてフロアに出て行った。

「さ、がんばらなきゃね! 私はどこにどれを運べばいい?」
「がんばらなきゃね、じゃないだろ」

 お?

 袖もないのに腕まくりする仕草をして気合を入れていたら、佐伯くんはむすっとした顔でこっちを見てた。
 あ、そっか。そうだ、仕事よりも先に。

「佐伯くん、ごめんなさい。お客さんうまくあしらえなくて、迷惑かけて。次はこんなことないようにうまくやるから」

 佐伯くんに深々と頭を下げる。
 ミルハニーを手伝ってるときは、ああいう客は問答無用でパパが追い返しちゃうから、対応するのは始めてだったんだけど。
 もうちょっとその手法をしっかり見とくんだったなぁ……。
 ああもう、使えない、私って。

「あのさ」

 ところが、佐伯くんは大きくため息をつく。
 顔を上げてみれば、佐伯くんは複雑な表情をして私を見てた。

「なんでが謝るんだよ? そこはオレが謝るトコだろ?」
「どうして? あの客との揉め事大きくしたのは私だもん。お店に迷惑かけてまわりのお客さんにも迷惑かけたの私でしょ? 佐伯くんこそ、なんで謝るの?」
「それは……うまく、守ってやれなかったし。そんな格好で接客させてるの、オレだし」
「そんなぁ」

 私は大きく両手を振った。

「この格好の接客をやるって最終的に決断したのは私だから佐伯くんは悪くないよ。それに、助けに来てくれたとき、すっごく心強かったよ? 先輩頼りになる〜! って」
「……お前さ……なんでそんなに……」

 呆れたような視線を私に向けてくる佐伯くん。
 あう、さすがにこの場でふざけるのは場違いでしたか。

 でも佐伯くん、最後はふっと笑ってくれた。

「ああ、もういい。注文溜まってるんだ。さくさく捌けよ、っ」
「……へ?」

 私の横を通り過ぎざま軽くチョップを入れる佐伯くんだったけど。

 いま、私の名前、呼んだ?

 ぽかんとその場に突っ立って佐伯くんの後姿を見つめていれば。
 くるりと振り向いた佐伯くん、ほんのりと赤い頬は日焼けのせいじゃなくて。

「……こういうのはさらっと流せ」

 うわー!! かーわいーい!!

「はーい、店長っ!」
「調子のいいヤツー」

 両足そろえて敬礼すれば、佐伯くんもぷっと吹き出した。

 そしてその後も順調に海の家by珊瑚礁は順調に回転して。
 売り上げも目標大幅クリアで上々!
 特別ボーナスも貰えて、嫌なこともあったけど、楽しい1日でした!


 で。


「エプロンにこうフリルつけてさ、バンダナもカチューシャに変えてメイド風にするってどう? そっちのほうが売り上げ上がると思わない?」
「お前……商売の神だな……!!」
ちゃんっ! 瑛くんに余計な提案しないでよっ!!」

 さらなる売り上げアップを目指して、私と佐伯くんはあかりちゃんの抗議をよそに『水着エプロングレードアップ化計画』を進めるのでした。

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