「「「あっはっはっはっは!!」」」
「リツカっ!! どこだっっ!!」

 リッちゃんが提出してくれた幼少時の志波っちょの写真。
 見るなりクラス中大爆笑して、志波っちょは頭から湯気出して教室を飛び出していった。

 し、志波っちょ……。
 今の姿からは想像つかないよ。超可愛かった! ちびっ子志波っちょの女装姿!



 62.3年目:文化祭 前日



 いろんな人から苦情が来たり要望が来たりで、貼り出す写真は最後の最後まで揉めたけど。

「これで……終わりです!」

 天井を覆うように3−Bの集合写真を貼り付けたくーちゃんと若王子先生が、積み上げた机と椅子からぴょこんと飛び降りて。
 ここに、卒業プレアルバムと化した3−Bの文化祭展示会場が完成したのだ!

「やったぁ、完成したね!」
「すっごーい! こうして見ると壮観だよね!」

 感嘆のため息をつきながら、みんなが教室中を見回してる。

 黒板も、掲示板も、机にも椅子にも。
 教室のすべてを覆う思い出の写真たちは、まさしく圧巻の一言!

 みんなはきゃあきゃあ言いながら、明日の文化祭前に一足早く好き好きにメッセージを書き込み始めた。

さん、みんなのまとめ役お疲れ様でした。先生、出来栄えに大感動です」
「ありがとうございます! がんばりました!」

 組んでいた椅子と机を戻してから若王子先生がやってきた。
 にっこりと私に微笑みかけてくれた後、眩しいものを見るかのように目を細めて教室を振り仰ぐ

「みんなの思い出がつまった宝石箱のような展示になったね。ここにある1枚1枚が全力青春の証です」
「はい。若王子先生もメッセージ書き込んでくださいね?」
「もちろんです。先生もばりばり書き込んじゃいますよ?」

 それだけ言って、若王子先生はクラスの女子が手招きしているほうへ足取り軽く飛んでいった。

 最初は渋っていた男子たちも、完成した教室の中で1年生の頃や2年生の頃の写真を見ながら楽しそうに話しこんでる。
 これだよね! あの頃はよかった、なんて年齢じゃないけどさ。楽しかった思い出をたくさんの人と共有して思い出して、改めて胸にきざんでいこうって。

 青春爆発若王子クラスにふさわしい展示になったんじゃないかな? うん、よきかなよきかな!

っ。ちょぉ、こっち来てみ!」
「なになに?」

 掲示板の下の方をハリーと一緒に覗き込んでるぱるぴんが私を手招きした。
 ちょこちょこと二人の元へと出向いてみれば、そこには。

「「ぷっ!」」

 たまらず私はぱるぴんと顔を見合わせて噴出してしまった。
 隣じゃハリーがもう遠慮なしに笑ってるから、いいよね? 我慢できなかったんだもん!

「懐かしー! ゴールド二の金じゃない!」
「つーか完成したクリスの記念写真じゃなくて、教頭に説教くらってる瞬間かよ! 誰だ、こんなの撮ってたヤツ!」
「これリツカが撮ったらしいで? あの子携帯カメラでいろんなもん撮っとるみたいやし」

 それは入学早々くーちゃんがしでかした二宮金次郎像のゴールドペイント写真。
 ただ、その銅像の横で教頭先生がくーちゃんをがっつり叱りとばしてるところも写ってた。

「これすっごい話題になったよねぇ。くーちゃん一躍時の人になっちゃって」
「そのあと確か若ちゃんの靴箱改造して、また怒られたんやろ? あん時はアタシもグッジョブ! って思うたけどな」

 くすくす笑いながら、視線は横へ横へと写真を追っていく。
 全く話したことがない人の写真や、教科担当になったことがない先生の写真もある。
 私が知らない写真でも、知ってる人が見ればきっとさっきのように話に花が咲いて楽しい瞬間を共有できるんだろうなって思うと、我ながらナイスなアイデアだったんじゃないですか〜? と自画自賛ー!

 と、そこへ。

「おーいー」
「なにー?」

 教室前の黒板左隅に集まっていたグループに呼ばれた。
 私はぱるぴんとハリーにちょっとごめんね、と断ってからまたまたちょこちょことその集団に駆け寄った。

 集団の中心人物は、修学旅行の枕投げ発案部隊の3人組のうち、唯一3年目も一緒のクラスになった男子だった。

「なになに? なんかおもしろい写真あった?」
「いやおもしろいっつーかさ」

 クラスの中でも休み時間にバカやったりして盛り上がってる楽しいメンツが揃ったグループ。このグループの女子とは私も仲良しだ。
 で、そのみんなが私をじーっと見たあと、くるっと黒板の方を振り向いて。

「やっぱ違うよなぁ」
「全然違うよ」
「え、なにが?」

 顔を見合わせながらなにやら納得してるらしい彼らに私は首を傾げて。

「この写真、だよな?」

 その中の一人が、黒板に貼ってある写真の1枚を指差した。

「うん? そうだけど……」

 そこにあった写真は1年生のときの文化祭の写真。
 私がメイド姿で『売り上げ1位達成!』って書かれた紙を掲げながら、我ながらものすごくいい笑顔で写ってる写真だった。

「これがどうかした?」
「これがどうかしたっていうか、今のさんがどうかした、っていうか」

 ねー、と頷き合う女子たちが、次の瞬間、びっくりするようなことを言った!

さんさ、なんかすっごく綺麗になったよねって。今みんなで話してたんだよ」
「へ」

 ぱかん、と。私の口が開いた。

 綺麗? 綺麗になった、って言ったの?
 間抜け面になった、じゃなくて? 笑いジワが増えた、とかじゃなくて?
 佐伯くんに長いこと虐げられてきたから、思いも寄らない褒め言葉に唖然とするしかない私。
 っていうか、今の本当に聞き間違いじゃなくて?

「ほら、この写真の横に立ってみてよ」

 腕を引かれて、私は黒板の前で一回転。
 なんだか騒ぎを聞きつけたほかのクラスメイトたちも集まってきちゃったし。

「ね、やっぱり全然違うよね?」
「違う違う。あっきらかに違う」

 女子だけでなく、男子にまでそう言われて。

 ちゃん、テンションハーイ!!

「うわーっ、うわーっ、そんなこと言われたの初めてだよ! 嬉しいなぁ〜。実はね、夏休みから今までにダイエット成功したんだー! マイナス3キロ! えへへー」
「嘘っ、3キロ痩せたの!?」
「ちょ、抜け駆けっ! どんなダイエット法試したんだー! 白状しろー!」

 えっへっへーだ!
 途端に群がってくるクラスの女子に揉みくちゃにされながら、私は勝利宣言!
 実はダイエットを成功させたの初めてなんだけどね! 今回は大変だったけど、すっごくがんばったもん!

 少しでも佐伯くんに釣り合えたらいいなぁって思って始めて。
 その変化が表に出てきたんなら、これ以上の喜びはないよ〜!

 なんて浮かれてたら、みんなの輪の奥から「うふふふ」という含み笑いが。
 みんなもその鈴を鳴らしたような可愛らしい声に気づいてそっちを振り向けば、案の定。
 はね学綺麗なお姉さんダントツ1位の密っちが、これまた可愛らしく口元を覆いながら嬉しそうに微笑んでた。

「密っち、どうしたの?」
さん、とぼけたって私は知ってるんですからね? さんのダイエット成功のヒ・ケ・ツ♪」

 密っちはなんだかとっても楽しそう、というよりも嬉しそうに頬を染めながら。

「デザートのおいしい夏から秋にかけて女の子がダイエットに成功する理由なんて、恋以外にないでしょう?」

 なんて言うものだから。……って。

 密っちが言った瞬間、クラス中の視線がざんっ! と私に注がれた。

「うわ!? な、な、びっくりした!」
「ずるいー! ダイエットに成功しただけじゃなくて、男まで出来ただとー!?」
「抜け駆け禁止の女子法違反だよー! 実刑判決くらわしてやるー!」
「せやせや! 報告の義務を怠る者には厳罰やで!」
「ちょ、ぱるぴんまでっ!」

 一気にヒートアップしたみんなに取り囲まれて、焦る焦る!
 って、なんで若王子先生まで目をきらきらさせてこっち見てるんですか!

 どどどどうしよう!? うまいことシラを切らなきゃ、とんでもない事態になっちゃうよね、これ!

「なぁ、のカレシってさぁ」

 私がわたわたしていたら、一人の男子が口を開いた。
 それは例の3人組の一人。

「それってやっぱ、佐伯なわけ?」


 しーん…………


 静まり返る教室。
 普段授業中でも、ここまで無音状態になることってないと思うくらいに、誰も微動だにしなかった。

 ななななんでそこで佐伯くんが出てくるのかな君は!
 私と佐伯くん、そりゃ確かに修学旅行では枕投げペア組んだけどさ、それ以外に学校でそんな想像つくような行動とってなかったのに。

 で、でも今がチャンスだよね!
 この静まり返ってる時に違うってはっきり言えば、全員に伝わるだろうし!

 私は息を大きく吸って、そのことを告げようと。

「ちが」


 ガラッ


 ……私の言葉に完璧にかぶるタイミングで教室のドアが開けられて。
 全員が一斉にそっちを見た。

「……え、な、なに、かな?」

 学園演劇のリハーサルを終えて戻ってきた佐伯くんは、クラス中から注がれる視線に、思わずいい子の仮面を崩しかけてた。



 その後。
 つきつけられた疑惑(本当は事実だけど)を私は佐伯くんに説明し、二人で懇切丁寧にみんなの誤解を解いた(いや、本当は事実なんだけどっ)。
 その間中、密っちとあかりちゃんにはなんだかすっごく温い目で見守られるし、若王子先生とくーちゃんは人の話も聞かずになんだか頬を染めてきらきらしてたし。
 ぱるぴんとリッちゃんとハリーと志波っちょには、もーのすごく含んだ笑顔を向けられて。
 ……なんか、クラスメイトもあんまり納得してないようなカンジだったなぁ……。

「わかったわかった。そういうことにしとかないとヤバイもんな。というわけで、佐伯とは付き合ってないってことで」
「「「了解ー」」」
「…………」
「…………」

 なんてカンジに話をまとめた枕投げ発案部隊の彼の言葉に、クラス全員が一致団結っていうふうに納まって。
 私も佐伯くんも、なんでこうなったんだ? って首を傾げるしかなかったんだよね。

『……もしもし? 聞いてるのか?』
「あ、ごめんユキ」

 そして現在、私はお風呂を済ませて自室でユキと電話中なのです。

 いけないいけない。佐伯くんとのことはひとまず置いといて、今はユキとあかりちゃんのことを考えなきゃ!

「でね、せっかく今年ははば学と文化祭日程ずれたんだしさ、おいでよユキ。もしかしたら最後のチャンスかもしれないんだよ?」
『でもさ……今さらどんな顔して会えばいいんだよ? 仲違いしてからもう半年たってるんだぞ。海野だって今さら蒸し返されたくないんじゃないかな』
「あのねぇユキ。今はあかりちゃんじゃなくてユキの気持ちを聞いてるの。いいの? このまま毎日毎日あかりちゃんのことを考えながら勉強も手につかない状況で。1学期の期末、順位すんごく落としたって言ってたじゃない!」

 いつもなら、何か言い合うときは大抵ユキのほうが優勢なんだけど、今回ばかりは形勢逆転。
 電話口のユキの声は、普段の堂々とした論士然とした勢いはなくて及び腰。

「あんな誤解で破局なんて結末、ぜーったい認めないからね! ユキとあかりちゃんのおかげで失恋の痛みを味わった人が二人もいるってのに!」
『最後の文化祭だろ? 嫌な思い出作らせたら……』
「このままなんとなく終わっちゃうほうがよっぽど嫌な思い出になるよ! ね、話す勇気がないなら、まずは学園演劇ででも久しぶりにあかりちゃんを見てよ。主役なんだよ、あかりちゃん。人魚姫!」
『それ、悲恋だったよな』
「い、いちいちネガティブ方向に話を持ってかないのっ」

 私は携帯を逆の手に持ち替えて、机の上の2枚の整理券を手に取った。
 佐伯くんがくれた、学園演劇優先観覧の整理券。はね学プリンスが本当に王子役をやるってことになったから、前評判の高まりは際限なくて。
 一般観客席を確保するために、関係者にのみ配られた整理券なんだよね。
 マスターは当日来れないからって、佐伯くんが自分の分を私にくれて。

 もう1枚は、あかりちゃんがくれたもの。
 ご両親も誰も来ないから、私の友達でも誘ってって言ってたけど。

 あかりちゃん、もしかして期待してるんじゃないかなって思ったんだ。
 私に誘ってきて欲しい友達って、ユキのことなんじゃないかって。

「ね、ユキ。学園演劇は明日の1時からだから。私、ユキの分の整理券持って待ってるからね。勇気だして」
『……わかったよ。今日一日、考えてみる』
「よーっく考えてね! そして明日は絶対来ること!」
『それじゃあ一日考える意味ないだろ?』
「口答えは厳禁なりー!」

 私はなんとかユキを説得して。

 なんとかなんとか、上演時間の20分前までにはね学に来ることを約束させた。

 最後の文化祭なんだもん。高校3年生なら誰でも。
 進路がばらけて離れ離れになるかもしれない卒業を前に、悔いのない思い出作らなきゃ。

 電話を切った私は、今日の分の日記をつけて早めにベッドにもぐる。

 いよいよ明日だ。
 思いっきり、楽しむぞっ!

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