「ほ、ほんとにこれやるの?」
「当然っ! ちゃんの考えた必勝策だよ!? さぁ行った行った!」


 53.3年目:体育祭 ライバル宣言


 あのあと、ぱるぴんと密っちにも手伝ってもらって、応援合戦と男子1500の間中かけて考え出した私の必勝心理作戦。
 ようはI組の集中力を乱して、B組のモチベーションをあげればいいってことなんだもんね。

「対I組の戦略はおいといて……まずはB組のモチベーションをあげる作戦から行こう! というわけで、まずは主戦力のひとりの志波っちょからだね」
「志波やんに気合入れって、何するん?」
「もっちろん可愛い彼女からの胸キュンな応援メッセージ! ……って言いたいところだけど」

 棒倒しに向けておのおのアップに入ってる男子から離れて、B組女子は若王子先生に提供してもらった化学準備室で作戦会議中。
 現在いないのは800に出てる竜子姐と、混合リレーに向けてアップしてるあかりちゃんとリッちゃんだけだ。

 私を中心にぐるりと円をかいて座ってる女子チーム。
 まずは志波っちょに気合いれちゃおうゼ! ってことで視線は必然的に水樹ちゃんに集まってる。

 私はニヤリと我ながらいい笑顔を浮かべながら、注目されて落ち着かない水樹ちゃんを見た。

「ここは志波っちょの闘争心を煽ってもらうほうがいいかなーって」
「勝己くんの闘争心を煽るって……どうやって?」
「志波っちょの目の前で、他の男の子がカッコいいってきゃーきゃー騒いでみるとか」
「ええっ!?」

 びっくりしたような声を上げるのは水樹ちゃんだけ。
 他の子は一様に「おおーっ」と感嘆の声とともに拍手してくれた。

「いいかもいいかも! 志波くんって、水樹さんにもうめちゃラーヴ! って感じだもんね!」
「そうそう! 水樹さんに話しかけようとする男子にいっつもガン飛ばしてるし!」
「闘争心を煽るっていうより、嫉妬心を煽るって感じ?」

 きゃあきゃあと楽しそうに盛り上がるクラスメイトをよそに、赤くなってるのか青くなってるのか、水樹ちゃんは居心地悪そうに小さくなっちゃってるけど。

 んふふふふ、B組勝利のために働いてもらいますとも、学年アイドルさん!

「水樹ちゃんには、志波っちょの前で……そうだな、I組の野球部主将のことでも褒めまくってもらうのがいいかも」
「リツカの弟くんのことね? いいんじゃないかしら」
「ええんちゃう? リツカの弟くんって、フツーにカッコええし、志波やんも燃えてくれると思うで!」
「あの、夏の大会前に野球部名コンビにヒビ入れるのってどうかと……」
「「「3−B勝利のためには仕方ない!!」」」

 ぱるぴんと密っちの3人で声を揃えれば、水樹ちゃんも反論できずに肩を落とした。

 それではいってみよー!
 3−B体育祭優勝への道、第一弾! 志波っちょの闘争心に火をつけろ! の巻、スタート!

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「あ、か、勝己くんっ」
「水樹」

 志波っちょがアップしてたのはグラウンドとは反対側の中庭のはずれ。
 1500を走り終えたあとだっていうのに、ちっとも疲れた様子もなく芝生に座り込んで柔軟をこなしてるところはさすが。

 私とぱるぴんと密っちの3人は、水樹ちゃんの任務遂行を見届けるために、校舎の角から二人を覗きこんでいた。
 わたしたちに背を向けてる志波っちょの表情はわからないけど、水樹ちゃんを呼んだその声は他の誰に向けられるものより優しい声音。

「(くーっ、いいなぁ水樹ちゃん! 志波っちょみたいなイケメンがカレシなんてー!)」
「(アンタなぁ……。アタシらはセイの任務遂行を見届けるために来とるんやで?)」
「(でも、本当にいい雰囲気よね、あの二人!)」

 はにかんだ笑顔を浮かべてる水樹ちゃんと志波っちょの背中を、食い入るように見つめてる私たち。
 デバガメではありません。
 確認作業ですとも!

「1500どうだった? 1位だった?」
「ああ。……見てなかったのか?」
「あ、うん。棒倒しの作戦会議してたから……ごめんね。1位おめでとう」
「ああ。サンキュ。……別に、そんなに気にするな」
「うん」

 志波っちょの前にしゃがみこんで申し訳なさそうに言う水樹ちゃんに手をのばして、そのおっきな手でぽんぽんと頭を撫でる志波っちょ。

「(いいいいいなぁぁ、水樹ちゃんっ! 私も志波っちょにチョップじゃなくて撫で撫でされたーいっ!)」
「(なんかホンマにセイと志波やんが並ぶと美女と野獣ってカンジやなぁ……)」
「(あら、姫君とナイトでしょ? 素敵よね、あの二人!)」

「なにかいい案は出たのか?」
「う、うん。ばっちり! ほら、が中心になってるんだもん」
「……ってことはロクでもねぇアイデアってことか」

「(うわ! 志波っちょヒドイっ!)」
「(当たらずとも遠からじ、ってとこやな、っ)」
「(ぱるぴんまで〜っ……。ううっ、水樹ちゃんっ! そろそろ作戦開始っ!)」

 私は拳を振り上げてゴーゴー! と水樹ちゃんに合図を出す。
 ちらっとこっちに視線を向けた水樹ちゃんは、その可愛い顔をちょこっとだけしかめながらも志波っちょに向き直った。

 さてさて。どうなることでしょーかっ!

「ねぇ勝己くん。お昼にI組の話が出たでしょ?」
「出たな。でも心配するな。絶対負けねぇ」
「うん、期待してる! ……でも、あんまりボロボロにはしないでね」
「ボロボロ?」

 志波っちょが首を傾げてる。
 すると水樹ちゃん、意を決したように、勢いつけて言っちゃった。

「だ、だって、I組の野球部の主将ってすっごくカッコいいじゃない!?」

「………………」

 たぶん志波っちょは今ぽかーんとしてると思う。私とぱるぴんと密っちは顔を見合わせて笑い声をかみ殺した。
 だってだって、水樹ちゃんってその可愛さの割りにミーハーなところが全くないし、イケメンにきゃーきゃー言ってるところなんか見たことないし。
 それなのに、いきなりカレシの目の前で他の男の子、しかも志波っちょにとっては大事な野球部のチームメイトのことをカッコいいなんて言っちゃあ、ねぇ?

 開き直ったのか、水樹ちゃんのしゃべりは続く。

「大崎さんの弟くんだから、大崎くんだよね? ほら、勝己くんが野球部復帰したときの練習試合のときからカッコいいな〜って思ってたんだけどね、最近は主将としての貫禄も出てきたっていうか、カッコよさに磨きがかかったっていうか?」
「…………」
「棒倒しって体のぶつかり合いだから怪我する子も多いでしょ? 私、大崎くんには怪我してほしくないなぁ、なんて、イチファンとしては、その〜……」
「…………水樹」

 ごごごごごご

 志波っちょの表情はこちらから伺えないものの。
 その背中から立ち上る黒オーラとどこからともなく響いてくる地鳴りに、私たちも水樹ちゃんも一瞬ビクッとすくみあがる。

「(さ、作戦成功?)」
「(っていうか、ちょぉヤバイんとちゃう?)」

 校舎の角にしっかりと体を隠して、慎重に慎重に水樹ちゃんと志波っちょの二人を覗きこむ。

 志波っちょは顔をひきつらせてる水樹ちゃんの肩をばすん! と力強く掴んだ。
 うわわっ、暴力はだめだよ志波っちょ!?

「心配すんな。試合はフェアにやるに決まってるだろ」
「う、うん、そうだよね? うん、あは、あはは」
「試合は、な」

 含みのある言い方が、ものすっごく気になるんですけど!
 と、とはいえ、志波っちょの闘争心を煽ることには大成功っ!
 水樹ちゃん、このあとのフォローまで考えてなかったけど、ともかくヨロシクっ!

「(だ、第一作戦成功ッ! 作戦本部は次の作戦に移りますッ!)」

 かくして私たちは、怒れる狂犬のもとに可愛い子羊を残して次なる作戦のために撤退したのでした!

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「えーっと、次の主戦力はハリーかな? 機動力をいかしてガンガン攻めてほしいよね」
「ハリーのモチベーション上げるのなんか簡単やん。とにかく褒める! 褒めて伸ばす!」

 再び化学準備室に戻った私たちは、次なる作戦のためにまたまたクラスの女子一同と会議を持っていた。

 で、さっきも言ったとおり次なるターゲットはハリー。
 ぱるぴんの言うとおり、ハリーは下手に闘争心を刺激するよりもおだてて乗せるのがいいって私も思う。

「でも褒めるってどうやって? あからさまなこと言ったんじゃ、逆に引いちゃうんじゃない?」
「んー、褒めるんが難しいんやったら、物で釣るってのも手やな」
「物で釣る?」

 みんなが顔を見合わせて首を傾げたときだ。

「みなさん、作戦会議は順調ですか?」

 グラウンドに通じる側の窓をガラッと開けて、外から若王子先生が顔を出した。
 窓枠に肘を乗せて、上体を準備室の中へと乗り出して、いつものようににこにこしてる。

 と、そこにつかつかと歩み寄ったのがぱるぴんだ。

「若ちゃんナイスタイミング! ちょぉ、そのまま立っとってな?」
「はいはい、なんでしょう?」

 ぱるぴんはその辺のデスクにあったファイルをくるくるっと丸めてメガホン状にして、若王子先生がのぞいてる窓のすぐ横まで行って。
 みんながなんだなんだと注目する中、若王子先生の横から身を乗り出して、叫んだ。

「おーいハリー! 棒倒しで優勝して総合優勝ももぎとったら、若ちゃんが夏休みの宿題無しにしたるって言うとるでー!!」

 一瞬の間。

「「「「なにぃぃぃぃぃ!!??」」」」

 ……明らかに今、ハリー以外の子の声もしたような気がしたんだけど……。

 呆気にとられる私たちをくるりと振り返り、してやったりの笑顔のぱるぴん。

「な? ちょろいもんや♪」
「西本さん……先生あとで教頭先生に怒られそうな気がします……」
「そこはそれ、可愛い生徒のために担任なら犠牲にならんとな?」
「先生、トホホです……」

 がっくり肩を落とした若王子先生をぽんぽんと叩くぱるぴん。
 私たちは素直にぱるぴんに拍手を送ったのでした!

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「ヒカミッチはブレーンとして働いてもらうから無理にモチベーション上げてもらう必要はないよね? ってことは、主戦力になりそうなのはあと……」
「リレーも走る佐伯くんと、奥義を持ってるクリスくんね?」

 密っちの言葉に大きく頷く。
 佐伯くんの闘争心に火をつけるのって簡単そうだけど、いつも穏やかエンジェルスマイルのくーちゃんのテンションを上げるのってどうやったらいいんだろ?

「まぁここは素直に彼女に気分を盛り上げてもらう作戦で行こうか? くーちゃんは密っちにお願いするとして、佐伯くんは……」
「待って、さん。クリスくんと佐伯くんなら、私に考えがあるの」
「え、なになに?」

 いたずらっぽく微笑む密っちに、みんなが注目する。
 すると密っちはにこにこと優雅に微笑んだまま、

「成功率はきっと100%よ。ね、私に任せて?」

 ぱちんと可愛くウインクしたのでした。

 それでは今度は密っちの作戦でいってみよー!
 3−B体育祭優勝への道、第三弾! くーちゃんと佐伯くんのハートに火をつけろ! の巻、スタート!

 ☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

 とりあえず佐伯くんのことはおいといて、ね。さんにはクリスくんといつもどおりぴったんこしてもらいたいの。
 クリスくんのテンション上げるなら、私よりもさんの方が適役よ? とにかく、お願いね?

 ……と私に言い残して、どこかへ去って行ってしまった密っち。
 まぁ、いつものように戯れるだけでくーちゃんのテンションアップになるっていうならばしばしぴったんこしちゃうよ!
 ホント、密っちって出来た彼女だよねぇ。

 なんてこと思いながら私はくーちゃんを探してクラス席までやってきた。

 と。いたいた! クラス席の前方で800から帰ってきた竜子姐にからんでる! ふふふ。

「おーいくーちゃーん! 竜子姐も、その様子だと800はばっちり1位だったんでしょ!」
「あっ、ちゃんやーん。せやせや。タッちゃんめっちゃ速くてカッコよかったんやで〜」
「だからその呼び方やめろって言ってんだろ」

 手を振りながら近づけば、くーちゃんはいつものエンジェルスマイルでこちらを振り向き、竜子姐は苦い顔しながらクラス席の後方にどっかりと座り込んだ。
 私は竜子姐にタオルを1枚手渡して1位を祝福したあと、くーちゃんの隣にちょこんと座る。

「これで1500も800も1位ポイントゲットだね!」
「そうやね。でもI組もきっちり2位につけとるから、リレーと棒倒しも気ィ抜けへんね」
「くーちゃん、棒倒し期待してるからね! もう目一杯大声張り上げて応援しちゃうから!」
「う〜ん、ちゃんに応援されたらがんばらへんわけにいかんなぁ。めっちゃがんばるから、た〜くさん応援してな?」
「モッチロン! くーちゃんのために最大級の愛をこめて応援するよ!」
「わー、めっちゃうれしい〜♪ ちゃん大好きっ」
「私もくーちゃん大好きっ!」

 むぎゅー! と親愛のハグを盛大にかます私とくーちゃん。

 と。

 ガタン!!

 いきなり大きな物音がして、私もくーちゃんもびっくりして振り向いた。
 一体何事かと思えば、そこには不機嫌そうな顔した佐伯くんと、横倒しになった得点板。

 ありゃ、佐伯くんひっかけちゃったのかな?
 あーあ、ガラ悪く舌打ちして拾ってるし。みんなに見られちゃったらどうするの……って、アレ?
 いつのまにかクラスのみんながいなくなってる。あれれ、竜子姐まで?

「くーちゃん、みんなどこ行ったんだろ」
「ほんまやね。いなくなってもーた」

 不思議不思議〜と二人で首を傾げて頭をごっつんこ。

 すると。

 不機嫌そうにしてた佐伯くんの口がとんがった。

「瑛クン、みんなどこ行ってもうたか知らん?」
「知るかよ。なんでオレが知らなきゃならないんだ」
「ちょ、佐伯くんってばそんな言い方しなくても。……って、佐伯くん、混合リレー行かなくていいの?」
「まだ召集かかってないのになんで行かなきゃなんないんだよ。オレがいたら迷惑なのか?」
「だ、だからそんな言い方しなくても〜」

 も〜、相変わらず気難しい王子なんだから。
 なにがあったのか知らないけど、佐伯くんてば物凄く虫の居所が悪いみたい。

 だからって、私やくーちゃんに八つ当たりするなんてひどいよねぇ?

「水島にクリス呼んでこいって言われたんだ。人のこと使いやがって。さっさと行ってこいよ、クリス」
「密ちゃんが? ん〜なんやろ」
「オレが知るかっ」
「……そうやね〜」

 さっすがくーちゃん、大人の対応。
 子供っぽい佐伯くんの八つ当たりも、やんわりと微笑んで受け流した。

 くーちゃんは立ち上がって手を振って。

「ほんならボク、ちょっと行ってくる。ちゃん、またな?」
「うん、行ってらっしゃい、くーちゃんっ」

 私も手を振りながらくーちゃんを見送る。
 ……で、視界に入ってきたのは、ブスッとした顔で私を睨みつけてる佐伯くんのふくれっつら。

「えーとぉ……佐伯くん?」
「なんだよ。休戦中だからって馴れ馴れしく話しかけるなよな」
「どうしてそういう可愛くない言い方するかなぁ。なんか嫌なことでもあったの?」
「別に……」

 まわりにクラスメイトがいないせいか、佐伯くんは自分の感情を隠そうともしない。
 拗ねたような顔してぷいっとそっぽを向いちゃうんだけど。

 あ、でもこのままじゃマズイよね。3−B体育祭優勝への道は佐伯くんのモチベーションアップもかかせないんだし。

 よしっ! ここはちゃんが佐伯くんのヨイショをしてテンションアップさせましょう!

 と、勢い込んだときだった。

「八方美人だよな、お前って」
「……は?」

 確実に悪意のこもった佐伯くんの声に、一瞬私は反応できずにきょとんとしてしまう。
 すると佐伯くんはくるっと私にほうに向き直って、椅子にふんぞりかえって腕を組んだ。

「学校じゃクリス、学校の外じゃはば学のアイツ、人に取り入るのがうまいよな」
「…………」

 ……どうしてだろう。
 佐伯くんの口が悪いことなんか、前からのことだったし気にしてなかったけど。
 最近は、単に口が悪いなんて一言で片付けられないくらい、キツイことを言われるようになった気がする。
 仲違いするきっかけになったときもそうだったけど、明らかに今までとは違う。

 私、もしかして本気で佐伯くんに嫌われてる?
 でも、それなら理由は?
 なんで突然? 私が大嫌いなんて言っちゃったから?

 そっか……。本当に、休戦協定はその名の通りの休戦協定で、仲直りしようって意味じゃなかったんだ。

「聞いてるのか?」

 言われてはっと我に返る。

 だめだ、今は体育祭の最中なんだもん。
 佐伯くんに嫌われてようと、クラスの総合優勝のためには、落ち込んでなんか、いられ、ない。

「う、うん。あはは、ごめん。ほら、私調子がいいから。でもみんなと仲良くしてるほうが楽しんだぞー、なんちゃって……」

 無理矢理笑顔を作って、佐伯くんのご機嫌取り。
 こんなやり方、逆に癇に障るかな、とも思ったけど、私にはこういうやり方しか出来ないし。

 なんとか佐伯くんの気持ちを上向かせなきゃって思うんだけど。

 だけど、だけど。



 どうして私はいつも佐伯くんを怒らせちゃうんだろう?
 怒らせたくないのに。
 いろんなものを背負ってる佐伯くんには、いつも笑ってて欲しいって思ってるのに。



 堪えきれなくなって、ぽろと涙が一粒こぼれた。
 それを見た佐伯くんがぎょっとする。

「あっ……」

 そして、しまったとでも言う風に口元を押さえる。

っ、泣くなよ。オレ、お前に泣かれると……その、今のはオレが」

 さすがに女の子の涙は勘弁して欲しかったのか、佐伯くんが立ち上がって私に駆け寄ろうとして。

 その時だった。

 私と佐伯くんの間に割って入った、腕。

「……くーちゃん?」

 私の目の前を遮っているのは眩しいくらいのゴージャスブロンド。
 それはさっき確かに後姿を見送ったくーちゃんだった。
 見上げた横顔は、今までみたことないくらいに厳しくて。

「瑛クン、言いすぎや。ボク、もう我慢できへん」

 そして、いつになく強い口調で佐伯くんに言い放つ。
 佐伯くんはくーちゃんの気迫に呆気にとられてるのか、唖然とした顔でこっちを見てた。

「くーちゃん、密っちのところ行ったんじゃ」
「ごめんな? ちょぉ気になって話し聞いとってん。……瑛クン」

 肩越しに私を振り向いて見せてくれた笑顔は困ったような。
 そして、佐伯くんの名前を呼んで、再び柳眉をつりあげる。

ちゃんが気にせんようにして我慢しとったからボクも我慢しとったけど、もう限界や。もう瑛クンにちゃんを任せられへん」
「な……」
「瑛クン、ちゃんに甘えすぎやで。いくら瑛クンかて、ちゃんを傷つけていい権利なんて持ってへんやろ」
「く、くーちゃん、私別に」
ちゃんが最近ずっと元気なかったんも、無理にはしゃいどったんも、瑛クンのせいやろ? ボク、そんな瑛クンにちゃんを渡さへんで」

 え、え、え?

 くーちゃんの普段からは想像もつかない気迫に私も佐伯くんも言葉が出なかった。
 だって、いっつも優しい笑顔浮かべてふにゃ〜って気持ちにさせてくれる癒し系ナンバー1のくーちゃんが、こんなこと言うなんて。

「な、何言ってんだよ。おまえ、水島と付き合ってんだろ?」
「関係あらへん。ボク、ちゃんも大好きやもん」
「「いやいやいや!!」」

 思わず佐伯くんと同時につっこんじゃう私!
 えええくーちゃん、一体何考えてるの!?

 何がなにやらパニック状態。
 そんな私をくーちゃんはぐっと抱き寄せて、佐伯くんに指を突きつけた。

「瑛クンには渡さへん。棒倒し、I組にも負けへんけど、瑛クンにも負けへんで!」

 ゴロゴロピシャーン!

 急に暗雲たちこめて稲光が走った……ような幻覚が見えた。
 すると佐伯くんも何を思ったのか。その目がスッと座り、腰に手をやってくーちゃんを見下すように斜に構えて。

「挑まれた勝負は必ず勝つ。それが……オレ流!」

 ばちばちばちっ!!

 二人の間に火花が迸る!

 コレどういうことですか!?
 ええ!? もしかしてこれ、乙女の憧れシチュエーション、二人の男の愛に悩む乙女の図ですか!?
 ……って、ふざけたこと考えてる場合じゃないよね!?

「負けへんで、瑛クン」
「絶対勝つ。返り討ちにしてやる」

 ……あれ?

 でもこれ、理由はどうあれ、二人のテンションはしっかり上がっちゃってる?
 もしかして、ちゃん任務達成ですか?

「さすがね、さん。作戦通りだわ」
「うわ密っち!? ちょ、これどう収拾つけるの!?」
「うふふ、タイマン勝負だなんて昔の血が騒ぐわー♪」

 ばちばちと睨みあう佐伯くんとくーちゃん。

 い、いいのかなぁ、これで……。

Back