「お前去年も店の手伝いで遅刻してきたよな」
「だ、だってミルハニーはクリスマスケーキの予約扱ってるし……」
「抜け駆けして珊瑚礁の売り上げ出し抜こうとしても無駄だ。……いいから早く乾杯用のグラスとって来いよ」


 40.2年目:クリスマス


 今年もやってきましたはね学主催のクリスマスパーティ!

 ミルハニーの手伝いをしていて今年も遅刻しちゃったけど、開会の教頭先生の挨拶中に潜りこめたから今年はしっかりスイーツを堪能できそう!
 ……と思ってたら、会場の隅にいた佐伯くんに手招きされて、早々にチョップされてしまったのでした。うう。

 遠く壇上で挨拶してる教頭先生の話に耳を傾けつつも、私はこそこそ移動してテーブルの上に並ぶ色とりどりのノンアルコールカクテルのグラスを取る。
 テーブルの上には目にもまぶしい色とりどりのクリスマスディナー。
 働いたあとの胃袋には誘惑が強かったんだけど、私はピーチサイダーのグラスをとって、小走りに佐伯くんの元へと戻る。

 そして、みんなの目を盗んでこっそりとグラスをぶつけて。

「メリクリ佐伯くんっ」
「メリクリ。あのさ、って去年もドレス着てたっけ?」
「着てたよ? さてはあかりちゃんのしか覚えてないなー?」
「そうだったっけ……」

 私の揶揄も耳に入らなかったのか、佐伯くんはなんだか子供みたいな表情して首を傾げながら私の着ているドレスに視線を落としていた。

 今年のちゃんのドレスは、オフホワイトのシフォンをたっぷり使ったふわっふわのドレスなのです!
 ベアトップで後ろはスピンドル仕様。スカート部分はオーガンジーとチュールを重ねたパニエで膨らませたフィットアンドフレアーのシルエット。
 両サイドのウエストに叩きつけられたオーガンジーリボンは前で結んでも後ろで結んでもいい仕様だけど、長さがあるから今回はストール風に肩を覆ってみました。

 私は佐伯くんの前でくるりんと1回転。

「どうどう? おとうさんっ、似合ってる?」
「ああ……うん。いいんじゃないか?」
「ほんとにっ??」
「うん……すごく好き」

 やったね、佐伯くんに褒められたよ!?
 うーん、昨日丸々1日かけてショッピングモールと商店街と公園通り往復しまくったかいがあったなぁ〜。

「ありがとう! 佐伯くんもスーツ姿決まっ瑛ね!」
「お前今、なんか含んだな?」
「そんな滅相もないっ。……わわチョップ禁止! せっかく髪セットしてきたのにっ」

 腕を振り上げた佐伯くんから、私は頭を守る。
 今日はミルハニーの手伝い前に、素早く髪を上げてきたんだもん。
 短い髪だから苦労したけど、スワロフスキーのついたダッカールクリップでなんとか纏めて見ました!

 すると佐伯くん、髪を掻きあげながら「ああそっか」となんだか納得したみたいで。

「だからいつもと雰囲気違うのか」
「ふふーん。今日はオトナバージョンなのです」
「お前ってオトナになってもコドモと対して変わんないのな」
「ぐさっ! い、今のはものすごく突き刺さったよ、佐伯くん……」

 ひ、人が気にしてるコトを……。
 うう、どうせ私はチビで童顔だよぅ……。

 比べて佐伯くんはいつもよりも大人びた雰囲気で本当に本当にカッコいい。
 珊瑚礁の給仕姿が一番大人っぽいけど、今日のも学生っぽい雰囲気じゃなくて。
 ……あとで気づかれないように写メっとこう……。

「そういう服って、首元になんかアクセつけるもんじゃないのか?」
「え?」

 佐伯くんを見上げながらいろいろと画策してたら、じーっと私の胸元を見下ろしながらぽつりと一言。

「いやんエッチっ」
「隠すほど立派な胸か?」
「ぐっさー!! ど、どうせ胸ないよっ!!」

 さっきよりも突き刺さった!
 ていうか、それセクハラでしょう佐伯くん!!
 ううう、竜子姐や水樹ちゃんみたいな胸に憧れるよ私だってっ……ぐすぐす……。
 やっぱりパパの言うとおり、こんな衿ぐりの開いたドレスになんかするんじゃなかった……。

 思わず壁に額をつけて落ち込む私。
 しかし佐伯くんは反省するどころか、私のこんな反応が楽しかったみたいで。

「なに、お前。そんなこと気にしてんの?」
「気にするよっ。佐伯くんみたいな外面いい人にはわかんない悩みだよっ」
「外面いいってお前な。もしかして、そこ注目されたくなくてネックレスの類つけてこなかったとか?」
「ううっ……そ、それもあるけどさぁ……。私、こういうドレスに合うようなアクセって持ってなくて」

 私が持ってるのはほとんどがビーズを使ったカジュアルなアクセばかり。
 しまったなぁとは思ったけど、ママの持ってるフォーマルジュエリー借りるほどのパーティじゃないし。

「あ、でも。ほら! これはつけてきたんだ!」

 私は右手の中指を佐伯くんに見せた。
 そこには、修学旅行で佐伯くんに買ってもらった空色のガラスのリング。
 繊細なデザインのこれはドレスにも合ってると思う。

 えへへと微笑んで見せれば、佐伯くんは嬉しそうに口角を上げた。

「オレも。実は着けてきてる」

 そう言って、シャツの下の革紐をみせてくれた。
 ふふ、秘密の友情の証ってカンジでなんだかくすぐったい。

 ところがそれもここまでだ。

「あっ佐伯くん発見!」
「ほんとだ! ねぇねぇ、コッチ来て一緒に乾杯しようよ!」

 佐伯くんの背後から黄色い声で声をかけてきたのは、いつもの佐伯親衛隊の女の子たち。
 背を向けてるからって、佐伯くんは一瞬ものすごく苦々しい顔をしたものの。

「時間切れか」
「残念! でも仕方ないね」
「じゃあ僕はこれで。……また、あとでな?」

 いたずらっぽくウインクして、佐伯くんは彼女たちのところへと向かった。
 うーん、でも開始早々佐伯くんとおしゃべりの時間がとれたのはラッキーだったかもね。
 
 さぁ。
 私もいつものメンバーに挨拶してこようっと!



「ぱーるぴーん! メリクリ! スイーツしてる?」
メリクリ! あったりまえやん! センセ同伴のクリパで楽しめる言うたらスイーツくらいしかあらへんやん」
「そうだよね〜。あ、ハリーもメリクリっ!」
「おっせーんだよ! 一番にオレに挨拶すんのが礼儀だろ!」
「ごめーん。あれ、なんだかハリーってばいいカンジのスーツ着ちゃって。今年はどうするの? また歌うの?」
「おう、この後な。だから飯を思いっきり食うのは後回し。つか、オレの飯ちゃんと確保しとけよ!」
「それはぱるぴんに言ってよ。最前列で聞くからね! んじゃ、またあとでね!」
「……アイツは今年も食い気かぁ? 佐伯も大変だよな」
「せやなぁ。もミーハーな割りに鈍いコやしなぁ……」

「密っちっ、竜子姐っ、メリクリ!」
「メリーだね、。アンタ、今日のドレス似合ってるじゃないか」
「メリークリスマスさん。本当、似合う〜! もう、乙女なんだからさんてば」
「やだなぁ、可愛さとカッコよさは二人に全然敵わないよ。二人とももうターキー食べた?」
「ああ。あのテーブルのターキーは少し焼きすぎだったから他のテーブルのがいいと思うよ」
「あとね、奥のテーブルだけホワイトチョコのブッシュドノエルがあったの! ミルクチョコの方が好みなんだけど、真っ白で可愛かったの!」
「そうなんだ! 二人とも情報ありがとう! 早速行って来ます!」
「ったく、佐伯があんだけ女子に囲まれててもなんとも思わないってところで脈無しだね」
「うふふ、でもおもしろいじゃない? はね学の王子様なんて呼ばれてる人が、さんのような天真爛漫なコに惹かれてるなんて」

「あ、チョビッちょ発見! メリクリ!」
さん、メリークリスマス。千代美ですけど」
「チョビっちょは去年も可愛いドレス着てたよね。私とそんなに身長変わらないし、なんかあったときには借りに行こうかな」
「そうですね。私もさんのドレスは去年のも今年のも可愛いと思います。似合ってますよ!」
「ありがとー! あれ、ところでヒカミッチは?」
「呼んだかい? くん」
「あ、ヒカミッチ、メリクリ! 何してるの?」
「うん、実は従兄弟の兄さんに出された問題を考えているんだ」
「へ?」
「これからプレゼント交換があるだろう? 仮に僕が出したプレゼントを小野田くんが、小野田くんが出したプレゼントを僕が受け取ったとしよう。その場合に単純に出席者の数から割り出した確率でその事象を説明すると」
「ひ、ヒカミッチ……それ、目の前に女の子がいる状態でやることじゃないよー。少しはチョビッちょをエスコートすること考えなさい! あ、じゃあお邪魔虫は消えますのでっ」
さんっ! ……もうっ、さんこそ少しは佐伯くんのことを考えてあげるべきでしょう!」
「うーん……でもくんの言うことももっともだ。小野田くん、食事をしにいかないか?」
「あ、はい!」

「…………」
「あれ? 、何してるの?」
「水樹ちゃんと志波っちょには話かけないほうが友人としての心遣いかなぁと検討中」
「目の前でジロジロ見てるヤツの台詞か」
「あははは。水樹ちゃん、志波っちょ、メリクリ! 青春してますかっ!」
「メリークリスマス、。ほんといつだってテンション高いんだからは……」
「だな。……水樹、もう少し壁際に寄れ」
「え、なんで?」
「志波っちょの言うとおりだよ、水樹ちゃん。去年みたいに水樹ちゃんに声かけようとしてる男子の視線、ちゃんでも感じちゃってるよ」
「あ、うん。そっか……」
「でも今年は大丈夫だね。志波っちょがついてるもん。らぶらぶな雰囲気目いっぱい出してないと、声かけられちゃうよ?」
「だな。そうする」
「し、志波くんっ!」
「ククッ……悪い」
「うう、なんかちゃん当てられて居心地悪いなぁ……。じゃあお二人さん、ごゆっくりー!」
「……自身は人の心配してる余裕があるのか?」
って気ィ遣いのわりに人からの好意に鈍そうだもんね」
「お前もな」
「え?」
「……鈍感」

「若王子先生っ、メリークリスマス! やっぱりリッちゃんと一緒なんですねぇ……」
さん、メリークリスマス。やっぱりって、なんでしょう?」
「いやだってその……。えーと、なんだか随分ご機嫌ですね?」
「そうなんです! 先生、ようやく大崎さんを口説き落としたんです!」
「へぇ、ってえええ!? くど!? 口説き落としたって、え!?」
「……」
「やや、大崎さん往生際が悪いですよ?」
「どどど、どういうこと? リッちゃんっ」
「……若先生に1年の頃からずーっと言い寄られてて。もう根負けした。しつこいんだもん、若先生」
「えええええ……。じゃあリッちゃんが今日黒のドレスでシックに決めてるのって若先生に合わせてとか?」
「は?」
「や、さん誤解してるね? 先生が大崎さんを口説き落としたのは、陸上部への入部ですよ?」
「……は? 陸上部!?」
「そうです。大崎さんの運動神経は随一です! 先生とタッグを組めば、確実に教頭先生をギャフンと言わせられます!」
「若王子先生、目指すところが違う! インターハイでしょう!?」
「もちろんそれも目標ですよ?」
「も、って……」
「若先生、お腹すいた」
「はいはい。じゃあ料理を取りに行こうか。さんも一緒にメリクリしようぜ!」
「え、えーと、遠慮しときます……じゃ!」
「若先生、誘いたいなら先に佐伯誘っとかなきゃだめだって」
「やや、そうでした。でもよかった。大崎さんには個人的にクリスマスプレゼントを渡したいと思ってたから。……誕生日おめでとう」
「……くれるの? えーと、ありがとう……」



 みんなに挨拶して時折お料理つまんだりして。
 ちょっと疲れたから壁際にもたれた私。

 会場内はみんな楽しそうに談笑してて、クリスマスのかざりがきらきらと輝いていて。
 こういう雰囲気大好き。みんなが笑顔でいられる瞬間だもんね。

 私はしばらく、あいかわらず女子に囲まれてる佐伯くんや、男子を牽制してる志波っちょや、リッちゃんに激しく突っ込み入れられまくって落ち込んでる若先生や、みんなをボーっと見てた。

 そこへ。

ちゃーん。可愛いコが壁の花なんて勿体ないで?」
「そうですよ! 先輩っ、メリークリスマス!」
「あっ、くーちゃんにあまっちょ! メリクリ!」

 声をかけに来てくれたのは、今日もエンジェルスマイル全開のくーちゃんとあまっちょだ。
 くーちゃんとむぎゅー! とぴったんこして、私たち3人は壁際に並ぶ。

「やっぱりクリスマスパーティって楽しいもんやね〜。家族と過ごすのもええけど、こんなふうにお友達たくさんと集まってわいわいやるんもええもんやね」
「本当ですよね。僕、はね学のクリパって初めてですけどすごく楽しいです!」
「そうだよね。私も冬の楽しみはこれが一番かも」

 ぱるぴんやハリーと騒ぐのも大好きだけど、こんな風に癒し系二人に挟まれて、のんびりと会話することもできるクリパは本当に大好き。

ちゃん、今日も瑛クン大忙しやんな?」

 体を横に倒すようにして、私の顔をのぞきこんできたくーちゃん。
 私はこくんと頷いた。

「だね〜。大変だよね、佐伯くんも。でも今日が終われば冬休みだし、はね学プリンスとして最後のお勤めってとこかな?」

 佐伯くんに聞かれたら「他人事と思って」って盛大なチョップくらいそうだけど。

「でも佐伯先輩も要領悪いなぁ。こんなイベントごとで先輩ほっとくなんて」
「あはは、仕方ないよ〜。友達ばっかりヒイキもしてられないじゃない、佐伯くんの場合」

 ぱたぱたと笑顔で手を振って見せれば、くーちゃんとあまっちょは顔を見合わせて。

 と、くーちゃんが頭上を見上げた。

「あ。ちゃん、素敵なものの下におったんやね?」
「え?」
「本当だ。クリス先輩、これってミスルトーですよね?」
「ショータクンも知っとるん?」
「ミスルトー?」

 私もつられて上を見る。
 そこにあったのは、壁に飾られたクリスマスリース。
 これ、ミスルトーっていうの?

「ミスルトーっていうのはヤドリギのことですよ」
「ふーん? そういう木の種類なの?」
「ええ。でも、クリスマスにおいてはとっても意味のある木なんです……そうだ! クリス先輩っ」

 私にミスルトーの説明をしていたあまっちょが、急に表情を明るくして、くーちゃんの腕を引っ張っていく。
 ちょっと離れたところでくーちゃんに耳打ちするあまっちょ。
 すると、話を聞いていたくーちゃんも私の方を見てぱっと目を輝かせた。

「ショータクン、ええ案かもしれんで?」
「でしょう!? そうと決まれば即実行ですよ!」
「え、なになに? なにかおもしろいこと?」

 気になって側によっていけば、くーちゃんとあまっちょはいつもの天使のような笑顔を悪魔のソレに変えて。
 あ、あれ?

ちゃんっ、ボクたち用事あるからまたあとでな?」
「すいません、先輩。クリパ楽しんでくださいね!」

 そう言って、二人はすたこらと走って去っていく。
 な、なんだろ? あの二人、あんなに仲良かったっけ?

 私は一人ぽかんと、その後姿を見送ったのでした……。



 その後のプレゼント交換。
 私が提出したのはクリスマス模様が彫られたペアグラス。どうやらそれはあまっちょにあたったみたい。
 代わりにまわってきたのはポインセチアのクリスマスオーナメント。明日までなら飾っても大丈夫だよね? ミルハニーの入り口行きかな。

 またあとで、って言ってた佐伯くんだけど、今年は逃げ出せなかったみたい。
 ぱるぴんたちと一緒に会場を出た後、電車に乗り込んでからメールが届いた。

『はばたき駅横のカフェで待っててくれ』

 って。
 はばたき駅まで来ちゃうと、私の家までは歩いて3分。
 でもわざわざこういうメールを送って来たってことは、家で待ってると都合が悪いってことだよねぇ?

 駅でぱるぴんたちと別れた後、私は一人でカフェに入った。
 ……さすがに、コート着てるとはいえこんなドレス姿で一人カフェに入ってるのは恥ずかしいよ〜。
 ロイヤルミルクティをすすりながら、私はお店の隅で佐伯くんを待った。

 で、佐伯くんの到着はそれから20分後。

「ごめん! うまく抜けられなかった」
「ううん、大丈夫だよ。佐伯くんも何か飲む?」
「いや、もう出よう。ここ、オレが払うから」
「えっ、いいよそんな!」

 慌てて遮ろうとしても、佐伯くんは手早く伝票を掴んで会計をすませてしまって。

「ご、ごめんね?」
「いいんだ。オレが待たせたんだし。ほら、行くぞ」
「うん」

 佐伯くんが差し出した左手を握る。
 なんか、今日はすっごく自然に手繋ぎできちゃった。

 お店を出れば、クリスマスネオンに彩られた駅前商店街。
 空は真っ暗で吐く息も真っ白だけど、不思議にあったかいサイレントナイト。……なーんて。

 佐伯くんは私の手を引いたまま、ゆっくりとミルハニー方向へと足を進める。

「今日もお疲れ様! 佐伯くん、いつにも増して囲まれちゃってたね」
「ああ。うん」
「やっぱり帰りも一緒に帰ろうコール?」
「うん」
「佐伯くんが出したプレゼントなんだったの? 佐伯くんのプレゼントが当たったコは相当ラッキーだよね!」
「うん」

 あれ?

 私は首を傾げた。

 なんだか佐伯くん、様子がおかしくない?
 まっすぐ前を向いて、こっちを見ようともしない。
 何かあったのかな。
 元気がないようには見えないから、落ち込むようなことがあったわけじゃなさそうだけど。

「さえ」
「はばたき駅横……ミルハニーの2軒隣……」

 声をかけようとして、なにやらぶつぶつ言ってるのに気づいた。
 はばたき駅横で、ミルハニーの2軒隣?
 って、カントリー雑貨を扱ってるお店のことかな?

「佐伯くん、雑貨屋さんならもう閉まってるよ?」
「店に用事があるわけじゃない」

 じゃあなんのことだろ……。

 などと思ってるあいだに、件の雑貨屋さんの前に差し掛かる。

「ここか」
「うん、そうだけど」

 お店の前で佐伯くんは立ち止まる。
 可愛らしい少女趣味のアンティークドールや陶器の猫の置物などが並べられた窓辺。
 レースのカフェカーテンがかけられた木製のドアの前にはCLOSEDのプレートと一緒に、クリスマスリースがかけられていた。

 あんまり佐伯くんのイメージに重ならないカンジのお店なんだけどなぁ。

「……よし」

 ん?

 横を見れば、佐伯くんがなにやら深呼吸して気合を入れた模様。
 ???

、ちょっとここに立て!」
「え? うわっ」

 ぐっと腕を掴まれて引っ張られたと思ったら、お店の入り口前に立たされる。

「さ、佐伯くん! ここ、人様の家だよ!?」
「わかってる。すぐ終わるから」
「すぐ終わるって」

 なにごと?
 私は目をぱちぱちさせながら佐伯くんの顔に見入ってしまった。

 佐伯くんの立ってる歩道より、一段高くなってるお店の玄関。
 だから私の目線は今、佐伯くんと同じくらい。それでも若干佐伯くんのほうが高い。
 男の子なんだなぁって、妙な感心しちゃったりして。

 すると佐伯くんは、少し緊張したような面持ちで私に告げた。


「なに?」
「……メリークリスマス」

 そう言って。
 それはほんの一瞬の出来事。

 佐伯くんは、私の額にちゅっとキスをした。



 って。



 キス?



 ぅええええええっ!!!???

「ちょ、さ、さ、佐伯くんっ、なななな、なに!? いきなりっ、なんですか!?」
「な、なんだよ。なにって、ほらこれ」

 瞬間的に熱くなる。
 思わず大きな声を出しちゃって、慌てて口を塞いで。
 そして佐伯くんを驚いて見上げたら、佐伯くんも少し照れた顔して私の後ろを指していた。

 後ろって、ドアしかないんだけど……。

「な、なに?」
「なにって……これ、ミスルトーなんだろ?」
「ミスルトーって、……あ、さっきくーちゃんとあまっちょが言ってたヤツかな。こ、これがどうかしたの?」
「どうかしたって」

 佐伯くんは目を点にして私を見下ろした。

「お前、クリスと天地から聞いてないのか?」
「なななななにをっ??」
「だからミスルトーの下に……」

 そこまで言って、佐伯くんは口を閉ざした。
 どうしたんだろうと思って見ていたら、今度は佐伯くんのほうが見る間に赤くなっていって。

「あ、アイツらっ、計ったなっ!?」
「えぇ? 計ったって、どういうこと?」
「てっきり、も知ってるもんだと思ってた。ミスルトーの下にいる……」

 再び同じところで説明を切る佐伯くん。
 そして俯いて、ぎりぎりと歯を食いしばってぷるぷると拳を震わせて。

 お、怒ってる?

「ええっと、それでミスルトーとデコチューが何の関係があるんでしょう……?」
「ウルサイっ、自分で調べろ!」

 恐る恐る尋ねてみれば、佐伯くんはキッと顔を上げて叫んで。
 そのままずかずかと足音荒くバスロータリーの方へと去っていってしまったのでした。

 って。

 結局わかんないじゃんっ!
 な、なんで急に佐伯くん、デコチューなんてしてきたの!?
 くーちゃんとあまっちょ、一体何を佐伯くんに伝えたんだろう??

 ああもう、わからないことだらけだよー!

 うう……。

 だ、だけど。ね。
 私は額を右手で押さえる。

 うわぁ、佐伯くんにキスされちゃった……。
 ミスルトーがどうこう言ってたから、きっとクリスマスに関するおまじないかなんかなんだろうけど。
 これって、佐伯くんと友達だったから受けられたラッキーだよね?
 うわーっ、役得!! ごめんね佐伯くんの親衛隊のみなみなさま!

 私はちょっとドキドキしつつも佐伯くんの友情に口元にやけさせながら、寒空の中帰宅した。


 そんなこんなで、2年目のクリスマスは幕を閉じたのでした……。

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