その後の試合は、非常につつがなく進行した。


 35.修学旅行三日目:激闘枕投げ 後編


 まずは第二試合、2−B選抜Aチーム対クールクイーンチーム。
 ところが、ゆっくりと立ち上がるのは若王子先生。

 ……あれ? 若王子先生?

「なんで若王子先生?」
「おいおい、そこは藤堂が出るとこだろ? なんで若王子が出てんだよ」
「や、先生藤堂さんと交代してもらったんです」

 なんて、邪気のない笑顔で答える若王子先生。

 私とハリーは顔を見合わせた。

「な、なんで……」
「ほら。藤堂さんと大崎さんがコンビじゃ戦力差がありすぎるでしょう?」
「確かにそう言われりゃそうだけどよ……」
「よーしっ、大崎さん、がんばろうぜ!」
「足引っ張らないでよ、若先生」

 きゃっきゃと楽しそうに枕を拾う若王子先生に対して、相変わらずリッちゃんはサクッと容赦ない一言を言い放つ。

 で、その後の試合はというと、一進一退の攻防が続いたのち。

「……なんかつまんない」

 ひょいひょいと枕をかわしつつ相手陣地に枕を放り込む、という単純作業になってしまった枕投げに、クールビューティ早くも退屈してしまったご様子。
 逆に若王子先生は飛んでくる枕をキャッチしたり打ち落としたりと案外楽しそうではあるんだけど。

 ゆ、ゆるいなぁ……この試合……。

「くそっ! こうなりゃふたつ持ちだ!」
「よしっ! 大崎、4つの枕をかわせるか!?」

 ラチがあかなくなってきた試合に、選抜チームが枕の両手投げの暴挙に出た!

 さすがに4個というのはリッちゃんも避けきれずに、ぺしぺしと枕にあたりはじめる。
 でも利き手じゃない手で投げてるからあまり威力はないみたいで、脚で蹴り返すリッちゃんがちょっとカッコよかったりして。

 ところがそこへ。

「ややっ、女の子を集中攻撃なんて卑怯です!」

 なんて言っちゃって。
 なんとなんと、若王子先生がリッちゃんの前に立ちはだかって、わが身を楯としたのだ!
 わぁぁ、なんかすごく絵的にカッコいいんですけど!?

「大崎さん、心配しないで。先生がきっと守ってみせます!」

 なんて。
 思わず密っちと手を取り合ってきゃぁきゃぁ盛り上がっちゃうよね!

 ところがリッちゃんはと言うと。

「仕方ない。手っ取り早く勝負つけるから若先生、協力して」
「はいはいっ! 先生がんばっちゃいますよ」

 くるっと満面の笑顔で振り向いた若王子先生の首根っこをひっつかんで。

 って。

「若先生アターック!!」
「「「「「スゲェェェェ!!!」」」」」

 そのまま若王子先生を一本背負いに要領で、2−B選抜チームの方に投げ飛ばすリッちゃん!
 思わず観客全員その光景に魅入ってしまった!!

 投げ飛ばされた若王子先生と2−B選抜チームの二人は折り重なって伸びちゃって。

 くるりとこっちを振り向いたリッちゃんがガッツポーズ。

「勝った!」
「反則負けに決まってるだろうがっ!」
「てゆーか、投げていいの枕だけだし!」

 若王子先生をひときわ尊敬してる志波っちょに怒鳴られて、その後は幼馴染の場外口喧嘩に発展。

「どうすんの、コレ」
「とりあえず両チーム試合続行不可能ってことで。次行くぞ次ー」

 試合進行をハリーが引継ぎ、第2試合は没収試合となったのでした。
 ……い、いいのかなぁ……。



 で、第三試合はくーちゃんと密っちのチームと、竜子姐が入った2−B選抜Bチームだったんだけど……。

「くらえ水島ぁ!」
「望むところよ竜子!」

 という、ほぼ密っちVS竜子姐の試合模様になりまして。
 奥義炸裂、とばっちり負傷者多数。

「み、水島と藤堂も、出場、停止、だ……がくっ」
「ああっ、ハリークン! 死んだらアカーン!」

 口から抜けていくハリーの魂をくーちゃんが追っかけていく。

「オレ、枕投げちょっと甘く見てたかも」

 さすがにこの試合模様には佐伯くんも青くなってた。
 ……そんなわけで、第三試合はあっという間に終了。



 そして第四試合。……の前に、「あのー……」と遠慮がちに手を挙げたのはあかりちゃんだった。

「あかり、どないしたん?」
「あのね、言いそびれてたんだけどね……」

 ハリーからさらに試合進行を引き継いだぱるぴんの近くに寄ってって、こそっと耳打ちするあかりちゃん。
 するとぱるぴんは慌てて対戦表に目を通して。

「ほんまや! あかり、試合組まれとらんやん!」
「ええっ? でも試合開始前にハリーがペア組んでないやつーって聞いてたよね? あの時手を挙げなかったの?」
「あ、あのね、多分その時、私……」

 あかりちゃんは頬を染めてもじもじと。

「私、トイレに入ってたんだと思う……」
「……あー……」

 みんな、何も突っ込まずにただ頷いた。
 た、タイミング悪かったんだね、あかりちゃん。

「どうしよっか?」
「あかりだけ試合出来へんのも可哀想やしな」
「とろとろしてるからだろ」
「瑛クン、そないな言い方可哀想やで?」

 うーんと腕を組んで考え込む。

 そこに、解決案を提案してくれたのは、やはりというかさすがというかのヒカミッチだった。

「どうだろう。今からだと試合計画が崩れてしまうから、決勝勝ち抜きしたものが海野くんと試合するというのは。海野くんは、相手の勝利を阻止できそうなパートナーを敗者の中から選ぶといい」
「なるほど! 枕投げ阻止に来た人とは思えへんナイスアイディア!」
「なっ!? ぼ、僕はけっして枕投げを承認したわけじゃないぞ!? ただ、海野くんが参加する場合の案をだな!」
「はいはいっ。わかったから次の試合行ってみよー! ヒカミッチ、出番なんだからスタンダップ!」

 すでにここに来た目的を忘れかけてたヒカミッチを立たせて、ぱるぴんと一緒にどーん! とその背中を押す。

「第四試合は氷上・小野田ペアと、志波やん・セイペアやな!」

 先に陣地に入ったヒカミッチとチョビッちょを追う様に、ゆっくりと立ち上がる志波っちょ。
 隣の水樹ちゃんに、さりげなく手を貸してあげたりして、もうもう完全なナイトさまだもんねぇ。
 いいなぁ。

「行くぞ、水樹」
「うん! がんばろうね、志波くん!」

 身長差30センチのでこぼコンビに対して、迎え撃つははね学トップブレーンの二人だ。

「志波くん! 遅刻常連、生徒手帳紛失、その他もろもろの罪っ、いまここでさばいてくれよう!」
「水樹さんっ、テストではいつも苦渋を飲まされてますが、今日は負けませんよっ!」

 ばちばちばち。

 前2試合とは打ってかわって、健全な火花が散る試合場。

「なんかあそこに志波がいるのが、すっげー違和感だ」
「一人だけでかいし」
「一人だけ黒いし」
「一人だけ成績悪いし」
「ちょ、みんな、志波っちょいじめるのやめようよ……」

 すっかりみんなと馴染んじゃった佐伯くんの言葉に、復活したハリーと、ぱるぴんと、口喧嘩で言い負かされたリッちゃんが便乗して。
 この4人が集まると容赦ないんだなぁ……。

「んじゃ始めっぞ! レディーっ、ゴーっ!!」

 志波っちょの殺人視線を向けられて、さらりと試合開始を告げるハリー。
 インテリたちの(一部除く!)戦いは幕を開けた!

「くらえ氷上!」

 志波っちょの渾身の一撃がヒカミッチを襲う!
 ヒカミッチはそれを両手で構えた枕で受け止め、うわ!?

 志波っちょの弾丸枕の威力、半端ないよ!? ヒカミッチ、両足でしっかり踏ん張ってるのにズザザァ! と50センチ押されたもん!

「すげぇ……志波とはやりたくないな」
「だよねぇ? ヒカミッチ、チョビっちょがんばれーっ!」

 この試合の勝者と次にあたるんだもんね?
 私と佐伯くんは、勿論ヒカミッチとチョビっちょの応援にまわる!

「水樹さんっ、覚悟です!」
「わぁっ!」

 チョビっちょの投げる枕は、さっきから勢いよく水樹ちゃんを襲ってる。
 あんまり運動神経のよくない水樹ちゃんは、枕を投げるヒマもなく、両手を振り回してわたわたとバランス取りながら枕を避けて。

「可愛ええなぁ、セイちゃん」

 場違いな感想を漏らすくーちゃんだけど、それについては激しく同意!

「たぁっ!」

 チョビッちょの枕を紙一重で避け続けていた水樹ちゃんに、容赦なくヒカミッチの枕が襲い掛かる!

「ふにゃっ!」

 ばふん!

 水樹ちゃんはモロにその枕を顔面に受けて、どすんと尻餅をついちゃった。

「や、やったなぁ氷上くんっ!」

 鼻のあたりをさすりながらも、負けてたまるかと元気よく飛び起きる水樹ちゃん。

「水樹、大丈夫か!?」

 慌てて駆け寄る志波っちょにも笑顔を向ける水樹ちゃん。

 でも。

「あ。志波、キレた」

 一番最初に、志波っちょの変化に気づいたのはさすがの幼馴染、リッちゃんだった。

 瞬間的に、志波っちょの背後からぶわっと黒オーラが放出される!
 一瞬で凍りつく現場の雰囲気。

「く、くるぞっ! 小野田くんっ!」
「はいっ! なんとか耐えましょう、氷上くんっ!」

 枕を置いて、志波っちょの奥義を迎え撃つ態勢を整えるヒカミッチとチョビっちょ。
 私たちもとばっちり防止のために、そのへんに敷かれてる布団を引き寄せて、目だけ出して頭からかぶる!

「こら! あんまり持ってくな!」
「わぁっ! 佐伯くんこそ半分以上持ってってるじゃないっ!」

 などと布団の奪い合いをしてる間に、志波っちょの奥義が完成する!

「志波勝己必殺の技……」

 さきほどのぱるぴんと同じく、どこからともなくバットとボールを取り出す志波っちょ。
 って凶器ですか!? それいいんですか!?
 さすがにボールを素手で受け取る覚悟はないのか、ヒカミッチとチョビっちょも布団の中に避難する!

「くらえっ、千本打撃!!」
「「「「ギャーッ!!!」」」」

 もう無差別攻撃だよコレ!
 部屋の中は阿鼻叫喚! みんな叫びながら逃げ惑ってるし!

! 伏せろ!」
「え、わっ」

 目の前に飛んできたボールを、佐伯くんが腕をひっぱってくれたおかげでかろうじてかわせた!

「あ、ありが」
「いいから伏せろよっ!」

 佐伯くんは私の肩を掴んで強引に床に押し付ける。
 うわっ! その佐伯くんの頭すれすれをボールが飛んでったよ!?

「し、志波くんっ、やりすぎだよ!」

 部屋の中央付近から水樹ちゃんの焦った声が聞こえる。

 しかし。

 次に聞こえてきたのは、一番聞きたくない声だった!


 ダンダンダンっ!!


「何をしておる! 消灯時間はとっくに過ぎているぞ!」

 ぴきんと部屋の空気が凍りついた。
 志波っちょの奥義も止んで、全員が入り口を注目して。

 口を開いたのはハリーだった。

「教頭だ! ヤベェ、全員隠れろ!」

 素早く立ち上がって、部屋の電気を消して。
 声を殺して全員が動き出す!

 暗闇の中で、竜子姉はクローゼットに。くーちゃんは密っちの手を引いてカーテンにくるまる。
 志波っちょは水樹ちゃんを押入れの上に押しやり自分も入って、その下の段にはリッちゃんと若王子先生が慌てて駆け込む! ……って若王子先生も隠れるの!?
 ハリーとぱるぴんは部屋の奥に素早く移動して布団にもぐりこむ。ヒカミッチは座布団を素早くテーブルに立てかけて、その下にチョビっちょと一緒に潜りこんだ。
 枕投げ発案部隊は、問題なく寝てまーすというアピールのために入り口付近の布団に頭を出して狸寝入り。

 ……なんて。

 解説してる場合じゃなかった! 私も隠れなきゃ! ど、ど、どうしよう!
 
、何やってんだ!?」
「佐伯くんっ」

 佐伯くんも自分割り当ての布団に潜りこんでる。
 え、えと、あと隠れられそうな場所は!?

 きょろきょろ探しても、隠れられそうな場所にはあらかた先客が入ってしまってる。

 うわーっ、パニックーっ!!!

「ああもう、何してんだよ! 来い!」
「わぁっ!」

 頭の中真っ白になって右往左往してたら、見てられたくなったのか、佐伯くんが飛び起きて私の腕を掴んだ。
 どこか隠れる場所を教えてくれるのかと思ったら。

 布団の上に、押し倒された。



 …………。



 うぎゃあああっ!!!???



「さ、さえ」
「おとなしくしてろ!」

 私を抱え込むようにして、佐伯くんは布団をかぶって狸寝入り。
 う わ わ わ わ っ !?
 わわわ私今、佐伯くんに抱かれ、いやなんか語弊あるけど、そういう状態だよね!?

 うわ……顔の目の前に佐伯くんの胸がある。
 佐伯くんの心臓の音、ばっくんばっくん言ってるよ!? って、私もそうなんだろうけど!
 ちょ、えええ!? 何このシチュエーション。

 がちゃっ!

 ドアが開けられる音がして、私の背中にまわされてる佐伯くんの腕に力が入った。

 うわーっ、こ、こんな状態のところ、教頭先生に見つかったらっ……!!!
 ど、どうか見つかりませんように!!

「……む、この部屋じゃなかったか……?」

 は、早く行ってよぉぉ〜!
 心臓が破裂しそうになるっ。佐伯くんの体操着を皺になっちゃうくらいにぎゅっと掴んで、必死に息を殺して。

 やがて。

 パタン

 ドアがしまる音がした。

「……行ったか?」

 布団の向こうから、発案部隊の一人の声がした。

「ああ、行ったみたいだ。もういいぞ、みんな!」

 はぁ〜! よかった、バレなかった!
 もう心臓に悪いよ教頭先生! ……って、規則破って枕投げしてる私たちが悪いんだけどさ。

 よかった、もう大丈夫。

 私は布団を跳ね除けようと手を上に伸ばして。

 ……ところが。

 佐伯くんの腕に力がこもり、腕が伸ばせない。
 まるで、それを阻止してるかのように。

 って。

「さ、佐伯くん、もう教頭先生行っちゃったよ??」

 まだ警戒してるのかなと思って声をかけるけど無反応。
 だけど、腕にこめられた力はさっきよりも強くなってる。
 ちょ、ちょっとどうしたの?

「……おーい、もういいんだぞー」

 ほら、発案部隊の人たちも大丈夫だって言ってるし!

「ったくしょうがないねぇ、コイツらは……」

 クローゼットから出てきたらしい竜子姐がため息をついた。
 そして、ぱんぱんと手を叩く。

「アンタたち、盛りつくんなら他所行ってやんな」
「「「「「違うっっ!!!」」」」」

 途端に、布団もカーテンも座布団も押入れの戸も、一斉に飛んだり開いたり。
 私と佐伯くんがかぶってた布団もそう。
 どうやら佐伯くんが足で跳ね上げたみたいだけど。

 目をぱちぱちしながら体を起こせば、あちこち隠れていたみんなの顔がほんのり赤い。

「ち、ちっくしょー……枕投げの計画したオレたちにはいい思いナシかよっ」
「他人のいちゃいちゃ見るために計画したんじゃねーっつーの!」

 くぅぅと涙に暮れるのは発案部隊の3人組。

 あ、な、ナルホド……。
 この枕投げ会場、異様にカップル率高いもんね。

 うわっ、じゃあなんですか!? みんな暗がりのせまいところをいいことに、素敵な修学旅行の思い出作っちゃったわけですか!?
 いいいいいなぁぁぁ!!

「若先生、重かった……」
「や、ごめん大崎さん。大丈夫?」

「水樹、降りられるか?」
「う、うん。ありがとう、志波くん」

「役得やわ〜。密ちゃんとピッタンコー♪」
「もうっ、クリスくんたら」

「氷上くん、頭打ちませんでしたか!?」
「だ、大丈夫だ。その、あんまり接近するのもよくないんじゃないかと思ってっ」

「ハリー、あ、ありがとな? 匿ってくれて」
「お、おう。感謝しろよ?」

 なーんて……。

 目に痛いんですけど、この光景。

「竜子ちゃん、一緒に隠れさせてくれてありがとう!」
「なぁに。アンタひとりくらいなら平気だよ」

 って、あかりちゃんてば竜子姐に助けてもらってたのか!
 うらやましいっ! 私も竜子姐に庇ってもらい隊!!

「みんな青春だなぁ……。うらやましいよね、佐伯くん」

 なんかピンク色な光景から視線をそらして、佐伯くんを振り返る。

 すると佐伯くん。
 かぁぁと頬を染めて、ぽりぽりと頭を掻きながらぷいっと視線を逸らす。

 あ、れ?

 そ、そういう反応されると、こっちも恥ずかしいんですけどっ!
 なんだ佐伯くん、正義感で庇ってくれたのかと思ったけど、やっぱ照れ臭いんだ?
 うわぁぁ、なんか私の顔まで熱くなってきちゃったよっ。

「もう1回……先生来ないかな……」
「そ、そういうこと言わないでよーっ!」
「な、なんだよ。……嫌、だったのか?」
「そうじゃないけどっ! は、恥ずかしいじゃんっ!」
「お前不純なこと考えてるだろ。やらしー」
「ちちち違うもんっ!」

 お互い真っ赤になりながら言い合う私と佐伯くん。

 その時、再びガチャリとドアが開いた。

 ぎくっとして一斉にドアを振り返るけど、ドアを開けたのは枕投げ発案部隊の子たちだった。

「な、なんだ。おどかすなよな……」

 はぁーっと息を吐いたのもつかの間。

「教頭センセーっ。ここで不純異性交遊してる人たちがいまーすっ」

 廊下に向かって叫んだ言葉に、一瞬で全員が凍りつき、そして次の瞬間大炎上!

「おおおお前っ!! 何言ってんだよ!?」
「つーか何してんだっ!? せっかく教頭スルーしたのにっ!!」
「けっ。独り者の目の前でいちゃこきやがって。少しは憂さ晴らしさせろってんだ、ザマーミロ!」
「ザマーミロ!」
「ザマーミロ!」


「「「「「ふざけんなぁぁぁぁぁ!!!」」」」」




 と、いうわけで。


「これもまた修学旅行名物、って言えば名物だよねぇ……」
、強引にこじつけなくていいよ……」
「くっそアイツらっ……廊下に直接正座痛ぇよ!」
「しかも2時間て……寝る時間無くなるやん!」
「アンタたち騒ぎすぎたんだよ。ったく、面倒に巻き込んで」
「そういう竜子だって楽しんでたじゃない」
「そやそや。タッちゃんの奥義、カッコよかったで?」
「くっ……生徒会風紀委員の僕が廊下に正座なんてっ……! 他の生徒に示しつかないじゃないか!」
「やっぱり、最初の時点で強引にでも止めておくべきでしたね……」
「つーか若先生が正座してるほうが示しつかないんじゃん?」
「や、でも先生楽しかったですよ?」
「水樹、足冷たくないか?」
「大丈夫! 楽しかったね、志波くんっ」
「結局私、試合出来なかったな……」
「海野さんっ、次の機会は是非!」
「是非是非!」
「是非是非是非!」

 廊下にずらりと並んで、しんしんと夜の更ける音を聞きながら。
 私たちは教頭先生怒りの鉄槌をくらっていたのでした。

「ふぁぁ……」
「でけー欠伸」
「い、いいじゃん欠伸くらい……。でも佐伯くん、楽しかったでしょ?」

 しぱしぱしてきた目をこすりながら佐伯くんを見上げると、佐伯くんはすいっと目を細めて、でも口はとがらせて。

「まぁまぁだな」
「もう、偉そうに。でもまだ明日もあるから、罰則終わったら早く寝ないとね! 修学旅行は最後まで満喫しないと!」
「ああ。だよな。オレ、修学旅行って正直あんまり期待してなかったけど、案外楽しいもんだな」
「でしょ?」
「多分、お前のおかげだと思う」

 ぽそっと言ってから、佐伯くんは照れ臭そうに視線を逸らす。
 うわぁ、そんなこと言われると友達冥利につきちゃうよ!

 よかった、佐伯くんが修学旅行楽しんでくれて!

「明日も朝イチ出発?」
「当然だ。あ。明日は千枚漬と湯葉のおひたし包んでくるように」
「ま、また出るかなぁ……? でも出たら持ってくよ」
「よし。持ってこなかったらチョップ3連発な」
「ひどっ!」

 小さな声でひそひそと笑いあって。

 修学旅行三日目の夜は更けていったのでした……。

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