「第一回戦第一試合っ。2−B選抜佐伯・ペアVS他クラス選抜針谷・西本ペアーっ!」
34.修学旅行三日目:激闘枕投げ 中編
若王子先生と枕投げ発案部隊が必死に考えて(最後は阿弥陀くじだったけど)トーナメントが決まり。
記念すべき第一試合は、私と佐伯くんのペアと、ハリーとぱるぴんのペアに決まった。
「えーと試合時間は3分間。終了時点で陣地の枕の少ない方が勝ち。で、相手をK.Oしたり、枕を全部投げ込んだ時点でも勝負がつくからなっ」
「おもしろい! K.O勝ちを狙うぞっ」
「アイサー、隊長っ!」
「弟子の分際で偉そうに言うなっつーの! オレ様の華麗技でソッコー勝負つけてやる!」
「せやせや! イケメンかて、ガンガン顔狙ったるから覚悟せえ!」
お互い枕を持ちながら、境界線ギリギリで睨みあう私たち。
ぱしっと、握手の変わりに手のひらをたたき合わせて、戦闘準備に入る。
「がんばれよ佐伯っ! 2−B主催なんだから2−Bで勝とうぜ!」
「ハリークン、ちゃんにはお手柔らかになー?」
部屋の隅によけながら、自分の試合を待つみんなはわりとゆるい雰囲気で声をかけてくる。
ちなみにチーム分け表はというと。
・2−B選抜男子A(枕投げ発案部隊の二人)
・2−B選抜男子B(ここに若王子先生が入ってる)
・はね学クイーンペア(リッちゃんと竜子姐)
・はね学姫と騎士ペア(水樹ちゃんと志波っちょ)
・芸術チーム(くーちゃんと密っち)
・生徒会選抜チーム(チョビっちょとヒカミッチ)
・修学旅行カップル1号2号(ハリーとぱるぴん)
……そして2−B選抜男女混合チームの私と佐伯くんのペアだ。
「アイツらすばしっこいからな。確実に当てていくぞ」
「おっけー。隙あらば奥義発動だね」
「ああ。よし、いくぞっ」
両手に枕を持って、離れたところで最終打ち合わせをしていた私と佐伯くんが立ち上がる。
相手側のハリーとぱるぴんも、闘志に満ちた目を輝かせてこっちを見てた。
くーっ、燃えるなぁぁ!
「それじゃあ行くぞ! 第一試合っ、レディー、ゴーッ!」
「「「「そりゃあああ!!」」」」
試合開始の合図と共に、4人全員が枕を投げた!
「佐伯っ! 覚悟しろテメェっ!」
「おもしろい! 受けてやる!」
ハリーが投げた枕を左腕で効率よくガードして、すかさず反撃枕を投げつける佐伯くん!
しかしハリーもするりと身をよじってそれを避けて、素早く足元の枕を蹴り上げて手にとるっ。
その手元めがけて私の投げた枕がヒット!
よしっ、ハリーが枕を落とし、ぶっ!
「あたった! っ、注意散漫やで!」
「こらーっ! 乙女の顔を狙うとは卑怯だぞぱるぴんーっ!」
ガッツポーズ決めようと思ったところに、ぱるぴんの投げた枕が私の左頬にヒットした。
にししと私を指差して笑うぱるぴん。
そこに、今度は佐伯くんの弾丸枕がぱるぴんの肩にぶつかった!
「きゃあ! さ、サエキックのくせに女子狙うん!?」
「勝負に男も女もあるかよっ!」
「そーかよ。んじゃあオレも狙ってやるっ!」
「わぁぁっ! ハリーっ、本気投げは無しね!」
と言ってる矢先からハリーが振りかぶるものだから、私は急いで枕を顔の前に構える。
次にくる衝撃に備えっ……。
……。
あれ?
いつまでもこない衝撃に、おそるおそる枕を下げてみれば。
ばふん!
「ふぎゃっ!」
く、来ると思ったんだっ……。
下げた瞬間に襲いくる枕! ハリーの投げた枕が私の顔面を正面から捉えた!
い、いったーいっ!!
「何やってんだよ! 投げろっ!」
「ううっ、ハリーも佐伯くんもちゃんに冷たいっ」
「勝負ごとで泣き言言ってんじゃねーよ! よしっ、たたみかけるぞはるひ! 奥義行けっ!」
「まかしときっ!」
奥義!?
ハリーとぱるぴんの言葉に、私と佐伯くんの動きが止まる。
気づけばぱるぴんの背後には黄金色のオーラが満ち満ちていて、ぱるぴんの目がきゅぴーんと光っていた。
「来るか!?」
「う、うんっ!」
私と佐伯くんは枕を構えてぱるぴんの奥義に備える。
そして、ぱるぴんの奥義が発動した!
「アナスタシア秘伝……」
あ、アナスタシアの秘伝!?
ぱるぴんはどこからともなくかぼちゃを取り出して、大きくそれを振りかぶった。
「ケーキは別腹! 行ってこい食べ放題ーっ!!」
そして、ぱるぴんがかぼちゃを投げた!
私と佐伯くんがひらりと避けたところにどすんとかぼちゃが落ちる。
「……かぼちゃってなんだよ」
「さぁ……。あ、でも、なんかいい匂いが……」
足元に落ちたかぼちゃに、私たちのみならず会場にいる全員が注目してると。
ぽんっ! と音をたててかぼちゃが弾けた。
中から出てきたのはっ!
「あ……あれはッ……!?」
一番に反応したのは志波っちょだった。
肩膝立てて、身を乗り出してる。
「アナスタシアの夏の新作シリーズ!?」
「わぁぁ本当だっ! あっ、私まだアレ食べたことないっ!」
そう!
中から出てきたのは、色とりどりの無数のケーキ!
こうなったら、どうしてかぼちゃからケーキ、なんて物理的な疑問はどうでもいいもんっ。
「いただきまぁーす!」
たまらずケーキにとびつこうとして。
「ちょっと待て! ンな見え透いた奥義に引っかかるなよっ!」
佐伯くんに体操着の襟首を掴まれた。
ああっ、ケーキまであと30センチっ!
「だって佐伯くん、ケーキだよ! 乙女のロマン!」
「今食わなくたっていつでも食えるだろ! 枕投げの最中だってわかってるのか!?」
「ふっふっふ、甘いでサエキック。アナスタシアの夏メニューは9月15日で終わっとるんや」
「なにっ!?」
「つまり、今食べんと、はばたき市に戻ってからじゃこのケーキは食べられへんっちゅーこっちゃ!」
「ああっ、ケーキ、ケーキっ」
佐伯くんに襟首掴まれながらも、私は取り憑かれたようにふらふらと足と手を動かす。
視界の隅ではせっせと枕をこっちに投げてるハリーが見えるけど、そんなのどうだっていいよっ。
ケーキ、ケーキ食べたいっ……。
「……わかった。、そんなにケーキが食いたいなら」
すると佐伯くん、ふーと大きく息を吐いた。
許可が貰える!?
私は期待の眼差しで佐伯くんを振り返る。
しかし、佐伯くんは座った目をして、口元をニヤリと歪めて。
「同じもの、はばたき市に戻ったらオレが作ってやる。だから枕投げに集中しろっ!」
なんですとっ!?
佐伯くんの言葉を聞いた瞬間、一気に靄が晴れたように思考がクリアになる。
はばたき市に戻ったら、佐伯くんの、ケーキ!
「やった! 本当に!?」
「よしっ、奥義の呪縛が解けたな、っ。反撃するぞ!」
「おっけー!」
「アカン! には絶対効く思ったんに、サエキックのほうがやっぱええんか〜」
頭を抱えるぱるぴんに、佐伯くんの投げた枕がヒットする!
「きゃうっ!」
「西本、見事な奥義だった。だがどんな不利な状況に追い込まれようともオレは勝つ。それが」
「オレ流っ!!」
佐伯くんの決め台詞を奪って、私もハリーに枕を投げつけた。
ハリーは手にした枕で私の枕を叩き落す。
「んっだよっ! お前、オレ様のファンじゃなくて佐伯の手下に成り下がったのか!?」
「手下じゃなくて友達っ! うりゃぁぁ!」
私は手当たり次第に枕を拾って、二人目掛けてではなくあっちこっちに向かって枕を投げた。
題して、枕を拾う時間をロスさせて時間切れを狙え作戦!
迎撃は佐伯くん任せだ。
「えいっ、えいっ!」
「ちっ! のヤツ、姑息だけど確実な作戦に出やがってっ!」
「余所見してるな針谷! くらえっ!」
ぱるぴんの奥義発動中に投げこまれた枕をばしばし投げ返して。
やがて試合終了のホイッスル! ……ならぬ掛け声!
「そこまで! 枕数えろ!」
はぁぁーっ……
最後は純粋に枕の投げ返しに徹してたために、私も佐伯くんも、ハリーもぱるぴんもその場にぐったりとへたりこんだ。
つ、疲れたあぁぁ……。
私と佐伯くんは背中合わせに座り込んで、外野が枕を数えているのを見ていた。
「ま、枕投げって案外ハードなんだね……」
「当たり前だろ……合戦みたいなもんなんだから……」
はーはーと肩で息をしながら途切れ途切れに言葉をつむぐ。
「針谷の陣地は6個だ」
数えていた志波っちょが顔を上げる。
……6個?
ということは!
「瑛クンとちゃんの方は5個やね」
「よしっ! 第一試合とったぞ!」
「やったね佐伯くん!」
佐伯くんが満面の笑みを浮かべて振り返る。
その佐伯くんとがっしり右腕をクロスさせてガッツポーズ!!
「っだぁぁ! くそっ、負けたあぁぁ!」
「アカン、が奥義にひっかかってくれへんかったんが敗因やな……」
逆にがっくりと肩を落とすハリーとぱるぴん。
「でも楽しかったよね!」
「せやな! 、絶対優勝するんやで!」
「うん、任せて!」
ぱるぴんの手を掴んで立ち上がるのに手を貸して。
「ほな次の試合始まるまでケーキでも食べて英気を養おか?」
「そっか! 試合終わったからケーキ食べれるんだ! よーっし、食べようぱるぴんっ!」
試合中は考えも及ばなかったけど、出したケーキはそのままあるんだから、別に佐伯くんにわざわざ作ってもらわなくてもいいんだ。
きょろきょろとぱるぴんと一緒に試合会場を見回す。
あれ? ケーキがない?
「。ケーキならあそこだ」
首を傾げてると、佐伯くんが座り込んだままの状態である方向を指差した。
そ こ に は 。
「ああーっ! 志波っちょっ! 勝手にケーキ食べてるーっ!」
「ホコリまみれになったあとじゃ食えねぇだろ」
「だからって、なんで試合したアタシらやなくて志波やんが食べとんねん! って、セイと若ちゃんまでっ!」
「だ、だって私めったにケーキ食べられないし……」
「水樹ちゃんはいいのっ! あーっ! 若王子先生そのケーキはダメっ!! それ、私が食べたいーっ!」
「ええなぁ。ボクもケーキ食べたいっ」
「私も!」
志波っちょがいつもの無表情のまま頬にケーキを詰めてもぐもぐしてるのって、なんていうかこう、可愛かったりするんだけど。
あんなにたくさんあったケーキが半分くらいになってるんだもん!
慌てて私とぱるぴんが手を伸ばして自分のケーキを確保すれば、会場のみんなも集まってきて好き好きにケーキを手に取り始めた。
「佐伯くんっ、どれ食べる?」
「は? 別にいらないし」
みんなでわいわいしだしたところを遠くで見てた佐伯くん。
私が輪の中心から声をかけると、目をぱちぱちっとして、でもふいっと視線をそらす。
でも、そこはまた枕投げ発案部隊が活躍してくれた。
「何言ってんだよ佐伯っ。澄ましてないでこういうことには混じれって!」
「お、おいっ」
3人で強引に佐伯くんを羽交い絞めして、輪の中に引っ張り込んできた。あはは。
「ほら佐伯くんっ。桃のタルトとメロンのケーキ、どっちがいい?」
「べ、別にどっちでも」
「じゃあ私、桃のタルトがいい」
「はお前じゃなくてオレに聞いてるんだっ、大崎っ」
「どっちでもいいって言ったじゃん」
「ウルサイ。、桃のタルトがいい」
「あっ、獲った!」
「やや、大崎さんも佐伯くんも、ケンカはブ、ブーです」
うわわ。
なんで佐伯くんってリッちゃんと張り合おうとしちゃうかなぁ。
「つーか佐伯もリツカもガキだよな」
「リツカは知ってたけど、佐伯までとは思わなかった」
ハリーと志波っちょがオレンジムースを頬張りながらも冷静に突っ込んでる。
でも、ね。
佐伯くん、ようやくみんなに自分をさらけ出せたよね。
といっても、このメンツ以外にはまだまだ無理だろうけど。
今、まだリッちゃんと桃のタルトを奪い合ってる佐伯くんを見て、はね学の王子様だなんて想像がつく人いるんだろうか。
このまま、学校でも素顔をさらけ出せるようになればいいのにね。
……などと、みんなで和気藹々と盛り上がってて。
ふと、全員で一斉に気づいた。
「じゃねっつーの! 枕投げだろ! 司会進行っ、試合進めろ!」
「わ、悪ぃー! よしっ、次の第二試合にうつるぞっ!」
「ほらアンタたち、さっさと食い散らかしたの片付けるんだよ」
キビキビとハリーや竜子姐が指示を出して、みんなでケーキを片付ける。
そして次の試合の準備を進める中、無事リッちゃんから桃のタルトを奪取することに成功した佐伯くんの隣に座る。
「おいしい?」
「ん……まぁまぁだな。果物使ったケーキはミルハニーのほうが得意だろ?」
「また厳しい採点しちゃって。ねぇねぇ、一口ちょうだいっ」
「ヤダ。これはオレの分」
「あっ、ケチっ」
「なんだと? よし、そんなに言うなら。口開けろ。食べさせてやる」
「……って、思いっきり突っ込む気満々でしょ、佐伯くん……」
「ははっ、バレたか。ほら、一口だけだぞ」
佐伯くんはいたずらっ子な幼い笑顔を浮かべて、タルトを私の口の前に差し出してくれた。
たっぷりのサワークリームの上に、桃のフィリングが乗っかったピンク色のタルト。
遠慮なくぱくっと食いつけば、口の中いっぱいに甘酸っぱい夏の味が広がった。
「おいしいじゃん! 佐伯くんってばハードル高いんだから……って、どうしたの?」
「……別に」
口のまわりについたジャムをぺろっと舐めながら佐伯くんを見上げれば、佐伯くんは少しだけ頬を赤らめてた。
「あのさ、オレなんにも考えてなかったんだけどさ」
「うん?」
「今のって……」
「ええなぁ瑛クン。ちゃんと間接チュー♪」
言いよどむ佐伯くんの横から、にゅっと割ってきたくーちゃん。
間接チュー?
あ。
「ばっ、べ、別にそういうことじゃなくて!」
「そ、そうだよ!? くーちゃんっ、ただタルト貰っただけだし!」
「んー? そやかて、こういうの日本じゃ間接チュー言うんとちゃうの?」
「そ、そうだけど、いやそうじゃないんだけど、じゃなくてそうだけどっ!」
私も佐伯くんも真っ赤になって両手を振りながら否定して。
っていうか間接チューって!
佐伯くんと!? いやでも、確かにそうだ! えええ、でもそれって食べ物でもいうの???
「アヤシー」
「アヤシー」
「アーヤシー」
「ウルサイっ! お前ら全員チョップしてやるっ!」
枕投げ発案部隊の息のあったからかいに、もうたまらず佐伯くんが立ち上がり、3人を追いかけ始めた。
きゃーといいながらも楽しそうに逃げ回るみんな。
「ちゃん、ちゃん」
で、そもそもの根源のくーちゃんが私の隣につつつ、と寄ってきて。
ちょこんと横に体育座り。
「瑛クン、楽しそうやな?」
「うん。よかったよね!」
大部屋内を楽しそうに駆け回ってる佐伯くんを見ながら、私とくーちゃんは生温く4人を見守ってたのでした。
……じゃなくて、次の試合、次の試合!
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