ミッションインポッシブル。
 はね学女子生徒に見つからずに、佐伯くんと合流せよ!


 32.修学旅行二日目:自由行動日


『To:
 Sub:おはよう
 本文:ホテル裏手のコンビニ前で待ってる』

 団体朝食前に来た佐伯くんからのメール。

 そう、今日はいよいよ問題の自由行動日だ。

 今日の目標っ!
 1っ、女子生徒から佐伯くんを解放することっ。
 2っ、いつもお疲れの佐伯くんをもてなすことっ。
 3っ、そんでもって思い出めいっぱいつくっちゃうことっ!

「おはようございます、若王子先生っ!」
「おはよう、さん。早いですね?」

 急いで朝食をかきこんで、部屋に戻って鞄と予定表を引っつかんでホテルのロビーへ。
 そこには既に各クラス担任の先生が待ち構えていて、B組担任の若王子先生もその中で雑談を交わしてた。

 私が挨拶すると、いつものイケメンスマイルを浮かべてくれる。

「これ私の予定表です。よろしくおねがいしまーす!」
「はい、しかと受け取りました。この予定表でいくと、さんは観光しつつもお土産漁りツアーですね? ピンポンですか?」
「ピンポンです! 今日はマブダチと熱い友情旅行なんです!」
「やや、それは羨ましい。事故に気をつけて、ホテルに戻る時間をちゃんと守ってくださいね?」
「はい! 行ってきまーす!」

 こんな風にゆっくりと若王子先生とおしゃべりできるのも貴重な機会なんだけど、それより今日は佐伯くん優先。
 他の子が降りてくる前に、佐伯くんと合流しなきゃね。

 私はぺこっと若王子先生に頭を下げた後、駆け足でホテルを飛び出した。


 ホテルの裏手のコンビニ。
 ぐるっと回り込んで、中道を一個一個覗き込んで確かめて。

 あ。

「佐伯くんっ」

 いた。
 ファミマの前で、パックジュースをちうーっと飲んでる佐伯くん。
 うーん、その姿も朝から決まっております。グッ!

「ごめんね! 待った?」
「いや、ちょうどいいよ。今朝飯終わったとこだし」
「へ?」

 紙パックをぽいっとゴミ箱に捨てた佐伯くんは、髪を掻きあげながら私を見下ろす。

「朝食場に行かなかったんだ。予定表は前日に出しといた」
「ええっ!? じゃあコンビニで朝ごはん調達したの?」
「しょうがないだろ? ホテルでご飯食べてて囲まれたら元も子もないし」
「そ、そっかぁ……。うーん、おいしかったのになぁ、千枚漬と湯葉のおひたし……」


 気の毒だなぁ、と思っていたら、佐伯くんに真上から呼ばれて。

 見上げたそこにははりつけたような、はねプリスマイル。

「勿論おとうさんに包んで持ってきてくれたんだよな?」
「うぐっ!? え、えっと、そのぉ〜〜〜っっ……」

 返答に詰まれば、笑顔のまま佐伯くんの右手がゆっくりと上がっていく。
 ひええええ!

「だ、だって佐伯くんが朝食場にいないなんて思わなかったし!」
「へぇ。同一クラスの男子と女子の席は真向かいだったのに?」
「かっ、仮にいないことに気づいたって、もう出かけてるとは思わないでしょ!?」

 そうこうしているうちに、佐伯くんの右手は天高く上がり、振り下ろしまで5秒前!

「覚悟しろ、っ!」
「うわぁぁっ!!」

 私は脱兎のごとく駆け出した!

 と、とりあえず第一ミッション、女子生徒に見つからずに佐伯くんと合流して解放することは達成っ……うわぁぁぁっ!!



 昨日の就寝前にやりとりしたメールで行き先はもう決定済み。
 あの有名な五条大橋を渡って鴨川沿いを散歩がてら歩いて、まずは八坂神社見学。
 それから清水寺に行ってみようってことになってた。
 清水寺の参道ってお土産屋さんも多いしね。

 で、通り道に気になったお店があれば飛び込んでみようか、って話で。

「これが五条大橋だって」
「……なんかフツーだな」

 佐伯くんの感想はいたってシンプル。
 でも私もそう思う。歴史を感じるどころか、本当に普通の橋なんだもん。

「まぁ、さっき見た義経と弁慶の像で想像はしてたけど」
「だよねぇ。あの牛若と弁慶の像もすっごいシュールだったもんね? なんか義経っていうより金太郎か一寸法師ってカンジ」
「あ、オレも思った。もう少しなんかあるよな?」
「うんうん」

 京都のみなさんゴメンナサイ! な感想を素直に言いながら、私と佐伯くんは五条大橋を渡る。
 平日の早い時間だから、通りすがるのはみんなスーツ姿のサラリーマン。
 橋を渡り終えたところで、私たちは川沿いの遊歩道に下りた。

「うわー、制服で平日昼間の外歩くのってなんか気持ちいいかも!」
「いっつも歩いてるだろ。登下校で」
「もう情緒がないなぁ。ちょっとしたオサボリ気分にならない?」
「……まぁな。はばたき市にいるときじゃ、できないことだもんな」

 きらきらと太陽の光を反射してる水面を眺めながら、私たちは一路北を目指す。

「さすがにこんな早い時間じゃ、鴨チューしてる鴨川等間隔の法則カップルはいないね」
「……は? 鴨チュー?」

 西側の料理屋の納涼床に夢中になってた佐伯くんが、私の言葉に眉を顰めながら振り返った。

「なんだよそれ」
「佐伯くんは知らない? この鴨川ってね、カップルが等間隔で座り込むんだって! それでね、鴨川でキスすることが鴨川でチューで、鴨チュー」
「セカチューかよ! つか、どこから仕入れてきたんだ? そんなネタ」
「ママ」
「あー……すっげぇ納得」
「桜の時期にはロマンチックだろうね! 桜吹雪の中で鴨チュー! いやん、乙女のロマーン!」
「ぷっ……誰が乙女だって?」

 佐伯くんがお腹を押さえて笑い出した。
 ううっ……ちょっと自虐的なネタだったけどっ、こういうネタなら佐伯くんもいい反応返してくれるかと思って。
 成功したけど嬉しくない……。
 つ、次はもっとさわやかなトークテーマでいこう。うん。

「何言ってんだよ。お前、そういうムードになったら逃げ出すかお笑いに走るかのどっちかだろ?」
「わ、わかってらっしゃる……。どうもそういうラブい雰囲気って浸りきれないんだよね。っていうか、浸る機会もなかったけど」
「そっか。……うん、そっか」

 あははと笑って見せれば、なぜか佐伯くんは表情を明るくした。

「どうかした?」
「なんでも。なぁ、

 首を傾げて尋ねると、佐伯くんは優しい表情をしたまま髪を掻きあげて。

「いつかさ……今度は桜が咲いてる時期に来よう。な?」
「うん! 楽しみだね!」
「……うん、オレも楽しみだ」

 およ、なんだか随分と素直だなぁ佐伯くん。
 よしよし、このぶんだと第2ミッションもうまく行きそうですよ!

 その後も私たちは雑談しつつ、チョップ攻防しつつ。

「……あれ?」

 そろそろ四条にさしかかるかな、ってところで。
 鴨川等間隔の法則にのっとった、顔見知りのカップルを発見!
 ……といっても、まわりは誰もいないから等間隔の法則が当てはまるとはいえないけどね。

「佐伯くん、あれ」
「ん? あれ? あれって志波か?」
「そうだよね!? 隣に座ってるの水樹ちゃんだ!」

 鴨川を向いて、芝生の上に座り込んでる志波っちょと水樹ちゃん。
 なんですかっ、修学旅行を甘酸っぱく堪能中ですかっ!?

「おーい志波っちょ! 水樹ちゃーん!」
「うわっ、バカお前っ!」

 ここはいっちょ、甘酸っぱさをプラスしてあげよう=からかっちゃおう! と思って、手を大きく振りながら二人に声をかける。
 だけど佐伯くんは思いっきり慌てて。

 ……あ。

 しまったっ! 佐伯くん、二人の前ではいい子モードしなきゃいけないんだった!
 うわああウカツ! 自分の友達だからついうっかり声かけちゃったよ!

「わっ……? それに、佐伯くん??」

 慌てて口をふさいでも、声をかけたあとじゃ遅い。
 水樹ちゃんは驚いて、志波っちょは眠たそうにこっちを振り向いた。

「や、やぁ。偶然だね?」

 左拳で私の背中をぐりぐりしながらも、佐伯くんはいい子スマイルを素早く貼り付ける。
 い、痛いです。

「どうしたの、と佐伯くんが一緒なんて。二人って、友達だったんだ?」
「え!? いやあの、ほら! 私八坂神社行こうと思って四条の地下鉄駅で降りるつもりが間違って五条で降りちゃって!」
「そ、そうそう! そこへたまたま僕が通りかかって。さんが困ってるみたいだったから、道案内してあげようと思って」
「へぇ〜。佐伯くん親切なんだね」

 あらかじめ他の子に見つかった時のためにと口裏あわせしておいた理由を告げると、水樹ちゃんはすんなりと信じてくれた。
 隣の志波っちょは、自分の膝に頬杖ついて、感情の読めない顔してこっち見てたけど。

「……もう一駅、そこから乗ればよかったんじゃないのか?」

 ってニヤリ。

 ……し、志波っちょって妙なトコ鋭い……。

 だかしかしッ! 佐伯くんやユキならともかくッ、志波っちょに口で負けてなるものかッ!

「それより志波っちょと水樹ちゃんはどうしたの? 二人『っきり』でカップル名所の鴨川デート?」

 って、今度は私がニヤリ。
 すると志波っちょは途端に眉間に皺を寄せて、ふいっと視線をそらした。
 ふふーん! ちゃんの勝利っ!

 すると水樹ちゃんは水樹ちゃんで真っ赤っ赤になっちゃって。

「ち、違うよ! 志波くんとは『たまたま』朝ロビーで会ったから『なりゆきで』一緒に出かけることになったのっ!」

 グサッ!!

 水樹ちゃんの悪意のない照れ隠しが志波っちょの心に突き刺さるのが、なぜか映像で見えた。

「それでお散歩しようかってことになって、ホテルからここまで歩いてきて休憩してたのっ。鴨川がそんな名所なんて知らなかったし、『深い意味』なんて『ない』んだから!」

 グササッ!!

「ちょ、水樹ちゃ」
「だからっ、『デート』『なんか』じゃ『ない』の!」
「やめてぇぇ! 水樹ちゃんっ、謝るからもうやめてあげてぇぇ!」

 真っ赤な顔して必死に言い訳する水樹ちゃんは、もうもうめちゃくちゃ可愛かったんだけど。
 ……その隣の志波っちょはシャイなガラスのハートに999のダメージを受けて戦闘不能に陥っちゃったよ……。

さん、そろそろ行こうか?」
「う、うん。えと、お二人さん、ごゆっくりーっ!」

 佐伯くんまでもが口の端をひきつらせてるし。
 フォローすることも出来ずに、私はその場を逃げ出した。

 ご、ごめん志波っちょ……! 今夜、京名物菓子を部屋まで届けに行くからね……!!

「お前ってさ、気ィ遣いの割りにクラッシャーなのな」
「ううう、反省しますっ……」



 佐伯くんから「反省しろ」とチョップを貰ってからたどりついた八坂神社。
 さすがにこの時間はもうはね学生たちも京都各地に散ってるはず。
 八坂神社も有名な観光地だから、というわけで。

「案外静かなところなんだな」
「そうだね。この奥の公園がいい所みたいだよ」

 近すぎず、遠すぎず。
 目撃されても誤解されないような距離感を保ちながら、私たちは声のボリュームを若干落とし気味に会話していた。

 境内をお散歩して、奥の公園の方もぐるっとまわってみる。
 でも、どうやらはね学生はいないみたい。
 やっぱりみんな、金閣寺とか清水寺とか、超有名スポットの方を回ってるのかな?

「あ、売店! おとうさん、アイスアイス!」
「うん、買ってきなさい。おとうさんはバニラがいい」
「……って私が奢るのっ!?」

 そんなわけだから、私と佐伯くんの距離もいつのまにやら元通り。

 しばらくの攻防の末、なぜか私がアイスを奢るハメになってしまって……。
 池のほとりの売店でソフトクリームをふたつ購入して、背もたれに広告の入ってる青いベンチに並んで腰掛けてしばしの休憩タイムとすることにした。

「結構歩いたよね。なんだかお腹すいてきちゃった」
「だよな? 昼メシどうする?」
「京都名物というと、にしんそばか湯豆腐か京懐石か……鴨川沿いのあの納涼床で食べたら気持ちよさそうだよね」
「あ、オレもちょっと思った。けどやっぱああいうとこって高いんだろ?」
「うーん、やっぱりそうなのかな?」
「かな、って。どっちなんだよ?」
「地元民じゃないからわかんないよ〜。それに、清水寺に行く方向ともちょっとずれてるし、別のお店のほうがよさそうだよね」

 むむむ。
 こんなことなら志波っちょからグルメガイドも借りておくんだった。

「ま、昼だしあんまり豪勢にしてもなんだよね」
「そうするとにしんそばか? よし、。今すぐ美味いところ探してこい」
「……佐伯くんは?」
「ここで昼寝してる」
「だめ。おとうさんも一緒に行くの」
「…………今の、ちょっと可愛かったから、行ってやる」

 コーンを包んでた紙をくしゃくしゃっとまるめてゴミ箱へ。
 私と佐伯くんは入ってきた道とは違う道を通って八坂神社を抜けることにした。

 公園内は太陽の光をモロに浴びる開けた空間だったんだけど、八坂神社の境内は木々の葉に覆われていて少し薄暗い。
 おかげで少しだけ涼しくて気持ちいいんだけどね。
 私たちが通ってるのは本殿の脇の白壁の外。企業や人の名前がたくさん書かれた灯篭が並ぶ道だ。

「こういう風景に囲まれて静かな時間を過ごすってのもいいよね。日本人でよかったってカンジで」

 てくてくと並んで歩く。

 ところが、急に佐伯くんが私の右手を掴んで、ぐっと自分のほうへ引き寄せた。
 いきなりだったから、のけぞって尻餅つきそうになっちゃうのをすんでで堪えて。

「ど、どうし」
「しっ!」

 目をぱちぱちしながら振り向けば、佐伯くんは私の手を引っ張って灯篭の影に身を隠す。

「今、はね学の制服が見えた」
「えっ?」

 灯篭から片目分だけ身を乗り出して道の奥をのぞく佐伯くん。
 私ものぞいてみようと体を横に倒した瞬間に、佐伯くんが私を振り返る。

「しょうがないな……、先行ってくれ。オレも様子見て後からついてくから」
「おっけー! 安全確認できたらメールちょうだいね」
「わかった。じゃあ、またあとで」
「うんっ」

 私は大きく頷いて。

 佐伯くんが怪訝そうに私を見下ろす。

「なんだよ? 早く行けよ」
「えーと……手を離してくれないとどこにも行けないんですが……」
「あ」

 全く気づいてなかったらしい佐伯くんが、真っ赤になってぱっと手を離す。

 ああもう、可愛いなぁぁ。そんなに頼りにされちゃちゃん困っちゃうじゃないですかー!

 とはいえ、ここでチョップ攻防戦をしてる場合じゃない。
 私は平静を装って、一人で道を歩き出した。
 佐伯くんが見たはね学生の姿はまだ見えないけど、誰だったんだろ。

 でも、すぐにその姿が確認できた。

 まっすぐな髪を腰までのばしたはね学の女子生徒。
 それから青いシャツを着た背の高い男の人。

 って。

「あれ? リッちゃんに……若王子先生??」

「や、さん」

 そこにいたのははね学不思議師弟コンビのリッちゃんと若王子先生だった。
 佐伯くんが隠れてる灯篭から10メートルほど先のところでなんだか白壁の方を向いて佇んでる。
 声をかければ、リッちゃんは私をちらっと見るもののすぐにまた白壁を見つめだす。
 変わりに若王子先生が、口元に人差し指をあてながら私を手招きした。

 しー、って。なんだろ?

「なんだ、大崎と若王子先生か。ビビって損した」
「わっ、佐伯くん」

 首を傾げながら若王子先生を見てたら、後ろから佐伯くんもやってきた。

「い、いいの?」
「いいんだ。どうせ大崎にはバレてるし」

 あ、そっか。
 そういえばリッちゃん、珊瑚礁のこと知ってるんだっけ。
 ってことは、佐伯くんの猫かぶりのことも知ってるのかな?

さん、佐伯くん、しーです。静かにしててください」

 いまだ手招きしてる若王子先生のもとまで、佐伯くんと顔を見合わせながらも近づいていく。

 すると。

「はは……やっぱ、迷惑やな。ハリーも、驚いたやろ!? アタシが告白なん、柄やないし! うそうそ、全部、冗談やねん! だから、今の、ナシ、でっ」
「ち、違ぇよ! 勝手に完結すんな! そういうのは、男が言うもんだろ!?」

 白壁の向こうから、突然聞こえてきたのはぱるぴんとハリーの声。

 …………って、ちょっと待って?

 今ぱるぴん、告白って言った?

 私はもう一度佐伯くんと顔を見合わせた。
 佐伯くんも目をまん丸にして、ついでに口までぽかんと開けちゃって。

「(ちょ、若王子先生っ! これ、この壁の向こうでもしかして、修学旅行名物告白ターイム! ですか!?)」
「(そうなんです! 青春爆発中なんです!)」
「(はるひがのしんに告白してるとこにちょうど通りかかったんだ)」
「(うそーっ!? ぱるぴんってハリーのこと好きだったんだ!? がんばれっ!)」

 うわぁぁ、それはグッドタイミング!
 そっか、ぱるぴんとハリーって仲良しさんだなーとは思ってて、うすうすそうなんじゃないかなとも思ってたけどさ!
 すごいなぁ……自分からちゃんと告白するなんて。

 私は若王子先生に倣って、両手を握り締めて白壁を見つめた。

 どうか、どうかうまくまとまりますように!

「お前がオレのライブかかさず来てくれてるのも知ってっし! いっつも世話焼いてもらって、ウゼーって思うこともあるけど、本当は、その、ありがてぇなって……」
「は、ハリー」
「先に言ってんじゃねぇよ……だぁぁ、オレすっげーカッコ悪ィじゃん! ライブでうまく歌えたときに、オレから言うつもりだったのに!」

 おおっ!?

 期待の高まる展開に、私と若王子先生のテンションが高まる。
 リッちゃんと佐伯くんはあいかわらずクールな様子だけど、その目はきらきらしてて次の展開が待ちきれない様子だ。

 言っちゃえ! ハリー、言っちゃいなよ!

「ハリー、じゃあ」
「……いいか、1回しか言わねぇからな! これからも、これからも……ずっとオレの側にいろ! いいな!」

「「「「………………!!」」」」

 頬を紅潮させた若王子先生と、両手で力強くガッツポーズ!
 くっついた!
 わぁっ、カップル誕生の瞬間なんて初めてかも!

 すると、くーっ! と両腕をじたばたさせてたリッちゃんが急に。

「はるひっ、のしん! おめでとう!!」
「えっ……リツカっ!?」
「どっ、どこにいやがんだ!? おまっ、デバガメかよ!」

 そんな声を壁の向こうの二人にかけて、ダッシュでその場を逃げ出した!
 しまった、抜け駆けされたっ!

 若王子先生も慌ててその後を追って走り出す。

「佐伯くんっ、私たちも行こう!」
「え、あ」

 そして、ただただぽかんとしていた佐伯くんの手を私も掴んで、一緒になって走り出した。

 人の幸せの瞬間を共有するのって、なんでこんなに気分が盛り上がるんだろうね。
 私はゆるむ口元をおさえきれないままで、八坂神社を飛び出した。

 清水寺方面の道に曲がったところで、ぜーはーと肩で息をしてる若王子先生とリッちゃんに再び合流する。

「もー、リッちゃんいきなり声かけるんだから!」
「ごめん。なんか叫びたくなって」
「そうだよね! リッちゃんが言ってなかったら私が言ってたかも!」

 滅多に笑わないリッちゃんも、今は笑顔だ。
 でもすぐにいつものクールな表情に戻って。

「いつまで息切らしてんの若先生。お腹すいた」
「や、すいません。先生革靴だから走りにくくて」
「若年寄り」

 いつもののんきな笑顔をリッちゃんに向けても、いつもどおり辛辣な言葉を吐くリッちゃん。

「大崎と若王子先生って、一緒に行動してるのか?」

 そんな二人に、佐伯くんが突っ込む。

 ……そうだ。そういえばそうだよね。
 リッちゃんと若王子先生、仲がいい(……ハズ)のは知ってるけど、担任でもないのに一緒にいるの、変だよね?
 え、ちょ、なになに? ここもしかして、禁断のラブですか!?

 ところがリッちゃんはあっさりとしたもので。

「なんか自由行動の出発私が最後だったみたいでさ。一人で京都の散歩しようと思ってたのに、若先生が一緒に行くって言い出して」
「先生、今日は生徒の行動を見守るために観光地を回る予定だったんです。でも、大崎さんの行動が一番心配だったからついてくことにしたんです」
「一人がいいって言ったのについてくんだもん。人を問題児みたいに」
「問題児だろ」
「さ、佐伯くん、リッちゃんへの突っ込みはそのへんで……」

 ばちばちと火花を散らしながら睨みあうリッちゃんと佐伯くんは置いといて……。
 なんだそういうことか。うーん、サプライズな展開期待してたのになぁ。

さん」

 うーんと考え込んでいるところに、若王子先生がにこにこしながら話しかけてくる。

「なんですか?」
さんのマブダチって、佐伯くんのことだったんですか?」
「マ……おい。お前何時代の人間だ」
「それは若王子先生に合わせたからっ! えと、そうなんです。でも他の子には内緒にしててくれませんか?」

 若王子先生に変に隠すのもなんだな、と思って正直に話す。
 すると若王子先生は満足そうにうんうん、と何度も頷いて。

「大丈夫。先生は青春爆発推奨派ですから。さんと佐伯くんも、西本さんと針谷くんみたいに存分に青春しちゃってください」
「「は??」」

 にこにこと微笑む若王子先生の視線の先を追う。

 そこには佐伯くんの左手を握った私の右手。

 うわ! 忘れてた!

 慌てて二人同時に振り払うように手を離して。

「若王子先生、誤解です。僕とさんは、そういう仲じゃないですから」
「自由行動二人で回っておいて何言ってんの、佐伯。しかも僕ってなんだっ」
「ウルサイ大崎。そんなにオレのチョップが欲しいか」
「ふん。佐伯ごときのチョップなんか返り討ちにしてやるっ」
「おもしろい! やるか!?」
「望むところっ!」
「ちょ、ちょっと二人とも! こんな道の往来で喧嘩しないで!」

 なんだか妙な方向に流れてきたよ!?
 わたわたと慌てる私に対して、若王子先生はなぜかにこにこしてるし。

 ど、どうしよう!?

 と思ったら。

「あーっ! 見つけたリツカっ! アンタさっき、聞いとったやろ!?」
「やっぱ佐伯とも一緒か! 声したと思ったっつーの! ……って、若王子も一緒かよっ!!」

 耳まで真っ赤なユデダコ状態ながらも、仲良く目を吊り上げて怒り心頭のぱるぴんとハリーが八坂神社を飛び出してきた。

「うわ、ヤバッ!」
「逃げるぞ!」
「って、リッちゃんと佐伯くん、こんなときだけ意気投合してー!」
「ややっ、先生を置いていかないでくださいっ!」
「「待てーっ!!」」

 私たちは蜘蛛の子を散らすように、一目散に逃げ出した!!



 ……で。
 俊足の佐伯くんとリッちゃんが私と若王子先生を置いてさっさと逃げてしまって。
 私と若王子先生はぱるぴんとハリーの追っ手を避けるために途中から二手にわかれて。

 結局、清水寺にたどりついたときはひとりになってた私。

 どうしようかな、と思ってたその時に携帯がなった。
 佐伯くんからのメールだ。

『To:
 Sub:無事か?
 本文:今、清水の舞台にいる。どこにいる?』

 うわ、もうそんなとこまで行ってたんだ、佐伯くん。
 さすがだなぁ〜。
 ……えーと。

『To:佐伯くん
 Sub:今清水寺入り口です
 本文:もう先に行っちゃうんだもん! すぐに行くからその辺で待ってて?』

 メールを打ち終わってから、携帯を手に持ったまま石段を登る。
 まわりははね学生やはば学生、一般観光客で一杯だ。
 佐伯くん、騒ぎに巻き込まれないで待ってられるかな?

 境内案内図で舞台の場所を確認してたら、レスが返ってきた。

『To:
 Sub:了解
 本文:舞台の客席のほうで待ってる』

「……客席?」

 メールに書かれた聞きなれない単語に首を傾げて、私は案内板をもう一度見上げた。
 客席なんてあったっけ?
 ……ないよねぇ?

 えーと。
 と、とりあえず舞台の方に行ってみよう……。

 私は携帯をしまって、一人清水寺の中へと踏み入った。

 でもその瞬間。

っ!」

 声をかけられて石段の上を見上げれば。

「あ、ユキ! それにあかりちゃんも」

 仲良く並んで歩いてくるのはユキとあかりちゃんだった。
 うんうん、どうやら一緒に自由行動回れてるみたいだね。

「清水寺まわってきたの?」
「ああ。ありがとな、。お陰で楽しい修学旅行になりそうだよ」
「今日の朝ちゃんからメール来てるの見てびっくりしちゃった。あの、本当にありがとう!」
「いいよそんなぁ〜。ところで二人とも、手に持ってるのおみくじ? 結果どうだった?」

 二人が手にしてる、開かれたままのおみくじ。
 どうやらその中身を見ながらここまで来たみたい。

 ユキとあかりちゃんは顔を見合わせて照れ臭そうに笑う。

「僕は大吉だった」
「私も! あそこのおみくじ、大吉しか入ってないかもしれないよ?」
「まっさか〜。二人とも運強そうだもんね? 偶然の再会が何度もあるくらいなんだから」

 うりうりとあかりちゃんをつっついてやれば、あかりちゃんはカァァと頬を染めていく。
 可愛いなぁ。もともとが美少女なだけに、余計にね。
 そりゃ佐伯くんだってくらっとくるわけですよ。

「そういうは一人で観光か? 友達千人計画遂行中にしては、寂しい自由行動だな」
「ぐさっ。そういうこと言う? 舞台で友達と待ち合わせてるの!」
「そっか。あんまりはしゃいで舞台から飛び降りるなよ?」
「いくらなんでもっ! ……あ、そうだ。ねぇ、二人に聞いていい?」

 いつもどおりのノリでユキと会話。
 そういえばさっきのアレ。
 博学な二人なら知ってるかもしれないよね。

「清水の舞台の客席って知ってる?」
「……は?」
ちゃん、舞台に客席なんてあるの?」
「あるわけないだろ? 、いくらなんでもオオボケだよそれは」
「わ、私が言ったんじゃないってば!」

 や、やっぱそうだよね?
 客席なんてないよねぇぇ?
 じゃあ佐伯くん、一体どこで待ってるんだろ?
 もしかして、通しかしらない場所の隠語だったりする?
 うーん……。

はこれから清水寺の観光するんだろ?」
「うん。ユキたちは?」
「これから金閣寺に行ってみようと思ってるの」
「そっか。じゃあ二人ともごゆっくり!」

 二人に手を振ってお別れして。

 私は舞台の客席目指して再び足を進めた。


 参拝順路を人波に乗って歩いていく。
 急ぎ足で人を抜き去り抜き去り、舞台を目指して進んでいくと。

 前方に見慣れた後姿を発見っ!
 、突撃用意っ、3,2,1っ。

「突撃隣のラブップルー! くーちゃんと密っち見ーっけ!」
「わぁ! あ、ちゃんやん」
「やだ、びっくりした。さん、一人?」

 後ろから両手を広げて二人に突撃すれば、くーちゃんも密っちもびっくりした顔したけどすぐに笑顔を見せてくれた。

ちゃん、修学旅行では初めましてやんな?」
「そうだね。くーちゃんと密っち、午前中はどこ回ってきたの?」
「とっても竹林が綺麗なところ。静かで、いいところだったわよ」

 くーちゃんと密っちは間に私を招きいれてくれた。
 その二人とがっちり腕組みして、ちっこい私が余計目立つ形になる。

ちゃんはどこ行ってきたん?」
「んーと、鴨川のお散歩と八坂神社だよ」
「ええなぁ。ボクもちゃんとぴったんこしながら鴨川デートしたかったなー」
「くーちゃんならいつでも大歓迎っ!」

 むぎゅー、とくーちゃんの腕に抱きつく手に力を込めれば、くーちゃんもむぎゅー!と返してくれる。
 このノリだよねぇ。
 佐伯くんじゃ得られないんだよねぇ、このほんわかまったり感。

「私たちはこれから音羽の滝を見に行こうと思ってるんだけど、さんもよかったら一緒に来ない?」
「うーん、密っちの優しい気遣いイタミイルんですが、ちょっと舞台の客席で待ち合わせしてて」
「……舞台の、客席?」

 私の言葉に密っちが首を傾げる。
 やっぱり密っちも知らないんだ。

ちゃん、舞台の客席ってどこにあるん? ボクそんなのあるなんて知らんかった」
「私も知らないんだけど、客席にて待つってメールが来たから……。じゃ、私待たせてるから先行くね」
さん、客席が本当にあったら後で教えてね?」
「おっけー!」

 最後にもう一度二人にむぎゅー! と抱きついて。
 私は早足で舞台を目指した。


 ようやく舞台目の前まで来た。
 その手前の朝倉堂。

 ……あれ? なんかはね学生が集まってるけどどうしたんだろ?

「ねぇねぇ、なにやってるの?」

 輪の外側にいた男子に話しかけると。

「氷上が力試しやってんだよ! 錫杖の持ち上げ!」
「えっ? あの鉄下駄とかのヤツ?」

 しかもヒカミッチが??

 私は小さい体を生かして輪の中にもぐりこんだ。

 そこには!

「氷上くん、あと少しです!」
「ふっ……ぐぬぅぅっ……!!」

 傍らで必死に声援を送ってるチョビっちょと、大きな錫杖を必死で持ち上げようとしてるヒカミッチがいた。
 うわぁ重そう! こういう力技的なことに縁のないヒカミッチがやってるってのが意外も意外だったけど。

 あ、あ、あとちょっとで浮きそう!

「がんばれ氷上!」
「あとちょっとだよ!」

 回りからも激が飛ぶ。

「うぉぉぉっ!!」

 そして、ほんの一瞬だったけど、錫杖は確かに宙に浮いて。

 どすん!

 大きな音とともに地についた錫杖から身を離したヒカミッチは、ふらふらしながらも額の汗をぬぐった。

 おおーっ。

 まわりのはね学生からも温かい拍手が沸く。

「あ、ありがとうみんな……。ありがとう、小野田くん」
「すごいです! 氷上くん、これでもうバッチリですね!」
「ああ。それもこれも、応援してくれた小野田くんのおかげだ」
「そ、そんなことないです! 氷上くんががんばったからですよ!」

 あらら……。
 ヒカミッチとチョビッちょも、なんだかどんどんいいカンジになってくなぁ。
 う。もしかして、ラブラブなときめきがないのって私だけ?
 そ、そういえばこんな観光地一人でまわってるのって、もしかしなくてもすっごい浮いてたりする?

 うううっ、早く佐伯くんに合流しよう!

 私はヒカミッチとチョビッちょに舞台の客席のことを聞くのを諦めて、そそくさと舞台へと向かうのでした。


 そしてようやく、よーうやく辿り着いた清水の舞台。
 うわぁ、確かに絶景というか壮観だ。
 断崖絶壁だもんね。手すりも低いし、端まで行ったらなんだか足がすくんじゃう。

 ……さて、佐伯くんはと。

 舞台からきょろきょろとまわりを見回すけど、佐伯くんの姿はなし。
 やっぱり客席ってところにいるのかなぁ。
 しょうがない。電話してみよう。

 携帯を取り出して、アドレス帳を開いて。

 コール音は2回。

『……はい』
「あ、佐伯くん? 私」
『遅い! 今どこにいるんだよ?』

 うわ、通話口向こうの佐伯くんは不機嫌絶頂って声してる。

「えと、舞台まで来たんだけどね。ねぇ、客席ってどこのこと? みんなに聞いてみたんだけど、誰も客席なんて知らないって」
『……ないのか?』
「え、ないのかって」
『そっか。だからいくら探しても……い、いや! バカだな。そんなのあるわけないだろ!? ひっかかったな、!』
「佐伯くん……もしかして……」
『な、なんだよ。っ、早く来ないとチョップ3連発だぞ!?』

 そ、そっかぁ……。
 佐伯くんの大ボケだったんだぁ……。
 か、可愛いなぁもう……。

「わかったよ。で、今どこにいるの?」
『地主神社の脇に潜んでる』
「そんなとこにいるの? そこ縁結びの神社でしょ? 女の子たくさんいない?」
『ウルサイ。身を隠せそうなところがここしかなかったんだから、仕方ないだろ』
「そっか。じゃあすぐ行くね」
『ああ。早くしろよ?』

 携帯を切って、急いで舞台を通り抜ける。
 地主神社は舞台を抜けて左手すぐだ。

 そこは案の定、大人も子供も女性客で大賑わいだった。
 といいつつ、私もここに来たかったんだけどね!
 恋愛に幸薄いちゃんに人並みの幸福を! なーんて。

 でも今は佐伯くんに合流することが先決だ。

 私は神社の前を通り過ぎて、奥の少し影になってるところにまで足をすすめる。
 えーと佐伯くん、佐伯くんはっと……。

っ」

 佐伯くんの声。
 きょろきょろと見回せば、ちょっと行ったところの木の陰に佐伯くんがいて、手招きしてた。

「ごめん、遅くなって!」
「全くだ」
「うっ……だ、だって佐伯くん一人で逃げちゃうし、舞台客席なんて惑わしの言葉メールしてくるからっ」
「それは、その。置いてったのは悪かったよ。だから、客席のことは忘れろ」
「ふふ、はーいっ」

 髪を掻きあげながら子供のような表情を浮かべられたら、それ以上愚痴を言うわけにもいかなくなっちゃうよね。

「佐伯くん、それじゃ行こう! まずは地主神社で相性占いだよ!」
「は? 誰と?」
「ううっ……あ、相手はいないけど恋愛運のおみくじ引くくらいいいじゃないですかっ……」
「ふーん? ってそういうの信じるヤツだったのか」

 興味なさそうに言う佐伯くん。
 あれ、年頃の青少年とも思えない。

「佐伯くんってこういうの苦手? 私も別に信じきってるわけじゃないけどさ」
「信じないね。大体さ、神様がダメって言ったらダメなのか? そんな神様、こっちからダメ出ししてやる」

 ぷい、と佐伯くんはそっぽを向く。

 けど。

 うわ、なんかその台詞カッコいいなぁ。
 その通りだよね。
 神様がダメって言ったって、人間の運命は人間の努力でのみ変わるんだもんね?

「佐伯くん、今の名言! ちゃんの単語帳に新しく載ったよ!」
「まぁな。オレ、今いいこと言った」
「まぁそれはそれ、これはこれで。おみくじくらい引こうよ! ね、ね!」
「ってお前、こう言うときにあっさり流すなよっ!」

 ぺしっ!

 佐伯くんからチョップ貰ったって、絶対絶対やりたいんだもん!
 私は両手を合わせて佐伯くんに拝み倒した。

「やろうよ隊長〜おみくじ対決〜」
「……対決?」
「そう! 運勢いい方が勝ち。明後日の自由行動でジュースおごりでどう?」
「明後日? 明後日も……いいのか?」
「あれ? 予定入ってた?」
「いや! うん、明後日もな。当たり前だ。よし、じゃあ引きに行くぞ」

 勝負事には引かない性質の佐伯くんを乗せようと思ったんだけど、なんだか違うところで機嫌が直ったみたい。
 佐伯くんは表情を明るくして、素早くおみくじを引きに行った。
 私も慌ててその後を追って、お金を払っておみくじの箱を振る。

 来い来いっ。私の恋愛運っ!

 出てきた棒に書かれてる番号のおみくじを受け取って、私と佐伯くんはまた急いで奥へと身を隠して。

「よし、じゃあ開けるぞ」
「おっけー!」

 今年の頭のおみくじは大凶だったけどっ。
 待ち人のところはいい結果ともとれること書いてあったもんね?
 来い来いっ、大吉っ。

 ぺりぺりとおみくじを開いて。
 飛び込んできた文字は。

「やった! 大吉だっ! 佐伯くんは!?」

 やったね、バッチリ好運勢!
 私はゆるむ頬をとめられないまま佐伯くんの手元を見た。

 でも佐伯くんはすぐにくしゃっとおみくじを隠すようにつぶしてしまう。

「あ、ズルイ!」
「なんだよ。大吉だったんだから、の勝ちだろ。オレの結果なんかどうでもいい」
「……もしかして悪かった?」
「そんなわけあるか。中吉。つーか中吉ってなんだよ。いいのか? 悪いのか? ビミョー」

 ぶつぶつ。
 勝負に負けたのがクヤシイのか、おみくじの結果そのものが気に入らないのか。
 佐伯くんは不機嫌な様子で何事か呟いている。

「ま、まぁまぁ。ねぇ、待ち人欄なんて書いてあった?」
「見てない」
「重要なとこじゃない! えーとなになに?」
「あ、こら! 取るな!」

 ぱっと佐伯くんからおみくじを奪い取って待ち人欄を覗き込む。

 えーとなになに?

「待ち人:待っても沙汰なし。ただし、突撃もかわされる可能性あり。……なんか変わったこと書いてあるね」
「……」

 こんな待ち人の欄初めてみたかも。
 
 ところが佐伯くんはきょとんとした表情で私を見て。

のは、なんて書いてあるんだ?」
「私の? えーと」

 私は自分のおみくじの待ち人欄に目を通す。

「待ち人:インターホンのメンテナンスをしてください。……なにこれ?」

 これっていいこと? インターホンのメンテって、なに、壊れてて鳴らないってこと?

「へんなの。ここのおみくじってみんなこんななのかなぁ。ね、佐伯くん」

 首を傾げながら、佐伯くんを振り返る。

 ところが佐伯くんは。
 神妙な顔をして、神社を見つめてた。

「神様って、本当にいるんだな……」
「へ?」
「オレは信じるぞ、地主神社の神をっ」

 ……なんて。
 妙に力強く何かに納得した様子を見せる佐伯くんなのでした。

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