高校生活最大イベントの修学旅行がいよいよ始まりました!
 若王子先生じゃないけど、めいっぱい青春しちゃうもんね!


 31.修学旅行初日:団体行動日


 初日の今日はクラス単位で観光名所をぐるぐるまわる団体行動日。
 私たちB組一同は、A組とともに竜安寺に来ていた。

「石庭の有名なところなんだっけ?」
「そうそう! 一度見てみたかったんだよね」

 ガイドさんから離れたクラスの行列の後ろにくっつくようにして、私とあかりちゃんはきょろきょろと観光していた。
 こんな後ろだとガイドさんの説明があんまり聞こえないんだけど、別段不自由はないかも。
 だって、ね。

「観光案内ならアタシかて出来るから安心せえ! とにかく、自由行動時間に売店の和菓子とお抹茶は堪能せなアカン!」
「だよね? 団体行動日だからって、押さえるとこは押さえていかないとね!」

 私たちには、関西地元っ子のぱるぴんがついてますから!
 あかりちゃんはガイドさんのちゃんとした説明を聞きたいっぽいんだけど、私たちに付き合ってとろとろとしたペースで観覧してくれてる。

 境内を順路どおりにぞろぞろ歩くはね学生たちは大きく4つのグループに分かれてるんだよね。
 まずはA組を中心とした、ガイドさんの説明を熱心に聞いてる学習派グループ。
 次に若王子先生と和気藹々、男女入り混じって楽しく観光してる青春派グループ。
 そして私たちのような、マイペース観光したり他のものに気をとられてるまったりグループ。

 最後は、言わずと知れたはね学プリンス親衛隊だ。
 うーん……朝から佐伯くん、女子の団体に囲まれてるけど大丈夫かな。

 そういえば、さっきバス降りる時に目が合ったんだっけ。何か言いたそうな顔してたけど。

「若王子先生と瑛くんの人気は京都来ても相変わらずだね」
「そうやな。でもサエキックはともかく、京都のまったりした雰囲気と若ちゃんは合っとる気がするな」
「うんうんっ。和服に着替えて縁側でお茶すすって欲しいカンジ」

 私の言葉にあかりちゃんとぱるぴんはきゃらきゃらと笑って。

「……ほら、いよいよ石庭やで。ここだけはめっちゃ綺麗やから、しっかり見といたほうがええで!」

 ぱるぴんに促されて、私たちは石庭を眺める縁側に順序良く入っていく列に並ぶ。

 ……さすがに世界遺産の目玉を前にしては、佐伯くんファンの子も静かだった。
 順番に通されて、じっくり見る時間は与えられなかったんだけど。

「……きれい」

 隣でたった一言呟いたあかりちゃんの言葉に、私もこっくりと頷いた。
 正直なところ、寺社仏閣なんてあんまり興味なかったんだけど。
 秋晴れの太陽に照らされた真っ白な石が、とても綺麗で。

「はい、立ち止まらないで進んでくださいねー」

 このときばかりは生徒を誘導してる若王子先生がちょっと恨めしくもなった。
 うーん、もうちょっと見てたいなぁ……。

「思ったよりすごかったね!」
「そっかぁ? 案外ちゃちくねぇ?」

 感想は人それぞれみたいだけど。

 石庭を抜けて、順路を進んだところで自由行動時間だ。

「はいはいっ、みなさん注目〜。これから30分間自由行動時間です。時間を守ってバスに戻って来てくださいね。くれぐれも境内で騒いだりしないように!」
「若ちゃんもはしゃぎすぎて怒られんなよー?」

 いつもの合いの手が入ってクラス全体が沸いたところで、解散だ。
 さてさて。

っ、ほな行くで! 和菓子と抹茶堪能の旅や!」
「行こうよちゃん」

 あっという間に若王子先生と佐伯くんが拉致られて姿を消していくのを見送って。
 ぱるぴんとあかりちゃんに京都スイーツに誘われた私なのですが。

 私はぱしんっと両手を合わせた。

「ごめんっ、ぱるぴん、あかりちゃんっ。その前にもう一回石庭見に行っちゃだめ?」
「へ? さっき見たトコまた行くん?」

 きょとんとした顔で聞き返してくるぱるぴんに、私はこっくりと頷いた。

「うん。さっきのじゃ物足りなくて。もうちょっとじっくり見たいんだ」
「確かにあれじゃ通り過ぎただけってカンジだったもんね? はるひ、私も石庭もう一度見てみたいな」

 私の言葉にあかりちゃんも同意してくれれば、ぱるぴんは腰に手をあてて、ふーと息を吐き出した。

「しゃあないな。ま、せっかくの機会やもんな。さくっと見に行こ!」
「はるひ様ありがとー!」

 バンザーイ! と両手を上げて感謝して。

 私たちは、今さっき来た道を戻っていった。



 石庭にははね学生の姿はなく、ちらほらと観光客が数名いるだけ。
 これならさっきと違ってじっくり見られる。
 私たちは石庭を眺める縁側の中央に並んで立って、方丈庭園を見つめた。

「すごいよね。こんなの、誰が考えて作ったんだろ」
「えーと、もともとの山荘を細川勝元って人が譲り受けて創建したんだって」
「さすがやな、あかり。下調べしとったん?」
「うん。自由行動日の予定決めの時間が余っちゃって、その時調べといたの」

 こういう和のわびさびっていうヤツ、今までしっかり見たことなかったからかもしれないけど、なんだかすごく気持ちが落ち着くカンジ。
 うーん、明日の自由行動日は佐伯くんと食べ歩き&お土産購入ツアーにしようと思ってたけど、急に他のお寺も見て回りたくなっちゃった。
 そういえば志波っちょが京都ガイド持ってたっけ。ホテル戻ったら借りに行ってみようかな?

「ねぇねぇ、二人は明日の自由行動日どうするか決めてる?」

 くるんと振り返れば、二人も石庭にすっかり魅了されてしまっていたみたい。
 でも私の言葉にぱっとコッチを見て。

「アタシは女友達と京都スイーツ食い倒れツアーや。せやから、今日の晩御飯と明日の朝ご飯は少なめにしとかなアカンの」
「あはは、ぱるぴんっぽい! いいとこあったら後で教えてね。ケーキ屋の娘として偵察に行かなくては!」
「任しとき! あかりはなんか予定あるん?」

 どんっと胸を叩いてにかっと笑顔を見せてくるぱるぴんがあかりちゃんに尋ねると。
 あかりちゃんはちょこっとだけ首を傾げた。

「うん。金閣寺と清水寺を回ろうと思って」
「定番コースやな」
「でもちゃんと見ておきたいとこではあるよね」

 私とぱるぴんがうんうんと頷きながら同意するんだけど、なぜかあかりちゃんは少し浮かない様子。
 どうしたんだろ?

「あかりちゃん」

 せっかくの修学旅行なのに、そんな顔してるのが気になって聞いてみようとしたときだ。
 当のあかりちゃんが、目をまん丸に見開いた。

「あれ、ど、どうしたの?」
「え!? え、えーと。そうだ、はるひっ。そろそろ行かないと和菓子食べれなくなっちゃうよね?」
「へ? ああ、そうやな。30分しか自由行動あらへんし」

 急にわたわたと挙動不審になるあかりちゃん。
 私とぱるぴんは顔を見合わせて、と思ったらあかりちゃんはぱるぴんの腕を掴んでひっぱって。

「じゃあ急ごう! ちゃんは石庭もう少しゆっくり見てたいんでしょ? 和菓子は買っておくから心配しないでね!」
「ちょ、ちょぉあかりっ!?」

 なにがなんだか。
 あかりちゃんは焦った様子でぐいぐいとぱるぴんを引っ張っていって、ぱるぴんはいつになく強引なあかりになすすべも無くさらわれていって。

 ぽつーんと残された私一人。
 ど、どうしたんだろ?

 と思ってたら。

 ぺしっ

「アイタッ」
「後ろがガラアキだぞ、
「へ? ……うわっ、佐伯くん!?」

 いきなり後ろからチョップされて、何事かと思えば。
 そこにはオレ様的表情で私を見下ろしてる佐伯くんがいた。

 あ、そ、そっか。
 あかりちゃん、佐伯くんを見つけたから気を利かせてぱるぴんを連れてったんだ。
 だよね。ぱるぴんはまだ佐伯くんの本性知らないんだもん。
 素で私やあかりちゃんと話してるとこ、見せらんないもんね?

「うわってなんだよ。人を化け物みたいに」
「ご、ごめん。驚いちゃって。佐伯くん、一人?」
「ああ、撒いてきた」

 そう言って、ニヤリ。
 あはは、はね学の王子様も大変だ。

「ここさっき見学しただろ? なんでまた見に来たんだよ?」
「ちょこっとしか見れなかったじゃない。こんな綺麗なもの、ちゃんと時間とって見ておきたくて」
「ふーん。普段は花より団子のクセに、ちゃんと『修学』旅行してんだな。偉い偉い」
「ほ、褒めるならトゲは抜いておいてください……」

 とほほと肩を落としてみせれば、佐伯くんは逆に上機嫌。
 もう、ひねくれてるんだからっ。

「で、まだここ見るのか?」
「ううん、そろそろいいかなって思ってたとこ。佐伯くんは?」
「女子を撒くのにここに飛び込んだだけ。なぁ、他のとこまわらないか?」
「賛成っ。どこ行こうか?」

 そういうわけで並んで順路を進もうとしたところで。

「ねぇ、本当にこっち?」
「わかんないけど、佐伯くんが逃げた方向にあるのってここだし……」

 うわ、佐伯くん親衛隊の追っ手がやってきた!

 佐伯くんも私もぎょっとして。

「走れ、!」
「おっけー!」

 佐伯くんは私の右手首を掴んで走り出した。

 竜安寺管理のみなさんっ、境内で騒いでごめんなさーいっ!!!



 そんなこんなで、目立たない道を選んで走って走って、たどりついたのはおっきなお池の鏡容池。
 人の多いほうを避けて、反対側のところまで行ってから、佐伯くんは私の手を離した。

「はぁはぁ、もう、大丈夫だよな?」
「うん、多分……。大変だね、佐伯くん」
「修学旅行くらい好きにまわりたいよ、オレも。……まぁ、さっきに会えたのはラッキーだった」

 髪を掻きあげながらぽつりと言う佐伯くんが可愛いのです。

 私と佐伯くんはとりあえずそこで時間をつぶすことにした。
 池ではカモのつがいが仲良くすいすい泳いでる。

「明日どこ行くか決めたか?」
「うーん、最初は食べ歩きか買い物ツアーにしようと思ってたんだけどね」
「お前……世界遺産の宝庫に来てまで食い気かよっ」
「いいいいいじゃんっ。京都は食べ物おいしいしっ。でもさっきの石庭見てて、普通に観光も楽しそうかなーって思っちゃって。佐伯くんはどこ行きたいの?」
「どこってわけじゃないけど、清水焼の店とか、古道具屋まわりたい」
「あ、珊瑚礁関連でしょ」
「それもあるけど、趣味もある」

 池を見ながら雑談。
 朝から気を張ってた佐伯くんも、今はリラックスした様子で年齢相応の幼い表情をしてる。
 なんだか改めて『はね学プリンス』の肩書きって大変なんだなぁって思っちゃうよ。

「そういえば、オレはね学出るとき見なかったけど、水樹ってどうなったんだ?」
「バッチリ! なんとか間に合ったみたい。後半クラスだから、今頃京都御所回ってるんじゃないかな?」
「そっか」
「もう、気にするくらいなら珊瑚礁バイト認めてくれればよかったのに」
「ヤダ」

 つん、と顔をそむける佐伯くん。
 ほんと、表情豊かというか、気分屋というか……。

 と。

「……あれ、はば学だ」
「え?」

 佐伯くんが池の対岸を指す。
 その指の先には、白いニットベストの男子学生と、可愛いセーラーの女子学生。
 あ、ほんとだ。あれ、はば学の制服だよね?

「そういえばユキも修学旅行同じ日程で京都って言ってたっけ」
「……お前、まだアイツと関わってんのか?」

 ぽん、と手を打ち鳴らせば、頭上からは佐伯くんの不機嫌そうな声が降ってくる。
 見上げてみれば案の定、眉間に皺を寄せた佐伯くんの顔。

「関わってって、普通に友達としてね」
「ホントかよ。大体お前、あんなことされてなんで今も友達付き合いなんて出来るんだ?」
「あ、あれはだって単なるすれ違いっていうか、人の心ばかりはどうしようもないというか……。ずっと友達してきてたのに、たかが1回のすれ違いで友情までなかったことになっちゃうのはさぁ」
「信じられないね。どーせお前、まだアイツのこと好きなんだろ」

 へ?

 ぱかんと口を開けて絶句して佐伯くんを見上げてしまう私。
 私の視線に気づいた佐伯くんは、さらに口をとがらせて髪を掻きあげて。

「……別に。オレには関係ないけど」

 な、なんでそこで拗ねるかなぁ……。

 でも佐伯くん、心配してくれてるのかな?
 ユキとずっと関わってることで、私がずるずる気持ち引きずられてるんじゃないか、とか。
 わがままプリンスだけど、なんだかんだって佐伯くんも気ィ遣いだもんね。

「ありがとう、佐伯くん」
「は? なにがだよ?」

 お礼の言葉を述べたら、今度は佐伯くんが訝しげに私を見つめる。
 私はそんな佐伯くんに笑顔を向けた。

「大丈夫だよ! 私、本当にユキに対してはもう恋愛感情持ってないし」
「だ、大丈夫って、なにがだよ!? 別にオレはっ」
「佐伯くんが心配するようなこと何もないよ。ユキとあかりちゃんの仲の取り持ちしながら、二人のことからかってるだけだから!」
「そ、そっか。なら、いいけど」

 ……あれ?

 佐伯くん、なんかいきなり赤面しちゃったけど、どうしたんだろ?
 私なんか変なこと言ったかな?

「な、なぁ。お前さ、オレがお前……」
「へ? 佐伯くんが私?」
「いや、なんでもない! ああ! そう、そうだ。オレお前に聞こうと思ってたことあったんだ」

 何か言いかけた佐伯くんは、さらに顔を赤くしてぶんぶんと両手を振って。
 私はもう唖然とその様子を見つめるしかなかったんだけど、深呼吸して気持ちを落ち着けた(のかな?)佐伯くんは、がしがしと頭を掻きながら。

ってさ、誕生日いつなんだよ? オレ、2年連続プレゼント貰ったけど、お前にまだ1回もあげてないだろ」
「うっ。それを聞きますか」

 そういえば、佐伯くんの誕生日はぱるぴんから聞いたんだった。
 佐伯くんとそういう個人データ的な話、したことなかったっけ。

 でもなぁ……。

 言い渋る私の態度に、佐伯くんはきょとんとする。

「なんで誕生日言うだけなのに渋るんだよ」
「だ、だって……佐伯くん、絶対突っ込むもん」
「言わなきゃチョップを頭に突っ込むぞ」
「わ、それはだめ!」

 右手をゆらりと上げられて、慌てて頭を両手でガード。

 仕方ない。
 私はそのままの格好で、ぽつりと告げた。

ちゃんは山羊座のO型デス」
「ってことは冬生まれか。つーか血液型とか聞いてないし」
「……1月2日生まれデス……」

 おそらく日本で一番おめでたい日の翌日生まれなんです。

 すると佐伯くん。
 案の定、ぷっと吹き出して。

「そうか。の頭のめでたさの理由がわかった」
「絶対絶対そういうこと言うと思ったんだー! うううっ、だから言いたくなかったのにっ!」

 小学生のときも中学生のときもっ、親しくなったあとに友達に誕生日を告げたら、みんな揃いも揃って妙に納得した顔するんだもんっ。
 生まれた瞬間からお笑い人生で悪いかっ。ううっ。

 しかも、佐伯くんは私が落ち込めば落ち込むほど上機嫌になるんだから意地が悪いっ。

「ははっ。でもよかった。今年の誕生日はこれからなんだ。よしよし、お父さんが盛大に祝ってやろう」
「ううう……お父さんに豪華プレゼントねだってやるんだからっ」

 満足そうな笑顔で私の頭を撫でる佐伯くんに憮然としながらも、私はカウンターチョップが怖くて口の中でぶちぶち文句を言うしかできないのでした……。



『To:ユキ
 Sub:明日の予定ですが!
 本文:やっほー! 竜安寺ではば学生見たよ。ユキたちもこっちのほう見学してたんだね。
    もしかして、はば学も明日自由行動日なの?』

『To:
 Sub:そうだけど
 本文:はね学も近くを回ってるんだな。
    「も」ってことははね学も自由行動日なのか?
    食べすぎに注意しろよ?』

『To:ユキ
 Sub:そういうコト言う人には
 本文:せっかくあかりちゃんの自由行動予定聞きだしてあげたのに、教えてあげないぞー!』

『To:
 Sub:感謝!
 本文:サンキュ! 海野とは予備校の曜日が違うから、修学旅行のこと聞けなかったんだ。
    京都土産買ってくから、意地悪しないで教えてくれないか?』



「あはは、ユキってばほんとツメが甘いんだから」

 ホテルに戻って就寝までの自由時間。
 ユキにメールを送れば、ソッコーで返って来るレス。
 私はくすくすと笑いながらも、あかりちゃんの行動予定をリークしてあげた。

 さて、あかりちゃんにも伝えておかなきゃね。
 私は隣でぱるぴんとおしゃべりしてるあかりちゃんにも、メールを出しておいた。

 いよいよ明日は自由行動日だ。
 佐伯くんと、楽しい思い出いっぱい作るぞーっ!

Back