「突撃となりの若王子センセー! お誕生日おめでとーございまーす!」
「やや、さん、ウェザーフィールドくん、ありがとう。ところで、そのおっきなしゃもじはわざわざ作ったんですか?」
「僕とちゃんの合作なんよ。若ちゃんセンセ、どない?」
「ゴールデンしゃもじですね。激イケてます!」
30.2年目:若王子誕生日
前日からくーちゃんと打ち合わせして、お昼休みまでに早弁して、4時間目のチャイムが鳴り終わったと同時に化学準備室に突撃した私たち。
急がないと、本日誕生日の若王子先生になんとかプレゼント渡そうとする女子で溢れかえっちゃうもんね。
おっきなゴールデンペイントのしゃもじをくーちゃんに渡して(朝ヒカミッチに没収されかけたんだよね)、私は超熟カレーパンを頬張っている若王子先生の目の前に立つ。
「若王子先生っ、改めましてお誕生日おめでとうございますっ! 今日も朝から大変そうですね」
「プレゼントを受け取らないようにするのは大変ですけど、やっぱりみんなにお祝いの言葉を言ってもらえるのは嬉しいです」
「若ちゃんセンセ、優しいなー? そやからオンナノコにモテモテなんやね?」
「やだなくーちゃんてば。くーちゃんだってモテモテじゃんっ。はね学イケメン名簿上位組のくせにっ」
「やや、さんとウェザーフィールドくん、もしかしてらぶらぶですか?」
「ボクとちゃんはいつでもラブラブやんなー♪」
「ぴったんこ同盟だもんねー!」
なーんて。
あーもう、癒されるなぁ。若王子先生もくーちゃんも、二人ともほんわか癒し系なんだもん。
無駄話してるだけで心がトロトロしちゃいそう。
……と。時間ないんだったっけ。
私は制服のポケットから小さく折りたたんだ白い紙を取り出し、若王子先生に差し出した。
「若王子先生、これ受け取ってください!」
「これは……なんでしょう?」
もぐもぐとカレーパンを飲み込んでから、若王子先生は私が差し出したソレを手に取った。
ハート型に折りたたんだメモ用紙。折り目のない方にはカラフルなメタリックペンで『招待状』と書いてある。
若王子先生は裏表とひっくり返して見たあと、私とくーちゃんを見た。
「招待状、って書いてありますね。先生、どこに招待してもらえるんでしょう?」
「ミルハニーです」
「ミルハニー。ミルハニーというと、さんのお家の?」
「はい!」
私とくーちゃんは、きょとんとしてる若王子先生に向かってにやっと微笑む。
そして、私たちはくるっと方向転換してちょこっとだけ若王子先生から離れたところで向かい合って。
「くーちゃん、若王子先生って生徒からプレゼント受け取っちゃ駄目って教頭先生に言われてるんだって〜」
「アカン〜、ボクらの大好きな若ちゃんセンセをお祝いすることできへんやーん」
「そういえば今日ミルハニーでね、はね学で化学教師をしてる男の人には無料でケーキをプレゼントするって企画やってるんだって!」
「ホンマ?? ええなぁ、ボクもミルハニーのケーキ食べたいな〜」
「くーちゃんもおいでよ! 今日は多分、ぱるぴんとハリーとあかりちゃんと水樹ちゃんと密っちヒカミッチチョビっ……ちょ……はぁはぁ。息続かなかった」
「えーと、タッちゃんと志波クンとリツカちゃんも偶然、ぐーぅぜん! ミルハニーに来たいって言うとったな?」
「そうそう! それで、これまたぐーぅぜんっ! みんな今日のミルハニー企画のスタッフやりたいって言ってきたんだよね!」
ねー、と体を横に倒しながら頷きあう私とくーちゃん。
横目でちらっと若王子先生を見たら、先生はぽかんと口を開けていた。
でもすぐに私が渡したメモを開いて、中に書かれてることを確認して。
もう一度私とくーちゃんを見上げたその目は、うるうるになってて頬が紅潮してた。
「え、えーと、先生そういえば、ぐーぅぜん! はね学の化学教師で男です」
「ほんとだー! 若王子先生ってそういえばそうですね!」
「そういえば甘いものを食べたい気がします。朝からそんな気がしてたんです」
「ホンマ? だったら若ちゃんセンセも偶然ミルハニーに来ればええやん」
私とくーちゃんの期待の眼差しに、若王子先生は照れたように頭を掻いた。
「うん。先生、今日は偶然さんのお家に寄って帰りそうな気がします」
「やった! くーちゃん大成功!」
「作戦成功やんな、ちゃんっ」
私とくーちゃんは手を取り合って、ついでに若王子先生とも手を繋いで、万歳三唱をしたのでした。
「……っていう『若王子先生の誕生日をなにがなんでも祝おうZ!友の会』による作戦は速やかに遂行されて大成功したのです」
「お前さ、ホントそういうどうでもいい企画に命かけるよな」
「どうでもいいなんてひどいなぁ佐伯くん。担任を愛する心がないのっ?」
「ないね」
フンと鼻であしらう佐伯くん。
授業も終わって、急いでミルハニーに帰って準備しようと学校を飛び出したところで、こちらも急いで開店準備に向かう佐伯くんと偶然出会って途中まで一緒に帰るところ。
佐伯くんは私の話にまったく興味がないって素振りで、前を見てた。
「大体、なんでそんな猿芝居打つ必要があるんだよ? 単刀直入にミルハニーでお祝いするから来てくださいって言えばいいだろ」
「そうだけどさぁ。ほら、プレゼント禁止令が出てる以上、あんまりストレートに誘ったら断られるかもしれないじゃない。だから若王子先生の子供心をくすぐる作戦で」
「ま、クリスとがそれをやったから成功したんだろうな」
「まぁね! 志波っちょと竜子姐だったら……だったら……」
「想像出来もしないこと口に出すな」
「う、うん。そうだね」
あははとごまかし笑いをすれば、佐伯くんは呆れた様子で私を見下ろして。
「だからバイト明日と替えてくれって言ってたのか」
「うん。ごめんね、わがまま言って」
「全くだ。明日は時給100円引きな」
「えええっ!? ちょ、それ引きすぎだよ!」
ばしばしと佐伯くんの肩を叩けば佐伯くんも楽しそうに笑うけど。
お互い同時にはっとして離れて、きょろきょろと辺りを見回した。
「……誰も、いないな?」
「う、うん。いないね。ごめんっ、うっかりしてた」
「いやまぁ……以後気をつけるように」
困ったように髪を掻きあげて眉尻を下げる佐伯くん。
そうなんだよね。
夏休みに親交を深めたこともあって、ついつい馴れ馴れしくしちゃうけど。
私以外の人にとっては、佐伯くんはあくまで『はね学の王子様』なんだもん。
こんな親しげにしてるとこ見られて、親友なんです! って言い張っても見られたのが佐伯くんファンだったりしたらもう……想像するに恐ろしい修羅場になるだろうし。
はぁ、人気者と友達っていうのも大変だなぁ。
……いやいや、大変なのは佐伯くんの方なんだけどさ。
「佐伯くん、すぐに珊瑚礁開けるの? ちょこっとも寄れない?」
「時間は無くもないけど、お前とあかりの他にも女子がいるんだろ? 疲れる」
「そっかぁ。佐伯くんと仲良しのハリーとくーちゃんもいるのに、残念だね」
「別に仲良しじゃない」
もう。ハリーとくーちゃんは男の子なんだから、そこまで意地張らなくてもいいのに。
そうこうしているうちに、お別れのT字路。
佐伯くんは右で、私は左だ。
「それじゃあね、佐伯くん。お仕事がんばって!」
「ああ。も、若王子先生につられて食いすぎるなよ? 明日また食いすぎで腹壊したって言ったら、アンネリーでサボテン買ってくるからな」
「肝に銘じますッ、隊長っ!!」
「よろしい。……じゃあな」
「うんっ、バイバイ佐伯くん。また明日!」
遠ざかる佐伯くんに手を振って。
私は駅に向かって走り出した。
今日のミルハニーは貸し切り状態。
主賓の若王子先生を3人かけソファの中央に一人で座らせて、それを取り囲むようにして私たちはクラッカーを構えて。
「それではこれよりっ、偶然はね学で化学教師をしていたためミルハニーでおいしいケーキをただで食べ」
「っ、能書きはいいから早くしろっつーの!」
「もう、ハリーってばせっかちだなぁ……。コホン。まぁそういうわけで若王子先生の誕生日を祝っちゃおうの会、スタート! おめでとうございますっ、若王子先生っ!」
私の掛け声と共に、みんなが一斉にクラッカーを鳴らす。
口々に若王子先生おめでとう! って声をかければ、パーティ用のラメラメとんがり帽子をかぶった若王子先生はすでに泣き出す5秒前。
「うう……みなさん、本当にありがとう。先生、なまら嬉しいです」
「今年は色紙も禁止令でてもうたから、若ちゃんの誕生日祝えへんな? って言うとったんのを、とあかりとクリスが頭捻って妙案出したんやで。若ちゃんっ、3人に感謝せなアカンでホンマ!」
「うん。ありがとうさん、海野さん、ウェザーフィールドくん。先生、今日のことは絶対忘れません」
「おおげさですよ若王子先生」
若王子先生に感謝の言葉を言われて、あかりちゃんが照れてる。
「ところで先生、学校外ですけどやっぱりプレゼントは受け取ってくれないんですか?」
「うーん、やっぱりプレゼントは受け取れません。他の生徒たちに不公平になっちゃいますから」
「残念〜。でもここで若王子先生をお祝いできるっていうだけでも幸運よね? 私たち」
可愛らしく頷きあう水樹ちゃんと密っち。
クラッカーのテープを回収して、私たちは思い思いに若王子先生を囲んで椅子に腰掛ける。
若王子先生の隣はリッちゃんと密っち。はね学ビューティクイーンに挟まれて、若王子先生もご満悦だ。
そんなこんなで有志一同による、若王子先生誕生会は始まった。
☆★☆★☆★☆★
「つうわけで、まずはオレ様とリツカによるバースデーソングのプレゼントだ! 耳かっぽじってよーく聞けよ、若王子っ」
「やや、はね学が誇るトップミュージシャンの競演ですね!」
「若ちゃん、口うまいなー……」
「で? 何歌うの、のしん」
「ハリーだっつーの! ……まぁそうだな、無難なとこでハッピーバースデートゥーユーか?」
「それ去年やったよ。若先生に歌わされた」
「そういえばそうだったね。じゃあ今年は若王子先生のリクエストっていうのは?」
「よっし! 特別だ若王子、なんでもリクエストしろ!」
「先生のリクエストでいいんですか? だったらええと、……」
「なんだよ、遠慮すんなって!」
「ええとですね」
「……もしかして若先生、歌知らないの?」
「ややっ、鼻で笑わないでください大崎さん。先生流行にウルサイですから、ちょっと迷ってるだけです」
「(絶対ムキになってる……)」
「(若王子のヤツ、演歌とか言い出さねぇだろうな……?)」
「あっ、ありました! 隣の在宅ワークしてる人に教えてもらった歌がいいです! えーと、秋場47の」
「それ流行と違う!」
「いやある意味流行だけど、隣の人も在宅ワークじゃねぇだろ!」
「それでいいの?」
「「「大崎も歌えるな!!!」」」
☆★☆★☆★☆★
「で、では気を取り直してっ。若王子先生、誕生日おめでとうございます。生まれてくださって、ありがとうございます!」
「や、氷上くんありがとう。素敵なお祝いメッセージです。マジヤバイです」
「若王子先生には化学生物の質問にいつも答えていただいてますから。これからも生徒会一同は若王子先生への助力を惜しみませんっ」
「え? 生徒会と若王子先生って何か関係あるの?」
「購買部の新発売パンさえ押さえておけば、若王子先生は生徒会の意のままだということさ……」
「ひ、ヒカミッチが黒い!? チョビっちょっ、ヒカミッチが悪の道に行こうとしてるよ!?」
「氷上くんのは必要悪です。仕方ないんです。それから私は千代美です!」
「ずるい若先生! 購買のパン横流ししてんの!?」
「大崎さんはいっつも先生の顔面踏み台にして購買戦争勝ってるからいいじゃないですか……」
「……あれ? 生徒会と若王子先生がグルになって悪いことしてるってことですよね? それ、私たちにバラしていいんですか?」
「「あ」」
「あかりっ、ナイス突っ込みだ! 氷上っ、若王子っ、教頭にばらされたくなかったら、次の化学の小テスト、なかったことにしてもらおーか!」
「グッジョブのしんっ!」
「ナイス提案やで、ハリー!」
「し、しまったっ、口をすべらせたのはウカツだったっ……!!」
「くっ……仕方ありません、氷上くん。ここは針谷くんの条件を飲みましょうっ……!」
「……」
「なに? 志波っちょ」
「先生の誕生会じゃなかったのか?」
「うーん、おもしろいからえーじゃないかえーじゃないか、ってことで!」
☆★☆★☆★☆★
「そういえばもうすぐ修学旅行よね? 若王子先生も自由行動日は観光に行くんですか?」
「先生の場合は観光というよりも見回りといったほうが正しいかもしれません。みなさんが行きそうな観光地を回る予定です」
「一番最初に道に迷ってそうな気もするけどね」
「やや、藤堂さんひどいです……」
「当日も若ちゃんセンセ、争奪戦が起こりそうやね?」
「だよね! 若サマ〜私たちと行きましょうよ〜、って!」
「先生はもう誰とまわるとか決めてるんですか?」
「いえ、まだ何も。そういうみなさんはどうなんでしょう? 原則クラスメイトとまわることになってますけど、みんな合流するんでしょう?」
「バレバレなんやな、やっぱ。アタシは女友達大勢でカフェめぐり予定やねん」
「ボクはお寺や庭園の綺麗な風景、密ちゃんと一緒にまわる約束してるやんな♪」
「うふふ、楽しみね、クリスくん」
「えーっ、ずるいよ密っちー! うーん、くーちゃん取られちゃった。若王子先生っ、見捨てられた女と一緒にまわってくださいっ」
「ダメ。私が若先生と一緒にまわる」
「「「えええ!?」」」
「え、なんなん? リツカと若ちゃんって、そうなん!?」
「は? なにが?」
「な、なにがって……」
「若先生大人じゃん。財布代わりになるからついてく」
「……そうだと思ったんです。がっくりです……」
「(志波っちょ! 本当のところどうなの!? なにか聞いてないの、幼馴染としてっ)」
「(オレが知るか)」
「(もー……自分は水樹ちゃんとらぶらぶするからってー)」
「……」
「あだだだだっ!! ぐり拳禁止っっ!!!」
☆★☆★☆★☆★
その後も焼きあがったケーキをみんなでつついたり、ミーハー根性丸出しのママが飛び入り参加して若王子先生がパパに殺人視線向けられたり。
つつがなく、和気藹々と誕生会を楽しんで。
「ちゃん、あかりちゃん、ちょっと手伝ってくれる?」
「あ、はいっ」
「なに? あかりちゃんも必要なの?」
カウンターからママに呼ばれて、席を立つ。
手招きされて厨房に入ってみれば、2つのトレイにカップがたくさん並んでて、その中には。
「……あれ? コーヒー?」
なんで? うち、紅茶専門店なのに。
首を傾げながらママを見上げると、ママはにこにこと嬉しそうに微笑んで。
「さっきね、バイク便で届いたの。若王子先生へのプレゼントですって」
「へ? 誰から?」
わざわざバイク便でコーヒー豆を届けてくれたってこと?
一体誰が、って思った時だった。
あかりちゃんが「あっ」と叫んで口元に手を当てた。
「この匂い……ちゃん、匂い嗅いでみて?」
「匂い?」
コーヒーは飲めないけど、さすがに匂いだけで酔うことはない。
あかりちゃんが持ち上げたカップに鼻を近づけて、くんくんと嗅いでみる。
少し酸味を感じる嗅ぎなれたこの匂い……。
「あっ」
私も小さく叫んであかりちゃんをみた。
「これっ、珊瑚礁ブレンドだよね?」
「やっぱりそうだよね? これ、瑛くんからだ!」
トレイの横の包みをひっくり返してみれば、伝票の送り主は案の定珊瑚礁。
佐伯くん、お店の準備に忙しかったんだろうに。
わざわざ、プレゼントの手配をしてくれたんだ……。
「若王子先生ってコーヒー党だもんね?」
「うん。佐伯くんも知ってたんだね。だから珊瑚礁ブレンドの豆を送ってくれたんだ」
あとで、お礼の電話入れておかなくちゃ。
ぶっきらぼうなこと言ってたけど、やっぱり佐伯くんって優しいよね。
「よしっ、冷める前にみんなに配ろう! あかりちゃん、手伝って!」
「うんっ。ちょこっとだけ、珊瑚礁ウエイトレスの復活だね」
「ふふ、そうだね!」
私とあかりちゃんは分担してトレイを持って、みんなのもとにコーヒーを届ける。
「お待たせしました! 若王子先生のために、海の家のバリスタにブレンドしてもらったコーヒーです!」
「紅茶専門店ですけど、今日だけは特別でーす!」
いつもとは違う香りが充満するミルハニー店内。
佐伯くんが送ってくれたサプライズプレゼントは、みんなをさらに笑顔にしてくれた。
「……というわけでした。もー、未来のバリスタはニクイ演出するんだから〜」
『当たり前だ。バリスタってのは、最高のコーヒーを飲ませるために演出だって力を入れるんだ』
若王子先生の誕生日会も終えて、晩御飯も食べ終えて。
そろそろ珊瑚礁の後片付けも終わったかな? って頃を見計らって、佐伯くんに電話をかけた私。
誕生会の一部始終と珊瑚礁ブレンドの評価を伝えると、佐伯くんはまんざらでもなさそうな口調で。
『まぁ、珊瑚礁ブレンドはじいちゃんがブレンドした店の顔だからな。本当はオレのオリジナルブレンドを送りたかったけど、修行中だからやめといた』
「そういうとこきっちりしてるよね、佐伯くんって。でも本当に好評だったんだよ! 若王子先生なんかお店教えてくださいってしつこかったんだから」
『……教えてないよな?』
「教えてないけど……若王子先生は佐伯くんがバイトしてること知ってるんでしょ?」
『だからって店にまで来られたくない。若王子先生ヌケてるから、絶対女子生徒に後つけられてくるに決まってる』
「あはは、そうだよね!」
『笑い事かよ』
ぶつぶつと受話器の向こうで何か呟いてる佐伯くん。
と。
『……あ、そうだ。、あのさ』
「なになに?」
『その、お前、修学旅行の予定ってもう決めたのか?』
「ううん、ぜーんぜん。なんかさぁ、密っちも水樹ちゃんもイケメンとラブラブ自由行動! な感じでうらやましくって。私もイケメンと自由行動したーい、って思ってるとこですけど何か」
『お前……ホント煩悩に忠実だな……』
「お年頃ですから!」
『……その願い、オレが叶えてやらないでもない』
「へ?」
携帯から聞こえる、佐伯くんの緊張したような、硬い声。
一瞬返答につまって、私も佐伯くんもお互い無言になる。
『……こういうのはさらっと流せよ』
「あ、うん、ごめん……」
『か、勘違いするなよ? 予定決めておかないと、また一緒にまわろうとかいろいろ誘われるから』
「そっかそっか。絶対そうだよね、佐伯くんなら。オッケー佐伯くん。自由行動一緒にまわろう!」
『どこ行くか決めておけよ? オレも考えとくから』
「うん! 楽しみにしてるね」
『ああ。それじゃ、切るぞ』
「うん、おやすみ、佐伯くん」
『おやすみ、』
ぷつっ
私はつとめて冷静に受け答えをして、携帯を切って、机の上において。
ゆっくりとベッドに移動してから、黒うさぎのふわぐるみを抱きしめた。
ふわんとただよう甘酸っぱいオレンジの香り。
私はばたっとベッドに倒れこんで、じたばたと足をばたつかせた。
や……
やったぁぁ!!
修学旅行! 高校生活最大のイベント!
それの自由行動を、佐伯くんとまわれるなんて!!
、超ラッキーっ!!
佐伯くんには王子扱いするなって言われてからは、ごくごく普通の友人として接してるけどさ。
カッコいいことに変わりは無いんだもん。うわあぁ、すっごいテンションうなぎのぼり!!
気取ったり澄ましたりすることが多いけど、佐伯くんは一緒にいて文句なしに楽しいし。
くーちゃんとはまた違うノリで楽しめるんだもん。
絶対絶対楽しい修学旅行間違いなし!
「よーっし、自由行動予定、しっかり下調べしなきゃ!」
私はがばっと飛び起きてパソコンの電源を入れた。
立ち上がるまでの間に日記をつける。
ふふ、楽しみだなぁ、修学旅行!
いい思い出たくさん作るぞっ!
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