やってきました学校行事。
 入学一発目の行事は、体育祭!


 3.1年目:体育祭


「おかえり水樹ちゃん。パン食い競争、ナイス食いつきっぷり!」
「あ、あんまり嬉しい褒め言葉じゃないかも。でもありがとう、さん」

 戦利品のアンパンをくわえたまま、私はクラス席で水樹ちゃんを出迎えた。
 水樹ちゃんは運動苦手みたいだけど、さっきのパン食いっぷりはなかなかのものだったな。
 見事1位だもんね。

「ところで2人3脚の相手見つかった?」
「それがまだなんだー。他のクラスの子でもいいって聞いたんだけど、誰かいないかなーって探してる最中」
「でもそろそろ集合かかっちゃうよ?」
「そうなんだよね。ちょっとその辺探してくるね」
「うん。どうしても見つからなかったら、私が一緒に出るよ」
「ありがと水樹ちゃん」

 ぱくぱくとあんぱんを食べ始めた水樹ちゃんを置いて、とりあえずクラス席をふらりと離れてみる。

 3年生になるとクラス対抗になるらしいんだけど、1,2年生の間は単純に競技を楽しむだけの体育祭。
 クラス内の割り当てから2人3脚に出ることになったんだけど、その相手が決まってないんだよね〜。

 年頃の乙女としては、できるだけカッコいい男の子とできたらなーなんて思ってたりするんだけど。
 さすがに佐伯くんを誘う勇気はない。
 ぜ、絶対全学年女子から敵視されるもん……。

 というわけで、私はふらふらと後半クラスのほうまで歩いてきて。

「あ」

 顔見知りを発見した。

「おーい、志波っちょー」
「……か」

 後半クラスの後のほうで、地面に直座りして柔軟してたのは地黒スポーツマンの志波っちょだ。
 コワモテに似合わず甘党で、ミルハニーの常連さん。
 私もすでにお友達登録済み。

「志波っちょなんの競技に出るの?」
「400と午後の1500。……その『っちょ』ってのヤメロって言っただろ」
「あ、ゴメンゴメン。なんか志波って名前、志波っちょってカンジじゃない?」
「……変なヤツ」

 軽く息を吐いて、呆れたように私を見上げる志波っちょ。
 コワモテのせいで周りによってくる子があまりいないんだけど、志波っちょはすごくいい人。
 だから、ちょっとお願いしてみる。

「400って午前の最後だよね? 私、2人3脚の相手探してるんだけど、志波っちょ一緒に組んでくれない?」
「……オレと?」
「だめ?」

 あかりちゃんの真似をして、両手を合わせて可愛くお願いしてみる。

 ちなみにあかりちゃんがこういう風にお願いすると、佐伯くんは大抵のお願いを聞いてしまうんだよね。
 さすがの佐伯くんも可愛い子ちゃん(死語)には弱いみたい。

 ところがさすがに硬派の志波っちょにはいまいち効き目が鈍かった。

「だめだ」
「ええ〜」
「……ていうか無理だ。お前、身長差考えろ」
「あ、そっか」

 すっく、と立ち上がった志波っちょと私の身長差はかるーく30センチ以上。

「おっきすぎるよ、志波っちょ……」
「オレのせいじゃない」
「うーん、でも仕方ないか。うん、無理なお願いしてごめんね?」
「いや……」

 志波っちょはすまなそうな顔してる。
 やっぱりいい人だなー、志波っちょって。


 というわけで、再び2人3脚パートナー探しの旅。
 クラス席を離れた大会本部席の方まできちゃったけど……あれ?

 救護室のあの黒山のひとだかりは、なに?

「佐伯くーん、大丈夫ー?」
「ハードル派手に膝に当たったでしょ? 痛くない?」
「うん、大丈夫。みんな、心配してくれてありがとう」

 きゃーっ

 女の子の大群に包囲された救護テント。
 そこから聞こえてくる黄色い声と、佐伯くんの優しい声。
 そういえば、さっきハードル走で佐伯くん、ハードル倒したはずみで派手に転倒してたっけ。

 なるほどなるほど。ファンに囲まれて治療中なのね。

 ……混じりたい……。

 隙間から見える佐伯くんは、いつもの人当たりのいい笑顔を浮かべて女子に対応中。
 珊瑚礁の接客中もそうなんだ。常に笑顔を崩さないで丁寧に。
 大人だよねぇ、佐伯くん。

 膝の怪我も絆創膏一枚貼ってあるだけでたいしたことなさそうだし。
 それより、さっさと2人3脚の相手見つけなきゃ。

 私は救護室の前から移動することにした。
 えーと、あと知り合いがいそうなところは……と。

 がし。

「え?」

 ところがその私の肩を、後から掴む人が。

 って、佐伯くん?

「やぁさん。こんなところでどうしたの?」
「2人3脚のパートナー探し……って、佐伯くん、どうしたの? 何か用?」

 び、びっくりした。
 だって、さっきまで救護テントの中で女の子に囲まれてた佐伯くんが、いきなり私の肩掴んでるんだもん。
 ほらほらほら! まわりの女子の視線が痛い!!

 でも、佐伯くんはにっこりといつものキラースマイルを浮かべる。
 ああっ、は999の胸キュンダメージを受けましたっ!

「そうだったんだ。僕でよかったらパートナーになろうか?」
「えええ!? 佐伯くんが!?」
「そろそろ召集かかる時間じゃないかな。行こう、さん」

 そう言って佐伯くんは私の手をとって、かなり強引に歩き出す。

 ええー、なに、どういうこと!?
 あれって1−Bのさんだよね?
 佐伯くんと仲いいの? 佐伯くんから話しかけてたよ!

 ……遠ざかる女子のひそひそ話が耳に痛い……。

「さ、佐伯くん、どうしたの?」
さんが通りかかってくれて助かったよ。なんてことないって言ってるのに、大げさに騒いで解放してもらえなくて」

 ファンの子からだいぶ遠ざかった頃、佐伯くんは大きくため息をついた。
 そっか、人気者も大変だ。
 私の手を離して、2,3歩先を歩く。

「佐伯くんも大変だよね? 学校でも珊瑚礁でも気ィ遣いまくりで。私でよかったらいつでも口実にしちゃってよ」
「うん。ありがとう、さん」
「いやぁ〜、それほどでも」

 私を振り向いてにこっと微笑みかけてくれる佐伯くん。
 こんなにカッコよくてこんなにいい人、他にいない。あー、役得。

「あ、でも膝怪我したんでしょ? 2人3脚大丈夫? っていうか、あの子たちから逃げたかっただけなら無理に競技出なくてもいいよ?」
「そう言ってもらえると助かるよ。それじゃあ」
「え、あ、佐伯くーん?」

 私の言葉に、佐伯くんはあっさりとしたもので、さっさと中庭の方へと走っていく。

 あ、あれー……ちょっとは期待してたんだけどな、学園プリンスと2人3脚……。
 ううう、余計な気遣いなんてしなけりゃよかった。
 はぁ。

 などと思っていたら。

「ちょっとさん……」
「はい? ……ってうわわ!?」

 背後からかけられた声に振り向いてみれば。

 嫉妬オーラ全開の、佐伯くん親衛隊のみなみなさま。
 ひええ、これはマズイ!!

「佐伯くんと随分親しそうにしてたけど、どういうこと? まさか、本当に佐伯くんと2人3脚するつもり?」
「え、ま、まさか! そんな、けが人にそんなことさせられないでしょ? 丁重にお断りしたところだよ!」
「ほんと?」
「ホントホント! これから別のパートナー探しに行こうかなーって、あははははは」
「ふぅん……それならいいけど」

 疑わしそうな視線を不躾にぶつけてくる親衛隊。
 彼女たちはしばらく私をじろじろと見てたけど、佐伯くんもそばにいないってことで、やがてぞろぞろと去っていった。

 はぁぁ、ヤバかったー。

 でも……佐伯くんも大変だな。
 彼女たちを見てて思ったけど。
 なまじ人がいいものだから、迷惑だと思っても断りきれないんだろうな。
 私もミーハーに佐伯くんにメロメロすることはあるけど、あまり迷惑にならないようにしなきゃ。

 と。

『1年生で2人3脚に参加する方は、大会本部前に集合してください……繰り返します、1年生で2人3脚に参加する方は……』

「うわわ、マズイ! どうしよう!」

 そんなこんなしてる間に召集かかっちゃった!
 とりあえず私は、大急ぎでクラス席へと戻ることにした。
 佐伯くんに気を遣ってる場合じゃなかったー!!



「で、結局2人3脚には出れたのか?」
「うん。さっき話したクラスの子に結局お願いしたの」
「結果は?」
「……ドンケツ……」
「ははっ、らしい」
「もうっ! 笑わないでよ、ユキっ!」

 体育祭を終えて。
 はば学でも体育祭だったみたいで、帰りにミルハニーに寄ってくれたユキに今日のことを話したら、案の定笑われてしまった。
 スポーツの後には甘いもの、ということでパパが作ってくれたホットケーキをつつきながら、お互いの体育祭について話して。

「はば学の体育祭も似たようなものなんだけどさ、自分のクラスは1位以外ありえない! って公言してはばからない先生がいて。そこのクラスは大変だったみたいだよ」
「うわぁ、それキッツイ! はば学ってこんなお祭り行事もきっちりしてるんだ?」
「で、最後のシメはフォークダンス。はね学は?」
「うちもフォークダンスでシメだよ。佐伯くん……さっき話したイケメンくんの争奪戦、すごかったんだから」
「はね学は学校行事楽しそうだよな? こっちは例の先生が中心にきっちり監視されてたから、滞りなく終わったよ」
「へぇ〜。ホントに私、はね学でよかったかも」
「ああ、ははね学で本当によかったと僕も思う」

 にやりと意地悪く笑うユキに、私は頬をふくらませた。
 どーせ私はお祭り騒ぎ大好きな、流されやすい人間ですよーだ。

「体育祭が終わったから、次のイベントは期末テストか……」
「うぐっ……そんなのイベントって言わないでよ、ユキ……」
、ちゃんと勉強してるのか? 一流大目指してるんなら、はね学でも最低50番以内に入ってないと」
「うーん……一応ちゃんとやってはいるんだけど、私ユキみたいに予備校行ってないから、うまく勉強できてるかわかんないんだよね」
「はぁ、まったくのんきだな、は」

 軽くため息をついたあと、ユキはぱくりとホットケーキを頬張った。

「しょうがないな。テストの日程も多分同じようなものだろうし、今度勉強見てやるよ」
「ほんと!? うわぁ、ありがとう、ユキ!」

 私はぽんっと手を打って、ユキを拝んだ。
 ううう、本当にユキって優しい。これだから大好きなんだ、ユキのこと。
 いっつも一言多いけど、でも本当はいつでも心配してくれてる。

「じゃあユキのためにスペシャルなケーキ焼いておくね!」
「あのな、ケーキ焼く時間があるなら勉強しろよ。本末転倒だろ?」
「えへへ、そうだね」

 ああ楽しみ。早くテスト期間来ないかな!

 などなど。

 体育祭はちょーっと怖い目に会いそうになったけど、最後はユキが幸せ一杯くれたからよしとしよう!
 今日の日記もたくさんたくさんハッピーな思い出書き込もうっと。

 えへへ、ユキ、大好き。

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