「水樹って、あの水樹か? 学年首位の」
「そうそう。佐伯くんと双璧張ってる学園アイドルの水樹ちゃん」
「なんの双璧だよ。でもそっか、水樹ってそんな生活してたのか……」


 25.2年目:続・佐伯誕生日


 カップを拭きながら私の話を聞いていた佐伯くんが、へぇ〜……と呟いた。

 珊瑚礁閉店後のお片づけの時間。
 私はモップで床を拭き、マスターはカウンター内でお店の在庫確認中。

 女性客に散々ケーキを奢られて、閉店直後は胸焼けひどいと気持ち悪そうにしてた佐伯くんだけど、今は私の話に興味深げに耳を傾けてくれている。

 なんの話をしてたかっていうと、バイト時間前にミルハニーにやってきた志波っちょと水樹ちゃんの話だ。


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「水樹ちゃんの力になれって……ええと、何の話?」

 帰ってくるなり真剣な顔して話を切り出した志波っちょに戸惑いつつも、私は続きを促した。
 志波っちょは水樹ちゃんを見下ろして、無言で話せと言ってるみたい。

 水樹ちゃんはこくんと頷いて。

「あのね、って知り合い多いでしょ? 夏休み中、短期でバイト募集してるところ知らない?」
「バイト先探してるの? そういえば学校でもそんなこと言ってたね、水樹ちゃん。そんな細い体で働きつめてどうするの」
「……お金が足りないの」

 ぽそっと言った水樹ちゃんに、私はかぶりつこうとしたスコーンをぽろりと落とした。

 お金が足りないって。
 優等生の水樹ちゃんから聞けるとは思わなかった。
 流行もの大好きなぱるぴんや音楽活動につぎ込んでるハリーからならよく聞いた台詞だけど。

「なになに、もしかして深刻な話?」
「水樹、に全部話せ。そのほうがいい」

 どうやら志波っちょは水樹ちゃんの事情を知ってるみたいだ。
 志波っちょにしては限りなく優しい口調で水樹ちゃんを促して。
 そんな志波っちょを見上げてこくんと頷く水樹ちゃんは、密っちが言ってたみたいに本当にお姫様みたい。
 姫と従者っていう感じ。いいなぁぁ……。

 などとほんわかした二人が教えてくれた話の内容は、ちっともほんわかしてなかった。
 っていうか、むしろかなりシビアな話だった。

「あのね、私一人暮らししてるんだけど」

 水樹ちゃんが北海道から単身やってきたっていうのは知ってたんだけど。

 なんと水樹ちゃん、はね学入学直前に家族全員事故で亡くして、それ以来バイト代と奨学金で生活費と学費の一切をまかなってたんだって。
 勿論北海道には親戚もいて、天涯孤独っていうわけじゃなさそうなんだけど。
 なぜか水樹ちゃん、お金に関しては親類縁者の力を借りたくないそうで。

「どうして? 親戚と仲悪いの?」
「ううん、そんなことないよ。でも……私の自立を両親も期待してたから」

 いや、金銭面に関しては社会的弱者な年齢なんだし、そこは無理に自立だなんだってこじつけなくても……と私が言ったら、それはもうオレが言った、と志波っちょ。
 水樹ちゃんって、案外頑固みたい。ちょっと意外。

「でもね、私、3月に体調崩してテスト期間中に倒れちゃったでしょ? あれが尾を引いて試験に失敗して、今年の奨学金ランク下がっちゃって……」
「ええ!? それって死活問題じゃん! 生活できてるの?」
「うん、生活するぶんにはかつかつだけど大丈夫。……ただ学費の支払い厳しくて」
「でしょ!? もう、もっと早く言ってくれればよかったのに!」
「それでね……このままだと修学旅行の積立金下ろさなきゃいけなくなるかもしれないの」

 ここで、私は再びスコーンを落とした。
 修学旅行の積立金を下ろす、ということは。
 ほら、私たちのパパやママより少し前の世代ならさ、家が貧しくて修学旅行の代金が用意できなくて行けなかった、って話よく聞くけど。
 まさか私の友達がそんな状況にあるなんて思いもしなかった。

 しかも水樹ちゃんは家の経済状態が、とかそんな話じゃなくて。
 
 私は身を乗り出して水樹ちゃんの手を握り締めた。

「駄目だよ! 修学旅行は高校最大のイベントじゃない! っていうか、水樹ちゃんが来れないなんてことになったらはね学中の男子が暴動起こすって!」
「いや、それはどうかと思うけど」
「だよね、志波っちょ!」
「あ? ああ……そう、だな」
「そっか、それで死に物狂いでバイトするなんて言ってたんだ……。任せて水樹ちゃん! 私のツテで、短期バイトかたっぱしから集めてみせるから!」

 どんと胸を叩いて私は紅茶を飲み干した。
 そして席を立って、カウンター内に出てきたパパに早速事情を話す。

「パパ、夏祭りの短期バイトまだ募集してたよね?」
「水樹さんを雇えっていうんだろう? 勿論だ。パパもの友達を応援するよ」
「よかった! パパ、あとでほっぺチューしてあげる!」
「やだ、ちゃんたら。どこでそんな小悪魔テク覚えちゃったの〜?」

 ママの冷やかしもよそに、私はぽかんとこちらを振り向いている二人の元に戻る。

「おまたせ! まずは1個ゲットしたよ!」
「え? もう?」
「さすがだな」
「7月の最後の金曜夜と、土日終日なんだけど。うちを含む近所の飲食店が毎年夏祭りを開催してるの。お店の前に臨時の屋台を出店して縁日みたいなことするんだけど、それの売り子さんやらない? その日限定のパパの焼き菓子とか、ママのティーカクテルとかの販売なんだけど」
「わぁおもしろそう! 是非お願いしますっ!」

 ぺこんっと頭を下げる水樹ちゃん。
 隣の志波っちょは「限定焼き菓子……」と思考は甘いものに移ってるみたいだけど。

「詳細は今日の夜にでもミルハニーのアドレスからメールするから。あとのバイトは見つけ次第連絡するね」

 にっと笑って見せれば、水樹ちゃんは感極まったように唇をきゅっと噛んだ。

「うん……ありがとう、。志波くんの言うとおりに相談してよかった。志波くんもありがとう!」
「別に……オレは何もしてない」
「ううん、今日だって野球部の練習休んでまで付き合ってくれたし。今度ちゃんとお礼するから」
「いい。そんなことに使う余裕があるなら自分にまわせ」

 ……って、アレ?

「だめだよ、ちゃんとお礼させてよ。いっつも志波くんには迷惑かけてばっかりだもん」
「……別に迷惑じゃない。お前の力になれれば、それでいいんだ」
「志波くん……」
「だから、気にするな」

 おーいもしもーし。


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「……って最後はなーんかラブラブな様子を見せ付けられてただけなんだけどさぁぁ!」
「お前ってさ……他人に気ィまわしすぎていっつも自分が損してるよな」
「まぁ友達が幸せならいいかなーなんて」

 あああ、いいなぁ水樹ちゃんっ。志波っちょみたいなクールガイとらぶらぶなんてっ。
 つい最近改めて失恋したちゃんには目にも胸にも痛い光景でしたよ……ぐすん。
 でもまぁ、水樹ちゃんの場合はラブのひとつでもなきゃやってられない家庭環境なんだろうけど。

「でもなんか意外だ。志波ってアイツだろ? 後半クラスの背のでかいヤツ」
「あれ、佐伯くん志波っちょのこと知ってる?」
「ああまぁ、顔と名前くらいは。でもソイツと、あの水樹がいいカンジって。どこで知り合ったんだ?」
「実はちゃんが出会いをプロデュース」
「はぁ? お前が?」
「いや、実は結果的に、ってことなんだけど。去年の若王子先生の誕生日にみんなで色紙書いたじゃない。その時に」
「へー」

 佐伯くんが実に感慨深げに頷いた。

 でもなんか意外、は今の佐伯くんにもあてはまる。
 案外佐伯くんって、他の子興味ないってふりしてる割に人の話ちゃんと聞いてくれるし。
 私の話でも佐伯くん自身の話でもないのにね。

「それにしてもお前って、ほんと交友関係広いよな」
「ま〜ぁね〜! 友達千人計画遂行中ですから!」
「100人じゃないのか……」

 ぷっと吹き出す佐伯くん。
 どうやら胸焼けも収まったみたい。

 私はモップを片付けて、濡らしたふきんを受け取ってテーブルを拭きはじめる。

「それでね、佐伯くん。水樹ちゃんに珊瑚礁のこと教えちゃだめかなぁ?」
「は!? なんでだよ!?」

 佐伯くんはすっとんきょうな声を出して顔を上げた。
 あちゃ、ご機嫌うまくとれてたかと思ったのに。

「今年も海の家珊瑚礁やるんでしょ? あかりちゃんの代わりに水樹ちゃんなんてどうかなーと」
「駄目だ。これ以上オレのオアシス侵食されてたまるか」
「そこをなんとか! あきらかに人手不足じゃない! 水樹ちゃんの生活の糧にもなるし!」
「ヤダ」

 ぱしっと手を合わせて拝むも、佐伯くんてばツレない返事。
 うーん……佐伯くんの気持ちも重々承知だけど、水樹ちゃんの方は切羽詰ってるからなぁ……。

 むぅ、ここは一か八か。
 私はふきんをテーブルに置いて、ずかずかとカウンターごしに佐伯くんに近寄った。

「な、なんだよ。やるか?」

 足音荒く近づいてきた私に、佐伯くんも少したじろぐものの。

 私はむっとして佐伯くんを見上げ。

 でもすぐにちょっと困ったような表情を浮かべ上目遣いで佐伯くんを見た。
 合わせた両手の人差し指は下唇に触れる位置。

「ダメ?」

 最後にこくんと首を傾げて。

 これぞカメリア倶楽部秘伝のおねだりポーズっ!
 この間初めてあの! あの! 花椿姫子先輩に会ったんだもんね!
 ソッコウ伝授してもらった必殺技!

「まるでピンクのアザレアのような子ね。クスッ♪」

 なんて言われたりもしたんだけど。

 佐伯くんはそんな私をぽかんと口を開けて見つめて。
 つるっと、手からカップを落としそうになって、うわっ! と慌てて空中キャッチ。

「わ、大丈夫!?」
「お、お前が変なこと言うからだろ!」
「えええ、ダメ? って聞いただけなのに〜」

 うっかりしたところを見られて恥ずかしかったのか、佐伯くんは顔中真っ赤に染めちゃって。
 かーわいーいなーぁ……。

 佐伯くんは落としかけたカップを手早く拭いてカゴにふせて、むすっとした表情でふきんをバーにかけた。

「…………す」
「え? なに?」

 何かもごもごと言った佐伯くん。
 聞き返すと、佐伯くんはくるっと私に背を向けてエスプレッソマシーンを拭きながら。

「可愛かったから、許す」

 って。

 うわぁぁぁ、悶絶ーっ!!
 どうしよう、佐伯くんが可愛いすぎる!!

 自分の体を抱きしめてもだえていたら、奥でマスターが肩を震わせてるのが見えた。

「んじゃ可愛いついでに水樹ちゃんの件も」
「それとこれとは話が別だ」

 くるっと振り返った佐伯くんは、すでにいつもの余裕を取り戻していて。

「けち!」
「なんとでも言え。の気持ちもわかるけど、これ以上珊瑚礁のこと広めて学校にばれるリスク上げたくないんだ」
「あう、それを言われると。……そっか、残念。他あたってみるよ。ごめんね無理言って」
「……なぁ、オレ別に意地悪で言ってるんじゃないからな?」
「わかってるってば。大丈夫、夏休み中はイベント満載だし、他のツテもすぐ見つかるから平気だよ」

 眉尻を下げてしまった佐伯くんに手を振って、私はテーブル拭きに戻る。
 うーん、アテにしてたんだけどなぁ、珊瑚礁の海の家。
 あとは何があるかな。夏……海……ナイトパレード……ひと夏のアバンチュール……ってこれは若王子先生の台詞か。
 帰ってはばたきネットでも漁ってみようかな。

「なぁ」

 テーブルを拭きながら次なるバイトのアテに思いをめぐらせていたら、カウンターから出てきた佐伯くんに声をかけられた。

「なに?」
「お前さ、遊園地とかって興味ある?」
「遊園地? そりゃ勿論だよー。あんなパラダイス他にないじゃない!」
「そっか。あのさ、客に遊園地のタダ券貰ったんだけど、お前興味あるんなら行くか?」

 佐伯くんのクセである髪を掻きあげる仕草をしながら、差し出してきたのは2枚のチケット。
 まぎれもないそれは、はばたき山にある遊園地のワンデーパスポート!

 私は瞳をきらっきらに輝かせながら佐伯くんを見上げた。

「いいの!? 本当に貰っていいの!?」
「ああ。元手タダだし、気にすんなよ」
「やったぁ! 佐伯くんありがとう! そうだ、これ水樹ちゃんと志波っちょにあげよっと!」


「え?」


 佐伯くんからチケットを2枚受け取って。

「ほら水樹ちゃんてこの分だと夏休み中遊びに行けなさそうじゃない。これならタダで乗り放題だからお金かからないし! うわぁ、これで志波っちょとの仲がますます進展しちゃったらどうしよー!」
「……おい?」
「あ、佐伯くんの名前も珊瑚礁の名前もちゃんと伏せとくから。本当にありがとね、佐伯くん!」
「あぁ……そう、そうか」

 あれ?

 私、心の底から感謝の気持ちを伝えたつもりだったんだけど。
 なんだか佐伯くん、見る間に意気消沈しちゃって。

「佐伯くん、どうかした? あ、もしかしてまた胸焼けぶり返して」
「ああ、もう全然! いいんだ、遊園地くらい!」

 むすっとしたかと思えば、いきなり大声出して。
 佐伯くんは足音荒く厨房の奥へと行ってしまった。

 え? あれ? 私、なんかまずいこと言った?
 あ、もしかしてせっかくくれたもの、目の前で他の子にあげるなんて言っちゃったから?

 すると。

「はっはっは!」

 おろおろして厨房のほうを見ていたら、いきなり今度はマスターが大きな声を出して笑い出して。
 唖然としてマスターを振り向いたら、マスターはさもおかしそうに眉尻を下げてお腹を抱えていた。

「いや、笑って悪かったね」
「いえ……あの、どうしたんですか?」
「うん。さん、瑛のヤツはね、あなたと一緒に遊園地に行きたかったんですよ」
「……え? 私と一緒に?」

 ひとしきり笑ったマスターは、言いながらも肩を震わせていた。

 ……佐伯くんが? はね学プリンスが? 私と一緒に遊園地?

さんが体調を崩して店を休んでいたときも、アイツはとても心配していてね。いつもあなたに気遣ってもらっていたのに、力になれなくて悔しかったんだろうね」
「佐伯くんが」
「だから先日ソレをお客様の好意でいただいたあと、妙にソワソワしていてね。なぁじいちゃん、って遊園地好きだと思う? 絶対好きだよな? アイツなら」

 最後は佐伯くんの口真似。
 ぽかんとしてマスターを見ていたら、マスターはまたくつくつと笑い出した。

「アイツもまだまだだな。さんの友達思いで親切な人柄を全然読めていない」
「私……佐伯くんをがっかりさせちゃったんですね」

 そうだったんだ。佐伯くん、私のこと心配してくれてたんだ。
 それなのに私ってば、全然気づかないで。

 あ〜もう、私のバカバカ! 印象最悪だよ〜!

 ……なんて言ってる場合じゃない!
 私はマスターの横をすり抜けて、厨房に駆け込んだ。

 佐伯くんは厨房の奥の椅子に腰かけて、頭を抱えるように髪をくしゃりと掴んでいた。
 でも私の気配に気づいたのか、ぱっと立ち上がる。

「佐伯くん」
「なんだよ。掃除終わったならさっさと着替えてこいよ。バスなくなるだろ」

 ううう、ご機嫌ナナメ……。
 でもここで引いちゃだめだ。
 せっかく、佐伯くんが私のためを思ってくれたチケット、無駄にしちゃいけないよね。

「ねぇ佐伯くん、よかったらこのチケットで一緒に遊園地行かない?」
「は? 何言ってんだよ。さっきソレ水樹にやるって言ってただろ」
「う、うん、そうなんだけど……」

 佐伯くんに睨まれるのって、結構怖い。
 綺麗な顔してるけど、だからこそ余計に怜悧な雰囲気があるっていうか。

「でも、よくよく考えたら夏休み中ってナイトパレード開催中だったなーって。えへへ、水樹ちゃんには悪いけど、やっぱり私もそれ見てみたいし」

 それでもなんとか笑顔を取り繕って佐伯くんに話しかける。

「逆にバイト探してって言われてるのに遊園地のチケット持ってくのって嫌味かなーとか」
「……」
「えーと、とにかくちゃんは遊園地に行きたいのです! そして出来れば佐伯くんと一緒に行きたいのです!」

 これ以上うまい言い訳も思いつかなくて、もうストレートに言ってしまった私。
 佐伯くんはあいかわらず冷めた目で私を見てるけど。

 よ、よしっ。もう不機嫌になってるんだから、恐れることはないっ。
 もう一度、一か八か!

 私は胸元に拳を持っていって、首を傾げて。

「ダメ?」

 ぶっ

 あ、佐伯くんが一瞬で噴出した。

「って、噴出すって一番ひどくない!?」
「だってお前、あまりにキャラ違うだろ……はははっ」

 厨房の台に手をついて、ツボに入りましたと言わんばかりに爆笑してる佐伯くん。
 うう……険悪な雰囲気を壊せたのはいいけど、かなり傷つくんですけど、その反応……。
 もしかしてさっきのも、可愛かったからなんてのはリップサービスで、あきれ返ってただけとか?

 むぅ。

「ほら、むくれるなって。そこまで言うなら行ってやる。しょうがないな」
「ふんだ。当日はどっちが絶叫系で先に叫ぶか勝負だからねっ」
「おもしろい。受けてたつ」

 尊大に言い放つ佐伯くんは、すっかりいつもどおり。
 よかった、機嫌直してくれて。

「佐伯くん、あのね、さっきこのチケットのことマスターからちょっとだけ聞いた」
「げっ……じいちゃん、余計なこと言いやがって」

 ちょっと赤くなりながら、決まり悪そうにそっぽを向く佐伯くん。
 口は悪いけど、本当は優しくて、でもそれを表すのが不器用なだけで。
 学校でも素でいったほうがずっとずっと魅力的だと思うのになぁ……。

「気遣ってくれてありがとう。当日、楽しみにしてるから!」
「ああ、まぁ……早く着替えてくるように。本当にバスなくなるぞ」
「あ、ほんとだ。急いで着替えてくる!」

 困ったような表情を浮かべて頭を掻く佐伯くん。
 私も壁の時計を見て、慌てて更衣室に飛んでいった。


 というわけで。
 ごめんね水樹ちゃん! ちゃんとバイトも探すし遊びも誘うから!
 今回の遊園地タダ券は、私が使わせてもらいます!

 佐伯くんと遊園地に行く日を次の日曜日に決めて、私は珊瑚礁を後にした。

 心はすでに日曜日へ!
 はね学プリンスと、遊園地デート取り付けちゃったよ! うわぁなんてラッキー!

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