病み上がり初登校日に気がついた。
 明後日佐伯くんの誕生日じゃない!


 24.2年目:佐伯誕生日?


「け、結局プレゼント用意できなかった……」

 佐伯くん誕生日の19日。私はとぼとぼと通学路を歩いていた。
 猶予が2日あったけど、体調万全ではなかった私は授業が終わる頃にはふらふらになっていて、珊瑚礁バイトも免除してもらってまっすぐ帰宅していた。
 最後の手段でミルハニーのケーキにしようかとも思ったけど、この暑さで悪くなっちゃうかもしれないし、ケーキなんて佐伯くん食べ飽きてるだろうし。

 はぁ〜あ……。
 バイトは休むはお見舞いには来てもらうは、散々迷惑かけたのにプレゼントひとつ用意できなかったなんて。
 、一生の不覚っ!

 とはいえ今日は終業式。
 早めに帰れるから、今日の珊瑚礁バイトまでの少しの時間で探すしかない!
 正面玄関で若王子先生に挨拶して、私は教室へと向かった。

「おっはよー」

 がらりと教室のドアを開けると。

「おはよーさん、っ。早くこっちこっち!」
「おはよっ、ぱるぴん。あれ、みんな集まっちゃってどうしたの?」

 ぱるぴんの机のまわりには、他クラスの志波っちょと水樹ちゃんとハリーと密っちとくーちゃんが集まってた。
 私は机に鞄を置いて、とてぱてと駆け寄る。

「おはよ、みんな。何話してたの?」
「決まってんだろ? お前のニガコクの店決めだっつーの!」
「えええ!? ちょ、それ流れたんじゃないの!?」
「甘いで。アタシらがやるったら絶対やるんや」

 ニヤリと笑うハリーとぱるぴん。
 にこにこ無邪気に微笑んでるのはくーちゃんと密っちと水樹ちゃん。
 いつもどおり眠そうなのは志波っちょ。

 ぱるぴんの机の上にははばたきウォッチャーが開かれていて、『夏を乗り切る激辛料理のススメ!』なる特集ページがでかでかと……。
 あ、赤い。食べ物が赤いっ。

ちゃん、僕らのオススメはこの商店街にある中華料理店なんよ。激辛ランチメニュー980円の麻婆コース」
「ひどいっ、くーちゃんまでおもしろがってっ」
「でもおいしそうよ? 中華料理は滋養強壮にもいいし、病み上がりのさんにピッタリじゃない?」
「刺激強すぎるよ密っち〜!」
「残ったら食ってやる」
「最初っからあげるってば志波っちょ……好きなだけ食べて……」

 うう、みんなして好き放題言ってっ。

「っつーわけで、のニガコクは本日学校明けに決定な!」
「え!? ちょ、ちょっと待って! ごめん、今日だけは本当にだめなの!」

 いきなり決定してしまうハリー。
 私は慌ててそれを阻止! 緊急阻止!

「んっだよ、ノリ悪いな」
「ご、ごめん。でも今日は用事があって、どうしても駄目なの。ね、今度ちゃんとニガコクするから!」
「え〜、残念やわ〜。ちゃんとランチ一緒に行ける思ったんに〜」

 本当に残念そうにしてるくーちゃんに向けて、私は両手を合わせて謝る。
 でも、今日だけはどうしてもだめだ。
 本当に佐伯くんにプレゼント渡せなくなっちゃうもん。

「今度っていうと夏休み明けになるん?」
「ぐずぐずしてっと、京都でニガコクすることになるぞ、っ」
「あら、でもそれも素敵ね」

 いやいや密っち、なんで和の都京都まで行って激辛料理食べなきゃならないですか。
 ……とは心の中だけでつっこんで。

 そっか、夏休み明けは修学旅行だ。
 高校生活最大のイベントだもんね! 夏休み中に下調べしとかなきゃ。

「夏休み中にもみんなと会いたいし。バイトとかお店の予定決まったら連絡するよ」
「ゼッテーだぞ! 逃げたらクビだかんな!」
「わかってるってばハリー。ハリーも夏休み中ライブやるならちゃんと呼んでよね!」
「たりめーだ! 差し入れはミルハニーの茶で勘弁してやる」
「ははー」

 ぱるぴんの机に腰掛けてふんぞり返ってるハリーに向かって、私は仰々しく頭を下げた。

 そういえば、みんなは夏休みどう過ごすんだろ?

「ぱるぴんの夏休みの予定は?」
「アタシはケーキ屋の夏の新作めぐりや! 、ちゃんとリサーチしてミルハニーに情報流したるからな!」
「いつもいつも競合他社の情報ありがとうございます、はるひ様〜。くーちゃんと密っちは?」
「僕は仕事……やなくて、家の手伝いすんねん。暑いの苦手やし、インドア生活になるんかなぁ」
「私はもちろん吹奏楽コンクールに向けて練習よ。よかったらさんも聞きにきてね」

 へぇ、みんな結構予定詰まってるんだ。
 もしかしてバイト以外特に用事がないのって、私だけ?

「志波っちょは?」

 ちょっと仲間が欲しくて、眠そうに立ってた志波っちょを見上げてみる。
 すると志波っちょは言葉短く。

「部活」
「あ、そっか。……って、志波っちょ部活に所属してたっけ?」
「……6月から野球部に入った」
「ええ? 知らなかったよ! 水樹ちゃんは知ってた?」
「え!? あ、うん、たまたま私そのとき、野球部の手伝いしてたから」

 へ?

 水樹ちゃんが野球部の手伝いしてたときに、偶然志波っちょが入部したってこと?
 えええ、それアヤシイなぁ〜。

「別に水樹ちゃんが野球部マネになったわけじゃないよね?」
「違うよ。その日はたまたま野球部のマネージャーにお手伝い頼まれたの。同じクラスの友達なんだ」
「あ、そうだったんだ」

 ふ〜ん……。
 なんかもうちょっと探りたいなぁ。にやにや。
 ま、いいや。その話題は志波っちょがミルハニーに来た時にでも聞き出そう。

「ところで水樹ちゃんの予定は?」
「えと……とりあえず死に物狂いでバイトするつもり……」

 私が訪ねると、水樹ちゃんは途端に視線をそらしてもごもごとらしくなく口を濁した。

「死に物狂いって……セイ、なんか欲しいもんでもあるん?」
「う、うん。そんなとこかな」
「そんなとこって」

 アヤシイ。
 明らかにその返答はアヤシイっ。
 私とぱるぴんと密っちは顔を見合わせる。

「なんやねんな、セイっ。隠し事しとるなー?」
「水臭いじゃない、セイさん。なにを隠してるの?」
「なになにっ、女友達にも言えないこと?」
「わ、わ、そんなんじゃなくてっ」

 慌てる水樹ちゃんに3人で詰め寄る。

 と。

 す、と志波っちょの手がさりげなく私たちと水樹ちゃんの間に入る。

「水樹、そろそろ予鈴なるぞ」
「あ、そか。じゃあねっ、みんなっ」
「あーっ、逃げたなーっ!」

 志波っちょの救いの手に乗っかる水樹ちゃん。
 ぴょんと立ち上がって、そそくさと教室を出て行こうとして、志波っちょも無言でそのあとをついていく。

 それを眺めていた密っちが、ほう、とため息をついた。

「なんかセイさんと志波くんって、お姫さまとナイトよね。いいなぁ、あんな風なカップルになってみたいな〜」
「あれれ、密ちゃん、ナイトなら本場英国仕込みの僕がおるよ?」
「ふふ、やだクリスくんったら。それじゃあさん、西本さん、私たちも行くわね?」
「うん、またね! ハリーも、じゃあね!」
「おうっ。ちゃんとニガコク日程連絡しろよ、!」
「おっけい!」

 ハリーたちに手を振って見送って。

 入れ違いに、佐伯くんと、女子大勢が入ってきた。

「ごめん! もう予鈴なるし、このへんでいいかな」
「ええーっ、まだ祝いたりないよ、佐伯くんの誕生日!」
「今日は終業式でお昼も一緒に食べられないのに〜」
「本当にごめん。気持ちだけ貰っておくよ。ありがとう」

 いつもどおりのはねプリスマイルを佐伯くんが浮かべると、入り口付近に固まってたファンの子たちからキャーッ! という黄色い悲鳴が上がる。
 あはは、今年も佐伯星雲健在だ。

「あいかわらずやなー、サエキックの誕生日。リツカが別クラスになってほんまよかったわ」
「だよね? うわ、見て佐伯くんの両手! すでに紙袋2つ持ち!」
「王子も大変やな! あ、予鈴なったな」

 キーンコーンカーンコーン……

 ゆっくりと鐘の音が響いて、教室前を占領してた女の子たちも名残惜しそうに順々に戻っていく。
 それら全てがいなくなるまで、佐伯くんは律儀に笑顔を浮かべて見送っていた。
 すごいなぁ、佐伯くんって。

 そして、今度はあかりちゃんが入ってきた。
 鞄はもう机に置いてあったから、どこか行ってたのかな?

「おはよーあかりちゃん」
「あ、おはようちゃん、はるひ! 教員室で先生に質問してたらぎりぎりになっちゃった」
「はぁ? アンタ終業式だってのに勉強道具持ってきたん? そんな勉強してどないするん!」
「だって今日で学校終わっちゃうし、質問できるの今日までだったから」

 化学の教科書で口元を隠して、あかりちゃんは照れ臭そうに微笑む。

 がんばってるね、あかりちゃん。
 ユキとあかりちゃんの二人と和解したあと、気になってたことをあかりちゃんに聞いたんだよね、私。
 あかりちゃんの夢のこと。

 あかりちゃんの夢は司法書士。目指すは一流大法学部、って言ってた。
 ユキの夢は前に聞いてたから、ああ、って納得した。
 ユキは弁護士目指してるんだもんね。あかりちゃんが司法書士になったら、最強カップルだよね!

「あかりちゃんは夏休みは予備校の夏期講習?」
「うん。びっちり入ってるわけじゃないから、それなりに息抜きするつもりだけどね」
「受験は再来年やで? そんな勉強してどないするん! アンタ、アタシのお誘い断ったらアンタもニガコク強制参加やからな!」
「え、ニガコクって?」

 きょとんとするあかりちゃん。
 私とぱるぴんは顔を見合わせてくすくすと笑った。

 その後すぐ若王子先生がやってきて、私たちはそれぞれの机に戻る。
 簡単なHRのあと、終業式に参加するために体育館へと移動する。

 校長先生の長ーいお説教のあと、教頭先生から夏休みに関する注意事項を聞かされて。
 若王子先生が教員席で大あくびしてるのを見て、思わず噴出しちゃった。

 その後は再び教室に戻り、ありがたくない宿題の山を配布されて、見たくもない成績表を渡されて。

「夏は楽しい季節です。でも、危険な誘惑にはけして乗らないように。楽しく健全に、アバンチュールに繰り出そうぜ!」
「若ちゃーん、アバンチュールって時点で危険なことじゃねーの?」

 いつものようにクラスメイトから突っ込み貰って頭をかく若王子先生に、みんなで爆笑して。


 さぁ、夏休みだ!!


、せっかくやしお茶して帰らん?」
「ごめーんぱるぴん! 本当に急ぐんだ! また今度誘ってね!」
「なんやせわしないな。しゃーないな、夏休み中、ミルハニーで会おうな!」
「うん! あかりちゃんも、勉強がんばってね」
ちゃんもバイトがんばって! じゃあ、またね!」

 私は玄関でぱるぴんとあかりちゃんにばいばいを告げて、足早に学校を出た。
 校門前はすでに心は真夏の太陽の下へ! といったウキウキ顔の子がたくさんいて、その片隅にはあいかわらずの佐伯星雲。
 その横をすり抜けて、私は一路商店街方面へと足を向けた。

 さて、佐伯くんへのプレゼントは何がいいだろう。
 リサーチによると、佐伯くんの好きなものはサーフィン、コーヒー、ガラス細工、クラシックギター……などなど。
 ガラス細工は去年あげたから、今年は何か別のものをあげたいなぁ。
 そういえば、先月のはばチャで商店街にアメリカ直輸入のフレーバーコーヒー豆取り扱ってるお店がオープンしたって言ってたっけ?
 あ、でもどうなんだろう。バリスタにとってフレーバーコーヒーって邪道扱いされたりするかも? もしかして。

 うーんん……。

 とりあえず商店街のめぼしいお店をかたっぱしから当たってみる。
 去年のプレゼントを買った雑貨屋、ジャズ専門のLPショップ、カフェ雑貨が揃う食器屋……。

「うーんんんんっ」

 商店街の端まで来て、腕組みして唸っちゃう。
 なんかピンとくるものがないんだよね。逆に私が欲しいものに目移りしちゃって選びきれない。
 うーん、時間が足りないなぁ……。

 ぐきゅるるぅ。

 ……お腹もすいたし。うう。
 そういえばこっち側は飲食店が多いゾーンだ。
 お昼時であちらこちらからいい匂いが……。

「あ」

 匂いにつられてふらふらしてると、ぱっと目に飛び込んできたのはちょっと小奇麗な中華飯店。
 って、ここ。さっきぱるぴんとハリーにニガコクさせられそうになったお店だ。
 ほら、ランチメニューの麻婆コース980円。ああ、空腹時に見るとあの赤さもおいしそうに見えるかも……。

「お前、涎たらすなよ?」
「た、たらさないよ!」

 心の中じゃだらだらにたれてたけどっ!
 ……と、いきなりかけられた声に振り返る。

 そこにいたのは。

「あれ、佐伯くん。どうしたのこんなとこで」
「あれ、じゃない。帰る前に買出しに来たんだ。こそ何やってんだよ? 飯屋の前で物乞いか?」
「ひ、ひどくないですかそれ……」

 いい子モードを脱却した佐伯くんは、いつものように毒舌全開。
 でもさすがに少しお疲れみたい。

「今日は大変だったね。それ、今年の戦利品?」
「まぁな。毎年毎年、今日だけは学校休みたくなるよ」
「バレンタインもでしょ」
「そうだった。で、お前ほんとに何やってんだ?」

 佐伯くんの両手の紙袋を覗きこんでいると、もう一度同じ質問をかけられる。
 うーん、正直に言うべきか否か。

「私もちょっと買い物。でもお腹すいちゃって、ふらふらと匂いにつられちゃって」
「だよな? 実はオレも。なんかここのこのメニュー気になって」

 ぱっと顔を明るくして、佐伯くんが指差したのは例の麻婆コース。

「……もしかして佐伯くんって激辛好き?」
「好き。なんかさ、これみよがしに激辛! とか言われるとカチンとくるだろ?」
「あ、その気持ちはわかる」
「だろ? それで色々チャレンジしてるうちに、くせになった」
「へぇ〜。佐伯くんっぽい……」
「……それは褒め言葉じゃないな、
「うわ、チョップ禁止!」

 ゆっくりと右手を上げる佐伯くんから慌てて距離をとって。

 あ、でも。これ、いいかも?

「佐伯くん、お昼まだなんだよね? ねぇ、これ食べていかない?」
「お前と? なんで?」

 私の提案に、佐伯くんは眉を顰める。
 あ、あれ?

「なんでって」
「お前、辛いの苦手って言ってなかったか? テスト結果発表のとき」
「あ、そっか。ニガコク話聞いてたんだっけ。私が食べるのは別メニューだよ勿論。そうじゃなくて、今日佐伯くん誕生日じゃない。物はたくさん貰ってるし、ケーキはお店でこれからたくさん奢られるだろうし。だから、私からは激辛のプレゼント! ってことでどうかな」

 あ、我ながらうまいこと理由づけできた。はは、私って勧誘の才能あるかも。
 首を傾げて佐伯くんを覗き込むようにして返事を待つ。

 すると佐伯くんは、右手で髪をかきあげながら、少し尊大に、でもちょっと照れてるっぽく。

「ま、まぁそこまで言うなら食べてやらなくもない……でも、なくもない」
「ええ? なにそれ」
「いいから。入るぞ、
「あ、うん!」

 ぽす、とチョップを私の頭に入れて、さっさと佐伯くんがお店の中に入っていく。
 ああ〜、やっぱ可愛いなぁ佐伯くんって。
 食べてやらなくもない、だって!

 私と佐伯くんは奥のテーブル席に通された。

「オレは麻婆コース。は?」
「えーっと……じゃあ点心コースにしようかな」
「あ、小籠包うまそうだな……」
「2個あるから半分コしようよ。私も麻婆コースどんなのか一口食べてみたいし」
「じゃあ麻婆コースと点心コースで」
「麻婆コースの辛さは選べますがいかがいたしますか?」
「一番辛いので」
「ちょっ……! 私、一口貰うって言ったのにっ」
「オレの誕生日プレゼントだろ? ま、ニガコク前哨戦と思ってがんばるんだな」
「ううう……」

「うわ、麻婆豆腐真っ赤! なにこれ!」
「おもしろい。相手に不足はない」
「えええ、大丈夫?」
「平気だ。オレ、そうとう辛いもんでも、平気な顔で食べる自信ある」
「へ〜え。そこまで言うなら見せてもらいましょうか? 召し上がれっ」
「ああ。いただきます」
「……」
「……」
「……佐伯くん?」
「……なんだよ」
「額に一瞬で汗が」
「暑いんだこの店。換気悪い」
「えーと、ウーロン2つくださーい」

も食べろ。一口食べるって言ってたよな?」
「ええーと、ちゃん胃腸が弱くてあまり辛いものは」
「言 っ た よ な ?」
「ううう、いただきます……。私の使ってるレンゲでいい?」
「あ、ああ。オレ、そういうの気にしない」
「よかった。じゃあ……」
「ほら。ここなら赤いの溜まってないから」
「うん、ありがと! じゃ、いただきます! ぱくっ!」
「……どうだ?」
「……」
?」
「……のみこめなひ……」
「……ははっ」
「冗談れひょ!? こんなの、さっひから佐伯ひゅん、ぱくぱく食べへらの!?」
「飲み込んでからしゃべれ」
「辛いーっ!!」

「うう、結局ウーロン追加しちゃった……。あ、佐伯くん小籠包来たよ」
「……なぁ、これってどういう食べ方が正しいんだ?」
「へ? 正しい食べ方?」
「これって中にスープがあるだろ? 一気に口の中に入れると熱いし、先に割ってスープ飲めばいいのか?」
「あ、考えたこともなかった。私はいっつもレンゲに乗せてそこで割って、中から出たスープに浸しながら食べてるけど」
「ふーん? で、正しいのは?」
「えーと……わからないです」
「よろしい。今日バイト来るまでに調べてレポートで提出するように」
「ええーっ!」

 などなど。
 なんだかあーだこーだと妙に中華ランチは盛り上がり。
 お店を出る頃には二人そろって汗だくになっていた。

「はぁ、結構うまかったな。辛さもいいカンジだったし」
「辛さはともかく、おいしかったね! よかったぁ、誕生日プレゼント、なんて言っておいしくなかったらどうしよー、なんて思ってたから」

 まぁはばチャに乗るくらいだから、味はそれなりに保障されてたんだろうけどね。

 時計は1時をまわったくらい。結構長居しちゃったな。

「佐伯くんはこれから買出しするって言ってたっけ。手伝おうか?」
「いいのか? じゃあ……」

 珊瑚礁の買出しなら結構な量になるだろうし、今日の佐伯くんはただでさえ両手にプレゼント抱えてるし。
 荷物もちくらいなら私でも手伝えるしね。

 労働力の提供は素直に嬉しかったのか、佐伯くんは明るい表情で私を見たんだけど。
 ところがすぐに首を振った。

「いいよ。お前、病み上がりなんだから無理するなよ。バイトの時間まで家でしっかり休んでるんだぞ」
「え、大丈夫だよ。日曜日にはもう回復してたんだよ? このあと珊瑚礁に寄るくらい」
「いいから。お前さ、少しは自分に気ィ遣えよな」

 佐伯くんは頑なに断って。
 そっか。
 心配してくれてるんだ。

「……うん。じゃ、お言葉に甘えさせてもらおうかな。じゃあいつもの時間に、珊瑚礁でね」
「ああ。っと、でも小籠包のレポートは忘れないように」
「もう! ……それじゃ、ね。またあとで!」
「うん。、その……昼飯、ありがとな?」
「目一杯感謝しちゃってくださーい!」

 私は佐伯くんに手を振って、商店街を後にした。

 あー、ちょっと役得だったかも。
 佐伯くんの誕生日祝い、なんていって、ちゃっかりはね学プリンスと二人でランチ! だもんね〜。

 気分は上々、ルンルンで電車に乗って、私はミルハニー側の入り口からお店の中に入った。

「たっだいまー!」
「あら、遅かったわねちゃん」

 元気よく帰宅の挨拶。
 カウンターには紅茶を入れていたママが一人。

「あれ、パパは?」
「パパは厨房で軽食メニューを作ってるの。それよりちゃん、ずっと待ってたのよ。もう30分も志波くんとセイちゃんがちゃんのこと待ってたんだから」
「……は?」

 はい、これ届けてね、と紅茶を載せたトレイを手渡される。
 って、志波っちょと水樹ちゃん?

 くるりと店内を振り向けば、奥のソファ席に、確かにこっちを見てる志波っちょと水樹ちゃん。

「あれ、どうしたの二人して。私を待ってたって?」

 3つのティーカップは私の分も含まれてるんだろう。
 私は二人のもとにお茶を運んで、その対面に腰掛けた。

「うん。あのね、にお願いしたことがあって」
「お願いしたいこと?」

 白いラブソファに並んで腰掛けてる志波っちょと水樹ちゃん(ママ、わざとこの席に案内したな……)。
 二人の前に紅茶を差し出して、私も深く座りなおす。

 すると、指をもじもじと動かしていた水樹ちゃんに変わって、志波っちょが真剣な目で私を見て、

、水樹の力になってくれ」
「は、はい?」

 話が読めずに、私は間抜けな返事を返すのでした。



 続くっ!

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