あの『はば学生徒会来襲事件』以来、私と佐伯くんは目には見えない固い絆で結ばれてるような気がする。

「GW全日休暇申請だ!? お前仕事なめてんのか!?」
「GWはミルハニーも忙しいんだってば!」
「ウルサイ。商売敵に塩送ってたまるかっ」
「佐伯くんの鬼ー!」

 ……お互い、仕事が恋人という点で……。


 20.2年目:体育祭


 まぁそんなこんなで5月はあっという間に過ぎ去った。
 そして今日ははね学イベントデーの体育祭!
 運動能力は可もなく不可もなく、ってレベルの私だけどみんなとお祭騒ぎする分には楽しい日だから、心待ちにしてた。

「お帰りあかりちゃん! 100m走1位おめでとう!」
「ありがとちゃん。陸上部の子と当たらなかったから、運がよかったんだよ」
「あかりの走りはきっと陸上部相手でも通じるんちゃう? なぁ若ちゃん?」
「先生もそう思います。海野さん、いつでもウェルカムですよ?」

 2年女子の100m走を終えて戻ってきたあかりちゃんを、私とぱるぴんと若王子先生で出迎える。
 ほんと。いっつもぽやんとしてるあかりちゃんだけど、こう見えて運動能力はすごく高いんだよね。

「3年生は今年もクラス対抗戦で燃えてますけど、みなさんは今日一日スポーツを楽しんでくださいね」
「若王子先生甘いなぁ。参加することに意義がある、には賛成だけど、どうせなら1位とった方が気持ちいいじゃない」
「せやな。担任がそんなんやと、気合も半減してまうで?」
「やや、すいませんでした。2−B生徒はファイト、オーです!」
「「「おー!」」」

 周りにいた女子も一緒になって拳を突き上げる。

 さて、お次はなんだろう?
 私はくるくると丸めていた大会プログラムを広げて覗き込む。
 1、2年男子200と400、その後に2人3脚か……。

 って、2人3脚もうすぐじゃない。

「あかりちゃん、ぱるぴんっ、私ちょっとパートナー探しに行ってくるね」
「なんや、まだ2人3脚のパートナー決めてなかったん?」
「うん。大会運営委員の手伝いとかしてて、うっかりしてて」
「そっか。ほな行ってき! しっかり応援したるからな!」
「期待してる!」

 ぱしっとぱるぴんとハイタッチして、若王子先生とあかりちゃんのにこやかな笑顔に送り出されて、私はクラス席を後にした。


 さて。まずは友人一同から当たってみますか。
 A組には確かヒカミッチ……いやいや、ヒカミッチは生徒会で大会運営にまわってるんだっけ?
 じゃあまずはC組のハリーからだ。

「あ、竜子姐! ハリーいる?」
「アンタか。針谷を探してんのかい?」

 ハリーと同じくC組の竜子姐をクラス席に見つけて近寄っていく。
 クラス席最前列で、すらりと長い足を組んでトラックを見つめてた竜子姐。
 いるだけでカッコいいんだもんねぇ。

「針谷なら大会運営本部のほうに行ったまま帰ってきてないね」
「うわ、残念。そういえば今日のBGMの編集任されたって言ってたっけ。……あ、そういえば竜子姐も100m1位だったね!」
「見てたのかい。まぁ、あのくらいはね」

 椅子に腰掛けたまま私を見上げて、フッとニヒルな笑みを浮かべる竜子姐。
 しなやかな体で風を切ってるフォームもカッコよかったけど、やっぱり体育祭の竜子姐の見せ場っていえば、アレだよね。

「今年もやるの? 応援団長」
「ああ、頼まれた。嫌いじゃないからね、ああいうの」
「最前列陣取るから! 写メもばしばし撮るから!」
「アンタ、転売したらどうなるかわかってんだろうね?」
「う、よ、読まれてましたか」

 氷の微笑みで釘をさされて、私はあははと苦笑した。


 うーん、ハリーが駄目となるとお次は……そうそう、D組にくーちゃんがいたはず。
 ……あ、いたいた。今年はなにもいたずらせずにクラス席にいるのかな?

「おーい、くーちゃーん」
「ん? あ、ちゃーん。どないしたん?」
「えっとね……ってくーちゃん、何してるの?」

 クラス席の後に数人のクラスメイトと一緒にしゃがみこんでたくーちゃんの元へまわりこむ。
 するとそこには、大きな帆布が一枚。

「……もしかしてこれ、応援旗?」
「せや。2−Dの応援旗。去年タッちゃんがやっとった応援団の旗振りカッコええなぁ〜思て、みんなに話したらじゃあ作らへん? ってことになったんよ」
「へぇ! で、この前衛的な図柄は……?」
「カッコええやろ? この渦巻きが勝利のパワーの象徴やねん」
「う、うん、カッコいい……よ」

 にっこにこの笑顔で筆を進めてるくーちゃんには、どうみても『蟻地獄に落ちていく色の洪水』にしか見えないよ、とは言えず……。

「えと、じゃあ旗の製作がんばってね!」
「あれぇ、ちゃん、ボクになんか用事あったんちゃうの?」
「あはははは、作業の邪魔しちゃ悪いし! またね、くーちゃん」

 乾いた笑顔を浮かべながら、私はD組クラス席をすたこらと退散した。


 ……となると、あとはI組の志波っちょかな。
 あー、でも志波っちょは去年断られたんだっけ。身長差ありすぎるだろ、って。
 うーん、でも駄目もと! 頼んでみよう!

「おーいリッちゃーん」
「ん」

 まずは、めずらしくサボりもせずにクラス席にいたリッちゃんに声をかける。
 腰まである長い髪を結わえもせずに、大きなあくびをかましてたリッちゃんは、眠そうな目で私を見上げる。
 なんか女版志波っちょみたい。

「なに、
「うん、志波っちょどこにいるか知らない?」
「志波なら400の代走でゲートの方に行った」
「あうう、そっか……。400走るのに2人3脚のパートナーは頼めないよね」
「ん」

 リッちゃんは再び大あくびをして立ち上がる。
 そしてそのまま校舎の方へ足を向けた。

「どこ行くの?」
「出番終わったし。屋上で昼寝。あとよろしく」
「あとよろしくって、私I組じゃ……」

 まぁ、そんなこと言って引き止めたって、聞いてくれるリッちゃんじゃないのはわかってるけど。
 ほんと、気ままだなぁ、リッちゃんて。


 というわけで。

「本格的にどうしよう」

 その後も知り合いに会う度に声をかけまくったんだけど、みんな競技がかぶってたり直前直後の競技だったりで今のところパートナーは獲得できず。
 グラウンドを練り歩いているうちに、出走ゲート近くまで来てしまった私。
 もう始まってる1,2年男子200の集団の後には、400に出るらしい男子生徒がちらほらと集まっていて、各々屈伸なんかして体をほぐしてた。

 うーん、ここにいる人には頼めないんだよね。
 仕方ない、他を探さなきゃ……。

 私はくるりと踵を返す。

 とそこへ。


「へ? あ、佐伯くん」

 息を弾ませた佐伯くんに声をかけられた。
 少し頬が上気してるように見えるのは……あ、そっか。

「佐伯くん、200の選手だったんだよね。もう終わったの?」
「ああ、たった今」
「何位だった?」
「愚問だな」
「それはそれは。1位おめでとうございます、佐伯サマ」
「うむ、労いご苦労」

 ニヤリと微笑んで、佐伯くんは胸をそらした。
 ふふ、ここ男子ばっかりで女の子ほとんどいないもんね。
 いい子モードも少しだけなりをひそめてるのかな。

「2人3脚パートナー決まったのか?」
「え? なんで佐伯くんがそのこと知ってるの?」
「さっき出走直前にあかりに言われた。アイツ、相変わらず空気読まないっていうか……」

 出走直前て、あかりちゃん……。
 うわぁ、その場面ばっちりファンの子に見られてたんだろうな。
 そういえば去年佐伯くんファンの乱暴な人に吊るされそうになって、リッちゃんと竜子姐に助けてもらったとか言ってたっけ。

「だ、大丈夫かな、あかりちゃん」
「お前だってそう思うだろ? 一応、先生と西本の側離れるなって忠告しといた」

 腰に手をあてて、はぁ、とため息をつく佐伯くん。

 でもよかった。
 あかりちゃんと、普通に話せてるみたいで。

 って、人の心配してる場合じゃなかった。

「ねぇ佐伯くん。佐伯くんの知り合いに私の2人3脚のパートナー頼めそうな人っていないかな?」
「なんだ、まだ決まってなかったのか。なにとろとろしてたんだよ?」
「う、これでもがんばったんですけど……」

 ぶつぶつ。
 口の中で言い訳を呟いていたら、ぽすんとチョップされた。

「しょうがないな。あかりにも頼まれたし、オレがパートナーになってやるよ」
「……は?」

 思いがけない言葉に、私は間抜けな声を出してしまった。
 顔を上げて佐伯くんを見れば、私の反応が不本意だと言わんばかりの不機嫌顔。

「なんだよ。人が親切に申し出てやってんのに、そういう態度とるか?」
「いやあの、べつに嫌だとか言ってるんじゃなくて。だって佐伯くん、200走ったばっかりじゃない。疲れてるでしょ?」
「疲れてる。すっげー疲れてる」
「だったら」
「うるさいな。同級生で同僚のよしみだ」
「……そっか。うん、ありがと、佐伯くん!」

 気を遣ってくれてるんだ。ううう、はね学プリンスと友情で結ばれてるなんて、すっごい役得。
 変に突っ込んだらまた機嫌損ねちゃうだろうし。
 私は素直に笑顔を返した。

「あ……」

 ところが佐伯くん、急に何かを思い出したように明後日の方向をむいて、ぽりぽりと頭を掻く。

「ん?」
「き、気をつけような……いろいろ、ぶつからないようにさ。……前みたいに」
「前?」

 はて。
 佐伯くんとそんなぶつかるようなことあったっけ?
 えーと……。

「あ、あの時のこと? 文化祭のあとに珊瑚礁手伝いして、その帰りに」
「そ、それだ。ていうか、あまり思い出すな」
「ごめんごめん、忘れてた。あのとき派手にぶつかったもんね。でもさすがに平地走るだけなんだし、大丈夫だよ」
「……いや、忘れてるならいい」

 佐伯くんはもう一度頭をがしがしと掻いた。
 なんだろ? 深呼吸しちゃって。


『1年生から3年生の2人3脚に出場する選手は、出走ゲート前に集合してください……繰り返します、1年生から3年生の……』


 そこに、大会本部のアナウンスが流れてきた。
 うわ、いよいよだ。

「佐伯くん、よろしくね! ……あとの佐伯ファンの吊るし上げのことは考えずに、無心で走ります!」
「ああ、それはこっちでもうまく言っとく。やるからには1位だからな、。手抜きは許さん」
「勿論! がんばろうね!」

 がしっと右手で固く握手して。
 私と佐伯くんは出走ゲートへと向かった。


 そして。


「がんばれーっ、サエキックー!」
さん、佐伯くん、先生も応援してます!」
ちゃん、瑛くん、がんばってねーっ!」
「行くぞ! タイミング合わせろよ!」
「アイサー、隊長っ! せーのっ」
「みぎっ」
「ひだりっ」
「みぎっ」
「ひだりっ」

 ぱるぴんや若王子先生、あかりちゃんを始めとした2−Bクラスメイトの声援と、「何よあの子佐伯くんと肩なんて組んじゃってキーッ!」という複数の視線を浴びながら、私と佐伯くんは呼吸を合わせて疾走した。
 佐伯くんは私と違って運動神経もいいから、相当私ペースに合わせてくれてたんだろうけど、その甲斐もあって見事1位獲得しました!

「やった、1位だ!」
「やったね、佐伯くん!」

 二人で1位のポールを持って、若王子先生に向かってぶんぶん振ると、若王子せんせいもにこにこと満面の笑みで手を振り返してくれた。
 へへ、やったね!

「ラッキーだったよね、ゴールぎりぎりで前を走ってたペアがコケてくれて!」
「あれはオレが転ばせたんだ。念力で」
「あ、佐伯くんもやってたの? 私も転べ〜! って電波送ってたんだよ」
「ははっ、オレたちの執念の勝利だな!」
「えへへ、そうだね!」

 1位を獲ったことも嬉しかったけど、佐伯くんが今まで見たことないような無邪気な笑顔を浮かべて喜んでるのがすっごく嬉しかった。
 いろいろあったもんね、佐伯くん。

「おまえもがんばったな? ほめてやる」
「有難き幸せにございまする〜」
「……お前のその時代錯誤な反応、どうにかならないのかよ」
「あれ、若王子先生には好評なのに」
「限定だろ」

 佐伯くんは呆れたような表情を浮かべて、右手を挙げた。
 うわ、チョップが来る?

 と、思ったら。
 その腕はいつものように髪をかきあげて。

「佐伯くーん! 1位おめでと〜!」
「やっぱり佐伯くんには1位が合うよねー!」
「うん、ありがとう」

 あらら……

 押し寄せた佐伯ファンにあっという間に囲まれちゃって、佐伯くんはもういい子モードだ。
 ひえ、ファンの子の視線が痛い。
 ま、仕方ないか。
 この喜びは、2−Bのみんなと分かち合おう。

 ちらっとこっちを見た佐伯くんに肩をすくめて見せて、私はクラス席へと戻った。



 さてさて、楽しい体育祭はお弁当の時間が一番楽しい。
 みんなと待ち合わせている屋上へ、私はお弁当を持ってるんるん気分で向かった。

「今日のおかずはパパ特製のブッフブルギニョン〜♪」

 サーモランチボックスを振りながら、中庭を通り抜けて正面玄関へ。
 と、そこに見知った顔を発見!

「あれ? 天地くん?」
「わぁっ!? ……あ、先輩! 押忍っ、お疲れ様ですっ」
「うむっ、お疲れ様ですっ!」

 そこの角を曲がれば正面玄関、ってところで、何かこそこそしてたのは学ラン姿の天地くん。
 そういえば入学式ぶりだ。

「天地くん応援団に入ったの? 似合うじゃない、学ラン姿!」
「ほんとですか? 嬉しいなぁ〜。みんなは全然似合わないって言うんですよ?」
「そんなことないって。じゃあ午後の応援合戦でるんだね。がんばってね!」
「押忍っ、ありがとうございます!」
「……で、こんなところで何してるの?」
「あ、そうだった」

 相変わらずのエンジェルスマイルを見せてくれる天地くんに癒されながら、尋ねてみると。
 天地くんは人差し指を口元に当てて、向こう側を指さした。

 なんだろう?
 私は天地くんとトーテムポール状態になって覗き込む。

 するとそこには!

「(ああっ、志波っちょと水樹ちゃん!?)」
「(先輩、志波先輩のことご存知なんですか?)」
「(知ってるよ、友達だもん。って、あの二人なにしてるの……?)」
「(実はさっき、部室に行こうと思って通りがかったら水樹先輩がいて。そこに志波先輩がやってきたんです)」

 へぇぇぇ! 興味深〜い!

 確かにそこにはおっきな志波っちょとちっちゃな水樹ちゃんがいた。
 なんだろ、志波っちょが水樹ちゃんに何か手渡してる……?
 うーん、水樹ちゃん困ってるみたいだけど……あ、受け取った。
 なんかしゃべってる。
 あれ、志波っちょの肩ががっくりと落ちちゃった。
 ……わぁ、志波っちょってば、水樹ちゃんの頭わしゃわしゃと撫でちゃって! 水樹ちゃんファンが見たら吊るされそうなことを!!

 そんなこんなしてたら、志波っちょは校舎の中に入ってっちゃった。

「……もう出てってもいいと思う?」
「多分、大丈夫だと思います」
「よしよし。おーい、水樹ちゃーん」

 天地くんと顔を見合わせて頷いて、私は角から飛び出した。

「わっ……あ、

 いきなり現れたように見えたのかも。
 水樹ちゃんはぴょんと飛び上がってこっちを見た。

「なになに水樹ちゃん、見てたよ〜? 今志波っちょに頭撫でられてたでしょ!」
「もう、変なトコ見てないでよっ。志波くんがね、これくれたの」
「あ、それって夜店の焼きそばパンですよね?」

 水樹ちゃんの手の中の物を見て、天地くんが目を輝かせた。

「購買人気ナンバーワンのパンで、購入するのすごく大変なんですよね! ……あ、すいません自己紹介遅れました。応援部1年の天地翔太ですっ、押忍っ!」
「うん、知ってるよ。あかりの友達だよね?」
「わあ、学園アイドルの水樹先輩に名前知ってて貰えるなんて、感激ですっ!」

 にこにこしてる天地くんに釣られて、水樹ちゃんもにこにこしてる。
 ……なんか可愛いんですけど、この一角。

「で、水樹ちゃん。その入手困難な焼きそばパン、志波っちょに貰ったんだよね?」
「う、うん。あのね、私が3月に倒れてからずーっと、志波くん、私の食生活気にしてて。今日は体育祭なんだからしっかり食えって、これ」

 しどろもどろになりながら、水樹ちゃんは教えてくれた。

 って志波っちょ……。
 可愛い……じゃなくて硬派なふりしてあの子はきっとやるもんだね、っと?
 ちょ、学園アイドル相手に攻めまくってるんじゃんっ!

「でも、なんか志波先輩がっかりしてませんでしたか?」
「天地くんにもそう見えた? お礼言っただけなんだけど……」
「なんて言ったの?」
「えーと、まずありがとうって言って……志波くんってお兄ちゃんみたい、って」
「「あー」」

 それはそれは……。
 私と天地くんは口を揃えて、妙に納得した声を出して。
 水樹ちゃんはきょとんとしてた。

「……なんか、まずかったかな?」
「あーうん。まずかった、っていうか、ね? 天地くん」
「そ、そうですね……。でも、志波先輩は寛容な人だから大丈夫ですよ!」

 フォローになってるんだかどうなんだか。

 私はそのまま首を傾げてる水樹ちゃんを連れて屋上へ。
 天地くんは午後イチの応援合戦の準備があるということで、そこで別れて部室へと向かった。

 あああ佐伯くんとあかりちゃんとユキの3角関係も気になるけど、志波っちょと水樹ちゃんの甘酸っぱい恋愛模様も気になるなぁぁ!!



 ……というわけで。
 本日の楽しかった体育祭も、残すはフォークダンスのみ!
 最初ハリーとくーちゃんの企みでオクラホマミキサーが流れるところ、はね学校歌ユーロビートアレンジなんて流れたものだから全校中大爆笑!
 怒り心頭の教頭先生がハリーとくーちゃんを追いかけていったところで、最後のフォークダンスは始まった。

「やあくんか。足を踏んだらごめん」
「お疲れヒカミッチ! 体育祭運営も生徒会からんでて大変だったでしょ」
「実に充実したものだったよ。ああそうだ。くんも2−B運営委員の補佐をしてくれたんだったね。ありがとう」
「いやぁ、ヒカミッチに褒められると照れちゃうなぁ。というわけで、この間の遅刻見逃してくれない?」
「それとこれとは別問題だろう? だいたいくん、2−Bの生徒は若王子先生を始め少し羽目を外しすぎだったんじゃないかと」
「あぁーっと残念! 交代でーす!」

「オッス! どうだった、オレ様厳選BGMは!」
「あ、ハリーお疲れ! 教頭先生撒いてきたんだ。もちろん、すっごくノリノリだったよ!」
「まぁな! でもの薦めで入れたトランス、結構人気あったな」
「ホント? よかった〜。で、さっきの校歌は、勿論ハリーの編曲?」
「ったりめーだろ!? くっそ、教頭の邪魔が入ったからイントロしか流せなかったんだよな」
「まぁまぁ。イベントならこれからもまだまだあるじゃない。今度は放送局ジャックしちゃおうよ!」
「おっ、そうだな! 文化祭の時でもやってみるか!」
「その時は誘ってね!」
「おう、期待して待ってろ!」

「あれ、若王子先生もフォークダンス参加?」
「はい。先生、バッチリ練習しました。あまりの上手さにビックリするよ」
「本当ですか? って、わぁ!」
「はい、1回転〜」
「あはは! これフォークダンスじゃないですよ!」
「や、さんならノってくれるかと思って。楽しいですか?」
「楽しいです!」
「さっき、大崎さんには怒られちゃったんです。ヘタクソ! って言われちゃいました」
「あー、リッちゃんはダンスの天才ですからね〜……」
「そうなんですか? ややっ、来年の体育祭前は大崎さんに弟子入りです!」
「(……鼻であしらわれそうな予感……)」

ちゃーん、コンニチハー♪ 本日二度目ましてやんな?」
「そうだねくーちゃん。男女混合リレーの時のD組の旗、すっごい目立ってたね!」
「そやろ? 教頭センセも応援旗やからって何も言ってこんかったし。楽しかった〜」
「よかったね。そういえばくーちゃん、競技には出たの?」
「密ちゃんと2人3脚出る予定やったんやけど、直前になってクラスの男の子みんなから阻止されてもーた」
「あー、それはそれは……」

「ああっ! 志波っちょ発見、接近遭遇!」
「……今日も無駄にテンション高いな」
「高くもなるってば。も〜志波っちょってば水樹ちゃんを焼きそばパンなんかで釣ろうとしちゃって〜」
「……」
「あだだだだ、握ってる手に力込めるの無しでしょ!?」
「くだらねぇこと言ってるからだ」
「もー……。でも志波っちょの行動正しかったよ? 水樹ちゃんのお弁当、おにぎり1個とバナナ1本だけだったんだもん。だからあんな細いんだよね」
「……本当か?」
「うん。本人は少食みたいだから足りてるみたいなんだけどさ。焼きそばパンおいしいって喜んでたよ」
「……そうか」
「いやん、志波っちょってば甘酸っぱ……あだだだだっ!!」
「お前は少しその減らず口閉じること覚えろっ」

「押忍っ、先輩! よろしくお願いします!」
「あっ、天地くんじゃない。2年生の輪に潜り込むなんて、実は悪い子ちゃんだな?」
「えへへ、2年生って素敵な先輩多いからつい。さっき水樹先輩と海野先輩と、水島先輩とも踊ってきました」
「うわ、はね学スリートップと? 天地くんってば押さえるトコ押さえるね〜」
「スリートップ? 先輩は含まれてないんですか?」
「かっ……な、なんて可愛いこと言ってくれるんだか天地くんっ! よしっ、今度ミルハニーに無料招待しちゃうっ! うち喫茶店なの。食べに来てね」
「ミルハニーってあの駅前の? うわ、先輩のお家だったんですか!? わぁ、是非! ご招待にあずかりますっ!」


 夕陽の傾くグラウンドで、フォークダンスは滞りなく進行していった。
 多分、そろそろ終わるころなんじゃないかな?

 って時に、佐伯くんとのダンスタイムがまわってきた。

「ゲッ」
「げっ、て……」
「お前か。気をつけろよな? ヘンなとこ……ぶつからないように。」
「へんなとこって」

 首を傾げながら、佐伯くんの手を取って組む。
 オクラホマミキサーの音楽に合わせて、ステップを踏み始める私たち。
 あ、佐伯くんてば後でため息ついた。

「お疲れ様! 2人3脚1位なんて目立っちゃったから、大変だったでしょ!」
「ほんとだよ……あのあと、もっと取り囲まれて大変だったんだ。はオレを見捨ててさっさとクラス席帰るし」
「うっ……だ、だってファンの子が「すっこんでろ!」って視線で見てたし〜」
「だよな。わかってるって。お前、あのあと大丈夫だったか?」
「うん、全然平気! ちょっと声かけられたりもしたけど、ほら私、口だけは達者だから」
「ふーん。のおしゃべりも役に立つときあるんだな」
「それ、私の全否定に繋がる発言ですけど……」

 くるりと回転して向き合って、繋いだ手を上にあげておじぎして。
 パートナー交代だ。

「でも楽しかったな」

 手を離しながら、ぽつりと佐伯くんが呟いた。
 楽しかったんだ、佐伯くん。
 なんか私まで嬉しくなってくる。

「佐伯くん」
っ」

 次のパートナーと手を繋ぐ直前。
 佐伯くんは、とっても無邪気な笑顔を私に向けてくれた。

「このあと珊瑚礁バイト、臨時で入れてやるから。ラストまできっちり働けよ?」
「…………鬼ーーーーっ!!!」

 じ、自分が疲れてるからって、私を巻き添えにしたなーっ!?
 くうう、ちょっとでも佐伯くんから労いの言葉をかけてもらえるかも、なんて期待した私がバカだったっ!!


 というわけで。
 全力疾走の体育祭のあと、本当にラストまで珊瑚礁バイトに借り出された私。
 その日は日記をかく気力もなく、部屋に戻るなりばたんきゅーしたのでした……。

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