目を覚まして寝返りうって。
時計は9時20分を指していた。
「きゃああああああっ!!??」
16.水族館デート
前日に服やらなにやら準備しといてよかった!!
私は30分で着替えと洗顔とおしゃれを済ませて家を飛び出し駅までダッシュ!
約束の時間の3分前、改札前には佐伯くんがもう来てた。
「ごめん、お待たせ!」
「まだ時間前だろ」
佐伯くんの目の前まで走って行って、私はそれだけ言うと膝に手をついてはーはーと肩で大きく息をした。
か、カッコ悪い……。
休日だ、っていうんでいつものくせで目覚ましセットし忘れちゃったのがそもそもの原因なんだけど。
ぽす
体を折ったまま呼吸を整えてる私の頭に、佐伯くんのチョップが容赦なく飛んでくる。
「寝坊したな?」
「うっ……そ、その通りデス……」
「このオレを誘っておいて寝坊するとはいい度胸だ。とりあえずその寝癖、どうにかしろよ」
「ええっ、うそ!?」
がばっと体を起こして両手で髪を押さえる。
え、でも家出る前にちゃんと鏡で確認したのにっ。
すると佐伯くん、にやりと笑って。
「ウソ」
「あぁっ、騙したなっ!」
「騙されるほうが悪い。そろそろ行くぞ」
「うぅ、はーい……」
言い返せずに、私は歩き出した佐伯くんの後をついていった。
でもよかった。佐伯くん、割と元気そうだし。
空も綺麗に晴れて、ちょっと早めの春の陽気が気持ちいい。
隣を歩く佐伯くんもタートルのセーターにジャケットっていう軽い格好してきてた。
うーん……はね学制服と珊瑚礁制服以外を見るのってあんまり機会ないけど、やっぱ何着ててもカッコいいなぁ。
「何見てるんだよ」
「え? のファッションチェック〜なんて。それは冗談だけど、やっぱり佐伯くんは私服もカッコいいなーって思って」
「……お前さ、そういうことよくさらりと言えるよな?」
「またまた。言われなれてるクセにっ」
「まぁな」
ふふんと鼻で笑う佐伯くん。
で、すぐに私を上から下までザッと見て。
「はいつもそういう格好してるのか?」
「んーと、大体こんな系統かな? スカートはあんまり穿かないけど」
今日の私は衿ぐりにビーズとスパンコールが縫い付けられた若草色のニットアンサンブルに、白いツイードのリボンがついたクロップドパンツ。
ピュアピュアです!
……というか、性格が男の子みたいに元気すぎるから、格好だけは女の子っぽくしとこうと思ってたらこういうのばっかりになっちゃったんだけどね。
「ふーん……」
「ふーん、って。似合ってない?」
「いや、俺、そういうのすごく、なんていうか、その……好き。 お前似合うよ、そういうの」
ぽかん。
あの佐伯くんが。はね学プリンスが。
ちょっとはにかみながらそんなこと言うんだから。
テンションうなぎのぼり!!
「本当に!? やったっ、佐伯くんに褒められた!」
「な、なんだよ。変なヤツ」
「んもう、わかってないなぁ乙女心を〜。そんなこと言っちゃうから学校で佐伯ファンの子たちが勘違いしちゃうんだぞっ」
「知るか。置いてくぞ」
「あ、待って待って」
私は速度を速めた佐伯くんの後を追いかけて、もう一度隣に並ぶ。
水族館は海の側。
さすがに晴れてるとはいえ海風はまだまだ冷たくて、私と佐伯くんは水族館内に飛び込むように駆け込んだ。
「水族館なんて小学生以来かも。記憶の中のと違ってなんか綺麗になってるなー」
「そうか? オレは割りと来るけど」
「海にまつわることならなんでも来い、だね」
「潜らなくても潜ってるような感覚になれるし。熱帯や北の海なんて実際はそうそう行けないようなのも見れるし。……で、どこから行く?」
「海水プールのイルカショーまではまだ時間あるし、とりあえずぐるっとまわってみようよ」
「おっけー」
チケットを購入して館内案内図を握り締めて。
佐伯瑛を励まそう作戦第一弾、水族館で気分転換!
ではでは行ってみましょうか!
「まずは回遊魚のコーナーだね。イワシの群れ! きらきらしてて綺麗だね」
「ああ。水槽の上が開いてるんだ。今日天気いいから太陽の光が差し込んでるんだな」
「……なんか見てたらお腹すいてきた。朝ご飯食べれなかったからな〜」
「ロマンのないヤツー。でもまぁ、オレもイワシは見てるより食べるほうが好きだ」
「でしょ? イワシのつかみ取りとかやってないかな」
「つかみ取りかよ!?」
「お次は甲殻類コーナーだ。カニ! タラバタラバ!」
「食い気かよ……」
「あ、これヤシガニだよね? テレビで見たことあるよ。カニなのに赤くないんだ」
「カニじゃないから赤くないんだろ? ヤシガニはヤドカリの仲間だから」
「え、そうなの? でもザリガニは? あれもカニの仲間じゃないのにカニって言われててなおかつ赤いよ?」
「……」
「なんで?」
「知るかっ」
「アイタッ!」
「次は……あ、ハリセンボンだ。ふくれないかなぁ」
「水槽バンバン叩くのだけはやめてくれよ」
「もう、小学生じゃないんだから。あ、こっちにふくれたときの写真がある」
「プッ……ハリセンボンの正面顔って笑えるよな」
「愛嬌あるよね! ……ねぇねぇ佐伯くん。見てみて」
「ん?」
「……」
「ブハッ!! ……っ!!」
「アイタッ! な。なんで笑わせてあげたのにチョップするかなぁ!」
「お前、ハリセンボンの顔真似ヤバ過ぎ……くくっ、女のプライドないのかよ……」
「お、お笑いの道に羞恥心はないのっ!」
「ははっ……ヤバイ、腹痛い……」
「うぅ……成功したけどなんか落ち込んできた……」
「あっ、海底トンネル! ペンギンだ!」
「へぇ、前はここ熱帯魚がいたのに」
「そうなんだ? ペンギンって泳ぐスピード早いね」
「ペンギンは海の中を飛ぶんだ。鳥だから」
「あ、なにそのトリビア。鳥だけにトリビア?」
「……お前さ、その年で親父ギャグってどうなんだよ? 若王子先生に弟子入りしてるのか?」
「むしろ若王子先生にネタを卸してるというか」
「げっ、マジで? お前、珊瑚礁の営業トークでそういう程度低いこと絶対言うなよ!?」
「ひどーい! 一部のお客さんに大好評なのにっ」
「一部だろ! つか既にやってんのかっ!!」
「サメのコーナー……なんか薄暗いね」
「そうだな。あんまり人もいないし」
「うう、なんか空気も冷たいカンジ。こんなとこであんな特徴的な目を見るとさすがにちょっと……」
「なんだよ、お前ビビってんの?」
「だって〜、なんかジョーズの音楽聞こえてきそうじゃない? 私たちの背後から、知らぬ間にホオジロザメが迫ってきて……」
「んなわけないだろ……」
「この巨大水槽をバリーンと突き破って、海水に押し流されたかと思ったらもう目の前にサメの口が!!」
「……ちょっと背筋冷たくなってきた」
「だよね? も、もう行こうか!」
「だよな? 行こう!」
「あ、タコ」
「もう顔真似すんなよ?」
「しないってば」
「うちの近くにもいるぞ、タコ。潜ったときによく見る」
「そうなの? へぇ、見てみたいかも!」
「じゃあ夏になったら見せてやるよ。オレとじいちゃんしかしらない穴場なんだ」
「わぁ、そんなとこ教えてくれるなんて。いやん、ちゃんてば佐伯くんのトクベツ?」
「なっ、んなわけあるかっ!!」
「いぃっ……!! ちょ、本気チョップはなしでしょ!?」
「あ、ご、ごめん……じゃなくて、お前が変なこと言うからだろ!」
「チョップチョッパーチョッペスト……」
「な、なんだよそれ」
「チョップの3段活用。3回目の今のが一番痛かったから」
「だから……なぁ悪かったって。拗ねるなよ」
「売店のソフトクリーム買ってくれたら3秒で機嫌直る」
「調子乗んな!」
「アイタッ!!」
そんなこんなで。
佐伯くんを励ますつもりがなぜかこう……微妙な結果になりつつも。
最後に私と佐伯くんはイルカショーを見に、海に直結してる海水プールのショー会場に来ていた。
「へぇ、今年の夏にオルカショーやるんだって。……オルカ?」
「お前知らないのか? シャチのことだよ」
「知らなかった! そうなんだ〜。シャチのショーって迫力ありそうだよね。イルカより大きいし!」
「だよな。夏にまた来てみるかな」
「私も見てみたい!」
「それは誘えっていう催促か?」
「いやいやいやそんな、人気者の佐伯くんにそんなあつかましいお願いなんて」
「だったら手を擦り合わせながらこっちを見るなっ」
呆れたように見下ろしてくる佐伯くんだけど、すぐに噴出した。
私もつられて笑ってしまう。
最前列ど真ん中で見よう! と二人で意気込んできたから、まわりはまだぽつぽつとしか客席が埋まってない。
でもちょっと歩き疲れたし、のんびり待つことにはなんの異論もない。
私は佐伯くんの手厳しい突っ込みをたくさん貰いながらも、他愛のない会話をしながらショーの開始を待っていた。
すると。
ふとした会話の途切れ目で、佐伯くんが会場の後の方を振り返る。
「どうしたの?」
「前はもっと後に座ったな、って」
「そっか、割と水族館来るって言ったもんね」
「前は、あかりと一緒に来たんだ」
……へ?
佐伯くんの言葉に硬直する私。
ええと、ということは……?
佐伯くんを励ますつもりで連れてきた水族館、もしかしなくても私。
地雷踏んでた? っていうか、すでに炸裂済みですか!?
あああもう! 私のバカバカ、全部台無しだよ!
あかりちゃんのことを今だけ忘れて気分転換してもらおうと思ってたのに、思い出の場所に連れてきてどーするっ!!
「前もさ、最前列で見ようと思ってたんだけど。夏だったから人がすごくて、結局すごく後に座ることになったんだ。で、あかりに文句ぶちまけちゃって、喧嘩になった」
「……そうだったんだ」
「やっぱりお前、気ィ使いすぎ。なんでお前が落ち込むんだよ」
頭抱えて俯いてた私に、佐伯くんがぽすんとチョップする。
見上げてみれば、佐伯くんは決まり悪そうな顔して、髪をかきあげていた。
髪をかきあげるのって、佐伯くんのクセだよね。いっつも言いにくいこと言おうとするときそうやってる。
「お前さ、なんでそんな風に自分以外のこと自然体で考えられるんだ?」
「え、えーと、なんのことでしょう?」
「今さらとぼけるなよ。テスト前にこんなとこ普通誘わないだろ」
「あう、バレバレ……? ごめんね、余計なことして。でもさ、やっぱり友達落ち込んでたらほっとけないよ」
「人に優しくできるが羨ましいよ。なんの悩みもなく生きてきたんだろうな」
ぷいっと佐伯くんが顔を背ける。
でもすぐに、がしがしと頭をかきむしった。
「……今の無し。ただの僻みだ。ガキみたいだ、オレ」
「みたい、じゃなくてガキでいいんじゃない?」
そして今度は私の返事にむっとして。
あきらかに気分を害した、って表情でこっちを振り向いた。
でも私は逆に笑顔を作る。
「だって佐伯くん、学校であんなに『大人』じゃなきゃいけないんだもん。どこかでちゃんとガス抜きしないとおかしくなっちゃうよ。ほら、私ノーテンキに関してはいろんなところからお墨つきだから。他の子に八つ当たりして評価下げるくらいなら私に八つ当たりしてよ。私は佐伯くんが本心でそんなこと言ってるんじゃないって知ってるから」
「……」
佐伯くんはなんだか泣きそうな、情けない顔してた。
本当はこういう台詞、あかりちゃんに言ってもらいたいんだろうけど。
うーん……あかりちゃんと佐伯くん、もう本当に駄目なのかな……。
なんかこんな顔してる佐伯くん見てたら、ユキのこと抜きにしてもくっつけてあげたいんだけど。
「お前見てると落ち込む」
「ええ!?」
「自分がどれだけ小さい人間か思い知らされる」
ところが!
佐伯くんの予想外の言葉に、今度は私が慌てる番だ。
えええ!?
励ますつもりでじーんとしてもらうつもりだったのに、逆効果だった!?
ど、ど、ど、どうしよう!
と思ってたら。
慌てふためく私をジトッとした目で見てた佐伯くん。
ぷっと吹き出した。
「なんだよ、オレが本心でそんなこと言ってるかどうか、わかるんじゃなかったのか?」
「え。……ちょ、佐伯くんっ!! 私、今ほんっとうに焦ったんだから!」
「ははは! いくらオレでもそこまで屈折してないって」
「もぉぉぉぉ! ……はぁ、でもよかった、びっくりしたぁ」
も、本当に佐伯くんの冗談って心臓に悪い。
私は大きく息を吐き出して胸を撫で下ろした。
佐伯くんもひとしきり笑った後、調教師がやってきたステージの方に向き直る。
「サンキュな、。お前、ほんといいヤツ。みんながお前と友達になりたがる理由すごくわかる」
そして、ぽつりとそんなことを言ってくれた。
その台詞。前にユキにも言われた。
確か花火大会で、ユキの恋を全力で応援します宣言したときだ。
……ごめん、佐伯くん。
今ちょっと、落ち込んだ。
「さんははね学友達100人計画遂行中ですから!」
「お前ならできるよ、ってかもう出来てるんじゃないか?」
それでも私は笑顔を浮かべた。
今日は佐伯くんを励ます日! 私が落ち込んでる場合じゃない!
『このあと12時より、海水プールでイルカショーが行われます……まもなく開演時間となりますので、ショーをご覧になる方は会場までお急ぎください……』
「そろそろ始まるな」
「うん、楽しみだね!」
私も佐伯くんも気持ちを切り替えて。
さざなみがたつプールを見つめた。
……というわけで!
佐伯瑛励まし作戦第一弾! 水族館で気分転換! ……は、成功したんだか失敗したんだかよくわからない結果になってしまったけど、こんな感じで終了した。
後日行われた学年末テストは、見事に順位を下げて一気に51位まで転落してしまったけど……。
まぁでもまだ1年目のテストだし。佐伯くんが元気を取り戻してくれることと天秤にかけてしまえば大したことない。……ぐすん。
その佐伯くんは、きっちり成績キープの堂々6位だったけどね。やっぱり覚悟と気合の差かなぁ。
「転げ落ちたな、」
「ううううるさいなぁぁ……」
「テスト前に遊びに行ったって本当だったのか? さすがのもまさかそんなことはって思ってたけど」
テスト明けにミルハニーに来たユキにそんなこと言われたって、
「全部ユキのせいじゃんっ!!」
などと怒鳴れるはずもなく。
「だ、だって〜、はね学一の人気者と出かけられる絶好のチャンスだったんだもん……」
「はぁ、のミーハーっぷりも相変わらずだな」
ユキにまで呆れられてしまって踏んだり蹴ったり。
なんかもう、元旦に引いたおみくじの呪いかってくらい、最近ついてなさ過ぎ、私……。
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