あけましておめでとうございます!
 2007年、新春です!


 13.2007年元旦


「ごめん、お待たせ! あけおめ、ユキ!」
「あけましておめでとう、。振袖着てきたんだ」

 はばたき駅のバスロータリーで新年早々ユキと待ち合わせ。
 今日は二人で初詣だ。
 クリスマスを終えて急いでユキに初詣予約をして。

 さすがに振袖買う予算はなかったから、着物はママのを借りた。
 赤黒の地に梅の小花が散った、ちょっと大人っぽいデザインだけど。

「どう、似合う?」

 袖を持ってくるりんっと1回転。
 すると、なぜかユキはぷっと吹き出した。

「な、なんで笑うのっ」
「ははは、ごめん。なんかいつものと全然雰囲気違うからさ。似合ってるよ、ほんとに」
「ほんとに?」
「ああ、ほんとに」

 ユキはいつものタートルのセーターにコートといういでたち。ユキの雰囲気はいつもどおりだ。

「じゃあ行こっか」
「うん、行こう」

 私たちは並んで初詣会場となる神宮に向けて出発した。

は初詣に誘ってくれる友達いなかったのか?」
「あ、このさんに向かってなんて失礼な。仲いい女友達に誘われたけどユキと行く約束したのが先だったから断っちゃった」
「女友達ね……。の身辺もほんと変わらないみたいだな」
「ふんだ。ユキこそどうなの? 私のほかにお誘いあった?」
「クラスの子に誘われたけど断った。僕もとの約束が先だったし」

 隣り合ってバスに乗って揺られながらそんな話をする。
 先着順かぁ……。
 これが先に予約入ってたけどから誘われたから前のはキャンセルした、とかいうレベルにするにはどうしたらいいんだろ。

「そういえば、期末テスト順位上げたんだって? がバイトの日にミルハニーに行ったらおばさんが教えてくれたんだけど」
「えっ! やだユキ、来るなら私がバイトじゃない日に来てよー!」
「たまたまだよ。友達がミルハニーのこと知ってて、一度行ってみたいっていうから」
「む〜」
「で、34位だって?」
「そう! 13位上げたよ!」
「やるじゃないか。予備校にも行ってないのに」
「まぁねー!」

 えっへんと胸をそらしてみれば、ユキは「気を抜くなよ」と甘くない一言をくれた。

 それからしばらくして最寄のバス停について下車して。

、足元気をつけろよ?」
「うん、ありがとユキ」

 バスを降りるとき、ユキが気を遣って手を貸してくれたことにもうは新年早々ハッピーです!
 王子様なんだよね、やっぱり。

 私たちは同じく神宮へと流れる人波に乗って歩き出した。
 もうお昼を過ぎてたから、帰りの客もまざって道は結構な混雑。

「すごいな。去年もこんな混んでたっけ?」
「去年は私が着物着てなかったからもっとスムーズに歩けたんだよ。ごめんね、ユキ」
「いいよ。気にしなくても」

 神宮最寄の駅前までくれば道は開ける。
 大きな通りに出て人ごみからも解放されて、私とユキはほっと一息ついた。

「ここからはラクに進めるね」
「ああ。っていうか、僕たちも電車で来たほうがよかったんじゃないか?」
「うっ……で、でも電車だと線路が回りこんでるから時間かかるし……」

 ごにょごにょ。
 私はユキのするどい指摘に口の中で言い訳をする。

 そこに。

?」

 聞き覚えのある可愛い声がした。

 振り向けば、そこには淡い桜色の晴れ着を着た水樹ちゃんと、深緑の振袖をばっちり着こなした密っち!

「わぁ、偶然! あけおめっ、二人とも!」
「あけましておめでとう! なんだ、は別口の約束があったんだ?」
さん、あけましておめでとう。ねぇねぇ、もしかして彼があの彼?」

 近寄って、きゃー♪と3人で手を合わせる。
 すると密っち、物凄く嬉しそうに微笑んで、私の後ろにたってるユキを覗き込んだ。

 う、密っちにユキがバレた。

「うん……実は、そうなんだけど」
「きゃー♪ さんたら、がんばってるじゃない!」
「もう、密っち!」

 頬に手を当てて、自分のことのようにはしゃぐ密っち。
 ところがその横の水樹ちゃんは「あれ?」と首を傾げて。

「赤城くん?」
「え?」

 ちょこちょこと小またでユキの前まで歩いていって、じーっとその顔を見上げる水樹ちゃん。

 あ、そっか! 水樹ちゃん、前にユキに会ったことあるんだっけ!

「ユキ、水樹ちゃんだよ! ほら、去年の夏に自転車チェーンが壊れてるの助けてあげたんでしょ?」
「……あっ、水樹、さん? なんだ、君か!」
「覚えててくれたんだ! その節は、お世話になりましたっ」

 説明してあげてようやく思い出したらしいユキ。そのユキに、水樹ちゃんは礼儀正しく頭を下げる。

「全然気づかなかった。あの時はパッと見おばさんに見えたけど、今日はちゃんと年相応に見えたから」
「あいかわらず口悪いね赤城くん……」

 随分失礼なことを言うユキに、水樹ちゃんも口をとがらせた。

さん」
「なに? 密っち」
「もしかして、さんが言ってた恋のライバルってセイさんなの?」
「あ、違う違う! 水樹ちゃんもたまたまユキと知り合いなんだけど、水樹ちゃんじゃないよ!」
「なぁんだ、よかった。お姉さん、友達ふたりのどっちを応援したらいいのか困るところだった〜」

 こそっと耳打ちしてきた密っち。違うとわかって胸を撫で下ろしてるみたいだけど。

 ご、ごめんなさい。
 ライバルは密っちの友達でもあるあかりちゃんなんです……。

「ねぇねぇさん、私にも紹介して?」
「あ、うん。ユキ、こっちは私のはね学ともだちの水島密さん。それと、同じクラスの水樹ちゃん……は知ってるよね。こっちは私の中学時代からの友人の赤城一雪くん」
「へぇ、と赤城くんって知り合いだったんだ! 世間ってせまいね」
「そうね、本当に。初めまして赤城くん。さんにはいつもお世話になってます」
「は、はぁ。こちらこそ」

 密っちのエンジェルスマイルと丁寧な挨拶に、さすがのユキも反応に困ってるみたい。
 そりゃそうだよね。こんな綺麗な子、なかなかいないもん!
 今は密っちに見惚れたって許してあげる。ふふ。

「ところで水樹ちゃんと密っち二人だけ?」
「さっきまでみんな一緒にいたんだけど、それぞれ用事があるからって初詣のあと解散しちゃったんだ。あかりも振袖着てきてたんだよ」
「……あかり?」

 水樹ちゃんの言葉にユキが首を傾げる……って、ヤバっ!

「そうなんだ! それじゃ、私たちはこれから初詣だから、二人とも気をつけて帰ってね!」
「あ、うん。じゃあね、。また学校で!」
「うふふ、さん、ごゆっくり〜」

 ユキと水樹ちゃんの間に入って、私は強引に話を切り上げる。
 わざとらしく、なかったよね? 大丈夫だよね?

 水樹ちゃんと密っちは気にする風でもなく手を振って駅の改札のほうに去っていく。
 私はほーっと息を吐いて、ユキを振り向いた。

「じゃあ行こっかユキ!」
「ああ、そうだね」

 よかった。ユキも誤魔化されてくれてた……。



 神宮境内は駅前よりもさらに込んでいて、賽銭箱にたどりつくまでにだいぶ並ぶことになった。

は何をお願いするんだ?」
「えーっと……やっぱり学業成就かな?」

 それと恋愛成就、っていうかこっちがメインだけど。

「ユキは?」
「そうだなぁ……」

 ユキは少し考え込んで、少し頬を赤くした。

「……いや、学業成就にしておくよ。正直、学校の勉強ついてくのやっとだし」
「学業成就に決定するのに、頬赤らめたりする〜?」
「な、なんだよ。いいだろ別に!」

 さらに顔を赤くして私につっかかるユキ。
 ふんだ。解ってるんだから。
 ……解ってるんだから、隠さないでよ。

「本命は恋愛成就なんでしょ? 雨宿りの君と」
「……」
「お願いしといたら? 今までの偶然だって神様の引き合わせかもしれないんだし」
「……そうかもな」

 そこでちょうど順番が回ってきて、ユキは手にしていたお賽銭をぽんと投げ入れた。
 2礼2拍1礼。
 目を閉じて、真剣にお祈りしだすユキ。

 あ〜もう、なんだって私はこう自分を虐げるようなことばっかりするんだろ。
 人に対していいカッコしすぎなんだってわかってるんだけどさ。

 私もお賽銭を投げ入れて、お祈りした。

 神様。
 ユキの気持ちを私に少しでもいいから向けてください。
 それから、一流大に無事に入れる成績をとらせてください。
 ……それから、この虚栄心なんとかしてください。

 たかだか35円のお賽銭でお願いするには、いささか図々しいものかもしれないんだけど。

「随分熱心にお祈りしてたな、

 人ごみを抜けて、おみくじ売り場前まで移動してきた私とユキ。

「まぁね! お正月くらい信心深くなってみようかなーって」
「神様に自分のお願い押し付けるのが信心深いって言うのか?」
「あう……その通りです」
「それより、お賽銭幾ら投げたんだ? なんか複数枚入れたような音してたけど」

 ちなみに僕は100円玉一枚、というユキ。

「35円だよ」
「……なんでそんな中途半端な金額なんだ?」
「え? 35円で『みんなにご縁がありますように』っていう語呂あわせ」
「へぇ」

 パパに教えてもらったこじつけなんだけどね。
 でも、ユキはにっこりと笑ってくれた。

はいつも自分以外の人のことを考えてるんだよな……ほんと尊敬するよ、のそういうところ」
「そ、そう?」
「うん」

 うわぁ、ユキに褒められた!
 うう、ほっぺたが緩むのとめられない。

「ユキ、おみくじ引こうよ! どっちがいい運勢を引き寄せるか、勝負しよ!」
「おみくじってそういうものじゃないだろ……。でもまぁいいか。よし、勝負だ!」

 一気にテンション上がって、私はユキの腕を引いておみくじ売り場へと突撃した。
 100円払って棒が入った箱をしゃかしゃか振る。
 大吉来い大吉来い大吉来いっ!

「えいっ」

 出てきた棒の先端にかかれた数字は『四十九番』。……やな数字。
 私は四十九の文字がかかれた引き出しから、おみくじを一枚取り出した。

 そこに書かれた吉凶は。

「だ、だ、だ、大凶っ!?」

 が、がぁぁぁんっ!! 新年早々悲惨すぎる私っ!!
 えええ、何!? 仕事:悪し。動くと損、健康:病長引く、学業:励むべし、待ち人……

 来ず。

「こんなのってないー!!」
「どうしたんだよ。……あ」
「大凶だよ、大凶!? お正月なんだからこんなの抜いといてよー!」
「そりゃ無茶な話だろ……」
「ユキはどうだった?」
「悪いけど、大吉だった」
「がぁぁあんっ!!」

 すっかり打ちのめされて、私は頭をかかえてその場にうずくまった。
 ううう、神様、そんなにのことが嫌いですかっ!

 ユキは私の手からおみくじを取って、自分のと見比べてる。
 く、屈辱……!!

「あれ?」

 膝を抱えて鼻をすする私。
 すると、ユキがその隣に座り込んで大凶のおみくじを目の前につきつけた。

、ここ。大凶だけど、これって悪いことじゃないんじゃないか?」
「え?」

 ユキが指してるところは待ち人のところ。
 なによぅ、来ずって書いてあるのに、なにがいいこと……。

 ん?

 私はユキの手からおみくじを受け取った。そしてもう一度よく見てみる。

 待ち人:来ず。しかし、待つ者有り。

「……なにこれ。こんなの初めてみた」
の恋は実らないけど、のことを好きなヤツがいる、ってことじゃないのか?」
「自分の恋が成就しないんじゃ意味ないってばー!!」

 やっぱりいいことじゃないじゃんっ!!

 私はもう一度膝をかかえこんで落ち込んだ。うわぁぁん!



 そして再び駅前ロータリー。
 お店が年始休みだったからお茶にも誘えず、私とユキはここでお別れすることになった。

「3ヵ月後は2年生か。今年も勉強と生徒会に追われるんだろうな……」
「もー、ユキってば真面目なんだから。2年生といえば修学旅行でしょ! 楽しみだな〜まだまだ先だけど」
は相変わらずだな。ここでサボって順位落とすなよ?」
「う、が、ガンバリマス」

 ミルハニー前まで歩いて、お店の前で少しだけ。

「ユキ、まだちょっと早いけど、バレンタインデーは必ずミルハニーに寄ってね? ユキ用特製チョコケーキ用意しとくから!」
「うん、楽しみにしてる。去年の焦げチョコケーキよりはましなの期待してるから」
「あ、あれは成功品と失敗品を間違えて持ってっちゃっただけだって何度も……。もう、絶対だからね!」
「わかったよ。じゃあな、。今年もよろしくな」
「うん、よろしくね、ユキ!」

 私とユキは笑顔で手を振って別れた。

 こんな感じで、私の2007年はスタートしたのでした……。

Back