「メリークリスマス! 今週のミルハニーはコスプレサンタで接客中です!」
「ほんとに商売に貪欲だよな、お前……」
「瑛くんよりすごいかも」


 12.1年目:クリスマス


 やってきました、はね学主催のクリスマスパーティ!
 授業は午前中で終了。その後は各自着替えてからパーティ会場に突入するのです!

「っていうか、。いい加減出ないと遅刻するぞ」
「あうう、やっぱりそうだよね〜?」

 ミルハニー名物特製いちご紅茶を飲み干して佐伯くんが時計を見る。
 隣であかりちゃんもお店の中をきょろきょろ見回していた。

 たまたま道で一緒になったとかで、ついでだからも誘ってくか、ということでミルハニーに寄ってくれた二人。
 私は帰宅してから夕方までの手伝いのつもりで、ミニスカサンタの格好しながらミルハニーのフロアに出てて。
 見るなりあかりちゃんは手を叩いて感動してくれた。

「可愛いよちゃん! コスプレ似合うよね、本当に」
「年季が違いますから! あかりちゃんも可愛いじゃない、そのドレス! ソフィアの新作だよね?」
「うん。えへへ、バイト代もたまったから思い切って買っちゃった」

 コートを脱いだあかりちゃんはピンクのAラインドレスを着てた。
 ピュアピュアなあかりちゃんのイメージぴったりで、ホントお姫様みたい。

「メイドの次はサンタかよ」
「その前にハロウィン魔女もやってたんだよ? 似合う?」
「……似合ってなくもない」
「なにそれ」
「…………似合う」

 ぷいっと視線を逸らしながらも褒めてくれた佐伯くん。よしっ、はね学プリンスに褒められたなら大丈夫!
 その佐伯くんは青いジャケットにラフな開襟のシャツを着てネクタイを締めてた。

「なんか今日の佐伯くんホストみたい」
「ほう」

 一瞬で細められる目。

 ずべしっ!

「アイタッ!」
「もっとマシな褒め言葉ないのかよっ」
「えぇ〜今時ホストは流行りじゃない……ってウソウソ、冗談ですっ!」

 再び振り上げられた手に、慌てて手にしてたトレイで頭を保護。
 もー、あいかわらず手加減無しのチョップ魔なんだから。

ちゃん、急がないと本当に遅刻しちゃうよ?」
「あ、そうだった。んー、でもまだ店がこんな状態だから……」

 あかりちゃんに催促されるんだけど。
 なんといっても紅茶のほかにケーキもウリにしてるミルハニー。
 パパとママは予約のケーキの引渡しにテンパってて、フロアは私とバイトさん2人でまわしてる状態。
 ここで私が抜けたら、さすがにマズイだろう。
 パパはきっと気にせず行っておいでって言うんだろうけど。

 私は佐伯くんとあかりちゃんに手を合わせた。

「ごめん! 待っててもらって悪いんだけど、やっぱり先行ってて? もう少し店が落ち着いたら追いかけるから」
「大丈夫? よかったら手伝おうか?」
「馬鹿。お前そんなひらひらの服で手伝えるわけないだろ。……まぁ、オレなら手伝えるけど」
「いいよいいよ! 佐伯くんはあかりちゃんを会場までしっかりエスコートしなきゃ。ね! ミルハニーなら大丈夫。二人とも、ありがとね」

 日頃珊瑚礁での繁忙ぶりを経験してる二人が気を遣ってくれたけど、せっかくのクリパ、お邪魔しちゃ悪いし。
 私は丁重に断って、二人を送り出した。

! 厨房から次のケーキ運んで来てくれ!」
ちゃん、それが終わったら奥からレシートのロール持ってきて〜!」
「おっけーい!」

 パパとママの悲鳴を聞いて、私はミルハニーの業務に戻った。


 そんなこんなで、結局私が家を出たのはパーティ開始予定時刻10分前。
 最寄り駅で降りたときには、もう開始の時間をすぎてしまっていた。
 急がなきゃ! ぱるぴんが今日はすっごくおいしいスイーツ出るって言ってたしね!

 小走りで改札を出て、鞄に定期をしまって。

「あれ? ちゃ〜ん」
「ん? あ、くーちゃんに志波っちょ! どうしたの二人とも。もう始まってるよ?」
「お前こそ」

 走ろう、と思ったときに声をかけられた。
 振り向けば、私が出てきた改札からちょうど出てくるところのくーちゃんと志波っちょ。
 私は足を止めて二人を待った。

「志波クンがプレゼント交換用のプレゼント用意し忘れとってな、偶然駅前で会うたから一緒にプレゼント選んでたんよ。ちゃんは?」
「私はお店の手伝いが長引いちゃって」
「ナルホド、ケーキ屋さんは今日がかきいれ時やもんな〜」

 ほな3人で仲良く行こうと、くーちゃんに促されて私と志波っちょも歩き出す。
 志波っちょは黒のジャケットに白いシャツ。くーちゃんは三つ揃えのスーツ姿。

「二人とも、今日はおしゃれさんだね!」
「そうか」
ちゃんも可愛いカッコしてきてんやろ? そのコートの下、早く見たいな〜」
「へへ、会場着くまでのお楽しみだよっ」

 などともったいぶるほどのドレス着てきたわけじゃないんだけどね。
 浴衣購入後にまたコツコツ溜めていったバイト代で買った、淡い空色のバックスピンドルドレス。……といってもそんなセクシーなもんじゃないけど。

 交換用プレゼントの探りあいや今日のごちそうの話なんかで盛り上がりながら、私たちは会場にたどりついた。
 開始から15分の遅刻。
 んー……まぁ授業じゃないから許される範囲、だよね?

「さ、まずは腹ごしらえといきましょうか!」
「そやね! 食べるでー!」
「クッ……色気より食い気か」

 オー! と入り口で気合を入れる私とくーちゃん。

 と、そこに、なんだか険悪な声が聞こえてきた。

「ちょっと可愛いからって勘違いしてねぇ? 人を見下しやがって」

 およ?
 私たちは顔を見合わせて、声が聞こえてきた入り口脇の植木の方へ。

 そこには、黒スーツで決めてる背の高い男の子と……

「あれ、水樹ちゃん」

 ワインカラーのスーツドレスを着た水樹ちゃんだった。
 私が声をかけると、水樹ちゃんはこっちを見た。
 もーのすごく困ったような表情してる。

 もしかして。
 告白されてる最中デスカ?

 私もくーちゃんも志波っちょも、ぽかんとして二人を見てた。
 すると黒スーツの方も私たちに気づいたようで、こっちを見るなり「チッ」と舌打ちした。
 あ、あの、お邪魔なのはわかってますけど、いきなりチッって。

「女王様気取りかよ。都合が悪くなったら取り巻きの男を使って後始末か?」
「……なんだと」
「志波くん、待って。なんでもないの」

 黒スーツの態度に、一瞬でスイッチが入ったのか志波っちょが臨戦態勢に入る。
 慌てて水樹ちゃんが止めるけど、志波っちょはソイツを睨みつけたまま。

「志波クン、喧嘩はアカンよ〜」
「そ、そうだよ志波っちょ。水樹ちゃんが困るよ」

 私とくーちゃんも志波っちょの両腕を掴んで暴走防止体制にはいって。
 それを見た水樹ちゃんは、ほーっと息を吐き出した。

 だがしかし。

「な、なんだよ。なんでもかんでも望みどおりに操れる女王様かよ! 大した苦労もしないで、人を見下して。生意気なんだよ!」

 志波っちょの気迫に負けた黒スーツは、なんともみっともない捨て台詞を吐いてそそくさと会場に戻っていってしまった。
 なにあれ! フラレタからって逆ギレして、カッコ悪ッ!!

「セイちゃん、あんなん気にしたらアカンよ?」
「そうだよ! 見るからにナルシー系だったじゃん! あんなの無視無視!」

 ぽかんと黒スーツの後姿を見ていた水樹ちゃんに駆け寄って、私とくーちゃんは気分を盛り上げようと声をかける。
 文化祭のファッションショーモデルをやって以来、爆発的に人気が出ちゃった水樹ちゃんだけど、逆にこういうこともたくさんされてきたのかな……。

「あ、うん、大丈夫。平気だよ。気にしてない」

 水樹ちゃんも笑顔を戻して私とくーちゃんに両手を振った。

 だけど、その目からぽろりと涙がこぼれおちる。

「あ、あれ、ごめん、泣くつもりなんて」
「わわ、セイちゃん、泣いたらアカン〜」
「そうだよ? あんなヤツのせいで水樹ちゃんが泣くなんて勿体ないよ!」
「わ、わかっ……って……ぅう〜っ……」

 あ、あ、あ、水樹ちゃん、顔を覆って泣き出しちゃった!
 なんとか励まそうとしてた私とくーちゃんは慌てて慌ててわたわたするもののどうしようもできなくて。
 あああの黒スーツっ!! こんな可愛い水樹ちゃん泣かして、男の風上にも置けないヤツっ!!

「水樹」

 志波っちょもやってきた。
 困ったように眉尻を下げて水樹ちゃんを見下ろしてた志波っちょだけど。

「(志波っちょ、そのおっきな手で頭撫でてあげて!)」
「(……は?)」
「(イケメンに頭撫で撫でされるのは女子の永遠の萌えシチュエーション! きっと水樹ちゃんも元気になる!)」
「(お前な)」
「(ボクもそう思うで? 志波クン)」
「…………」

 もうとにかくこの状況を打破したい私とくーちゃんは、タッグを組んで志波っちょの協力を要請する。
 すると志波っちょは肩を落として、盛大にため息をついた。
 んもう、こんなときまで硬派やってなくていいのにっ!

 でも志波っちょもやがて、私とくーちゃんの『頭撫でれ視線』に根負けしたのか。

 ぽふ。

 多少ゾンザイな感はあるものの、おっきな手のひらを水樹ちゃんの頭に乗せた。
 途端に、驚いたように涙で濡れた顔を上げる水樹ちゃん。
 ほら、効果絶大!

「し、ば、くん」
「……もう泣くな」
「っく……うん」

 短いけども優しさのこもった志波っちょの言葉に、水樹ちゃんは再び俯くもののぐいっと目元をこすった。
 ほらうまくいった!
 名づけて『ライオンだって子猫を育てちゃうんだゼイ』効果!!
 ……って前に若王子先生がそんなこと言ってたような。

「水樹ちゃん、ケーキ食べに行こう、ケーキ! ぱるぴん掴まえて、どれがおいしいのか教えてもらおうよ!」
「そやそや! セイちゃん、今日は無礼モンやで!」
「クリス、それを言うなら無礼講だ……」
「あ、それや。惜しい」

 泣き止んだところを見計らって、こんどこそ私とくーちゃんで水樹ちゃんの気分を盛り上げにかかる。
 チキンも食べよう北京ダック、いや北京ダックはないだろ、だったらドナルドや〜、お前ボケのセンス悪すぎ、などなど。
 志波っちょも巻き込んでコントに近いトークを展開して。

 しばらくして、ようやく水樹ちゃんも笑顔を取り戻してくれた。

「ありがと、、クリスくん、志波くん。もう平気。迷惑かけてごめんね」
「迷惑なわけないや〜ん。セイちゃんはにっこり笑顔が一番似合うで?」
「そうだよー。今日は他の告白はお断り態勢でいこうね! 志波っちょ番犬に貸し出すから!」
「……おい……」
「ま、マジで怒らないでよ志波っちょ……」

 ひー、とわざとらしく怖がってみせれば、水樹ちゃんが笑い出した。
 よかった。もう大丈夫だね。

「さ、行こう行こう! もう30分近く遅刻だよ。食べるものなくなっちゃう!」
「だな。急ぐぞ」
「さすが志波クン、食べ物からむと勢いがちゃうね?」
「私も! 今日はお腹いっぱい食べるんだから!」

 元気をとりもどしてくれた水樹ちゃんを加えて私たち4人は、おいしいチキンとケーキを求めて会場へとようやく入ることが出来たのでした。


「メリークリスマス、さん」
「あ、チョビっちょメリクリ! 可愛いドレス着てるね!」
「ありがとうございます。千代美ですけど」
くん、いくらクリスマスパーティと言えど、学校行事に遅刻するのはよくないよ」
「ヒカミッチもメリクリ! そんなこと言わないでよ。スーツ姿似合ってるじゃん!」
「そ、そうかい? 実はこれ、敬愛している従兄弟のスーツと揃いなんだ」
「氷上くん、とても知的で素敵ですよね、さん」
「うん、すっごく。……で、従兄弟って?」
「はば学で教師をしてるんだ。真面目で常に冷静沈着で、本当に尊敬できる兄さんなんだ!」
「(……それってもしかしてユキが言ってたあの先生だったりして?)」


、オッス! 遅かったじゃん」
「ハリーもぱるぴんもメリクリっ!」
「アカン、目玉スイーツはもうあらかた取られとるで、
「うそー!? がぁぁん、今日一番の楽しみだったのにぃぃぃ……!!」
「ったくも食い気かよ。今日はイケてるドレス着て来てんなーって思ったのに」
「褒められて嬉しいけどそれより悲しい……」
「そう思って、はるひ様がケーキキープしといたで! ほら、これ。あとでセイと一緒に分けや!」
「ほんとにっ!? うわぁぱるぴん女神様っ!! 今度ミルハニーで特製ケーキ奢っちゃうからっ!!」
「そう来ると思っとった! 交換成立やな!」
「花より団子だな……」


「メリーだね、
「メリークリスマス、さん」
「竜子姐、密っち、メリクリ! 二人とも今日も綺麗だよね〜。私ももうちょっと背が欲しかったな」
「あらぁ、さんは今のままで十分可愛いじゃない。そのスピンドルドレス、流行よね?」
「うん。買っちゃった」
「アンタも流されやすいねぇ。自分のポリシー持ってないのかい?」
「流行を追うのがポリシーです!」
「……ふっ、アンタらしいよ」
「ところで密っちは今日は告白ラッシュ大丈夫なの?」
「されそうになったら竜子の近くに行くの。そうしたらほとんどの男子がそれ以上近寄ってこないのよ」
「竜子姐! 水樹ちゃんも守って!!」
「アタシはボディガードかい……」


「こんばんは、さん。メリークリスマス」
「あ、若王子先生メリクリです! そのフロックコート、自前ですか?」
「えっへん。自前なんです。似合ってますか?」
「超イケてます! かっこいいです!」
、若先生これ以上おだてないほうがいいって……」
「あれ、リッちゃん来てたんだ!? こういうの来ないのかなって……リッちゃん、その格好」
「教員用サンタスーツ」
「……なんで?」
「や、実は大崎さん、ジーンズにセーターって格好で来ちゃいまして」
「それで若先生に無理矢理サンタに着替えさせられた」
「えーと……確かにジーンズよりはクリパ向けの格好だけど……」
「ミニスカサンタ衣装はなかったんです。大崎さんなら似合うと思ったのに」
「若先生セクハラっ!! 教頭にチクっちゃるっ!!」
「やや!? それは勘弁してください!」
「(この不思議コンビ、相変わらずだなぁ……)」


 大体見知った顔とおしゃべりを済ませたころ、教員サンタによるプレゼント交換が始まった。
 みんなが持ち寄ったプレゼントを、サンタに扮した先生たちがランダムに配っていくっていう方式。

「やー、大崎さんのお陰で先生助かっちゃいました」
「若王子先生……多分あとでリッちゃんの怒りの鉄拳下りますよ……?」
「……えーと、夜店の焼きそばパンで誤魔化されてくれると思いますか?」
「焼きそばパン奪われてなおかつチョップ、だと思います」
「授業3回免除とか」
「それは教頭先生に怒られます」

 そうこうしているうちに、私の手元にもプレゼントが届いた。
 開けてみようと思ったときに、壁際でプレゼントを貰ってるあかりちゃんを見つけたから近寄ってみる。

「あかりちゃん、プレゼントなんだった?」
「うんとね……あ、イルカ。なんだろう? ……ツボ押し?」
「あ、そうかも。あはは、珊瑚礁バイトで疲れた体にぴったりだね!」
「ふふ、そうかも。ちゃんは?」

 言われて私も包みを開ける。
 出てきたのはお菓子のつまったサンタブーツ。

「またベタな」
「でも貰って困るものでもないよね?」
「そうだね。冬休みに食べちゃおう!」
「食い意地はってるな、お前ら」

 二人で顔を見合わせて笑っていたら、聞こえてきたのはオフモードの佐伯くんの声。
 隠れるように近くのピアノの陰に入って、ふうとため息をつく。

「お疲れだね、佐伯くん」
「見りゃわかるだろ。クリスマスみたいなイベントデーは忙しいんだ」
「瑛くん、ツボ押ししてあげようか?」
「は?」

 ポケットに手をつっこんで、少しお行儀悪い態度でピアノにもたれてた佐伯くん。
 あかりちゃんがさっき貰ったばかりのイルカのツボ押しを振って見せると。

 佐伯くんの目がまんまるになった。

「それ、あかりが貰ったのか?」
「え? うん、そうだよ」
「それさ、お前が持ってるの、オレが出したヤツなんだ」
「えっ、そうなの!?」

 少し照れたような表情で告げる佐伯くんに、今度はあかりちゃんの目がまん丸に見開かれた。
 イルカのツボ押しを見つめてから、もう一度佐伯くんを見る。

「すっごい偶然だね。でもイルカグッズって、瑛くんっぽい」
「そうか?」

 おやおや。
 ツボ押しを握り締めてにこにこしてるあかりちゃんに、嬉しそうな表情の佐伯くん。
 どこからどう見てもお似合いなんだけどなぁ、この二人……。

 あかりちゃんはユキのことどう思ってるんだろう。

「ねぇあかりちゃん」

 二人の時間に割り込むのは野暮だと思いながらも、今日で2学期終わりだし。
 私はちょいと失礼、と会話に割り込んだ。

「なに?」
「えーと」

 さて、どうやって切り出したらいいんだろう……。
 言葉につまった私を、あかりちゃんは首を傾げて、佐伯くんは少々不機嫌そうに見てる。

「あかりちゃんさ、最近新しく友達、そう、友達出来た?」
「え?」

 我ながら遠まわしな聞き方だと思いながらも。
 あかりちゃんはさらに首をかしげた。

「えーっと、例えば校外で、はばが」
「あかりーっ、若ちゃんが呼んどるでーっ」

 言いかけて。
 ぱるぴんの大声に掻き消された。

「うん、すぐ行く! ちゃん、それで?」
「あ……ううん、やっぱいいや! 若王子先生が待ってるみたいだし、行ってきなよ」
「うん。それじゃあね、ちゃん、瑛くん」

 話の腰を折られてしまって、私はすっかり勢いをそがれてしまって。
 適当に誤魔化して、あかりちゃんを送り出した。
 ……はぁ。自分の根性無し。

 すると。


「ん?」

 ずーんと落ち込んだ私にかけられたのは、佐伯くんの不機嫌な声。

「お前、今あかりに何を聞こうとした?」
「え……」
「『はばが』の後。何て言おうとしたんだよ」
「ええーっと、それは」

 顔を上げれば、不機嫌絶頂の佐伯くんの顔。
 うわ、そういえば佐伯くんもあかりからユキのことそれとなく聞いてるんだっけ。
 これは……感づかれちゃったかな?

「はばが。はば学、か?」
「あう」
「お前、何か知ってるのか? もしかしてあかりが探してるはば学のヤツに心当たりあるんじゃないのか?」
「い、いやぁ、そんなことは」

 視線をそらしたって、誤魔化せない。

「5秒前、言わなきゃチョップ」
「きょ、脅迫は無しでしょう!?」
「……ゼロ。覚悟しろ」
「うわわわっ!?」

 大きく振りかぶった手が振り下ろされる!
 私は思わずぎゅっと目をつぶって、次にくる衝撃を覚悟した。

 んだけど、いつまでたっても痛みはやってこない。

「……?」

 恐る恐る目を開けてみれば、そこにはなんだか寂しそうな顔した佐伯くんがチョップを寸止めしてた。

 ぽす。

 でも結局叩かれる。

「嫌味なヤツで、いつも一言多いヤツって言ってたのに、なんでそんなに気にするんだよ……」
「佐伯くん」
「ウルサイ。あっち行け」

 むす、と口を結んで佐伯くんに追い払われる。
 佐伯くんも、私と同じなんだ。
 大好きな人が、自分以外の人を見てしまったんだね。

 やっぱりあかりちゃん、ユキのこと気にしてるんだ。

「あ。ねぇ佐伯くん」

 そっとしておこうと思って佐伯くんから離れようとして。
 ふと思いついて、私は佐伯くんを振り返った。

 佐伯くんは面倒くさそうにこっちを向く。

「あかりちゃんって『気が強くて意地っ張り』だと思う?」
「はぁ?」

 私の質問が意外だったのか、佐伯くんはきょとんとしてしまった。

「そりゃオレへの嫌味か? あかりのどこが気が強くて意地っ張りなんだよ」
「だよねぇ……」
「ほう。、戻って来い。特大チョップお見舞いしてやるっ!」
「うわ、今のは佐伯くんが嫌味だって肯定したんじゃないってば!」

 黒い笑顔を浮かべながら近づいてきた佐伯くんから、慌てて逃げる。

 それにしても。
 ユキってば、あかりちゃんのどこをどうみて『気が強くて意地っ張り』なんて判断したんだろ?
 あかりちゃんだって、ユキは確かに一言多いけど全然嫌味なカンジじゃないのに。

 変な感性持ち同士、お似合いとか?

 ううん、そんなことないっ。
 あかりちゃんにお似合いなのは佐伯くん! で、ユキにお似合いなのは私! ……だといいな、だけど……。

 なんだか盛り上がったりへこんだり。
 いろいろと感情の起伏が激しい中、2006年のクリスマスは終了した……。

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